紫色の孤独な君へこれは『向日葵の似合う君に』の司目線のお話。
プロローグ
俺、天馬司は死んだ。
ショーをしていたときに演出の道具が落ちてきて、それが俺の頭に当たった。即死だ。
俺の目の前には血を流して倒れている俺と、泣き崩れるえむ。
救急車を呼ぶ寧々。そんなステージを見て悲鳴を上げる客。
「僕のせいだ………」
そう言って立ち尽くす類。
「類お前のせいじゃない」
そう言ったが俺の声はもう、誰にも届かない。
あの日から数日が経った。
俺の葬式が行われた。
「自分の葬式を見るってなんか変な感じだな……」
そう思いながら俺は棺桶を見ていた。
葬式にはえむも寧々も来ていた。
他にも一歌たちや冬弥たちも来ていた。
ただ、類だけがいなかった。
「類……どうしたんだろううか………」
自分の葬式中だが、類のことが気になった俺は類の家に行くことにした。
類の家に行った。
家に入るため、ドアノブに触れたが、体がすり抜けた。
死んだら壁をすり抜けられるんだな。
そう思いながら家に入った。
家に入ると類がいた。俺は見えていないようだが。
「司くん……ほんとに……ごめん……なさっ……」
類は泣いていた。
こんなにも弱っている類を見たことがなかったから、すごく驚いた。
「類………」
死んでいる俺の声は類には聞こえない。
「………僕が死ねばいいのに。」
類はそういった。
「っ違うそれは違うぞ!!!!死んだほうがいいなんて誰も思っていない」
その言葉を聞いた瞬間、反射的に声が出てしまった。
類には届かないのに。
「そうだよ………僕が死ねば……」
そういいながら類は机の引き出しから、縄を取り出した。
そして、椅子に座って天井に吊るす。
「おい!待ってくれ!!」
そう言って俺は類を掴もうとしたが、手は空を切るだけだった。
「僕は……消えたい……。」
そう言い残して類は首を吊った。
「類ー!!!!」
大きな声で叫んだが、やはり俺の声は届かなかった。
そのとき、
「類」「類くん」
と寧々とえむが入ってきた。
2人は急いで縄を切り、救急車を呼んだ。
類は病院へと運ばれた。
2人のおかげで類は助かった。
俺は天馬家のお墓に来ていた。
俺の火葬が終わったあと、俺の骨はここに埋められているだろう。葬式の途中に抜けてしまったからわからないが。
「司くん?」
えむの声がした。早速、墓参りに来てくれたんだろうか。
「………ん?」
ただ、えむはずっとこちらを見ていた。まるで俺が見えているみたいに………
「司くん」
えむが泣き顔でこちらに向かって走ってくる。まさか、
「俺が見えているのかーーーー」
えむが俺に飛びつこうとするが、俺の体を通り抜ける。
「うわぁ!?」
えむはそのまま転んでしまった。
「いってて……」
「大丈夫か?えむ!」
俺は慌てて駆け寄った。
「つ……司くんだほんとの司くんだ!!!」
「いや待て待てなぜ俺が見えているんだ 俺は死んで幽霊になっているのに」
「いや〜〜、あたしもよくわからないけれど、何故か司くんが見えたんだ〜」
そう言ってえむは笑っていた。
「………そういえば、類ってどうなったのか?」
類が生きているのは知っている。ただ、その後どうなったのかは知らない。
「類くんは心因性ショックって診断されて、経過観察と自殺しないようにってことで入院しているんだ……」
「そうなんだな……」
良かった。本当によかった。類が無事だとわかって安心した。
「でもね……」
えむが悲しげな表情になる。
「でも……?」
「……類くん、笑えなくなってしまったの。」
……どういうことだ。
類が笑えないだって?
