Do you like me「お前最近なんか変じゃねぇか?」
「えっ、そうか?」
突然不機嫌そうに眉を顰めたボスに棘のある口調で話しかけられ首を傾げた。
「どんな風に?」
「ずっと見てるなと思ったら目があった瞬間逸らしたり…最近多いぞ」
言いたいことがあるなら言えよ、と付け加えボスは腕を組んだ。心当たりを探るように指で顎をさする。
「いや…?」
見ている自覚も、逸らしている自覚もなかった。
「ないのか?不満でもあるならなんでも言えよ。家のこと任せちまってるし内容いかんでは直すことも検討するぞ」
「不満なんてそんな…」
ボスには感謝している。ブラッドイーグルスに囚われていたオレを助けてくれただけでなく、寝床まで提供してくれた。そして今、悲願であるブラッドイーグルスの幹部共を倒すために協力してくれている。ボスの方が身軽で正直、かなり強いので前線を任せてしまっている負い目もあり、感謝こそすれ、不満なんで感じるはずもなかった。ただボスが最近多いと言うのならば、それは本当のことなのだろう。確かにボスを目で追う、ことが多くなったような気はする。多分
「心配なんだ」
「心配?」
思わず声に出していた言葉にボスが訝しむように眉を上げた。
「あー、いや、あんたは色んなことに無頓着だろ、だから」
「お前は俺の母ちゃんか」
母親というものに接したことがないからそういうものなのかは分からない。じゃあ父性か、というとおそらくそれも違う。
「無頓着なのは認めるが心配されるほどのことはしてないぞ」
「心配…したいんだと思う」
「あぁ?」
素っ頓狂な声を上げるボスを尻目に、ひとつひとつと自分の気持ちを紐解いていく。ボスはよくキャンプを留守にする。それは本人曰くキャップを稼ぐために入植者の依頼をこなす為だとか、監督官とやらとVault居住者の責務を果たす為だとか、付近でヤオ・グアイの親子が出没したから駆除しに行く、など様々だ。「いってくる」と必ず言ってくれるので自分も必ず「いってらっしゃい」と言う。いない間、怪我はしてないか、飯はちゃんと食ってるか、ちゃんと寝てるのか、そわそわして、何事もなかったかのように無事帰って来て「ただいま」と言ってくれる瞬間安堵して「おかえり」と返す時、心がじんわりと暖かくなる。あの瞬間が好きだ。
「なんだそれ、お前俺のこと好きなの?」
「えっ?」
思いもよらないひと言に思考が停止する。ボスのことは尊敬しているし、嫌いじゃないのは確かだ。出会った頃は助けてくれる割には無表情なことが多いし、感情がよく分からなくて困惑したが、最近は僅かに動く表情筋の違いも分かってきて、オレがぺらぺら話をしてる時に緩く下がる目尻とか、寝起きが悪くて怠そうに唸る声とか、好みの酒を飲んでいる時にご機嫌そうに覗くいつもより赤い舌とか、色っぽいと思
「あ!」
「うわびっくりした」
「ウイスキー切らしてたの忘れてた。今日の開店は遅らせないと。ちょっと補充しに行ってくる」
「え?ああ、おお。気をつけてな」
純粋な気遣いに居た堪れなくなり、バックパックを担いで足早にキャンプを後にする。心臓がバクバクとけたたましく振動するのが分かる。そんな、そんな、この気持ちは。ダメだ。
背中からボスの「変なやつ」と言う声が聞こえた。
どうとでも言ってくれ!