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    tonamiRO

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    tonamiRO

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    転職に当たり、名前を追加。雰囲気が変わった上にハイプリ×アサクロ→アクビ×ギロクロ色強め。

    #RO

    ■■■ 大惨事 おまけ.



    まだ二人がプリーストとアサシンだった頃の話だ。

    「二つ出たから丁度いいよな」

    アサシンはそう言って当時まだプリーストだったクロノスの掌に乗せたのは銀の指輪。
    クロノスはそれを見て瞳を瞬かせる。
    アサシンであるラズはクロノスの様子に気がつかず、自分の分の指輪を太陽にかざした。

    「よかった。欲しかったんだー」

    ラズがそう言うのは今ルティエでリングに名前を彫ってもらえるからだ。
    イベントがあるたび何でも作る好奇心の塊のようなこの男の横に、クロノスは青石を掴んでワープポータルを開いた。
    そしてラズをそこに蹴り込む。

    「何するんだよっ! ・・・・て、え?」

    浮遊感に軽くめまいを起こしつつ、気がつけばそこはルティエのまさしく今からラズが行こうとしていた建物の中だった。
    もうすでに何人もの冒険者がそこにいてあちらではリングの名前彫りが行われていたり、こちらではプレゼントボックスを包んでいたりとかなり賑わっていた。
    ワープポータルで来るものは少なくないのか、いきなり現れた2人に気にとめない。

    「お前も作りに来たんだろうが」

    ラズが物珍しそうにあちこちを覗いている間にクロノスが先に名前入りリングを作っていた。
    クロノスがラズのマフラーを掴んで名前を彫ってくれるカプラさんの前まで引っ張ってくる。
    引っ張るなよと少し頬を膨らませながらも、カプラさんに指輪を渡して名前を告げる。
    カプラさんの掌で挟まれた指輪が一瞬光り輝いた。
    「できましたよ」
    そして差し出された指輪を摘まんでラズは確かにそこに自分の名前が彫られていることを確かめる。

    「わー。こうやって彫るんだ。すげー。ミラクルー」

    そんなラズにクロノスがいきなり拳を作って腕を差し出した。

    「ん」

    なにか掴んでいて、それをラズに渡そうとしているらい。
    ラズが掌を開いて拳の下に手を差し出すと、ころんっと指輪が落ちた。

    「あれ、これお前がさっき作ったやつだろ。なんだよ。もういらねぇの?」

    「ん」

    そしてクロノスは腕は伸ばしたまま掌を上に広げて催促する。

    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何。金とる気かよ」

    「ん」

    面倒くさそうに顎をしゃくるクロノスの視線はラズの名前が刻んだ指輪を見ている。
    どうやらこれが欲しいらしい。

    「欲しいなら口で言えよな」

    どうせまた作れるものだ。
    呆れながらラズが自分の名前を刻んだ指輪をクロノスに向かって指ではじいた。
    空中でキャッチした指輪をクロノスはそのままズボンのポケットに突っ込んだ。
    「見るくらいしろ! 俺の指輪あああああ!」
    「・・・・・・・・・」
    ラズが騒ぐも、クロノスは涼しい顔でそっぽを向いている。
    その目元がわずかに赤くなってることなど、ラズは気がつかなかった。


    思えば、この時気がついていれば。
    いや、後から何度もそういった場面はあったのだ。
    だがこのアサシンは本当に、心の底から、絶望的といってもいい位に、鈍かったのである。





    ■■■ 大惨事 おまけ









    ゲフェンにある屋敷のひとつに彼らのギルドハウスはあった。
    一階の大きな広間に押し込められたかのような男達の数は40人以上はいる。
    普段このハウスにいない者もいるので、いつもはあるテーブルは邪魔と横に積み上げられ、今日は床に胡坐をかいての食事となった。
    あちこちで大皿料理と酒瓶が並んでいる。

    ビールジョッキを持ち上げて、どーん、と効果音を背負った男が1人。
    何も身につけずに裸一貫、端に除けたテーブルに仁王立ちするのはこのギルドのマスターであるルーンナイトのヴァルトだった。

