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    #RO

    Holiday!.




     1.こちら生体研究所地下3階
     
     

    「なんじゃこらああああああああ」
     
     闇の中、野太い男の悲鳴が木霊した。 
     ここは、企業都市リヒタルゼンの中でも、最大の大企業と言われるレッケンベル本社の地下3階である。
     本来ならここは、レッケンベルの研究すべてが詰め込まれた極秘中の極秘の場所の筈だった。しかし過去、ここで非人道的な扱いを受けていた生体実験体による暴動と、それに伴い起きた火事により、封鎖された場所でもあったのだ。
     もちろん封鎖された原因は、それだけではない。
     この場所には、それから『でる』ようになったのだ。
     つまりレッケンベルが行った『研究』のために、命を落とした者達の怨念が霊となり生者に襲い掛かるので、今現在も立ち入り禁止区域となっていた。
     辛うじて通じている電気と、割れずに残っているライト。
     血なまぐさい臭気の篭ったこの場所に、その霊達はいた。
     
     そしてこれは、かつては冒険者であった彼らの物語である。
     
    「やばい、萌えすぎて雄たけんだ。エレメス萌すぎて胸が痛い」

     日々、エレメス萌を叫び、暇があれば彼を押し倒し、セクハラしまくるので、ガチホモともっぱらの噂のホワイトスミス、ハワード=アルトアイゼンが胸を押さえて悶える。

    「言葉が乱れているぞ、ハワード。『雄たけんだ』って何だ」

     3階メンバーのリーダーであり、唯一の理性派、しかし同時に真面目ボケ担当のロードナイト、セイレン=ウィンザーが小首をかしげる。尚、凛々しくも端正な顔立ちにかかわらず、今現在、その頭に付いている間の抜けた白い犬耳のせいで、何とも言いがたい哀愁を漂わせていた。

    「雄たけびも轟かすさ! ほらこれ、見てみろよ! エレメスに黒ぬこミミとか超萌える。なにこれ、動くの? マジなの? 俺を萌え殺す気なの? 俺らがこんなとこに引き篭っている間に、こんっなかわいいものが世の中に出回っていただと? マ・ジ・デ・カ。俺、今からプロンテラ行って、すべての頭装備買い占めてくる。でもって、全部エレメスにつけてもらう」

     ここまでが、ワンブレスである。
     ちなみに『ねこミミ』ではなく『ぬこミミ』と言っているあたり、そこにも微妙にこだわりがあるらしい。

    「いらぬでござる いらぬでござる 大事なことなので、2度言ったでござる こんなミミすぐに外して・・、え? ・・・・外れない、でござる・・・?」

     さっきから青ざめているアサシンクロス、エレメス=ガイルは、暗殺者という職にありながら、苦労の2文字がよく似合う幸薄い男だった。大抵の災難はハワードが持ってくるのだが、どこに逃げても押しかけてくるので、これからも幸運とは縁遠そうだ。
     そしてハワードは、エレメスに向かって、親指を立てた拳を突き出して、良い笑顔で笑った。

    「あ、取れないように、俺が呪いかけておいた。幽霊だからこそできる事だな。テヘペロ。ちなみに俺しか外せない仕様です! 後で取ってやるよ! ベッドの上でな!」

    「ぎゃああああっ」
     
     ・・・・一方。
     
    「この犬耳もかわいいわね。へたれ方がセイレンにぴったりじゃない?」

     意地を張らせれば3階一。胸の無さも3階一。根が素直なゆえに、奇跡のツンデレ比率を誇るスナイパー、セシル=デイモンの一言は、真面目なセイレンを虚ろにさせた。
     セシルの隣で、くすくすと笑っているのは、見た目はたおやかな美女だ。そのおしとやかな外見とは裏腹に、時折、お転婆ぶりを発揮しては皆を驚かせるハイプリースト、マーガレッタ=ソリンである。

    「あらあら、うふふ。セシルちゃん。本当の事を言ってしまっては、セイレンが落ち込んでしまいましてよ。そんなセシルちゃんには、この小さな鈴のついたリボンがいいと思いますわ」

    「やだっ。私に、こんなかわいいのは似合わないって! あ、カトリにはこれね! ウサギの耳当て!」

    「・・・ふわふわ」

     セシルの前に居るのは、どこか夢見るように、ぼぅっとした少女だ。渦巻状のペロペロキャンディを食べながら、耳あてに指を這わせるハイウィザードの名は、カトリーヌ=ケイロン。
     いつもどこからともなく食べ物を取り出す、その見えない倉庫と胃袋の限界は未だ永遠の謎である。そして小柄でも出るとこは出て、引っこんでいる所は引っこんでいるナイスバディ。彼女のロリ顔と破廉恥な体型が、一部の冒険者達を何かに駆り立てては、その驚異の魔法力で撃沈させている3階の広域型殲滅要員である。
     
     というわけで、この6人の幽霊の物語なわけだが、すでに話がぐだぐだなので先に、今現在の状況を説明しよう。
     
     この場所は、レッケンベル本社の地下3階で間違いない。その中で彼らがリビングと決めて整えたこの場所は、他と比べて血臭もしなければ、埃も無くきれいに清掃されていた。レースクロスをかけたテーブルと6脚のイス、端には台所まで完備された、立派な食堂兼、憩いの場であった。
     机を挟んで3脚づつ男女に分かれたイスに座り、眺めているのは、テーブルの上に広げた頭装備の数々である。
     先だって何度も腕の立つ冒険者達がここに頻繁に訪れるようになり、その度に叩き帰しているのだが、その際彼らが落していくものの中に、最近見たことも無いものが含まれるようになったのだ。 
     たとえばコカ・コーラや紅茶花伝なる飲み物。
     今、カトリと呼ばれた少女が食べているジャムパンケーキもそうだ。(飴はすでに完食済)
     おいしい魚や海老などの海産物は、先日、3階のおさんどん係もとい、主夫と化しているエレメスが料理して皆で食べたが、それも大変おいしかった。
     シュバルツバルド産おやつは、不思議なことにおいしいだけでなく戦闘力のアップが起きた。最近のおかしは侮れないものである。それにやっぱりおいしかったので、ぜひまた持ってきてもらいたい。
     ポーションなどの回復薬も見たことの無いものがあり、精神力の回復も、過去自分達が使っていたものとは比べ物にならないほどの高い効果をもたらすものもあったので、ありがたく頂戴して戦闘に使わせてもらっている。
     おかげで最近また強くなれたような気がすると、皆で言っていたところだ。
     
     そして今、何をやっているのかといえば、その冒険者達から巻き上げた頭装備がある程度たまったので、それをまとめて机の上に広げて見ていたのだった。
     それだけでなく、ハワードや、マーガレッタが中心となって仲間達に頭装備を装着させて喜んでいた。

    「幽霊に呪いとは、何たる不条理なっ!」

     エレメスは、ハワードの手によって付けられたピコピコ動くヒュッケの黒い猫耳を懸命に引っこ抜こうとしているが、どういう呪いがかかっているのか、そこからまったく動かない。しかし紫に近い藍色の長髪にその耳は、確かに良く似合っていた。

