包む膜は優しさと「まんばちゃん……っもう……無理……」
「いや、まだ主なら出来るはずだ」
九月に入ったというのに、まだまだ暑い室内で私は限界を迎えていた。すぐ側に立って、私を見下ろしているのは初期刀のまんばちゃん。
「もう……もう、腕がプルプルしてる……」
「あと十秒だ。我慢するんだな」
「お、鬼だ……」
私が何をしているかというと、筋トレだ。『引き締めたい』なんて言ってしまったことをきっかけに、こうしてまんばちゃんが付き合ってくれている。大変、鬼コーチではあるが――。
「ほら、終了だ」
「あぁ……終わった……」
まんばちゃんからの終了の合図と共に、プランクで耐えていた腕の力がふっと抜ける。音を立てて崩れ落ち、起きる気力すらない。顔や首から止め処なく流れていく汗が、熱を持っているように感じる。
「暑い」
「これが良いんだろう?」
一向に起きない私に溜め息をつきながらまんばちゃんが渡すのは、中身の入ったシェイカーと団扇だ。シェイカーは、『形からでもやろう』と思い立って用意したもの。プロテインはよく効いている――気がする。
「ありがとう……」
のろのろと亀のような動きで起き上がり、受け取ったシェイカーの中身を飲み干す。甘さはあるけれど、よく冷やした牛乳で作ってくれたらしい。冷たさで冷えたこともあるのだろうが、身体の隅々まで潤っていく気がした。
そよそよと感じる風に目をやれば、団扇で仰いでくれるまんばちゃん。審神者になってかなりの時が経つけれど、初めて会った頃から今に至るまで、いつも彼の然りげ無い優しさをこうして感じている。
「ありがとうね、まんばちゃん」
「構わない。……まぁ、俺は鬼らしいが」
「……ごめん」
冗談めいたようにまんばちゃんは言うものの、ちくりと心を刺す何かから目を背けるがの如く、彼から視線を逸らした。抑えきれなかったらしい笑い声が横から聞こえてくる。ちらりと見れば、楽しそうに笑っているものだから。“最初”を知っている私としては、冗談も笑い声も楽しそうに笑っている笑顔だって、何処か感慨深く感じてしまった。
「ん?どうした?」
「……ううん。まんばちゃんが楽しそうで良かったなって」
「……どういうことだ?」
「何もないよ。ただ、そう思っただけ」
あの頃とは時間を重ねて変わった関係。この先も薄い膜が幾重にも重なっていくように、厚さを伴いながらこの関係を包んでくれるのだろう。“優しさ”や“信頼”という膜が、これからも、これからも――。
共に歩む、初期刀の貴方へ