    「では、皆が無事3次職を迎えることができた、今日の良き日に、乾杯――!!」

    それにギルドの面々から、口笛やはやし立てる声と共に、見苦しいもんひっこめろだの、この馬鹿マスターが―!!と、怒声が飛び交う。
    おひねり宜しく、飴やナイフ、花火まで飛び交う中を器用に避け続けて笑っていたヴァルトだったが、横から伸びた手に捕まってテーブルから引きずり降ろされた。
    「あなたって言う人は全く・・・」
    レンジャーの衣装を身にまとう優しげな風貌の男が、ヴァルトの体にルーンナイトの証である羽織をかける。
    彼はこのギルドの副マスターという名の、正式にはこのギルマスのお守役のアルノーだった。
    元々がスナイパーで先にレベルをカンストさせオーラを発していたので、『恙無く3次職になるための高レベルなギルド狩り』には参加せず、他のメンバーの狩りを手伝っていた。
    「よお、何だよお前。レンジャーの格好もかっこいいな! 男前だぞ! 俺の次だけどなー!」
    「はいはい。せめて羽織だけでも着て下さい」
    「えー」
    「子供じゃないんだから」
    無理やり袖を通させると、裸に羽織だけという姿になり、なんというか・・・・羽織の裾から覗く足が、胸元が着てないよりも遥かにエロくさくなっていた。
    「ぶふっ」
    絶賛片思い中の想い人のセクシーな姿に当てられたアルノーが、鼻血を吹いて倒れる。
    「あはははははは!! 相変わらず鼻の粘膜が弱い奴だな! お前は!」
    ヴァルトは胡坐をかいて座り込み、ビールを煽る。

    だから大事な所が丸見えなんですけど。

    再び滾るものを鼻血で流しているレンジャーは、連日のことにそろそろ出血多量で死ぬかもしれないと思っていた。


    それを横目で見ている男が一人。

    「これだから、入った女の子が居付かないんだよねぇ・・・」

    ワインを飲みながらソーサラーになったばかりのディアノが苦笑する。
    着慣れないアークビショップの衣装を摘みながらクロノスは軽くため息をついて言った。

    「こうして集まるとむさくるしいことこの上ないしな」

    女が入っても昼も無く夜も無く思いつきのまま狩りに出たり、毎晩のごとく行われる酒宴(裸つき)に入っても3日と持たずに出て行ってしまう。
    ギルドの加入人数をこれでもかと拡大しているのに熱気むんむんとした男達で溢れているのだ。おかげでこのギルドは体育界系男ギルドになりつつある。

    そしてソーサラーの傍らには、これまた半裸姿の男が一人。

    「なんでわい・・・目が覚めたら修羅になってたん・・・? いつ転職したんやろ・・・。記憶無い・・・」

    修羅になったカルロが両手でビールを抱えながら呆然としている。
    それを横で聞いていたメカニックのシークが、彼から視線を外すようにオレンジジュースをすすった。
    その脳裏に浮かぶのは今朝方のことだ。


    3次受付が始まる今日という日の朝まで狩り続けたメンバーたちは、ハイプリーストだったクロノスがJOBカンストを果たした所で燃え尽きた。
    弱いモンスターしかいないフィールドで、寝不足もあり意識不明で気絶するように倒れたメンバー達の中で唯一元気なギルドマスターが空を仰いだ。
    「まったく俺を残して寝るとは。つまらん。このまま受付に行かねばならんのに、さてどうするか」
    ヴァルトはシークを叩き起こして、カートにメンバー達を山盛りに放り込み、未転生者や、3次の資格をまだ持たない者たちをギルドハウスに連れて行って玄関に転がした。
    そして別のギルド狩りパーティに参加して、疲れて寝ていた資格を持つ者も合わせて、全員順番に紐で括ってまたカートに放り込み直し、3次職転職場巡回の旅に出たのだった。
    一番最初の犠牲者になったのがこの修羅だった。
    ギルドマスターによる2人羽織で意識不明のまま適当にこくこくと頷かされて3次にされた者達は、修羅の他数名。
    悪夢のような狩りで疲れ切った彼らは目が覚めて再び悲鳴を上げることになった。
    途中で目が覚めた後半のメンバー達も逃げることもできずにめでたく3次にさせられたのである。