    「根元はどうなってるんだ?」

     エレメスを挟んで、ハワードの反対側に座っていたセイレンが手を伸ばして、猫耳に触れると、エレメスがビクッと肩を震わせた。

    「エレメス?」

    「・・・・・・感覚が繋がっているような・・・?」

    「うん。ぬこ耳ごと愛する為、俺、頑張ったから」

     満面の笑顔を浮かべているハワードの顔面に、エレメスの肘打ちが入ったが、こう言った事は日常茶飯事なので、この程度では誰も何も言わない。

    「まぁ、たまには悪くないわね」

     女性陣の中央に座っているセシルも、動くたび後頭部でリンリンと音を奏でる赤いリボンに頬を染める。まんざらでもなさそうな顔をしているが、それを悟られまいと殊更ツン全開になっていた。
     カトリーヌは無表情で、またどこからともなく取り出したクッキーを食べているが、そのどこか幼い風貌にウサギの耳あてはとてもキュートで、手を伸ばして撫でたくなる愛らしさだ。

    「私はこれがいいですわ」

     マーガレッタは真っ赤なドレスハットを頭に乗せて、リボンを顎の下で結ぶ。見た目可憐なレディによく似合い、反論の余地も無い。

    「じゃあ俺は、これにするかっ!」

     そう言ってハワードが手に取ったのは、マジェスティックデビルホーンだった。生前愛用していたマジェスティックゴートに似ているなと思ったのがその理由だったのだが。

    「何を言う。貴様はこれだ」

     その横からエレメスが手を伸ばして掴んだ頭装備を、徐にハワードの頭に向かって叩き付けた。
     机に向かって額を打ち付けるほどの衝撃とけたたましく響き渡る音。しかし、ハワードは何のダメージも無かったらしく、むしろエレメスが選んでくれたそれに、嬉々として頭に手を伸ばしてそれを確認した。

    「へ? ウサギのヘアバンド?」

     ハワードは白とピンクの兎の耳の先を摘まんで見上げる。エレメスは、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

    「お前を見習って、外れんように呪いを込めてみたでござる。外して欲しければ、拙者のこれをなんとかしろ」

     エレメスはハワードの胸倉を掴み上げて、自分の黒い猫耳を指差す。ハワードは目をしばたかせて、真面目な顔でエレメスの腕を握った。

    「エレメスの黒い猫耳のためならば、俺はあえてこれでもいい」

    「百九十センチに近い巨体の男がウサギのヘアバンドなど、視覚の暴力だとは思わんのでござるか」

    「んー? でも、俺が見るわけじゃないしな」

    「―――」

     雷が頭上に落ちたかのような衝撃。
     実にもっともである。もっともであるが、周りの目を気にせず日々エレメスを押し倒し、迫り倒し、隙あらばキスし、更にその先まで目論んでいるハワードだから言える台詞だった。セイレンあたりなら真っ赤になって震えていそうである。
     ガーンっと更に効果音を叩き出しながら青ざめるエレメスに、ハワードは表情を改め、おもむろにその両肩に手を乗せた。

    「それよりも、俺にウサギのヘアバンドだなんて、それはもう食ってくれという、お前からの奥ゆかしい誘いだと思っていいんだよな?」

    「何故そうなるでござるか」

    「えー。だってウサギって年中発情してる動物なんだろ?」

    「おぬしは人間らしく、少しは理性を持つでござるよ!」

     身を引くエレメスの背中が、セイレンに当たる。

    「ハワード。いい加減、エレメスをからかうのは・・・。ん?」

    「恥ずかしがらずとも・・・。え?」

    突然、ぼうっと、エレメスの体が光りだした。

    「な、何でござるか これは・・・っ」

     エレメスの体が半透明に薄くなっていく。いや、もともと彼らは体が存在しない、半透明の幽霊という存在だ。だが、今まで以上に薄く、そして淡い光に満ちていた。
     まるで、成仏へ誘う光のように。
    消えかけるエレメスに、五人は悪い予感を感じて青ざめた。
    特にハワードとセイレンは前から後ろからと強くその体を掻き抱く。

    「嘘っ! やだ、エレメス待って! 私、まだあんたに言ってないことがあるのにっ!」

    「エレメスっ! 待ってください! まだ2階から取ってきて欲しい家具素材が・・・っ!」

    「ごはん・・・・っ!」

     イスを倒しながら立ち上がり、手を伸ばしてエレメスを掴んだ女性陣の本音が垣間見えた瞬間、その場から彼ら6人の姿が光となって消えたのだった。





     
     2.ミッドガッツ大陸首都プロンテラ騎士団裏
     





     
     光を当てられたような、急な眩しさに目が眩んだ。
     身から放つ光ではなく、もっと圧倒的な光量だ。
    エレメスはとっさに自分の両肩に乗せられたままの太い腕を握り、まずそこにハワードがいる事を確認した。背中にはセイレンの気配もある。そして、自分の服を掴む3つの手。

    「っ!」

     次いで感じた自分達以外の気配に、エレメスは反射で腰のカタールに手をかけた。
     
    「・・・・え・・・嘘。・・・私の・・・・」
     
     エレメスは俯き、前髪で目に影を作る。慣れてきた視界の向こうに見えたのは、見覚えの無い服装の女性の背中だった。
    カートらしきものに手の中のポーションを入れているが、商人系だろうか。しかしその服装に見覚えは無い。
     下は短パン、上着は下のボタンだけ止めて、あえて下ろして腰に絡ませたまま。金の篭手に足当て。足元には血まみれの枝があり、踏んで真っ2つに折れていた。
     
    「いやああああ 私の300万ゼニーがあああああ」
     
    「は」

     天地揺るがすその悲鳴に、エレメスも、他の五人も目を見開き、恐れ戦いた。今までどんなパーティが乗り込んできても、叩き出してきたこの6人がである。
     その女性は、そして慌てて周りを見渡し、そこに6人の姿を見て慌てたように口を開いた。

    「そこのあなた達! ごめんなさい。私、間違って血の枝を踏んでしまって・・・っ! 1本だけなんだけど、たぶんこの近くにボスが召還されてしまったと思うの。どこに行ったか、知らないっ?」

    「・・・・・・・・・」

     枝?
     古木の枝なら知っているが、血の枝というのは初耳だ。これもまた、自分達が知らぬうちに増えたアイテムなのだろう。
     しかし彼女が言うことから察するに、つまりはボス属性のモンスターを特別召還する枝なのだとわかる。
     古木の枝が召還するのは、1本につき1匹のみ。
     おそらく、状況から見て召還されたのはエレメスだ。しかし触れていたからなのか、他の五人も巻き込まれてしまったらしい。
     そして彼女は、1本につき1匹という常識から、この6人が召還されたモンスターだとは思わなかったのである。
     むしろ1人のアサシンクロスを2人の男たちが取り合い、更に女性3人も加わっての修羅場中だったのではと思っていたが口には出さなかった。

