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    はねた

    @hanezzo9

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    はねた

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    お昼ごはんを食べる監督とコーチたちを書きました。

    #aoas
    #ふくだて

    ループ&ループ「どうしたんだい、それ」
     休憩室のドアを開けた瞬間、目に飛びこんできた光景に月島は驚きの声をあげた。
     後輩からのその問いに、福田はぐいと口を引きむすぶことで返す。冷凍庫から氷をとりだしながら、それがなあと弁禅が苦笑まじりに答えた。
    「花ちゃんにセクハラして殴られたんじゃ」
    「違うわ」
     選手用のアイスパックを弁禅から受け取り、福田はそれを右頬にあてる。義妹に張られたという、手形の跡はくっきりとして鮮やかだった。
     はあと月島は小首をかしげる。
     休憩室は雑然としている。窓際にはローテーブルがあって、革張りのソファが二脚据えられていた。ふてくされた顔で陣取った、福田の真向かいに月島は座る。
    「福田さん、犯罪は困るよ。クラブの経歴に傷がつく」
    「違うっつってんだろ」
     ひとかけらも信頼をしめそうとしない後輩に睨みをくれつつ、福田は勢いよくソファの背にもたれかかる。埃が立ったか、かたわらに座っていた伊達がちいさく眉をひそめた。
     昼どきだった。窓の向こうにある景色は明るい。空は青く、クラブハウスに沿い生えた木々がさやさやと葉を鳴らしている。
     そもそも昼食がてらミーティングをしようと言いだしたのは福田で、けれどもその手元にはいまなにもない。
     コンビニのビニール袋をテーブルに置き、つまりと月島は言った。
    「僕の推理によると花ちゃんにお弁当を頼んだ福田さんは、何らかの理由によって花ちゃんのご機嫌を損ねてお弁当を持って帰られてしまったんだね」
    「おお、正解じゃ」
     さすが我がユース期待のホープ、と弁禅が盛大に拍手する。
    「福田はな、ワシらを待ってるあいだここで仮眠しとったのよ。そこに花ちゃんが来てな、兄ィ寝てるのかーなんていつもの調子でのぞきこんだわけじゃ。そしたら福田が寝ぼけて花ちゃんを抱っこしようとしたもんじゃから、ほれこのとおり」
     平手打ちじゃと笑いつつ、弁禅は弁当の包みを手にして月島の隣に腰かける。
    「花が顔のぞきこんでくると怖ェんだよ、まぶた裏返されたり鼻つままれたり容赦ねえからなあいつ。抱っこして封じこめるのが一番なんだ」
    「いつの話だ」
     伊達がため息をつきつつ菓子パンの袋をひとつ福田の膝に乗せる。甘やかしだ甘やかしとるなと肘をつつきあう対面のふたりに見せびらかすように、福田は意気揚々と菓子パンの袋をかかげた。
    「さっすが、ありがとなー。おかげで昼からの練習で倒れなくて済むわ。やっぱり持つべきものは望だよなー」
    「花ちゃんも望も苦労するのう、こんなのにかかずらわって」
    「ほんとだね。福田さんのなかの花ちゃんのイメージが幼稚園くらいで止まってるのもどうかとおもうけど、望のなかの福田さんも高校生くらいで止まってるんじゃない?」
     みっつの視線が集まるなか、伊達は黙々とサンドイッチを口に運ぶ。アイスパックで冷やしがてらに頬杖をつき、いやそこは否定しろよと福田が言った。
    「出会ったころから変わらないっちゅうのはこの歳になるとありがたいところもあるがのう」
    「そういうもの? 僕は福田さんのイメージ結構変わったけどな、ユースのときフェンス越しにトップのひとたち見てたから。まえはもっとキラキラしてたよね」
    「ああ、あの金髪ストレートの福田な、三十路超えたいまは怖くてようできんやつな」
    「そうそう、だいぶ変わったよね福田さん。望は変わらないけどね」
    「おまえらの言ってんのぜんぶ髪型の話だろ」
     天パはいちどはまっすぐの髪に憧れんだよ、と愚痴めいたものをこぼしつつ福田はアイスパックをテーブルに置く。
    「そうかなあ、僕べつにそうでもないけど」
    「まあ福田の気持ちもわからんでもないがな。月島よ、冒険するなら三十までにしとけよ」
    「弁禅さんにはいったい何があったんだい」
    「なんじゃ、聞くか?」
    「うん、まあ聞かせてくれるなら」
     もぐもぐとおにぎりを頬張る月島を相手に、何らかのスイッチが入ったらしい弁禅が滔々と自説を展開しはじめる。
     福田もまた菓子パンにかぶりつこうとしたところで、伊達がふいと口を開いた。
    「福田はなにも変わっていない。昔から私の憧れの男だ」
     突然の賛辞に福田は目をまるくする。あまりのことに菓子パンをとり落としそうになって、あわてて身をかがめた。
     月島も弁禅もそろって食事の手をとめる。ふたたび視線が集中するなか、伊達はそれきりなにを言うこともなくサンドイッチの箱を空にしてゆく。
     その姿を眺めるうち、伊達のそういったところこそ昔から変わらないものだと福田は気づく。
     にやけてくる口元もそのままに、対面のふたりに向かって福田はピースサインをする。
    「どうだ聞いたか、望がオレをほめてくれたぞー」
    「ほんと甘やかしてるよねえ」
    「甘やかしとるのう」
     姿かたちはまったく違うというのに、月島と弁禅はそっくりな仕草でため息をつく。
    「なんとでも言え。オレはもういまから望の言葉以外受けつけん」
    「そうかい? じゃあ望に福田さんへの伝言をお願いするよ。僕さっきここに来る途中で花ちゃんに、事務室の冷蔵庫にお弁当入れといたから兄ィに伝えてって言われてたんだ」
    「いや、それはおまえここ来て一番に言えよ」
    「言ったよ、花ちゃんにお弁当持ち帰られたんだねって」
    「それおまえ僕の推理とか言ってたやつだろ。最初からネタ割れてるなら推理でもなんでもないだろうが」
    「うん、弁禅さんが褒めてくれたからそのあと福田さんにお弁当のこと言うの忘れちゃった」
    「……月島、おまえオレの信奉者ってうそだろ」
     菓子パンじゃ足りんしとってくるわ、と福田は渋面のまま立ちあがる。
     ドアの向こうに消えていくその背を見送って、弁禅がちいさく肩をすくめた。
    「あいつ、自分が世界中から甘やかされとることに気づいとるか?」
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