    おめでとう
    おめでとう
    おめでとう


    問題のギルドマスターは、ルーンナイトの鎧を持ち上げて子供のように唇を尖らせた。

    「やはり、この石がいかんよ。石が。染色するかなー。この羽織も短くして、マントを別につければまだイケる気がする。うん」

    「魔改造するなと言ったのはどこのどいつだ」

    シークが口元を引きつらせてそう突っ込む。
    元々ががっちりとした体格をしていたホワイトスミスだったが、メカニックになったことにより風格が出てきた気がする。
    厚い胸板に綺麗に割れた腹を惜しげもなく見せているのはともかく、赤い派手な装束は正直シーク好みではないのだが。何しろジーパンが着れない。
    そんなシークを囲むように転生を果たしていない者達が集まっているのはいつものことだった。
    酒に煽られた男たちの視線はシークに向かっている。

    「兄貴。兄貴。ハァハァ」
    「けしからん胸板。ああ・・・その太い腕に抱かれたい。その足に挟まれたい」
    「俺達を守ってくれたその背中はまさに漢の中の漢。忘れはしません。兄貴、ハァハァ」

    「・・・言っとくが、俺はノーマルだからな?」

    元々が面倒見がいい性質ゆえに、慕われるのはいいのだが、最近度を越し始めてきているような気がするのは気のせいだろうか。
    何故自分が身の危険を感じなければならないのかと思いながら下戸で甘党のシークはジュースを飲んでいた。



    さて、今朝まで腰巻腰巻と騒いでいたアサシンクロスのラズも、ギロチンクロスとしてその場に座っていた。
    むしろ、壁とお友達になっていた。

    「ねぇ・・・知ってる? ギロチンクロスってね、染色するとゴールドセイントやシルバーセイントにもなれるんだって」

    膝を抱えてぶつぶつ言っているその姿は、いっそまだ地面に転がっていた時の方がましだったと思わされる。
    クロノスはめんどくさそうな顔をして、ギロチンクロスの腰から生えた2本の帯布を掴んで引っ張った。

    「尻尾があるだろうが。尻尾が」

    「・・・・・・・・・・」

    ラズは視線だけを向けてまた元のように背を向ける。

    「なんだよ。偉そうなハイプリーストだったくせに、なんか清廉な感じに誤魔化しましたーみたいなその格好。ふん、いいんだ。いいんだ。俺なんて・・・・とげとげがちくちく痛いよぉ・・・・」

    「うざいなぁ。何これ。さらに悪化したんじゃない?」

    ディアノが笑うと、ラズがますます暗くじめじめとして転がる。しかもその横には、すでにもう1人転がっていた。

    「いい気になってすいません。でも、あれもう私じゃないんです。しかもなんか魔法が弱くなってる気がするんですけど。これなんでしょう。魔力が弱くなったこんな私なんて生きていてもしかたないですよね・・・こんな衣装になったってことは私は銃でも持っていた方が良いって事ですよね。もうだめです。私。この衣装なんか転がりにくいんですもの。背中の顔が怖いしどうしてこんなことになったんでしょう。私はただ普通に・・・生きていたいだけなのに・・・・」

    埒もあかない事を言っているのは、今朝まではハイウィザードだったウォーロックのマティだ。
    狩り中テンションが高かった反動か、更に陰鬱になっている。

    「幸せになりたい・・・のに」

    つうっと涙を零しながら、窓辺に上り、懐から出した縄を天井にあるフックに引っ掛ける。
    もう片方の端は丸くなっていて、そこに首を突っ込んだ。

    「魔力が弱くなった自分に耐えれません。こんな私が神を名乗っていただなんて・・・・なんて愚かなんでしょう。私などゴミ以下の存在だというのに。さらばです。皆様。来世で再びお会いしましょう。その時私は貝になりたい」

    そう言ってマティは窓際から飛び降りる。
    縄が伸びきる寸前、どこからとも無く矢が飛んできて縄を切った。

    「何してんですかー。先輩は1日1回は首括らないと気がすまないんだから、もー」

    構えていた弓を下ろして少年のように明るく笑ったのはシャドウチェイサーのニコだった。
    今回3次になるにあたって、弓使いにはこの衣装いい!と喜んでいたいわば勝ち組である。
    彼は落ちて転がっているマティを拾い上げて肩に担ぎ上げた。

    「こうなると長いんで、上で休ませてきまーす」

    大柄のシャドウチェイサーに担がれているウォーロックは死ねなかった悲しみか、生きている喜びかさめざめと泣いている。
    いつものことなので誰もが気にせず二人を見送る。