    「いや、見なかったけど?」

     いち早く冷静さを取り戻したハワードが、表情を取り繕ってそう答えると、彼女は両手を合わせて拝んだ。

    「飛んじゃったのかしらっ 取り込み中に騒がせてごめんなさいいい! 私すぐにギルドメンバーに連絡して倒してもらうから、内緒にしてて! ね お願いっ!」

    「いいよ、いいよ。不運だったな」

    「ごめんね! ありがとう!」

     彼女は慌てながら冒険者カードを取り出して、ギルドメンバーに連絡しつつカートを引いて駆け去っていく。
     残された6人は、周囲に誰も居ない事を確認する。そして木と石材で作られた建物や規則正しく配置された石畳、そして遠く広がる青空を見上げた。
     
    「嘘・・・。ここ、プロンテラじゃない・・・」

     セシルが唖然としながら呟く横で、エレメスとセイレンが相向かい、片手を上げて掌を併せる。

    「体が不透明では無いでござる・・・。地下に居る時よりも明らかに質感がある。生来の肉体とまでは行かぬとも、それに近いものがあるでござる。さっきの彼女が気が付かなかったのも無理は無い。しかし、これは何ゆえか・・・」

    「体温は感じないな。どうやら生まれ変わったわけでもなさそうだ。この体に原因があるとすれば・・・、もしかして、これか?」

    「頭装備か」

     エレメスとセイレンは互いの頭の上にあるものを見る。
     マーガレッタも、自分の頭の上にあるドレスハットに触れる。

    「実在するものを身に着けているから? そうだとすれば、今まで実在する素材やお菓子を摂取し続けていることも関係あるのかもしれませんね」

    「ゴーストからアンデッドになるかもってか。ゾッとしねぇなぁ。・・・・大丈夫なのか?」

     ハワードがふと見下ろして視線を投げかけるのは、どこからとも無く出したミニタルトを頬張っているカトリーヌである。
     皆の視線を一心に受けているカトリーヌは、小さく頷いた。

    「大丈夫」

    「本当に食べて大丈夫なの?」

     心配したセシルがカトリーヌの手を止める。

    「食べないと、おなかすいて死んじゃう」

    「・・・・・・・・」

     死んでる身でもう1度死ぬか。そして、そんなに食べる事が好きか。そうか。

    「うん。あんたは食べてて。大丈夫よ、また死んじゃっても付き合ったげるから」

    「・・・・」

     呆れ果ててそう言うセシルに、カトリーヌは寄り添い、セシルの上着の裾をそっと摘んだ。マーガレッタは微笑ましくそんな2人を見ている。
     視線の先でカトリーヌがまた、どこからとも無く出したチョコレートを口に入れた。
     魔法を撃っている時以外は、何か食べているカトリーヌの七不思議の1つは、こんなに食べても太らないその体質である。

    「かわいいセシルちゃんを堪能したことだし、話を戻しましょう。まず、・・・これって私達が倒されない限り、召喚されたままなのかしら?」

    実に、切実な問題である。

    「枝で召喚されたモンスターは、確かに誰かに倒されるまではそのままよね。ただ、人が居る場所はモンスターが居る場所とは違って魔力の気配が薄いから、街中で長期間放置されたモンスターは消えてしまうことがあるって聞いた事あるわ」

     セシルは腕を組んでマーガレッタと目を合わせて頷く。
     立ったまま円陣を組む6人は、一見、これから冒険に出るパーティのようにも見える。
     偶然通りかかった冒険者達もいるが、さして珍しい光景ではないため、素通りしていた。
     セイレンが腕を組んで唸る。

    「ならばもう、前もって時間制限があると考えた方がいいかもしれないな。たしかに日のあたる場所にずっと居ると、・・・成仏しそうだ」

    「成仏できるなら、した方がいいのでござろうが・・・」

     エレメスは青空を見上げながら目を細める。それに、マーガレッタが首を横に振った。

    「私達は一時的に呼ばれただけで、魂はあそこから縛られたまま開放されたわけではありませんもの。恐らく成仏まではできないんじゃないかしら」

    「それもそうか。・・・さて、じゃあこれからどうする?」

    「まず人が居るところに行ってみましょう。その後、私は・・・ショッピングかしら」

     マーガレッタの表情は真面目なものだった。それにセシルも頷く。

    「矢の補充がしたいわね。作成する素材があれば尚良いわ」

    「3大陸のお菓子セット。いっぱい欲しい」

     女性陣それぞれが希望を唱える。
     好んで冒険者たちへ戦いをしかけるよりも、こうやって得た偶然を楽しみたいと思ったのだ。
     セイレンは自分のズボンのポケットへ手を差し込んで、そこにあるものを取り出す。掌サイズのそれは冒険者支援の一環で冒険者へ配られるカードだった。

    「冒険者証は・・・使えるか? これ」

     他の五人も、思い思いの場所から同じものを取り出す。あの場所で死んだ割に持っている不思議はあるが、画面を見ると、生前稼いだ金が表示されたままになっている。この世界にはコインも存在するのだが、売買などの取引はこのカードからすることができるので使えればいろいろと便利だ。
     その金額に目を走らせていたハワードの目が、ギラリと輝いた。

    「こうしちゃいられん! 俺も露店見に行くぞ! 頭装備コンプリートしてやる 待ってろよ、エレメス! 俺はお前の為に、頭装備を買い占めてやるぜ!」

    「誰が望んだか! やらんでいい」

     早速、暴走機関車と化したウサギ耳の大男が駆け出して行き、エレメスが追っていく。恐らく止める為だろう。
     途中で止まったハワードが、他の四人に向かって振り返った。

    「お前らも、倉庫も使えるなら必要なもの出しとけよ。俺がカート借りるから! 持てなさそうならチャットで呼んでくれ! じゃあ、また後でな!」

     倉庫の使用やカートの貸し出しも、冒険者支援団体カプラサービスで行われている。恐らくだが、倉庫が使えれば、カートも借りることができるだろう。そしてカートがあれば、必要なものはかなり積み込める筈だ。
     女性陣はとっさに、あの薄暗い場所を彩る為の調度品の数々を思い浮かべていたが、男性陣はそれに気が付かない。
    さすがにワードローブなどの収納家具までは無理かしらと、マーガレッタとセシルは思い悩んだのだが、結局それは諦めて口には出さなかった。

    「わかった。確認して、耳打ちを飛ばすから」

     セイレンがハワードにそう言って、2人を見送る。

    「じゃあ、先に倉庫を確認するか」

     四人はまず、プロンテラ西口にいるカプラ嬢の所まで行くことにした。途中、セシルが眉尻を下げながら、そわそわと周囲に視線を送る。

    「・・・大丈夫? 考えてみれば、敵地みたいなもんじゃない? ここって」

    「堂々としてれば、問題ないと思いますわ」

    「そうだな。びくついてると余計目立つんじゃないか?」

     途中冒険者達とすれ違うが、特別気にされることも無い。
     というか、高レベル冒険者達の中には、ハッとする人間もいるのだが、セイレン達の頭に乗っている装備を見ると勘違いだったかと思って視線を逸らしていくのだ。ありがとう、頭装備。
     セイレンは自分の頭にあるたれた犬耳に複雑な思いを抱きながらも、カプラ嬢の所に行き、冒険者証を見せた。

    「倉庫を開けて欲しいんですが」

    「はい、確認いたします。セイレン=ウィンザー様ですね。こちらになります」

     使えたことにも驚いたが、名前を呼ばれた時はヒヤッとした。
     周囲に意識を飛ばすと、周りで倉庫を開いたり、誰かと話したりと賑やかにしていた冒険者の数人がこっちを見た。
     マーガレッタがセイレンの手元を覗く振りをして肩を押して顔を下げさせる。

