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    「おそろい」 ラーヒュン ワンライ 2025.03.30.

    #ラーヒュン
    rahun

     勇者ダイがパプニカの城に住み始めた頃に。
    「うちの国の三代前の王が、近所に住んでる魔物に国宝の宝石を強奪されちゃってね」
     などと軽いノリで語ったのは、女王レオナだった。
    「貴方ならチョット喧嘩したら取り返せちゃうんじゃないかしら」
     まったく軽いノリだったが、ラーハルトは重々しく頭を下げた。
    「では奥方様のために、その宝玉を奪還いたしましょう」
     ダイだって、レオナが出来もしない仕事を無理強いしているのではないとは承知しているが。容易いことでも面倒ごとには違いないので、部下に苦笑を投げかけた。
    「なんか、ごめんよ。おれが行ってもいいんだけど……」
     王配という立場上、おいそれとは外出と武力行使ができなくなったダイに対して、ラーハルトは尚も身を折った。
    「貴方様のお役に立ちます事こそは我が務め。見事、任務を果たしてご覧に入れましょう」
     そのように大仰に出立したラーハルトであったが。
     結果は驚くべきものであった。
     ヒュンケルを伴って魔物の成敗に向かったというラーハルトは、宝玉を持ち帰りはしたのだが、なんと真っ二つになっていたのだ。
     受け取ると、その小さな玉は割れたのではなく、素晴らしく滑らかな切り口で半球形になっていた。手練れの技の鋭さだった。
     ラーハルトはダイの前に土下座した。
    「申し訳次第もございません! 奥方様のご所望の宝玉でありましたが……その……、攻撃が当たってしまいまして……! このような姿に!」
     床に額をこすりつけるラーハルトの後ろには、ヒュンケルが申し訳なさそうに立っていた。
    「責めならばオレに。コイツはオレを……」
    「ヒュンケル!」
     ラーハルトが慌てて後ろの発言を遮ったのだから、きっとラーハルトはヒュンケルを助ける為に技を繰り出したのだろう。そして宝玉が斬れたのだ。
    「ふっ……あはははっ!」
     ダイの横の椅子でしばらくポカンとしていたレオナが、急に吹き出して大笑いした。
    「うっふふふっ! ごめんなさいっ。わたしね、その宝玉が紫色だって知ってたから貴方たちの結婚のご祝儀にと思って、それで宝探しのつもりでラーハルトに頼んだんだけど……。それが仲良く出かけて、半分こにして戻ってくるんだもの! ホント仲良いなあって!」
     レオナは目元の涙を拭った。
     ダイは、それなら最初にそう言ってあげなよ、とジト目になった。
     かくして揃いのブローチは、レオナがデザインし、ダイの手からラーハルトとヒュンケルに贈られた。銀の台座に紫の宝玉が頂かれた大層な輝きの品であった。
     というのが二十年前の話だ。
     あれから地上には二度の大魔王戦争があった。
     大魔王バーン戦では辛くも生き残ったヒュンケルとラーハルトであったが、その内のヒュンケルは十五年前の戦で他界した。
     その時のラーハルトの嘆きようを、ダイは忘れることが出来ない。彼は、共に戦った伴侶の死を報告しにパプニカ城へと上がり、そして、ヒュンケルの分をお渡し致します、と紫のブローチを差し出したのだ。
     もちろんダイは、形見なのだからラーハルトが持っていれば良いと言い渡した。それは彼等が、まるで彼等の職務上は着用のできない結婚指輪であるかのように、揃いのブローチをとても大切にしていた事を知っていたからだ。
     だがラーハルトは、主を失ったブローチをそっと両手に乗せて、ダイに捧げた。
     私が持つはずの物ではございませんので、どうかお納め頂けませんか、と。
     その後すぐにラーハルトは引っ越しをした。それを知らずに彼の元自宅を訪ねたポップの話では、そこには燃えた家の跡地だけがあったという。
     ダイは、愛する人との思い出を炎に掛けたラーハルトを前にしては、決してそのことに言及することはなかった。ヒュンケルが居た痕跡をひとつ残らず視界から消し去った、そうせざるを得なかったほどの痛みとは一体如何ばかりだったのか、想像も出来なかったのだ。
     そしてそれから十五年が経ち。
     攻め来る大魔王を本拠地で迎え撃つパプニカ防衛戦に、ダイが勝利したその直後だった。
     喜びに湧くパプニカに、ラーハルト討ち死にの報が届いた。敵の本拠地に向かい、動きを阻止してくれていたはずの彼だったが。
     ルーラで連れ帰られたのは棺ではなく、紫のブローチひとつだけであった。兵によると、彼の体が燃え尽きる前に炎の外へそれが投げられた、とのことだった。
     ダイは信じられぬ思いで兵からブローチを受け取った。立ち尽くしていたら、レオナが細い腕で背を抱いてくれて、すすり泣く声が聞こえてきた。
     確かに悲しいけれど、だけど悲しんではいけない。竜の騎士は戦いのために生まれたから、ダイには分かっていた。
     戦士達は立派にやり遂げたし、二人はそんな互いだからこそ、誇り、愛していたのだと。
     ずっとポケットに預かっていたヒュンケルのブローチを取り出すと、同じ二つが並んだ。
    「二人、揃ったね」
     揃ってしまったね、と、ふたつのブローチを見つめていたら、銀に囲まれている紫はどこか窮屈そうにも見えた。
     指先に力を篭めて、銀の台座から宝玉だけを取り出した。
     すると、ふたつの半球形は手の上で転がすだけで何故かピタリとくっついて。
     ダイは綺麗な玉を色んな方向から押してみたけれど、もう二度と離れなかった。







    2025.03.30. 22:50~23:25 +40分 +30分 =通算105分


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