    「修羅ちゃーん。俺らも2人っきりでーどっかでいいことしないー?」

    それをうらやましそうに見ていたディアノが横に視線を向けると、そこに修羅の姿はない。
    半裸組と称して、羽織1枚のギルドマスターと肩を組んで腕を振りまわし、なにやら歌を歌って周りからやんやとはやし立てられていた。

    「あーあ。マスターに捕まっちゃったかー。しかたない。一人寝しよっかなー。散々狩ったし、疲れちゃった」

    たいして気にしてないようにディアノは背伸びをして立ち上がる。

    「司教・・・・おっと、もう大司教様か。君はどうするの?」

    「もう少しいる」

    「そ?」

    ディアノはまだ丸くなって転がっているギロチンクロスを見、クロノスに視線を戻して笑う。

    「じゃあ、『ごゆっくり』」

    意味深に笑ったディアノの表情を、クロノスは見ない振りをした。
    からかわれるのは基本的に好きではないのだ。
    ディアノが2階の自室に戻ったのを確認して、そして横に転がるギロチンクロスをちらりと見る。

    「・・・・・別に、外面が変わっただけだろう・・・」

    クロノスは別に3次職になりたくなかったわけではない。
    いつかなるのだろうと思っていたし、使ってみたいスキルもあった。また、先の世界も見てみたかった。
    特に自分の傍らにいるのは、シーフとアコライトの頃からの付き合いの男だ。
    落ち着きがなくいつまでも子供のようであり、浪漫だなんだと拘っては腰巻ひとつでこの世の終わりのような顔をする。
    それなりに強いことも頼りになるところもあるのだが、どう考えてもマイナスの方が多い気がする。
    だから自分が傍にいてやらなければと思っていた。

    アサシンクロスの上位職ギロチンクロスになった今でも、情けない嗚咽を零しながら転がっている男の横に、アークビショップになったばかりの自分はいる。

    「ううう・・・。上の人にはわからないんだ・・・アサとアサクロの腰巻には夢と浪漫とあこがれが詰まってるのに・・・」

    「それは何度も聞いた」

    じめじめと、そこだけキノコが栽培されてしまいそうな景気の悪い空気に関わるものなどクロノスしかいない。
    目の前ではギルドマスターと、その他大勢勝ち抜け脱衣野球拳が行われていて、特にギルドマスターはルーンナイトの羽織しか着ていないにも関わらず、他のギルメンの服を次々と剥いていっていた。今もクルセが鎧をはぎ取られて震えあがっている。
    大笑いの場など気にもかけないで、ラズはしくしくと泣いていた。