    「『ウィンター』。私が以前預けていた装備はありまして?」

    「え? あ…ああ。今見るから」

     わざわざ誤解を招くような似た名前で呼ぶマーガレッタの行動を察して取り繕うセイレン。
     だが周囲の目は外れなかった。
     カプラ嬢がどこからとも無く出して目の前に置かれた宝箱のような箱を開けると、確かに自分が生前使っていたものが入っている。懐かしさを感じるが、それ以上に周囲への警戒心が勝った。
     堅くなっている背中をセシルが派手な音を立てて叩いた。

    「もう! 初生体研究所で記念撮影するんでしょう? 美容師さんに無理言って3階メンバーと同じ髪の色に染めてもらったんだから早く行って撮って帰るわよ!」

    「そうですよ。命がけでこんなバカなことをするのは最初で最後ですからね。その後私達の狩りに付き合ってもらう約束忘れないでください」

     マーガレッタはセイレンがもたつきながら手にしていたバックラーをひょいと取り上げる。
     カトリーヌはいつの間にか露店で購入していたお肉の串焼きを頬張りつつ、通りすがりのホムンクルスを眺めていた。

     そっくりさんかー。いや本当にそっくりだな? 名前も似てるとか?
     高度なコスプレかな? 神々の戯れか?

     そんな空気になる中、視線が徐々に外れてきたことを確認する4人。
     倉庫前は人の行き来が激しい為すぐにこちらを気にする者が居なくなり、セイレンは小さく息を吐いた。
     ちなみにほかの3人はとっくに自分たちの倉庫の中を物色するのに夢中である。

    「あらあら。どうしましょう」

    「んー・・・。全部は無理ね。矢を作る素材と・・・弓は・・・」

    「・・・・・」

     思い悩む2人の横で、カトリーヌはせっせとお菓子を取り出しては腰の道具袋に入れていた。入れる量に対してその袋が小さすぎるように見えるのは、きっと気のせいであろう。
     セイレンも武器と防具を見つつ、そして同じように周囲で倉庫を開いている冒険者達に鋭く視線を走らせた。
     そしていくつかの道具を取り出して、倉庫を閉める。

    「俺は露店を見てくるよ。さっきの彼女だけじゃなく、他にも見覚えの無い姿の冒険者達がいるようだ。新しい職業がでてきたなら、きっと武器も新たなものが出ているに違いないからね。そっちを確認してくる。ショッピングするなら付き合うが・・・」

    セイレンが心配そうに女性陣を見る。その視線を受けて、マーガレッタは笑顔で答えた。

    「女には女だけで買いたいものがありますの。セイレンが下着売り場まで来たいと言うなら話は別ですが」

    「・・・っ い、いや。遠慮するっ。すまないっ」

     見えない悪魔の尻尾を振りつつ天使の微笑を浮かべるマーガレッタから、耳まで真っ赤になったセイレンが2歩分、身を引いた。

    「うふふふ。こちらは大丈夫ですから、行ってらっしゃい。後で合流しましょう」

    「わかった。じゃあ、また」

     そして6人はエレメスとハワード、セイレン1人、女性陣3人組という3グループに分かれて、プロンテラを回ることになった。
     セイレンの背中を見送りながら、見えない黒い尻尾を振るマーガレッタはセシルの腕に両腕を絡ませる。

    「ね。これから下着とお洋服見に行きません?」

    「何、本当に行くの?」

    「もちろんですわ。セシルちゃんに似合うセクシーな下着を買いましょう? エレメスを落したいなら、待つだけじゃだめですよ。もっと積極的にならないと」

    「何言ってんのよ! 私はエレメスなんて・・・っ」

    「あらあら、うふふ」

     セシルがエレメスに好意を持っていることは、誰から見ても明らかで、ただエレメスだけが気がついていない状況である。
    状況が状況だけにしかたないのかもしれないが、先ほどの消える前に発したセシルの発言も、スルーされてしまっている。
     もっとも、はた迷惑なまでに積極的に迫っている大男の脅威で、それどころではないという要素もあるのだろうが。

    「カトリちゃんも、ちゃんと体に合ったものを身に付けないと。サイズも計ってもらわないといけませんわ! あとはリビングのテーブル用にクロスと、そうねベッドシーツとレースのカーテンも欲しいですわ。食器もお揃いで買って、2階の子達のお土産も買わないと! あらやだ、時間が足りないわ。さ、早く2人とも行きましょう!」

     何のことは無い。
     ハワードがこの事態に熱狂しているように、マーガレッタもこの幸運を満喫しようとしているのである。
     見目麗しい3人の少女達は、人目を集めながらプロンテラの店中を完走する勢いで回りだしたのだった。





     
     3.プロンテラ十字路南口付近露店街
     


     
     
    「こ、これは・・・・っ!」

     背後に雷効果を背負ったハワードは、目を見開いたまま仰け反る。
     今、彼の目の前にあるもの。
     それはどこかほわほわとしたホワイトスミスが露店に出していた、ヒュッケ様ご愛用の黒い尻尾だった。もちろん彼女が身に付けているものではなく、その類似品ではあるが。
     ハワードはそれを見た瞬間、買い占めていた頭装備たちを取り落としてしまうほどの衝撃を受けた。そして崩れ落ちるようにその露店前に膝をつく。
     まるで勝負の前から、敗北を選んだかのように。

    「・・・ハワード?」

     ハワードが落した物が他の客の邪魔になりそうだった為しぶしぶ拾い集めていたエレメスは、文句を言ってやろうとしたところで、いつもと調子が違う彼の背中を怪訝そうに見下ろした。
     小さく周囲には聞こえないように名を呼ぶが、反応は無い。
     それどころか、ハワードは俯いたまま自分の世界に入り込み、ぶつぶつと呟いていた。

    「・・・・・・・・・ぴくぴく動く黒い猫耳に、歩くたびにゆれるこの長くて黒い尻尾・・・。キュートかつセクシー。思わず掴んだ尻尾でぺしんと手を叩かれたい・・・。この根元も更に妄想を掻き立てられるじゃねぇか。改造して、ここにいかがわしい何それを取り付け、エレメスのきゅっと締まった尻にインサートしたい。うわぁ、尻尾を撫でつつ、身悶えるエレメスを見れるなんてパラダイスじゃねぇか。何だよ。これを作った奴とはうまい酒が飲めそうだ。この萌と実益を兼ねたものは、俺に買われるべき。使われるべき。すいません、これ下さい」

     常日頃から脳内妄想をそのまま垂れ流すハワードであるが、今日はなけなしのリミッターですら振り切れている。感激のあまり脳内のやばい妄想まで駄々漏れになっている挙句に、目に涙まで浮かべているハワードが、即決でそれを購入しようとする。
     その頭を、背後からエレメスが蹴り込んだ。

