撮影のためにラクシエムの五人で行くことになった遊園地。寝過ごすことが怖くって、俺は前の日にシュウの家に泊まらせてもらいしっかりと時間を確認してから布団に入った。寝付きが悪いシュウはいつもすぐに寝ちゃう俺を羨ましがっているのだけれど、今日は俺もうまく眠れそうになかった。
「ふふ、ルカ、まだ眠くない?」
「ううん……わかんない、けど、なんか落ち着かない。明日が楽しみ過ぎるみたいだ」
「そうだね。僕も楽しみで気を抜くとニヤニヤしちゃう」
「シュウも? 遊園地には行ったことあるんだろ?」
「ラクシエムのみんなと、ルカと一緒に行くのは初めてだよ。絶対楽しいんだろうなって想像がつくから、余計にワクワクする」
「……遊園地って、楽しい?」
「すごく。きっとルカはとても好きだと思うよ。僕と違って一日中歩き回る体力もあるからね」
「うん? シュウはいつも一日中遊園地にいないの?」
「いるけど、疲れたらカフェに入ったりしてのんびりしてる。アトラクションにたくさん乗ったほうが楽しいんだろうなぁとは思うけど疲れちゃって」
「ふぅん……? 明日って撮影終わった後も一日遊んでいいんだよな?」
「うん、そう聞いてるよ」
「夜まで一緒に遊んでくれる?」
「ああ……ん、へへ、明日は夜までたくさん遊ぶことにする。今決めた」
「やった! ふぁあ……んん、ちょっとねむいかも?」
「うん、眠そうな顔してるね。ね、明日僕が寝坊したら起こしてくれる?」
「絶対起こすし、寝坊しちゃだめ」
「んはは、オーケー。じゃあルカ、おやすみ」
「おやすみ、シュウ」
目をつむって少ししたら俺はあっという間に夢の中へ飛び込んだ。シュウが隣にいてくれると、温かくて心地良い。シュウもそうだったらいいのにな。腕の中に抱いた大好きな人がぐっすり眠れることをいつも願ってる。
翌朝パチッと目が覚めた俺は、寝た時と同じように俺の腕の中にいるシュウを見て頬を緩めた。朝一番に好きな子の寝顔が見られるのって最高だ。前髪が横に流れて可愛いおでこが丸見えだったから、誘惑に負けてそこにちゅっとキスを落とした。それからシュウの肩を揺らして彼の名前を呼ぶ。
「シュウ〜朝だよ〜!」
「……」
「シュウ! 朝! おーきーてー!」
「ん……まだ……」
「もう起きるの! 寝坊しちゃだめー!」
「んは……はぁい、おきるよ……、るかぁ」
「うん!」
「おはようのちゅー、ちゃんとして?」
「……、……起きてた!?」
「へへへ」
シュウは薄く目を開けてふわりと微笑んだ。こっそりしたキスがバレていたなんてめちゃくちゃ恥ずかしい。顔を赤くしている俺に手を伸ばして、シュウが俺の顔を引き寄せた。
「ぼくもルカとキスがしたい。一人でするのはずるいよ」
「……シュウ、寝惚けてるでしょう……」
「寝起きはいいほうだよ」
「うっ……、……目をつむって」
「ん」
長いまつ毛が伏せられる。顔を近づけて唇を寄せ、くっつく直前で俺も目をつむった。シュウと見つめ合いながらするのも大好きだけど、目をつむると唇の感覚だけに集中できて気持ちがいい。舌を伸ばしてシュウのとくっつけた瞬間、枕元でスマホが鳴り出して、俺たちは唇を離して目を見合わせた。
「……起きる時間」
「……だね。起きよっか」
「うう〜、シュウ、もういっかい……」
「早く準備しないと遅れちゃうよ。僕はいつでも、寝坊したってルカのものだけど、遊園地は寝坊したら行けなくなっちゃう。僕、ルカと遊園地行くのすごく楽しみにしてるんだから、ね?」
「……ん。……俺も、寝坊してもシュウのものだから」
「んはは、オーケー。ありがと」
ちゅっと触れるだけのキスで俺を慰め、シュウは俺の下からするりと抜け出す。昨日のうちに用意しておいた服に着替え始めるシュウのことを見つめていたら、寝巻きのTシャツを脱ぎながら振り向いたシュウが「えっち」と揶揄う顔で笑った。
「見てただけだもん」
「見てないでルカも着替えて」
「シュウの着替え手伝おうか?」
「……えっち」