    「こうひらっとするのがかっこいいんだよぉ・・・」

    「それも聞いた」

    「こんなトゲトゲいらないいいいっ。町でもきっと浮くよ、この格好ううううううううっ」

    「・・・・・さっさとスキル習得してみろ。楽しいかもしれないぞ」

    ラズが前向きになるようにとクロノスがそう言うと、転がっている男の動きが不自然なほど止まった。
    そしてぽつりと震える声で呟いた。

    「・・・・・787・・・・」

    真に迫ったような怯えた声は、恐怖以外の何物でもなかった。

    「?」

    「目を閉じると787が迫ってくるんだよおおおおおおお・・・っ。いやああああああ。787、787がああああ!!」

    意味不明なことを叫びだして団子虫のように丸くなったかと思うと、そのままいつものように転がろうとしたラズの耳元でざくっと音がした。

    「ふえ?」

    横向きになったままなにやら動かなくなったラズは、首を守るための棘が床に刺さっているのを見た。

    「・・・・・・・・・」

    一気に物悲しくなりながら、引き抜くために体を反対に転がそうと勢いをつける。

    ざくり。

    確かに抜けたのだが、また反対側の棘が床に刺さった。

    「う?」

    仰向けの状態にすると腰や首の裏の棘まで床に刺さった。
    更に、角度が悪かったのか、起き上がろうとしても転がろうとしても抜けなくなってしまった。

    「うわあああああああああんんんんんんん。何これ、動けないよおおおおおおっ」

    腕を空に向かって伸ばすも意味がない。

    もだもだもだもだもだ

    仰向けになったまま腕や足をばたつかせなるラズに、楽しいもの好きの面々の視線が集まる。

    「ぶはあははははははっははっ! 動けねーのか、だっせー!」

    「うわっ。どんだけ尖ってるんだよこれ。テラワロス」

    「俺、こんなの見たことあるわ! 亀島でひっくり返ったカメが丁度こんな感じだったっ!」

    「ぶふっ。目が死んできたっ! 目が死んできた!」

    一気に人気者になったギロチンクロスは仰向けになったまま膝を抱えてしくしくと泣き出した。

    「こらこら。亀をいじめてはいけないよ」

    騒ぎを聞きつけて副マスであるアルノーがやってきた。腕を伸ばし、ラズの体を支えて起こしてやる。
    それを横からメンバー達がまた口を出してくる。

    「亀一匹救助」

    「さすがサファリパークの監視員。優しー」

    「外見で人を判断しない」

    アルノーが苦笑する。
    ちなみに監視員とは、今日町で見たレンジャーから由来する。
    野球帽をかぶって狼に乗った染色女レンジャーが本気で外見が監視員さん以外の何物でもなくなっていたのだ。

    「ありがとう。副マスうううううう」

    助け出されたラズがアルノーにすがりついて泣く。
    よしよしと頭をなでてやりながら、アルノーは目を細めて微笑んだ。

    「いいから、床に穴をあけたりえぐったりするのは、もうやめてね?」

    見れば床はカーペットごと抉れて、そこだけぼろぼろになっていた。
    ラズはアルノーの微笑みの裏に隠された鬼を見た。

    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・すいませんでした・・・」

    ラズは身を小さくしてガタガタと震える。
    その襟首を掴んで引き剥がしたクロノスがアルノーに向かって軽く頭を下げる。
    年功序列というか、体育会系にありがちな上意下達型ほどひどくはないが、それでも多少は上を敬うのがこのギルドの暗黙のルールだった。
    ちなみに一番敬われるべきギルドマスターは、今現在、織1枚のままで足元にまっ裸の野郎どもを侍らせ、大絶賛野球拳12人抜き中である。

    「怖いよ・・・怖いよ・・・。レンジャーなのに、修羅が居たよ」

    ラズはビールジョッキを片手に隅の方で大人しく膝を抱える。
    もうこの屋敷内で転がることはできそうにない。
    いや、棘が削れたり自分にダメージが来そうな気がするので、外の石畳でもできそうにない。

    「俺・・・これから先どうやって悲しさを発散させればいいんだろう・・・。ストレス溜まっちゃうよ・・・」

    「お前といい、ギルマスといい。大の大人が地面に転がるほど恥ずかしいことはないんだからな? もうガキじゃないんだ。我慢しろ」

    昔からこの男は悲しみを体で表現していた。
    いくら注意しても治らなかったので、これはもう不治の病と思って諦めようと思っていたのだ。
    だがここにきて、この病気が治るのならそれはそれでいいことだろう。

    「冷たい・・・」

    ラズは手をついてずるずるとクロノスから離れようとする。
    それを引き留めようといつものように手を伸ばしたクロノスは、昨日まではそこにあったものを掴もうとして指が空をかいた。

    「・・・・・・そういえば、マフラーも無かったか」

    「う?」

    「ちっ・・・。狩り中でも離れたお前を引き寄せるのに都合がよかったのに」

    「マフラーは鵜飼いの綱じゃないんだからねっ! いっとくけど、俺それで何度か息止まったんだからねっ!?」

    「腰にも尻尾があるんだから首にも尻尾つけとけ」

    「上のお偉いさんに言って! ・・・・・・・・・あ。でもそうか」

    腰から下がっている布は腰当てを縛っているものでマフラーのように幅が狭い。

    「これ外して首に巻けば・・・。でもお前に首絞められるのもなぁ・・・」

    「お前、ヒールの届かないとこまで行ったりするなよ? 死ぬぞ」

    「・・・・・・・・・」

    そこでラズがきょとんとした顔でクロノスを見る。
    怪訝な顔をするクロノスに、ラズが膝を抱えなおして少し照れたように視線をはずす。

    「いや、お前に心配してもらうのって・・・なんか変な感じ」

    「いつも心配してるだろうが。このあちこち飛んで行ってはあっという間に転がっている、いつまでも学習しない、落ち着きが無い、人の話も聞かない、鳥頭で貧弱なお前のことを」

    「何で一言も二言も多いんだよ、てめぇはああああああ」

    これでも長い付き合いだ。
    いつもなら聞き流せるクロノスの言葉も、今日という日だけは流せなかった。
    ラズの耐久心はこの姿になったことでもうすでにリミットブレイクしていたのである。