「なぜ………」
「『司くんが、自分の演出道具のせいで死んでしまった。僕のせいだ。』ってずっと自分を責めてるんだ……」
そんな……どうして……
「類は何も悪くないのに……俺が死んだのは事故なのに……なんで………」
そう言ったって、類には聞こえないだろう。
類が入院している病院に行った。
行ったって類には俺が見えない。俺から何も伝えられない。
そうわかってはいるが、類に会いたかった。
病室に行くと、ベッドの上で座っている類がいた。
前より細くなってしまった体。
隈ができてしまった目。
首元の包帯。
最後見たときより、少し髪が伸びたように見える。
そしてなによりも、笑顔がない。
ただ下を向いて、暗い顔をしていた。
その姿を見て、胸が苦しくなった。
「司くん………」
類が俺の名前を呼ぶ。
まさか、えむと同じ、俺のことが見えているのだろうか。
そう思ったが、違ったようだ。
俺の名前を呟いた後、類は再び俯いた。
「なんで生きているんだろう、僕………司くんじゃなくて、僕が死ねばよかったのに……」
類は何も悪くない、自分を責めないでくれ。
そう伝えようとしても、俺の言葉は類には届かないから声に出さなかった。
類が退院した。
学校には行くが、自殺行為の代わりに、自傷行為をするようになった。
「類………」
首元の包帯、手首の包帯。
類がどんどん壊れていく。
「俺が止められたらいいのに………」
姿が見えなくていい、声が聞こえなくていい、それでも、類を止めたい。
類を救いたい。
今日、えむと寧々と類は、久しぶりにワンダーステージに行くことになった。
俺もついていく。
あの日から少なくともえむ以外の俺と寧々と類は行っていなかったからな。
「あっ司くんだ。」
えむがこちらを見た。俺のことが見えたのはあのときだけだはなかったんだなと思った。
「類と寧々はまだなのか?」
「さっき寧々ちゃんから、類くん連れてくるって連絡あったんだ………あっ寧々ちゃんだ」
えむが指差す方向には、寧々と類の姿が見えた。
「ごめんえむ。待たせちゃって」
「全然いいよ〜」
寧々の様子を見るに、俺が見えていなさそうだ。
「それじゃ、行こっか。」
そう言って俺たちはワンダーステージのある方へあるいて行った。
ワンダーステージに着いた。
今までの思い出が蘇る。
ここでたくさんのショーをした。
みんなで意見を出し合いながら試行錯誤して作ったショー。
もうこのステージでショーをすることはないのか……と思うと寂しく感じた。
「類!?」「類くん!?」
寧々とえむが類を見て驚いたような声を出す。
俺も類を見る。
嘔吐。類が吐いていた。
「類!!」
「ハアッごめんなざい、ごめんなざい、司くん……僕のせいで、僕のせいで、ウエッ」
類は泣きながら謝っていた。
お願いだ、類。自分自身を責めないでくれ。お前は本当に何も悪くないのだから………。
「類!しっかりして」
寧々がすぐかけより類の背中をさする。
類の吐き気が収まったらステージの客席に座らせた。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう、2人とも……」
「類くん……」
「類………」
あのときのことを思い出してしまったと思われる。
「2人とも、今日は帰ろう。」
寧々がそういう。
確かに、今の類の状態ではここにいるのは難しそうだ。
「でも……」
「わかったよ、寧々ちゃん……」
寧々は類を支えながら帰っていった。
「司くん………」
「なあ、えむ、俺は一体どうしたらいいんだ………?」
えむにしか聞こえないこの想い。
類どころか、寧々にも届かない。
「あっ司くん、私もそろそろ帰るね。」
「………ああ」
そう言ってえむは帰って行った。
その日から類は学校にもワンダーステージにも行かなくなった。
類が学校にもワンダーステージにも来なくなってから1ヶ月が経った。
「類………」
「司くん……類くん、学校にも来なくなっちゃったらしいよね……大丈夫かな?」
えむが心配そうな表情で言う。
俺にはなんとも言えない。
ただ、類が苦しんでいることは確かだった。
放課後、えむと類の家に行くことにした。
「類くん……」
インターホンを押しても反応はない。
ドアも鍵がかかっている。
ただ、中にいることは間違いだろう。
「中に入って見てくる。」
「うん………」
そう言って俺は壁をすり抜けて家の中に入った。
類の部屋へ行くと、類がうずくまって泣いていた。
「類……」
声をかけても、俺の姿は見えていないようだ。
泣いている類は何か考えてるように見える。
すると類がいきなり立ち上がった。
類は机に向かってカッターを取り、手首を切り始めた。
「類!?何をするんだ!?」
今回は手首だけではない、腕や足まで切り、血だらけになっていく。
このままでは死んでしまう。
「えむ……えむを呼ばないと……!!」
俺は玄関の方へ向かう。
ドアの鍵を開ける。
「えむ!!類が!!」
「えっ?類くんになにかあったの今行く」
そうしてえむはドアから家に入っていく。
あれ、なんで俺、鍵を開けられたんだ?いつもなら透けてしまうのに………
いや、今考えることじゃない!!類を助けなければ!!
