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    はねた

    @hanezzo9

    あれこれ投げます

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    はねた

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    クコチヒコと三成が気になります。
    ふたりがカルデアに呼ばれていたら、というむにゃむにゃ時空を書きました。ちょっとクコみつ気味。

    #fgo
    #石田三成
    mitsunariIshida
    #クコチヒコ
    izuThrush

    あいみての 床は掃ききよめられて塵ひとつない。
     廊下はしんとしていた。白く光沢のある壁が両側にずらりとのびている。窓はなくて、そのかわり光も温度も一定に保たれている。
     ひとの手によって整えられたそれらは三成にとって好ましいものだった。
     カルデアに喚ばれてはや三日が過ぎた。
     新邪馬台国とかいうかつての戦の記憶は頭の隅にたたまれたまま、この三日というもの茶々だの森だのはては利休だの、生前見知ったものたちにあちらこちらと引きまわされつづけた。親身といえば聞こえはいいが結局は酒の肴で、もとよりひと付きあいは得手でもないから酒宴ばかりでは気が滅入る。ようやくのこと抜けだして、どうにかひと心地ついたところだった。
     休憩するべくあてがわれた自室に向かうところで、ふいと目につくものがある。
     立ちどまれば、あちらも気づいたらしい、ゆっくりと歩み寄ってきた。
    「クコチヒコ」
     名を呼べば、おうと確かな応えがある。獣頭に紋様の刻まれた鎧、先の世ではおよそ巡り合うこともなかっただろうような、男が自分の友であるということが三成にはどうにもふしぎだった。
     かつての戦の記憶はこちらにも、そうしてこの男にもあるらしかった。過ぎた友という思いに変わりはないが、面と向かうとやはりふしぎさが先に立つ。
     縁とは妙なものだとぼんやり眺めていると、クコチヒコがふいと首を傾げた。
    「どうした」
    「いや、……おまえと私は友なのだなと」
    「そうだな」
     いまさら言うことかとクコチヒコが笑う。
     ふと興が湧き、相手の腹に触れてみる。金属の鎧で覆われたそこはひいやりとして、けれどもたしかに血肉のありかを感じさせる。英霊といいながらまるで生きているかのようだった。この下にある肌はやはりあたたかいのだろうかと気になったものの、足のあたりの継ぎ目のほかはおよそ隙がない。ううむと唸りながらなおも腹をぺたぺたと触っていると、頭のうえからどこか困惑げな声がした。
    「……楽しいか?」
    「楽しそうに見えるか? いやなに、むかし城下で子どもたちがな、団子になってまろび合っているのをよく見た。友というのは互いに睦み合うものらしいな。なのでまあ、手はじめに腹かと」
     手はじめに狙うのが急所かという声がどこかで聞こえた気がしたが、仰ぎ見るさきクコチヒコは口を結んでいる。
     なので気にしないことにして、三成はなおもぺたぺたとクコチヒコの腹を触る。
     鎧がすこしぬくもってきたようなのはこちらの熱が移ったからか。おもしろいものだと感心していると、そのときふいと目に映るものがある。
     うむと考えこんだこちらをどう見てか、クコチヒコが首をかしげる。
    「どうした」
    「……なあ、友とはいえ頭に触れるのは早計に過ぎるか?」
     あたま、と鸚鵡返しにするクコチヒコの、ふさふさとした毛並みが蛍光灯のあかりに照らされている。襟元から頭にかけて、輝くその漆黒の毛皮を三成はみつめる。
     その手触りは柔らかいのだろうか、それとも硬いのだろうかとなおも凝視していると、クコチヒコがふうと大きな息をついた。
    「触りたいのなら構わんぞ」
    「いや、親しき仲にも礼儀ありと言うだろう」
    「知らん言葉だな」
    「……千年以上年の差があったのを忘れていたが、まあいい、ともかく世にはそのような諺がある。先人の言は尊ぶべきだ」
    「……その諺の主よりも俺が先にうまれている気がするが、そのように格式張らんでも、おまえとてひとりやふたりかしらをかい撫であった友はあっただろう」
    「……」
    「いないのか」
    「……いや、こころあたりがないわけではないが、……常に布をかぶっていたので頭がどこだか思いだせない」
    「布?」
    「ああ、常にぐるぐる巻きだったな。あの頃も友同士の睦み合いに憧れはしたが、なにせあっちが触れるなら命を賭ける覚悟で触れとしょっちゅう脅してくるのでな。隠しているのをわざわざ明かすというのも無粋だろう。まあ膿が垂れた茶くらいは呑みほしてやったが」
     なので友のかしらは撫でたことがない、と胸をそらしてみれば、クコチヒコがなぜだかふいとあとじさった。
     見ればクコチヒコの右手をその左手が押さえている。おかしな身ぶりに三成がぱちぱちと瞬けば、しばらくしてクコチヒコは両手をひらきふうと大きな息をつく。
    「どうした」
    「……いや、気にするな。ところでどうする、かしらを撫でるか」
     ほれ、とクコチヒコがこちらに身を乗り出すようにする。艶めいた毛並みが鼻先にきて、三成はあわててたたらを踏んだ。
    「だから手順を踏むべきだと言っているだろう! ……なあ、友との距離を縮めていい日数とはどの程度だ?」
    「俺に聞くな」
    「古今東西の友に関する文献にひととおり目を通したことはあるが、自分に役立つものとも思わなかったので覚えていないな。ふむ、カルデアには孔明や清少納言がいると聞いた。いずれも和漢の故事に通じた方々、この三成、頭を垂れて知見を授かるにやぶさかではない、友とは何か必ずや解を得てこよう、待っていろクコチヒコ」
     よし、と拳を握りしめ、三成は尋ねびとのため一路食堂に向かった。好きにしろ、と呆れたようなクコチヒコの声が背後でしたようだったが気にかけている暇もない。
     そうであるからクコチヒコのさらに向こう、廊下を曲がった先にいる人々のことも無論眼中にはなかったのだった。


