その時には、「なんせーん……暖かいねぇ……」
「そっ!そう……だにゃ……」
ぽかぽかとした縁側に腰掛ける主。暖かさに、どこか微睡んでいるような声。ようやく暖かくなってきて、気分はもう春。気持ち良さは、確かにあるのかもしれない。
けれども、そんな主とは反対にオレは固い声色を返すしかない。何でかって?
「あ、主……そろそろ起き上がっても……」
「ダメ南泉はここ」
「……にゃ」
少しずつ身体を起こそうとすれば、主に言われてまた逆戻り。オレは今、主に膝枕をされている。
――こんな緊張する状況で、微睡めるか?
いや、無理に決まっている。主の柔い膝の上だろうと思うのに何も感じない。短刀の奴らがたまに膝枕されているのを見かけるが、こんなにも緊張するとは思わなかった。
事の始まりは、主が何かを見てからだった気がする。縁側で一人ごろごろするオレを見て、悲しそうな顔をしたかと思えば何がどうなったのか。気付けばこうなっていた。
「南泉……髪、ふわふわだね。猫っ毛だ」
「あ、あんまり触んな……にゃ」
「今日はこうしたい気分なんだよ……」
そう言って、俺の頭を撫でる手付きがとても優しくて。そして聞こえた声が、どこか寂しそうにも思えた。正直、猫扱い――のように感じて、『触るな』とは言ったものの、そんな主を無碍に出来るわけがなく。仕方がないと大人しく撫でられる事にした。
「南泉、どう?気持ち良い?」
「ごろごろごろ……はっ!顎下を触るんじゃねぇオレは猫じゃねぇにゃ」
「ごろごろしてたのに」
笑いが堪えきれないらしく、クスクスと笑う主。ようやく笑ってくれたと嬉しく思ったのは、主だからだろうか。
「ずっと……平和で、一緒にいられたら良いのにね」
笑ってほしい。そう思っても次にはオレの更に先を見て、また寂しそうな顔をするから。オレたちは、戦いの為に共にいる。その戦いが終わって、平和になったとしたら。その時、オレたちは――。
「平和になっても、オレは主と一緒にいる。もし姿が見えなくなったとしても、ちゃんと主の側にいてやる……にゃ」
主の膝上から、見上げる形で主を見る。驚いたように見開いた瞳から雫が零れ落ちそうで、服の袖で拭ってやった。そうすれば、嬉しそうに微笑んでくれて。
「ふふ……ありがとう、南泉。これからも一緒にいてね」
「任せろ……にゃ」
呪いのせいで格好はつかない。
――でも、オレはこれが見たかったんだ。
喜んだらしいオレの心に、緊張はいつの間にか消えていた。
その時には、暖かさを一層感じられたような気がした。