    「おっと、すまぬ。足が滑ったでござる」

     こめかみに浮かんだ青筋が痙攣している。
     そのまま緑色の頭をぐりぐりと踏みつけながら、エレメスはストームガストもかくやと言わんばかりの冷たい目で見下す。

    「愛が痛い・・・・。いやでも、これはこれで・・・・、ありかもしれねぇな・・・」

     うっかり何かに目覚めかけているハワードのどこか夢心地な呟きに、エレメスは慌てて足ごと身を引いた。

    「いや、冗談だって」

    「本当に本当か」

    「お前の尻に誓って本当だ」

    「何に誓っているのでござるかっ」

     真顔で誓っているハワードだったが、エレメスの感心を得られるわけが無かった。むしろ起き上がりかけたところを再度踏まれてしまう。
     と、その時。

    「え? エレメス=ガイル?」

     隣の露店主がエレメスを見上げて驚いたように言う。

    「拙者の事でござるか?」

     腕の中に頭装備を抱えて堂々と立っていたエレメスは不思議そうに小首を傾げた。
     思わず口にしたと言わんばかりに口元を押さえて凝視する露店主に視線を合わせ、得意そうにニヤリと笑う。

    「よく言われるでござる」

     そんなエレメスの足の下でハワードは抜け目なく黒い尻尾を購入していた。怖い紫の目が外されている間に、そそっと購入した尻尾を大切に懐にしまう。
     その後も露店を回っては、エレメスにはこれが似合うあれが似合うといろいろと頭装備を買い占めているウサギ耳の大男に、そろそろ我慢も限界になっているエレメスである。
     ハワードの所持金すべてをつぎ込む勢いと、それに伴う妄想の数々にそろそろ堪忍袋の緒も切れかけていた。
     もちろん道中のエレメスの乱暴な行動は周囲の目を引いていたが、特に喧嘩になるわけではないとわかるとすぐに視線を外される。
     生体研究所3階に居る時は感じることの無い、平和な空気だ。
     エレメスはそれに気づき、どことなく居心地の悪い表情を浮かべた。

    「エレメス? どうした?」

     立ち上がればハワードはエレメスよりも頭半分背が高い。今はウサギ耳もあり、余計な高さと重圧があった。

    「・・・・おかしいでござるかな。拙者たちは確かにここで冒険者をしていた筈なのに、どことなく馴染めずにいる」

     賑わいが、どこか遠い。

     
     ああ、そういえば。
     自分達は死んでしまっていて、ここに居るのは半実体を持った幽霊だった。

     
    「人では、ないからか。ならば仕方ない」

     エレメスは自嘲する。
     忘れていたわけではないが、こうやってまざまざと思い知らされると、笑うしかない。望んで死んだわけではない。実験体という名の動物と同じ扱いをされ、殺されたのだ。不条理というしかない。

    「エーレメス?」

     その眉間にハワードの親指の腹が当てられて、眉間の皺を伸ばされた。

    「まーた、お前はさぁ。変に考えて、納得しようとするなよ」

     優しく日を反射するオレンジの瞳がエレメスを見つめる。その瞳が悪戯気に細められた。

    「もっと気楽にいこうぜ。今日のこれはさ、またプロンテラに来れて、ラッキー! くらいの気持ちでいいんじゃねぇの?」

     どこか弾むような声で、ハワードは笑う。
     そして目を見開いたまま何も言えずにいるエレメスの頬を指先で撫でて、その腕の中の頭装備の数々を取り上げる。

    「さーて、そろそろカートを借りに行くか。ついでに倉庫から研ぎ石取ってこよう」

     そう言って歩き出す。
     エレメスは、人ごみの中でも目を引くその背中につられる様に後を付いていった。

    「・・・・研ぎ石なら、あったではないか。以前、お前がセイレン殿の剣を研いでいるのを見たでござるよ」

    「お前のカタールを研ぐのに欲しいんだ。セイレンのは斬るよりも叩き付ける剣だから多少荒くても大丈夫だが、お前のは切れ味良い方がいいだろう? もっと目が細かいものがほしいんだよ」

     根っからの戦闘系で、製造は片手の数しかしたことがないと豪語するハワードであるが、スミスの名を持つだけあって手入れにはこだわりがあるらしい。3階のメンバーだけでなく、2階にいる子供達の武器の手入れも、ハワードは一手に引き受けていた。
     そういうときのハワードは、いつもとは違って真面目な顔をしていて、いつもああならいいのにとエレメスは思ったりもする。

    「・・・・・・」

     だがこれは。自分の心までメンテナンスされているのではないだろうかとさっきのことを考えて、エレメスは苦虫を噛み潰したかのような顔をした。

    「拙者、武器ではごさらんからな」

    「はぁ? 何がどうなってそんな考えにいったんだ?」

     ハワードは南に立っているカプラ嬢からカートを借りて、これまで買ったものを放り込んだ。そして倉庫を開けていくつか道具を放り込む。
     ここに居ない四人分のスペースも考えつつ、ハワードはエレメスを見た。

    「お前も必要があるもの出せば?」

    「拙者はいい。特には無いでござる」

     エレメスはそう言って、門の壁に寄りかかった。

    「何か思い出の品とか、武器とか」

    「必要ないでござる。武器も腰に下げているこの1本だけでいい。慣れている得物が1番良いでござる」

     予備くらいは持っていた方がいいのではとハワードは思ったりもしたが、考えてみれば幽霊の武器が折れたりするのだろうか?
     ハワード自身今持っている斧以上のものは無く、倉庫の中を漁るだけ漁ってみたが特別持って行きたいと思うものは無かった。
     武器道具に関しては研究所内で倒した冒険者たちから巻き上げたものを再利用したり作り直したりしているのだ。となると必要なのはせいぜい研ぎ石と、精錬に使うエルニウムやオリデオコンなどの鉱石類か。後は嵩張らないカードを紐でくくって放り込む。

    「あれもこれもって気がしてたんだけどなぁ」

    ハワードは頭を掻いた。
     思い出のものも高価なものもこの中にはあるのに、持って行くものに制限があるとなると、持っていかなくてもいいんじゃないかと思ったりする。
     恐らくこの先、自分達がこうやって町で倉庫を開ける機会など2度とないだろう。
     それがわかっていてもなお、ハワードは倉庫を閉じた。

    「なるほど、エレメスが正しいわ」

     たとえば、無制限に持って帰ることができれば、丸ごと持って帰っただろう。だが今、選別の必要があったからこそ、必要が無いものがわかったとも言える。
     生前の大切なものよりも、今の仲間達の方が大事だと思うからこそ、本当に必要なものと必要が無いものが何か、わかったのだ。
     ハワードはカートの中を確認して苦笑した。

    「今はすっかすかだが、女性陣と合流したらきっと全部埋まるぜ?」

    「リネンに食器は当然として、家具の類は果たしてどこまで我慢してもらえるものか」

    「購入したら研究所地下3階まで宅配してもらえると思う?」

     軽口を叩きつつエレメスと視線を交わすと、ハワードは満面の笑顔を浮かべた。
     
    「さて、あいつらと合流するか」


     


     4.プロンテラ西口近くの路地で
     
     
     


