恋の保護者たち 忍び装束の男が一人、夜の山の中を走っていた。木々の間を縫い、男は必死に足を進めている。振り返ることなく。
男は、逃げていた。
その後ろから、幾人かの男たちが迫っている。先頭を走る二人は、目を見合わせた。
これ以上逃げられては、まずい。
忍びの男が逃げようとしているのは、タソガレドキ領。
そこまで逃げられたら、追う側の負けだった。
男と追手の距離は、少しずつ縮まっている。その背中を見失う事はない。
その時。
横から、影が飛んできた。
完全に不意打ちだったが、追っ手の一人である山田伝蔵は、難なくそれを受け止めた。が、足の動きは鈍る。
代わりに横を走っていた男が、土井半助が前に出た。タソガレドキには目もくれず、ただ逃げた男を追う。
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