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    ArtemisSN0210

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    ArtemisSN0210

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    金曜日が雨だったので。
    漂白後です。南さんがぽやぽやしてます

    #西隼人
    hayatoNishi
    #南瞬
    namTrang
    #西南
    southwest

    全て流して、彼方まで【西南】数分前までの晴天が嘘のように、土砂降りの雨が降ってきた。そういえば、あいつは傘を持って行っただろうか。慌てて洗濯物を取り込んだ後で、ウエスターはふとそんなことを考えた。
    まああいつはしっかりしているし大丈夫か、と思い直してから数十分ほど。扉が開いた音に気付いて出迎えてみれば、そこにはずぶ濡れのサウラーが立っていた。

    「驚いたよ。以前本で読んだことはあったけど、雨というのは突然降ってくることもあるんだね」

    そんなことを言って、苦笑してみせる。

    「傘、持って行ってなかったのか」

    「うん。まさか、雨が降るだなんて思いもしなかったから」

    備えあれば何とやら、とはよく言ったものだね。そう言って笑うサウラーの身体は、少し震えていた。

    「寒かっただろう、取り敢えずーーー」

    そこで、ウエスターの言葉が止まる。

    「ふふ……あったかいね、ウエスターは」

    サウラーが、突如ウエスターに抱き着いてきたのだ。冷たさを通り抜けて直に伝わってくる温もりに、ウエスターの鼓動は俄に速まる。

    「さ、サウラー……?どうしたんだ、いきなり」

    サウラーはウエスターの胸に埋めていた顔を上げ、口を開いた。

    「キミはボクより体温が高いから、こうすれば暖かくなると思って……ああ、でもこれだとキミまで寒くなっちゃうのか。ごめんね、そこまで気が回っていなかったよ」

    「いや、それは大丈夫なんだが……このままだとお前が風邪を引いてしまうかもしれない。今から風呂を沸かすから、濡れた服を着替えるついでに暖まってくるといい」

    「うん、分かった。ありがとう、ウエスター」

    「何、これくらい当然のことだ」

    こいつがこんなに素直に礼を言う日が来るとはな……としみじみするウエスター。しかし次の瞬間、そんな感慨は空の彼方に吹っ飛んでいくことになる。

    「ねえ……ウエスターも一緒に入る?お風呂」

    「へあっ!?」

    あまりの衝撃に、ウエスターは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

    「ちょ、ちょっと待て。何でそうなる?」

    「何でって……さっきボクが抱き着いたから、ウエスターも濡れちゃったでしょ?だから、キミも着替えなきゃいけないのかなって」

    「うん、そこまでは分かるんだが……何で一緒に風呂に入る流れになるんだ?」

    「……嫌なの?ボクと一緒に入るのは」

    少し拗ねたような声でそんなことを言うサウラーに、ウエスターは慌てて口を開く。

    「そ、そういう訳じゃないぞ!?お前と一緒が嫌って訳じゃなくてな、純粋にその理由が気になっただけなんだ」

    「理由……?そう言われてみると、分からないかも。何となく、当然のようにキミと一緒に入るのかと思ってたから」

    「な、なるほど……?」

    何だろう。喜んでいいのだろうか?これは。
    「管理国家の幹部」だった時代からは考えられないような距離感で、あの頃からは考えられないくらいにサウラーとの距離も縮まってきているのだが……最近は特にその縮まり方が急すぎて、どうにも戸惑ってしまう。
    そして距離が急に縮まったせいか、ウエスターは最近妙にサウラーのことを意識してしまうようになっていた。サウラーが柔らかい笑顔を見せたり、自分のしたことを喜んでくれるだけで鼓動が速まり、頭がサウラーのことで埋め尽くされてしまうのだ。そういう訳で、こんな風にサウラーの方から近付かれる度にウエスターは少し困ってしまっていた。

    「とは言ってもなあ……大の男が二人で入れるほどここの風呂場は広くないから、一緒に入るのは難しいだろうな」

    「確かにそうだね」

    良かった、どうにか誤魔化せた。ウエスターは心の中で安堵の息を吐いた。
    ……実を言うと、一緒に風呂に入るのかと聞かれた時には一瞬だけそちらに惹き付けられそうになっていたのだ。しかし、己のそんな下心はすぐに打ち消した。
    雨に濡れた姿のサウラーを見ただけでも胸の奥がざわめいたのに、一糸纏わぬサウラーと狭い空間に二人きりだなんて耐えられる自信がない。抑え込んでおかなければならない何かが、溢れ出してしまいそうで。……今だって、ふと気を抜いた瞬間に爆発しそうになるのに。

    くしゅん、というくしゃみの音で、ウエスターは我に返る。すまん、寒かったな。すぐ風呂を沸かすから。サウラーは「うん」と頷いた。

    「ねえ、ウエスター」

    何だ?というより早く、その答えはウエスターの身体を再び包んだ。

    「……お風呂が沸くまでは、こうやって暖まってもいい?」

    あの頃とは違う、裏や探りのない純粋な瞳。綺麗な二つの薄緑色に全てを見透かされているような気がして、ウエスターは一瞬だけ目を逸らした。

    「……ああ、いいぞ」

    どうか、皮膚越しにこの熱が伝わりませんように。速まる鼓動に、この感情に、気付かれませんように。祈るように心の中で呟きながら、ウエスターはいつもの声音でそう答えたのだった。
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