そういえば、雑渡の寝顔を見たことがない。
土井が思ったのは、きり丸の子守アルバイトを手伝って、幼子を寝かしつけた時だった。
先ほどまで泣きわめいていた子が、すやすやと寝息を立ている。子守はしばらく休憩時間だ。この子が起きるまでは。
安心して緩んだ思考が、ふと思わせたのが、雑渡の寝顔だ。
何度も逢瀬は重ねているが、雑渡の眠った姿は見たことがない。そして土井も、彼に寝顔を見せたことはない。
もっと言えば、一緒に眠った事がない。土井の方は、最中に軽く意識を飛ばした事はあるが、雑渡はそれさえなかった。
それくらいに二人の情事は慌ただしかったし、共にいられる時間も少なかった。
何より、忍びの習性である。眠るという一番無防備な状態を、互いの前に晒す事はできなかった。
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