    「嫌い」

    「?」

    「てめえなんか大嫌いだ。このバカ。バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバァ」

    「はぁ?」

    バカを言い過ぎている間にカバになっていたのだが、二人ともそこには突っ込まない。
    片方は頭に血が上っていたし、もう片方はそれよりも大嫌いだと言われたことに内心傷ついていた。

    「お前だって俺のことが嫌いなんだろ でも昔からの付き合いだし、手軽に性欲処理とかできるし、俺を罵ってストレス発散できるしっ。お前にとって俺は・・・っ。やれるだけの、つ、都合のいい男とかいう」

    ラズはぶるぶると震えて俯く。

    「ラズ、低俗雑誌に影響受け過ぎだ。落ちついて話せ」

    語尾が震えるほど青ざめたラズは、呆れたようにため息をつくクロノスのその態度が気に入らない。
    ラズは耳を赤くして噛みつくように言った。

    「じゃあ、俺たちの関係ってなんだよ・・・っ。ただの幼馴染っ? 相方っ? こ、恋人・・・っ?」

    「そんなわけあるか」

    「・・・・・・・・・」

    眉間にしわを寄せてクロノスは何をいまさらと言わんばかりに言った。

    「幼馴染というのはまぁいいだろう。相方と言うのもまぁ、それはしかたない。だが、恋人と言うのは違う」

    「・・・・・・・・・」

    唖然というよりも、表情が無くなったラズに、こっそり様子をうかがっていたシークが眉をひそめる。
    オレンジジュースを端に置いて身を乗り出して、クロノスを諌めようとした彼の耳に、ザクッという音が聞こえた。

    「・・・・・・・・・」

    クロノスが寄り掛かっている壁にグラディウスが刺さっている。
    それを握っていたラズの手が離れた。刺さったままの短剣の刃は、クロノスの喉からわずかしか離れていなかった。
    クロノスは目を見張ったまま動かない。
    俯いたままのラズは、ゆらりと立ちあがった。
    短剣を突き刺した音と、押し殺した怒気を纏わせるその姿に、周囲の者たちの意識が向かう。

    「・・・・・・・っ」

    唇を増えるわせているラズの声は小さく聞き取れない。
    俯いたままの表情は半端に長くのばされた前髪で見えなかったが、きつく喰いしばっている歯と、滴が2筋頬を伝って地面に落ちるのが見えた。

    「おい・・・」

    なぜ泣くのか、なぜ怒るのか。
    クロノスにはわからない。
    戸惑いながらラズの顔を覗き込もうとする。

    「ギロチンクロスになったのがそんなに嫌だったのか?」

    「―――――っ!!」

    二人の背後で、シークが「このバカ」と顔をひきつらせたのと、ラズがクロノスを殴ったのが同時だった。
    すぐ背後の壁に叩きつけられたクロノスは衝撃と痛みに顔をしかめる。
    ラズはそのまま大部屋から走り出ていった。階段を駆け上がる足音がしたので、おそらくは自室に戻ったのだろう。

    「おーい、大丈夫か?」

    シークは壁に刺さったままの短剣をそのままに、クロノスに肩を貸して立ちあがった。
    こちらの様子をうかがっているアルノーに片手をあげると、向こうも小さくうなずいた。
    二人で廊下に出ると、クロノスは唸りながら自分の頬にヒールをかけた。
    シークはあきれながらため息をついた。

    「お前ら何やってんの」

    「あいつがいきなり殴ってきたんだ」

    「お前が悪い」

    「何で」

    「何でって・・・・・・」

    クロノスは本当にラズがなぜ怒ったのかわからない様子だ。

    「お前ら昔からの付き合いなんだろ?」

    「ああ」

    「恋人なんだろ?」

    「違う」

    「・・・・・・・・・」

    そこで否定するのがわからない。
    二人が付き合っていることは、このギルドでも知ってる人間は知っている。
    クロノスは聖職者という職に就いていて支援もうまい。
    今まで何人もの相方希望者が居たのだが、すべて断ってラズといる。
    聞きたくもなかったが、2人の部屋から色めいた声が聞こえたことだって1度や2度じゃない。
    割り切った関係、セフレということも考えられるが、今のラズの様子だとそこまで冷めた関係とも思えない。
    何より。

