どっちでもいい話「マジ無理…。モデル辞める…」
「え〜?◯◯ちゃんどした?とりま斗真おにーさんに話してみ?」
「聞いてよ斗真おにーさん。あたしフラれたの」
「あー…。それで気まずい系なあれだ…」
「わぁーん!無理〜!」
ありがたいことに仕事はそれなりにある。だからこそ一緒に仕事をする機会も多く、顔を合わせることが気まず過ぎて耐えられないのだ。
「まぁ、うん。なんつーか、それはツラいよなぁ」
そう言って本当に悲しそうな顔をするから、斗真くんってチョロいなって思う。あたしのことで悲しんでくれているのに、他人事のようにこんなことを思っている自分もどうかと思うけど。
ストローに口をつけて吸い込むと、ズゴッと音がしてクリームが口に入ってきた。その甘さはきっと斗真くんと同じだ。こういう人が相談女とかに引っかかったり、週刊誌に撮られたりしてしまうのだろう。
「◯◯ちゃん?大丈夫…?」
「あ、うん」
「決めるのは◯◯ちゃんだから無理強いはしないけど、俺は◯◯ちゃんのことリスペクトしてるし、一緒に仕事してて楽しいよ。だからできれば辞めないでほしいなって」
「斗真くん…」
いい人過ぎるんだよなぁ。まじで。絶対損するって。自己中が集まる芸能界で、そんな優しさは餌でしかない。
「ちなみにさ、相手って◯◯ちゃんより年上?」
「うん」
「なら逆に良かったと思うよ」
「なんで?」
「女子高生に手を出そうとする大学生以上の男って、学生バイトに手を出す社員と同じぐらい終わってるから。学生に手を出す時点で無いから。どんなに優しいこと言ってても下心しかないから。つまり◯◯ちゃんに手を出さないってことは、真面目ないい人ってことだって。俺が保証する!」
「え、なに、自己紹介?」
「ちげーよ!それでバイト先が崩壊するの何回か見てきたんだって!」
「ごめんごめん、わかってるって」
斗真くんって謎にチャラい感じだしてるけど、根が真面目なの隠せてないから人から好かれるんだと思う。女子から悪い噂聞かないもん。
「でもそっか、いい人に恋したってことか…。じゃああたし、見る目あるってことだね!?」
「そう!」
「でもいい人ならなおさら好かれたかったぁ〜!」
「ほ…ほら!◯◯ちゃんが女子高生だからかもだし!いい人だから!卒業したらワンチャンあるかもよ!?」
「あるかな…」
「あるって!何年も想っててくれたんだ…!ってラブコメ始まってからのLove so sweet流れること間違いなし!」
「じゃあ、うん!その時まで好みの見た目になれるように磨くわ!自分を!」
「その意気だ!」
前に聞いたときに、髪色が明るいほうが好きだと言っていた。目は大きくて、まつ毛もバサバサで、何事も一生懸命で…。ん?
「え?」
「え、なに?」
「いやいやいや!まさかね!」
不思議そうにあたしを見る斗真くんに、渇いた笑いしか出ない。だって、ねぇ!?まさかね!?
「お疲れ様です斗真くん。お待たせしてすみません」
「あ!夏準さん!お疲れ様です!全然待ってないです!」
パァと明るくなった顔に目がチカチカとした。それはそれとして振り返られないのは、あたしの後ろにいるこの人こそが、あたしをフッた人物だからだ。
「おや、◯◯さんもお疲れ様です」
「お…お疲れ様で〜す」
ゆっくりと振り返り、顔を見上げれば優しい顔をしていて胸がキュンとしてしまう。だって顔がいいんだもん本当に!好きなんだもんまだ!
「じゃあ◯◯ちゃん、俺行くね!あ、今度みんなでご飯とかカラオケ行こ!パーっと遊んで、嫌なこと忘れて楽しもーぜ!」
「あ、うん」
「ではまた」
小さく会釈をする夏準くんと、大きく手を降ってくれる斗真くん。並んだ二人の背中を見送った。
「何が食べたいですか?」
「え〜。めっちゃ迷いますね!とりま腹ペコな感じで!」
「フフッ、なら…前に行ったレモン水屋さんはどうですか?」
「も…もー!それ忘れてくださいよぉ!マジで黒歴史なんで!」
「そうですか?ボクは良い思い出ですよ」
うっわ、確定演出きた。見たことないんですけどその顔。めっちゃ嬉しそうにしてるじゃん。うっわ。
「お手上げじゃんか〜」