    「これ、いらなかったんじゃない・・・?」

     セシルはしっかり口を閉じた紙袋を両手で抱えながら肩を落とした。頬はうっすらと赤く染まり、目はただ紙袋を・・・今は見えないが、買ったばかりの下着を睨んだ。

    「何をおっしゃるやら。下着こそ女性の勝負服。見せるだけではなく、ただ自分を磨き上げるためにも必要な防具にお金をかけずして、どこにかけると? いいですか。見えないところとはいえ、手を抜いてはいけません。何もしなくてもふっくらした胸! 放っておくだけでボンキュッボンの理想体型が! 手に入る? そんな女性は男だけの妄想の中にしか居ないことを、私は力説したいのです!」

     隣で同じように紙袋を抱えているマーガレッタが、拳を握って決意も新たに頷いた。
     ・・・過去に、何かあったのだろうか。しかし、突っ込む気にもなれず、セシルはため息をつく。隣には片手にコーンに乗ったアイスを握っているカトリーヌが、やはり同じ紙袋をもう片手に提げて歩いている。
     途中目に付いた店舗でリネン類を買い求め、さてハワードに連絡を取ろうとした女性陣の前に、突如立ちはだかる影があった。

    「うわ、レベル高いね。彼女達」

    「うっそ。生体のマーガレッタ達に激似じゃん。かーわいいなぁ、君達どう? 買い物付き合ったげるからさぁ・・・。ちょっと俺達も同行させてもらっていいかな?」

     目の前に立ちふさがれ、立ち止まったマーガレッタ達に、ロイヤルガード、シャドウチェイサー、ソーサラーの男達が声をかけてきた。背後にはニヤニヤしているほかの男達も数人見える。
     3人ともマーガレッタ達にとって、あまり馴染みのない職ではあったが職名は知らずとも生体研究所へよくやってくるので戦ったことはある。
     加えて買い物中に店員から3次職のことは聞きだしていたので、理解度は高まっている。
     しかし軽そうな男達だ。マーガレッタとセシルは警戒しながら男達を睨む。

    「ね。お菓子好きなの? 俺もなんだ。おいしい店があるんだけど、一緒行かない? おごるよ」

     見た目が幼いこともあってか、カトリーヌから攻め落とそうとしたらしい。1番重圧感のあるロイヤルガードの男が、覗き込むようにカトリーヌの顔を覗き込む。恐れを感じさせて無理やり連れて行くつもりだったのだろうが、カトリーヌは、ぼうっとした目で男を見ると、つまらなさそうに顔を背けた。伸ばされていた男の手を、魔力で弾く。

    「たとえお菓子をくれると言っても、知らない男には付いていってはいけない」

     淡々と呟かれたそれは、常々マーガレッタがカトリーヌに言い含めている言葉である。そういう場合ではないのだが、マーガレッタが成果を見て嬉しそうにうんうんと頷く。

    「ちっ。ああ、もういいわ」

     シャドウチェイサーがセシルの手の中の紙袋を掴んだ。反射で身をひねりながらそれを避けようとしたセシルと、男の間で紙袋が引っ張りあわれる。

    「ちょうど人目もないしさ。あっちにいつも使ってるところがあったろ。あいつらも呼んでやろうぜ」

    「ちょっと、離しなさいよっ」

    「大事なもんなんだろ? 持っててやるからさ」

    「はいはい、お嬢さん方。いい所に連れてってあげるよー」

    「・・・・っ」

     ソーサラーの男がマーガレッタの肩を抱こうと手を伸ばす。
    マーガレッタは胸を張って、その手を片手で叩き落した。

    「私達にこれ以上絡む気なら、考えが……」

     若葉色の瞳を細めて警告を発しようとしたマーガレッタだったが、男の悲鳴と高範囲にわたる冷たい冷気の風に背中を押された形になってたたらを踏む。
     振り返った先には、レンガ敷きの地面にアイスクリームを落して俯くカトリーヌがいた。表情は見れなかったが、コーンだけを持った手が震えているのがわかる。その横には、恐らくはアイスが落ちる事になった原因のロイヤルガードが、氷像と化していた。
     呪文を唱えた気配は無かったが、ストームガストを放ったらしい。
     それに残りの男達が気色ばむ。

    「何でっ。街中では高威力の魔法は威力が落ちるはずだろっ」

     シャドウチャイサーが叫ぶ。慌てて身を引こうとしたからだろう。さっきから互いに掴んでいたセシルの紙袋が裂けて、中身が飛び出した。
     目にまぶしい純白や薄い色つきの上下セットの下着たちが宙を舞ったその時、瞬間湯沸かし器のように全身を真っ赤に染めたセシルが弓を構えて叫んだ。

    「きゃああああああ この変態ぃぃぃぃっ」

     チャージアローを連続でシャドウチェイサーに叩き込み、見物していた男達を巻き込んで建物の壁に押し付けながら、更に高速で矢を打ち込んでいく。
     巻き込まれた男達がただの見物人でも、攫われかけた女性を助けようとしない時点で、敵認定で構わないという女性陣の判断である。

    「あらあら、まぁまぁ」

     羞恥に涙目になったセシルという貴重な瞬間に、マーガレッタは微笑みながら、更に彼女に支援魔法をかけた。まさに火に油を注いだのである。

    「ダブルストレイフィング! ダブルストレイフィング! ダブルストレイフィング!」

     支援を受けての高威力の射撃。男達にとっては追い討ちである。
     
    「おい、こいつらモンスターだ・・・っ!」
     
     周囲で見ていた男達の声が悲鳴に変わる。

    「誰か来てくれ! モンスターが出たぞ こいつら、生体3階の奴らだ」

     散り散りに逃げ出した冒険者達が、叫んで人を呼ぶ。
     遠くから近くから人の気配が向かってくるのがわかる。マーガレッタは1つため息をついた。

    「買い物はここまでですわね。2人とも、準備はよろしくて? 駆け抜けて、セイレン達と合流しましょう」

    「何よ、こいつら。最っ低 こっちの言い分も聞いて欲しいわ! 被害者は私達の方なのに」

    「・・・・あいすの・・・うらみ・・・」

     後に、生体3階の男達は語る。
     広域殲滅型と単身高威力型の2人と、彼女らの支援を完璧にこなすマーガレッタが本気になれば、プロンテラが半壊してもおかしくなかった、と。




     
     5.合流。そして
     
     


     
    「いい加減にしろっ! 次々と沸いてくるんじゃないわよ そっちから仕掛けなければ、こっちは戦う気なんて無いのにっ」

     セシルは矢をつがえた瞬間に、立ちふさがる冒険者達を射抜いていく。立ち止まれば少人数のこちらが不利なので、さっきから走っているのだが、次々と冒険者が沸いてくるのだ。邪魔なことこの上ない。

    「でもさっき、倒しちゃいましたし」

    「あれはあいつらが悪いのよっ! 人の荷物を勝手に暴いて・・・っ」

     公衆の面前で、購入したばかりの下着をばら撒かれるなんて、どんな羞恥プレイだ。
     あれはキレても仕方ないことだと思う。むしろ、正当な行動だと、セシルは拳を握って訴えた。
     とにかく人気が少ないところに行きたい。カトリーヌがストームガストをばら撒き、出来上がった氷像の隙間を走る。そして凍らなかった邪魔者をセシルが射抜いていった。