    「お前、ラズに惚れてるんじゃないの?」

    「・・・・・・・・・」

    クロノスは視線をそらして口を閉じた。
    クロノスは否定や拒否ならはっきりと口にする。
    ならばその様子が否定ではなく、肯定であることは明らかだ。

    「何で恋人じゃないの」

    「なら聞くが、何故伴侶から恋人に格下げせねばならんのだ」

    詰め寄られたクロノスは、忌々しそうに腕を組んであからさまなため息をつく。
    それにシークが目を丸くした。
    クロノスはシークをにらみあげる。

    「あれは俺のだ。確かに指輪しか互いをつなぐものはないが、あいつもわかってる」

    「はあああああ?」

    伴侶だなんていつのまにそんなことになっていたのかがまず驚きだ。
    しかも指輪という言葉まででてくるのだ。エンゲージリングを用意して交換しているのだろう。
    シークは唖然として首をかしげた。

    「・・・・・・・・・だとしたらさっきのラズはおかしくね?」

    「あいつがおかしいのは元々からだ」

    「いや」

    天真爛漫で、いつまでたっても子供で落ち着きが無い、実に裏表のない男なのだ。
    何故アサシンクロスという職に就いていたのか、わからないくらいに。
    伴侶として、指輪の交換まで済ませていたのならあの様子はおかしすぎる。

    「お前、ちゃんと言ったのか? 指輪の意味」

    「互いの名前を彫った指輪を交換したんだ。そういう意味しかあるまい」

    「いつやったの」

    「転生直前のクリスマスに」

    そう言えばカプラサービスで指輪に名前を彫ってくれるイベントがあった。
    転生前と言うことはたぶん、そのサービスが初めて行われた時で、誰もかれもが指輪を何個も何十個も作って配ったり交換していた。
    ラズも例にもれず指輪を作りまくって配り歩いていたのを、シークは知っているしもらってもいた。
    もちろんその一つを、この男と交換するくらいはしているだろう。

    「普段つけない指輪を、交換するなど結婚以外の何物でもないだろう」

    しかしその意味は違ったのだ。
    片方は指輪に意味などなくただイベントとして交換した。
    片方は指輪に特別な思い入れを持って交換した。

    言葉が無かったがために、ここで二人はすれ違っていた。

    シークは心底驚いて、次に呆れかえって、最後にラズに激しく同情した。
    あの様子からして、クロノスの言う「わかってる」など欠片もわかっていないことは明白だ。

    「お前・・・・・・絶対それ言葉足りてないから・・・」

    いつの間にか伴侶にまでされていたのだと知ったら、きっとラズは泡を吹いて倒れるに違いない。
    しかし、言わなくてもわかるだろうとか。
    指輪に特別な思い入れがあったり。
    交換しただけで結婚などと言われた日には、ラズの名前入りクリスマスリングを持っている身としてはいたたまれないし、禍の種にすら見える。

    「お前、割と古風なところあるよな・・・」

    しかし無口で無愛想で硬くて頑固で思い込み激しい上に、その伴侶とやらを守ることに関しては手を抜かない。
    シークは切実な思いを込めて、クロノスの両肩に手を乗せて言った。

    「せめて、愛してるだとか好きだとか言ってやれよ・・・」

    「言わなくてもあいつならわかってる」

    「わかってないからこの事態になってるんだろ・・・」

    「?」

    本気で分かってないクロノスに、シークは頭を抱える。

    「それともなにか。言うのも恥ずかしいお年頃かよ」

    「そうではないが・・・。まぁ、いい。ちょっと、仕返しがてら、様子見てくる」

    頬を撫でて眉をしかめるクロノスに、ほどほどになとシークは言うしかなかった。
    あとはもうラズにまかせるしかない。

    「怒るなよ。ちゃんと優しくしてやれ」

    「いつだって、俺は優しい」

    背中越しにそう言い切るクロノスを見送りながら、シークは眉尻を下げてため息をつく。
    シークはクロノスの執着を目の当たりにして、ラズの災難を予感せずに入られなかった。

    恐らくそうしないうちにラズの悲鳴が建物内に響くだろう。




    そしてその予想は間違ってなかったのである。




    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

    「787」当時ギロチンクロス公開時のSSより。攻撃数値が787で衝撃を受けた。


    後日ロードナイトの衣装変更が行われたギルマスが勝ち組。
    やっぱりあの羽織はなかったんやと今でも思う。





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