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    くるしま

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    くるしま

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    雑土。
    いつも雑渡さんに振り回されてるのが、ちょっと悔しい土井先生。
    書いたはいいけど、どうにも話が上手くまとまらなかったので、ここに供養。

    #雑土井
    miscellaneousWells
    #雑土
    miscellaneousSoil

    雑土の小話 その日は、一年は組でテストがあった。
     だから教科担当の土井は、机に向かい、ひとりテストを採点をしていた。そして、視力検査のような点数を書いているうちに、胃が痛んできた。
     何度やっても、この点数には慣れられないし、教科担当の土井が慣れたら終わりだ。わかってはいるのだが。
    「あいつら……」
     と思わず呟いた時。背後から声が降ってきた。
    「こんにちは」
     土井は振り返って、音もなくいきなり現れた男を見る。リアクションを取る気にならなかったのは、タイミングが最悪だったからだ。
     空気を読む力はあるくせに、こうやって時々外してくる。わざとだとわかっているから、土井はこの雑渡という男が嫌になる時がある。
    「……何か御用ですか」
     土井は驚きも怒りもせず、ただ静かに言った。
     雑渡がこうやって突然来るのは、初めてではない。時折ある事だ。特に土井とわりない仲になってからは、頻度が増えた。
    「土井先生の顔を見に来たんだけど、忙しそうだね」
     雑渡の見え透いた言葉に腹が立つ。何が腹立たしいといえば、土井はこの男に惚れており、こんな見え透いた言葉にも少しだけ胸が高鳴るのだ。
     けれど、そんな気持ちは、雑渡には気付かれないようしている。嬉しいという気持ちは絶対に見せないよう、いつも注意している。
     忍者としての習性が半分、単純に振り回されるのが悔しいからというのが半分だ。
    「申し訳ないのですが、今日は本当に忙しいんですよ。まだテストの採点も途中ですしね」
     感情は全部押し込めて、ただただ迷惑さを前面に出す。もちろん、それが効く相手ではない。
    「長居はしないよ。これを届けにきただけだから」
     無造作に差し出された文を受け取る。目をやると、土井宛だ。が、既に開いた跡がある。
     雑渡に開くよう視線で促され、文を開く。
     中を読んだ途端に、「あぁ…」と緊張が抜けた。
    「どうして、雑渡さんがこれを?」
     名前の記入はないものの、一目でわかる程度には見知った諸泉尊奈門の果し状。
     様々な経路で何度か届いたそれに今更驚きはないが、雑渡が持って来るのは初めてだった。
    「うちの尊奈門が、それを届けようと忍術学園に向かったんだが」
    「向かう前に止めてもらえませんか?」
    「今回は文を書くのにだいぶ悩んでいたと聞いたから、普段と違う内容が書いてあるのではと思ってね」
    「はあ」
    「白紙の文とすり替えて確認したが、おかしな事は書いていなかった」
     文に目を落とす。何度読んでも、単なる果し状で、特に変わった事もないし、暗号が隠れている風でもない。
    「そうですね。いつもと同じです」
    「問題はなかったが、返すのも面倒だから、ついでに届けに来たんだよ」
    「ええ……?」
     届ける方が面倒に決まっていると思うのだが。
    「組頭ともあろう方が、そんなお使いめいた事を?」
    「たまたま時間があったからね。息抜きついでに、土井先生の顔も見ておこうかと思って」
     こんな軽口に、それでも嬉しくなってしまう。
     はあ、と漏れたため息は、自分宛のものだった。
    「まあ、妙な内容でなくて良かったですよ」
    「そうだね。万が一、恋文なら破棄してやろうかと思ったよ」
    「いや、普通は逆では?」
     恋文でも充分に問題はあるが、果し状の方が大問題だ。土井の感覚としては。
     だが雑渡は、声を立てずに笑った。
    「これはまた、つれない事を言うものだ。恋敵から土井殿への恋文など、私が仲介するとでも?」
    「よく言う……」
     土井は呆れた様子を隠しもせず呟き、文を畳んだ。
    「それで? 今回は彼の挑戦を受けろという事ですか?」
    「いや。それは土井先生の自由にしてもらっていい」
     そうですか、と気のない返事をして、文を胸元へ仕舞い込む。
     白紙の果し状を持った尊奈門の顔を思い浮かべる。愚直なまでの素直さは嫌いではないが、受けるにしろ流すにしろ、彼の相手はだいぶ時間がかかるのだ。つまり、採点が遅れる。
    「彼は今、忍術学園に向かっているのですね?」
    「ああ」
    「では、こちらは私から彼に返しておきましょう」
    「おや。土井先生は、意地が悪い」
     どっちがだ……という呟きは、胸の中だけにしておいた。
    「悪くもなります。さっきも言ったでしょう。私は忙しいんですよ」
    「ならば、採点を手伝おうか?」
    「……それは結構です」
     部外者に手伝わせる訳にはいかない。それ以前に、は組の成績は、とても他人様に見せられたものではない。
     雑渡の「大変だねー」と言いたげな視線に、胃が少し痛む。
     土井が何か言おうとした時。
     二人は同時に、外へ視線を移した。気配がこちらに近付いてくる。忍たま、それも恐らく一年生か。
     土井へ来客を告げに来たのであろう事は、推察できる。
    「尊奈門くんが来ましたかね」
    「では、私はこれで」
    「はいはい。あなたが来た事は、彼には内緒にしておきますから」
    「助かるよ。上司の逢引事情がバレるのは好ましくないのでね」
    「逢引って……」
     何度めかの呆れた顔の後、土井はふと思いついたように、雑渡の腕に触れた。
     土井の動きは悪意も害意もなく、日常の延長線上のものだ。
     触れる以外の意思は、まったくない。それが察知できたから、雑渡は土井の手を避けなかった。
     柔らかい手つきは、小さな生き物を慈しむような動きで上腕を滑る。
     閨で見せるような艶めいた目で、雑渡の目を捉える。
     唇が勿体ぶるようにゆっくりと動いて、囁き声を発する。
    「その気があるのなら、次は、もっと逢引らしい形で来て下さいね?」
     甘い声に引っ張られた雑渡が手を伸ばしかけた瞬間、土井は身体を引いた。
    「それでは、また」
     いつもの「土井先生」の表情と声を雑渡に残して、廊下へ出る。
     すぐに、明るい声が耳に届いた
    「あっ、土井先生ー」
    「おー乱太郎。どうした?」
     廊下をこちらへ向かってくる乱太郎が土井の前で立ち止まる頃には、雑渡の気配は消えていた。
     だがまあ、少しは仕返しができただろう。
    「土井先生に、お客様が見えて……」
     乱太郎の声を聞きながら、さっきの雑渡の顔を思い出し、土井は内心で笑った。

     あなたもたまには、私に振り回されればいい。
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