    「先生に友達のこと聞くって人選大丈夫かな、あ、先生に友達がいないってわけじゃなくてね、知ってるよ、あの血を吐くひととかね、いるよね会ったことないけど先生といろいろ共有してるしだってあたしマスターだもん、大丈夫大丈夫、知ってるからね」
    「それにしてもよくもまあ孔明さんか清少納言さんかなんて究極の二択思いつきましたよね、どっちに聞いてもドボン間違いなし」
     マスターがううむと唸りつつもフォローをつけ加えるところ、総司はあっさりと一刀両断にしてくる。
     勝手にしてくれ、と孔明は深くなりつつある眉間の皺をもみほぐした。
     新邪馬台国では出番もなかったからとゲーム三昧の日々を送っていたところ、帰ってきたマスターとマシュに先生勉強おしえてーよろしくお願いしまーすと元気いっぱい自室から引きずりだされたのがつい先ほどのこと。
     とにもかくにもとりあえずと食堂に向かう途中、どこからともなく現れた新撰組と信長がマスターにへばりつき、さらには偶然にもクコチヒコと三成の会話を立ち聞きする羽目となった。やいのやいのと廊下の陰からヤジを飛ばそうとする連中を押さえつけていたはいいものの、なぜだか気づけば自分まで当事者となっている始末。
     三成の勢いからすると見つかったあかつきには長時間拘束されることは疑いようもなく、しばらく食堂にはいけないなと孔明はおおきなため息をついた。
     斎藤は物見高げにいまだひとり廊下に立ちつくすクコチヒコを眺めている。
    「なんつーか、クコチヒコの理性としのごの言わずに一発やっちまえ鴨さんの大勝負って感じで見ものっちゃあ見ものですよねー。いやまあどうでもいいけどね」
    「あ、やっぱりいま手出そうとしたの鴨さんですよね?」
    「でしょ。頭なくてもガバッと本能的な?」
    「……儂もひとのことよう言えんけど人斬りサークルの倫理観どうなってんの? 獣頭の弥生人がいちばん理性的ってどうなの?」
     ぶつぶつと信長が呟くのに、マスターはことの次第をわかっているのかいないのか、是非もないよねーとまとめにかかろうとする。
    「それ儂のセリフな!」
     信長の剣幕に、あははと笑いながら逃げてゆくマスターがついでとばかりクコチヒコの腕を掴む。
     待ってくださいせんぱーいとマシュが駆けてゆき、さて行きますかと斎藤がぶらぶらと歩きだすのに総司もそうですねーとついていく。
     いつの間にやら取り残される格好となって孔明はひとりその場に立ちつくす。
     一団はどやどやと賑やかに廊下の角を曲がってゆき、あっという間に誰の姿も見えなくなってしまった。
     しんとしたあたり、孔明はゆっくりと煙草をくわえ火をつけた。
    「……で、結局なんだったんだ?」
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