    「え、何あれ・・・」

     目の前に亀の甲羅のような大きな盾を持った青年が立っていた。どうやらここで待ち構えていたらしい。
     さっきの男とは違う、ロイヤルガードだった。こちらにプレッシャーをかけてくる。
     セシルが矢を射掛けるが、そのすべてが盾によってふさがれた。

    「やりずらいわね……っ」

     わずかな隙間から当てても、背後に控えていたアークビショップが即座に回復してしまう。
     どうすると、一瞬考えをめぐらせたセシルだったが、次の瞬間、右方向、建物の影から轟音と共に『人が空を飛んだ』のを見た。
     1人2人ではない。
     飛んでは落ちる人の影が大きくなると同時に、突進してくる見覚えのある白い鎧と赤いマントの男に、マーガレッタ達の表情が明るくなる。

    「セイレンっ!」

    「無事かっ!」

     女性陣の前に立ちふさがっていたロイヤルガードも、横から来た増援に目を見開き、そして盾の向きをセイレンに向けた。

    「止まれっ」

    「押し通る」

     マーガレッタは見た。
     セイレンが見たことも無い両手剣を握っているのを。オーラを発するその剣が、ただの剣であろうはずがない。
     セイレンが突撃と同時に盾に向かって横なぎに剣を払った。鉄同士が当たり、火花が散る。

    「防いだっ!」

     眉間に皺を寄せ、衝撃に耐えていたロイヤルガードの表情が明るいものになる。
     だが、そのまま目の前に迫る死神、セイレン=ウィンザーを前に恐怖が沸き起こった。
     思わず盾をセイレンに押し付け、その体を盾に乗せるように持ち上げて背後に向かって投げ飛ばす。だがそれは、隙を見せるものだった。

    「悪いな。1人じゃないんだ」

     宙で回転し着地したセイレンが薄く笑う。
     ロイヤルガードがその意味を知る前に、その影は風のように目の前に現れた。
     そのカタールから緑の毒々しい液体が飛び散る。エンチャントデッドリーポイズンがかかった状態であることが見て取れた。

    「ソニックブローっ」

     盾を上げたゆえに隙が生じた胴体に向かって、エレメスのカタールが連撃を加えた。

    「ぐわあああっ」

     連撃の最後に肩を使って、ロイヤルガードを弾き飛ばす。鈍い音と共に地面に倒れた男を、エレメスもセイレンも追撃しなかった。

    「おっと、こっちも忘れるなよ」

     立ち止まったマーガレッタ達へ向かって四方から放たれた矢を、宙で回転させた大斧がばらばらにする。
     そして現れたハワードは3人を背に、全身と同じ大きさの巨大な斧を地面に打ちつけるようにして立てた。その重みに、レンガが砕け高範囲にひびが入る。

    「荷物はさっさとカートによろしく。でもって、これはセイレンから」

     にやりと男臭い笑みを浮かべて、女性陣に向かって、ハワードはあるものを差し出す。
    受け取って、それが何かわかったセシルが肩を竦めて笑った。
     冒険者達が周囲を取り囲む。
     だが、厚い人垣に囲まれるように立つ6人の表情に、怯え等は欠片も無かった。

    「あら」

     むしろ主が逃げた後の露店に目を付けるマーガレッタ。
     それは小物や布ものが目立つ雑貨を主に取り扱っている露店のようだった。
     彼女の視線に気が付いたエレメスとハワードは、不思議そうに露店を見つつ続けられた女性陣の言葉に一瞬ですべてを察した。

    「セシルちゃん」

    「あの男とその周り3人と、あっちの青髪の男とその右が強姦魔よ! あとニヤついてついて来ようとしたのが後ろの4人!」

    「フロストダイバー」

     マーガレッタの掛け声に答えるセシルと、指示された男たちの足元を次々に氷漬けにするカトリーヌ。
     動けなくなった男たちに音もなく近づいたエレメスが通りすがりに男達の財布を奪って空に向かって投げる。
     視線が空を舞う財布に集中しているうちに、大変申し訳ないことだがマーガレッタは敷物ごとできるだけ丁寧に商品をひとまとめにしてハワードのカートへ突っ込んだ。
     と、空飛ぶ財布たちはその先にいたハワードが受け止めて、露店があった場所に置く。

    「これは慰謝料として頂いていきますわ」

    「モンスターらしくな」

    「はぁ!?」

     いきなりの事に冒険者たちから驚きの声が上がる。

    「さっき彼らは私達に言いましたのよ。『いい所に連れてってあげる』と」

     笑顔の中にも怒りを感じる声でマーガレッタが言うと、取り囲んでいた冒険者たちの半分以上が男たちを睨んだ。
     
    「『ちょうど人目もないしさ。あっちにいつも使ってるところがあったろ。あいつらも呼んでやろうぜ』ですって。常習犯よ。ちゃんと取り調べた方がいいわ」

    「女の敵」

     冒険者たちの中でも女性陣の視線が一気に燃え上がる。
     ここ最近プロンテラでは性犯罪の類が問題になっていた。事が事だけに表立つことが少なく、裏で泣いている女性の話は同じ女性の方が分かっている。中には犯人の容姿の話を覚えている者もここにいたらしく、肯定の声に人々がざわめく。
     男たちの足元を凍らせた氷が解ける前にぶん殴って気絶させたり、紐で縛り上げたりと大騒ぎになった。もちろん男たちは嘘だモンスターの言うことを信じるのかと騒いでいるが騒ぎが大きくなりすぎて見ていただけの者ですら止めることなど不可能な事態に陥っていた。

    「ふんっ!」

     そのなかで、セイレンが剣を地面に突き刺し、それを合図にしたかのように闘気を発した。風の圧力に人垣が一回り広がった。
     警戒して剣を構える冒険者の前で、雷のごとき闘気を纏ったセイレンが、その柄から手を離した。
     
    「我等にこれ以上戦う気はない。目的は達した」
     
     そしてセイレンは懐からそれを取り出す。
     それは、冒険者にとって、無くてはならないもの。
     
    「―――さらばだ」
     
     そう言って、セイレンはそれを握りつぶした。ホームへの帰還を目的とした、道具。蝶の羽を。
     同時にエレメスをはじめ次々に姿が消える。
    そして最後にハワードが残った。
     心配はしてなかったが、皆が無事帰ったことに安堵しつつ、自分もセイレンがくれた蝶の羽を握った。
     そして冒険者達に流し目を送る。

    「次は俺らのホームグラウンドで戦おうぜ。じゃあな」
     
     豪胆な男はウインクつきでそう言ってのけ、そしてカートごと消えた。
     
     
     生体研究所から現れた6人の『目的』が何だったのか、すぐに冒険者達の中で議論された。
     場合によっては首都にボスクラスのモンスターが次々に乗り込んでくるのではと思われたからだ。
     戦闘の準備をしつつその答えを捜し求める際に、街中で生体メンバー達が買い物に立ち寄った店の店員や露店主の証言、および、3人の美女に絡んだ男達の行動などの情報が出てきて、真面目に準備していた冒険者達はあきれ返って肩を落とす羽目になった。
    よもやただ買い物していただけなどと、――しかも、かわいい頭装備つきで――思わなかったのだから。
    冒険者やプロンテラ市民の女性陣に袋叩きにあった件の冒険者達は騎士団を初め複数の職ギルドからの追放と尋問を経て、王家へも話が通り刑務として今は未開地や危険地帯へ向かわされることになり消えていくことになる。王家のお膝元での犯罪は得てして見せしめになりやすいが、力を持たない市民の犠牲が数多あった事が確認されたことが大きかった。行方不明となった女性の中にはその尊い命を散らしていたものもあったのなら尚更市民感情を抑えるためにも必要なことだった。冒険者に対する不信感を煽るわけにはいかないのだから。
    ちなみに販売品が複数の財布に代わっていた雑貨屋の露店主は、今回の調査に参加していた騎士団に相談の上財布の中身を丸ごと購入代金としてもらえることになったそうだ。思ったより多かったのか笑顔で新しいちょっと良い敷物を購入していた上に、その後も生体3F様御用達の店として話のタネにもなった。