「類くん」
「類!!」
そう言って俺は類の体に触れようとした。
ただ、透けた。
いや、透けたと言うよりかは類の中に入っていくような……
「おわっ!!」
「司くん!?」
俺は類の中に入っていった。
真っ暗な場所。俺も経験したからここがどこなのかわかる。
生死の境目だ。
まあ、俺はどちらにしろ『生』方へは戻れなかったけれど。
そう想いながら歩いていると類を見つけた。
俺は類の方へ走る。
「類」
類の名前を叫んだ。類はこちらを向いた。
ここでは声が聞こえるみたいだ。
ここでやることはただ1つ、
類を『生』に戻す。
「司くん……?」
「あぁ、そうだぞ正真正銘、未来のスターになる天馬司だ」
「僕はやっと、死ねたんだ……」
俺がいるからここは死後の世界だと思っているのだろう。
「いやここはあの世ではない。生死の境目と言ったところだろう。お前はまだ完全に死んでいない。」
「えっ……?どうして……」
「死んでいたら今はあの世であって、ここではないぞ。俺は類をこっち側に来させないために来た。」
「どうして?僕は僕の演出道具で君を殺してしまったんだよ。僕のせいで君は死んでしまっ」
「それ以上言うな」
俺は類を見つめる。
「お前は人殺しじゃない。あれは事故だ。俺はお前のことを恨んでいない。逆に生きていて欲しいんだ。」
俺の伝えたいこと。やっと伝えられた。
「そんなのダメだよ……。だって僕の演出道具で司くんが死んだのは事実じゃないか!!演出家として、仲間としても失格な奴に生きる資格はないよ……」
ただ、まだ届いたわけだはない。もっとしっかり伝えなくては
「それは違う。お前は演出家として、最高の演出家だ。それに、お前がいなければオレは輝かなかったかもしれない。そんな大切な人が死んだら悲しいんだ。だから、生きてくれ。」
涙が出てくる。でもこの想い、伝わって欲しい。
「司くん……。」
もしも、また類とショーができるなら、生まれ変われるなら………
「類、もし俺が生まれ変わったらまたお前に会いに行く。その時は、また俺とショーをしてくれないか?」
「……もちろんさ。絶対に会おうね。約束する。」
そう言った類の顔は笑っていた。前みたいな。
そう思った瞬間視界が揺らぐ。急がないと類が『生』のところへ返せなくなる。
「あぁ。絶対だ。…………そろそろ時間だな。」
「待って、まだ話したいことが……」
「あぁ、必ず会いに行く。それまで、元気でいろよ!」
そう言って俺は類の体を『生』の方へ、軽く押した。
気づいたときには病院にいた。
類は目を覚ましている。
「類くぅぅぅん良かったよぉ〜!!」
えむと寧々がいた。
多分俺が類のとこに行ってる間、救急車を呼んで、寧々に連絡したのだろう。
「えむくん!?寧々!?なんでここに!?」
「たまたま類のことが気になって類の家に行ったえむから連絡がきたの。まさか自殺未遂してるとは思ってなかったけどね。」
やはり、そうだったか。
「そうだったんだ……心配かけてごめんね。」
「本当だよ!類くん!もう二度とあんなことしないで!!」
「ごめんなさい……反省してるよ。」
「それで、これからどうするつもり?」
「実は信じてもらえないかもしれないけど、眠ってる時に司くんに会ったんだ。その夢の中で司くんは『生まれ変わったらまた僕と一緒にショーをしよう』って言ってくれた。だから、それまでに今まで以上の演出になるように頑張ろうと思う。」
今聞くと、ちょっと恥ずかしいことを言った気がするが、想いが伝わって良かった。
「そうなんだ!じゃあたしも手伝う!」
「えむがやるならわたしも手伝ってあげる。」
「2人ともありがとう!」
「じゃあまずは退院しなきゃね。」
「そうだねぇ。でもその前にリハビリをしないといけないから入院期間は延びるかもね。」
「えぇー!!早く退院してみんなでショーの練習したかったのにぃ〜」
「仕方ないわよ。リハビリ頑張って。」
「うん……」
「……頑張れよ、類。」
今の類には届かないのはわかっているが、つい言ってしまった。
そしてついに退院することになった。
3人は墓参りに来てくれた。
えむと寧々は来たことがあったが類はなかったな。
「類、その花でよかったの?」
「あぁ。これでいいんだよ。彼が似合うの花だろう」
そういう類の手にあるのはたくさんの向日葵。
「たくさんあるね何本だっけ?」
「999本だよ、結構な値段だったな」
多いな!?類のことだからなんかの花言葉にかけているのだろう。
999本の向日葵の花言葉
『何度生まれ変わってもあなたを愛す』
エピローグ
あの頃から5年経った。
生まれ変わった。というよりかは転生したといったほうが良いだろう。
家庭環境も全く変ってないし、名前も転生する前と同じの『天馬司』だった。
「お兄ちゃん、今日フェニックスワンダーランドに行ってくるの?」
咲妃。漢字は違うが見た目も性格も似ていた。
「ああ、フェニックスワンダーランドのショーを見るためにな未来のスターになるために」
「うん!!お兄ちゃん頑張ってね!!」
「おう!じゃあ行ってくる!!」
「いってらっしゃい〜!!」
俺は家を出た。
本当の目的は類たちに会うためだ。
「以上、ワンダーランズ×ショウタイムでした。ありがとうございました!!」
類たちのショーが終わった。
あの時よりすごいショーだった。
俺も頑張らないとな
俺は類たちを探す。おそらくステージ裏にいるだろう。
ステージ裏に行くと、3人の姿があった。
あのときより大きくなっていた。
「類、えむ、寧々」
俺は3人の名前を呼ぶ。
3人は振り返る。
「………!」
「久しぶりだな。」
今度こそはずっと一緒だ。
これからも、皆を笑顔にできるショーを作ろう。
この「ワンダーランズ×ショウタイム」で!!
Fin.