「ふはっ」
目元を赤くするのが可愛くて、俺はベッドから飛び起きてシュウを抱きしめキスをした。遅れないくらいに加減はするから、もうちょっとだけシュウのこと触らせて。
撮影は順調に終わり、昼過ぎには「自由に過ごしていいよ」とマネージャーさんが俺たちに遊園地のフリーパスを渡してくれた。これがあればなんでも乗り放題らしい。
「シュウ! ジェットコースター!」
「一番最初にそれ?!」
「だって撮影では乗らなかったから! アイクもヴォックスもミスタも行こ!」
「俺はパス。日差しがしんどいからちょっとそこのカフェで休んどく。ジェットコースターが終わったら合流するから気にしないで」
「大丈夫か? 俺も一緒にいようか」
「ヴォックスがいてもいなくても体調は変わらない。ジェットコースターって大抵二人ずつ並ぶだろ? ルカとシュウ、アイクとヴォックスでちょうどいいじゃん」
「ミスタは乗りたいものないの?」
「マップ見て探しとくわ。てことで一発目行ってきな?」
「ミスタ〜! ジェットコースターの一番上から手振るから見てて〜!」
「オーケー!」
ミスタが楽しめそうなのはなんだろう。ジェットコースターの上からなら遊園地が全部見渡せるかな? 早いから難しい? あ、観覧車がいいかも。ミスタって高いところ大丈夫だっけ?
「ルカ、前見て歩かないと危ないよ」
「うわお、ごめんね。……シュウ〜」
「うん?」
「ミスタ、大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。あんだけ喋る元気があるならすぐいつも通りになるよ。自分で具合が悪いって言えるようになっただけ進歩だよね」
「……シュウ、お兄ちゃんみたい」
「んはは、僕がお兄ちゃんかな? お兄ちゃんの世話を焼いてる弟かも」
「……よし! シュウが言うなら大丈夫だよね! ミスタの分もジェットコースター楽しもー!」
「おー!」
「二人ともすごく元気だね……?」
「彼らが二人揃っていて元気じゃない時なんてあまりないだろう。それよりアイク、撮影で動き回っただろう、疲れていないか? 何か飲み物は?」
「大丈夫だよ、ありがとうヴォックス。……うーん、ヴォックスが夏っぽい服装なの新鮮だよね、ちょっと可愛い」
「かわ……、……は? あ、あいく、今キミはなにを」
「みんなでお揃いのコーディネートをしているみたいな衣装にしてもらえて、それをそのままプレゼントしてくれるなんてすごく太っ腹なクライアントさんだ。普段自分が選ばない服を着れるのって勉強になるよ。こういう色合いも案外似合うんだなぁとか」
「……アイク、今日の衣装はとてもキミに似合ってる。……すごく可愛いよ」
「あはは! ありがとうヴォックス」
「アイク〜! 俺も可愛い?」
「もちろん! ルカも可愛いしシュウも可愛い! ミスタもとっても可愛かったから後でちゃんと伝えないとね」
「アイクが絶好調だー。あ、ねえ、五人で写真を撮りたいな。撮影で撮ったようなちゃんとしたのじゃなくてさ、ふざけて大爆笑してるようなやつ」
「撮りたい! 撮る! ジェットコースター終わったらミスタのところ走っていこー!」
「いや、まあ走らなくていいけど」
アイクとヴォックスの話に入りたくて後ろ向きで歩いてた俺は案の定転びかけて、隣を歩いていたシュウが慌てて背中を支えてくれた。お礼を言ってクルリと前を向く。アイクとヴォックスは時々すれ違う会話をいつも通りなんの問題もなく進めていて、シュウは遊園地のマップを広げてジェットコースターまでの最短距離を案内してくれる。きっとミスタはのんびりコーヒーを飲みながらジェットコースターが見える場所で待っていてくれるだろう。
一歩踏み出すたびに心臓が跳ねるみたいに感情を揺さぶる。今、この瞬間、俺がこの遊園地で一番幸せかも。
「ふ、ルカ、なにニヤニヤしてるの?」
「なんでもなーい!」
遊園地って楽しいね! でも絶対、この五人だからこんなに楽しいんだよ!