     そしてまったく持って完全に余談だが、街中で放置されたままのセシルの下着によって、そのバストサイズがプロンテラ中に知れ渡ることになったこともこの後の細やかな騒動へと繋がったのである。
     

     その後、冒険者達がこぞって生体研究所にやってくるようになった。その数の多さから、冒険者達自らが自主的に整理券を製作して配布するようになった程。ここに来る冒険者達が3階の彼らに『チャレンジ』する者達ばかりではないことが、その要因のひとつであった。

    「セシルたんハァハァっ。その薄い胸板に飛び込ませてくれええええっ」

    「死んで来いっ」

     早い話が、6人にファンクラブができたのである。
     先日の1件で、それぞれの個性を知った者達が萌の伝道師としての活動を始めた。つまりこの場合はストーカーと化したのだった。

    『貧ぬーは正義であり、ツンデレのツンは八割推進委員会』

    『黒ぬこたんに殺され隊』

    『砕けるまで叩いて! セイレン騎士団』

    『マーガレッタお姉さまを囲む会』

    『うさ耳ハワード兄貴に抱かれ隊』

    『永遠のロリータ~愛と誠~』等々。

    ある意味、危険分子達に違いないのだが、今日も今日とて、生体研究所地下3階は、萌と悲鳴が木霊するようになったのだった。
     

     では先のことはおいておいて、話は6人が生体研究所に帰ってきた頃に戻る。




     
     6.そして再び。生体研究所地下3階
     


     
     
    「たっだいまーっ。つうのも変かねぇ?」

     ハワードが薄暗い空間に戻り、苦笑しつつ発した一言目である。
     カートも無事に持ってくることができたらしく、カートのタイヤが地面の石畳をわずかに削った。
     その姿に先に戻ってきていた五人が、ほっとした表情になる。
    セシルがハワードに駆け寄ってきた。

    「遅かったじゃない」

    「悪い悪い。こっちは、ちゃんと皆揃ってるよな」

     内心、ばらばらに飛ばされてしまったらどうしようと思っていたのだ。
     安心したのはこっちも同じである。その中で、ハワードはセイレンに顔を向けた。

    「お前さ、あの剣を置いてきて良かったのか? 業物っぽかったけど」

     あの剣とは、セイレンが握っていたオーラを纏った両手剣のことだろう。
     問われたセイレンは、何とも言いがたい渋い表情を浮かべた。

    「実はあれを露店で買おうとした時に、騒ぎに気が付いたんだ。慌ててそのまま駆けつけてしまったが、金も払わずにここに持ってくるわけにもいかないだろう。人垣の中に露店主がいたことを確認したので、そのまま置いて来た。すでに買う空気でもなかったしな・・・」

    しかし未練があるのか口惜しそうだ。

    「持ってきちまえばよかったのに・・・。お前そういう所真面目だよなぁ」

    「セイレンらしいですわ」

     マーガレッタは早速、カートに積み込んだ敷物に包んだ小物類を取り出していく。他のメンバー達も、戦利品を物色し始めた。

    「まったく。あの人達も、もう少し空気読んで欲しかったですわ! セシルちゃんとカトリちゃんがかわいいのはわかりますけど! ……それにしてもセシルちゃん。あれを持って帰れなくて残念でしたわねぇ」

     あれとはつまり下着類の事である。
     セシルの頬に朱が走る。

    「別にいいわよっ! 私が欲しがったわけじゃないしっ!」

     そう言いつつも、店内で寄せて上げるブラジャーの説明を1番熱心に聞いていたのはもちろん彼女であった。
     横でエレメスが包みをいくつか、カートから取り出していく。

    「おいしい魚が売っていたゆえ買ってきてみたでござる。夕飯はこれにしよう。ああ、そこの他の食材もこちらに。冷蔵庫に入れてくるゆえ」

    「3種のおやつセット・・・」

     カトリーヌは微笑を浮かべて、買ったばかりのお菓子を大事そうに抱える。
     セイレンもカートの中を覗き込みながら頭を掻いた。

    「結局俺は、倉庫から出したのは蝶の羽だけだったからなぁ・・・。エレメス、食材運ぶの手伝うよ」

     ハワードは買った頭装備とその他のものを横によけながら、皆が持ってきたものを眺めて、噴出すように笑った。

    「お前らさぁ。・・・もっと持って来れば良かったのに」

     ハワードがそういうのも無理は無い。カートの中身は半分も埋まっていなかったのだ。
     1番かさばっていたのが、慰謝料といてマーガレッタが放り込んだ雑貨類だが、それでも露店1つ分だ。この階と上の階で使うと思われるくらいの量だった。
     次いで見えるのは、ハワードの道楽とも言うべき頭装備の数々。エレメスには内緒だが、尻尾ももちろん懐の中に隠してある。
     これは魔改造をほどこし、ゆくゆくはエレメスに装着させたいと思っている。
     ハワードのぼやきに、他のメンバーそれぞれが顔を見合わせた。
     
    「1番大事なものは、ちゃんと持って帰れたさ」
     
     蝶の羽を皆にくばったセイレンはそうやって嘯く。
     マーガレッタも両手を合わせて明るく笑った。
     
    「いろいろありましたけど・・・楽しい休日でしたわね」
     
     つまりは、この騒ぎもそういう一言に集約される。
     
    「この布はベッドカバーにできそうです。それぞれイメージの花の刺繍を刺して2階へも持っていきましょう。まぁ、ぬいぐるみや本もありますわ。セニアちゃん達喜んでくれるかしら」

    「食器はこっちの棚でいいの?」

    「1度洗うから緩衝材を抜いてこっちへ持ってきてほしいでござるよ」

    「精錬素材はカートの重しにしておくかな。カートレボリューションであいつら吹っ飛ばしてやる」

    「あ、侵入者だ」

    「おやつセット食べたいから引き続き有休を希望する」


     ああ、麗しく楽しい日々よ。
     地獄のようなこの場所ですら、仲間が居てくれるからこそ。


     我等はこうして笑っていられるのだ。
     
     
     


     
                             了
      +++++++++++++++++++
    ちなみにマーガレッタが受け取ったセイレンのバックラーは
    マーガレッタが装備した状態になっていたので
    これも持って帰ってきていてセイレンに返してます。
    セイレンが1次職の時に使っていたもので
    ちょっと思い出にふけった後、2Fへもらわれていきました。

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