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    10/3 ハガレン夢イベントdon't forget you内展示品

    爆弾狂は白い猫の夢を見るか? ある日、ゾルフ・J・キンブリーは、目覚めると猫になっていた。視界に映る自分のものと思しき白い体毛はふさふさと長く、さぞ触り心地がいいのだろう。もしやと思って動かせた白い尻尾も、思った通りに滑らかに起き上がってはしな垂れた。奇妙なこともあるものだ。きっと夢に違いないが、今すぐに目を覚ますにはあまりにも惜しい。暫くこのまま、様子を見てみよう。そういえば昨夜は×××が泊りに来ていたのだったか。今もまだ、隣ですやすやと眠っている。ちょん、と愛らしい肉球のある前脚で彼女の頬に触れると、「んん」と少し唸っただけでまた夢の世界へと戻って行ってしまった。余程昨夜の『運動』で疲労したらしい。
     ×××が起きる様子がないので、キンブリーはベッドから飛び降りてみた。人間の背丈からするとどうと言うこともない高さだが、猫の体になってみると意外と高い。しかし、猫の運動神経は人間とは違うらしく、難なく着地に成功する。大した足音もなく、爪が時折フローリングを掻く音が響くのみ。この感じは、なかなか悪くない。人間の目線でいつも見ていた部屋の風景がこんなにも違って見えるのは、非常に面白い。
     腹が空いてきたが、流石にネズミでも獲って食べようとは思わない。確かハムがあった筈だが、今の自分では冷蔵庫から出すことは困難だ。やはり、×××に起きてもらわねばならない。
    「起きなさい、×××」
     と言ったつもりだったが、口から聞こえるのは「うにゃにゃにゃ」という猫の鳴き声だけだ。当然といえば当然なのだが。再びベッドに飛び乗り、さっきよりも強く×××の頬にパンチを喰らわせる。パンチと言っても、大した力はない。
    「んん〜……やめてください……肉球が……えっ? 肉球?」
     感触がおかしいと思ったのか、×××はパッと飛び起きる。側にいる猫になったキンブリーを見て、不思議そうに首を捻った。
    「あれ? ゾルフは? 何で猫?」
     猫なんか飼ってたっけ、とぶつぶつ言いながら、彼女は頭を掻く。
    「猫さん、君、ゾルフがどこに行ったか知らない?」
     猫の背を撫でながら、×××は猫に語りかける。探し人は目の前にいますよ、という言葉も、勿論通じることはない。
    「もう……うっ、さむい」
     シャツシャツ、と昨夜着ていたシャツを探すが、床に無造作に落ちているそれはとても着られたものではない。
    「ゾルフめ……貸してもらいますからね」
     どろどろになった自分のシャツはそのままに、キンブリーのシャツを羽織り、×××はベッドを這い出た。だが、当のキンブリーはどこにも見当たらない。それにしても、彼女は独り言が多い。いや、こんなものだろうか。誰に言うでもなく呟くその言葉は、普段自分の前では絶対に聞かされないものたちばかりだ。そんな彼女の様子を垣間見られただけで、この猫の姿は充分に役立っている。
    「ねえ、猫さん」
     いつの間にか×××は、キンブリーの前にしゃがみ込んでいた。
    「もしかして君が、ゾルフだったりして」
     なんてね、と自分を撫でながら笑う×××は、何故だかとても美しく、母のような安心感がある。今の自分が、こんなにも非力で小さい猫の姿だからだろうか。頭をその膝に擦り付け、素早く腕の中に潜り込む。×××は驚いたようだったが、その小さな体を落とさないよう優しく抱き、頬擦りをしてきた。
    「うーん、ふわっふわ。毛並みもいいし、顔立ちも整ってて美人さんだねえ。……目が赤いんだ。珍しいね。宝石みたい」
     ×××は猫の姿のキンブリーを気に入ったようだった。このまま、こうやって彼女と過ごすのも、悪くない気がする。
     安心したせいか、眠くなってきた。猫とはよく寝る生き物だし、体だけでなく頭の中も猫になってきているのかもしれない。それでも別に構わない、などと思いながら、キンブリーは×××の腕の中で目を閉じた。
     
     
    「……ゾルフ、起きてください。お腹が空きました」
     ゆさゆさと揺さぶられ、キンブリーは急に意識を現実に引き戻された。うっすら目を開くと、×××の不満げな顔があった。
    「珍しいですね。ゾルフの方が寝坊なんて」
    「……そうですね……おかしな夢を見ていたような……」
     どんな夢だったのかははっきり思い出せないが、言いようのない幸福感で目覚めるのを拒んでいたような気すらする。
    「空腹で、私を起こしたんですか?」
    「朝食なら作りました。……まあ、一人で食べるのも味気ないので、折角だから一緒に食べようと思いまして」
     キンブリーは目を丸くする。たまに彼女の方が先に起きて朝食を作ってくれることはあったが、大抵調理中に目が覚めるのでそんな風に言われたことはない。それとも、起こしてくれるまで寝たふりをしていたら、こうやって一緒に朝食を食べようと来てくれたのだろうか?
    「ありがとうございます。嬉しいですね、あなたがそんな風に言ってくださるとは」
     素直に感謝したつもりだったが、×××はバツが悪そうにそっぽを向く。嫌味に聞こえてしまったのだろうか。否、頬が少し赤くなっているのが見て取れたので、そういうわけではなかったらしい。
    「……あと、服をお借りしました。私のシャツ、とてもじゃないですが着れる感じではなかったので」
    「構いませんよ。汚してすみませんね」
    「……あ、そうだ」
     先にリビングへ行こうと歩き出したが、歩みを止めて×××は振り返る。
    「ゾルフ、猫なんて飼ってましたっけ?」
    「……猫?」
     唐突な彼女の問いに、キンブリーは聞き返す。
    「さっきこの部屋に白い猫がいたんですけど、別に飼ってるわけじゃ、ないですよね」
     単なる確認だろうが、キンブリーにはそれが引っかかった。
    「……何処かから迷い込んだんでしょう。猫なんて飼っていませんよ」
    「ですよねえ。お腹が空いてるみたいだったので食べられそうなものを探しに行ったんですけど、こっちに戻って来た時にはもういなくて。丁度ゾルフが、お手洗いにでも行ってた時です。私が起きる直前ですっけ?」
     奇妙な話だ。キンブリーはついさっき×××に起こされるまで、ずっとここで眠っていた筈だ。手洗いにと起きた記憶はない。
     何かを思い出しかけたが、その記憶はふうっと遠ざかってしまった。まるで、気まぐれな生き物のように。きっと捕まえることは出来ないのだろう。だが『それ』はそういうものだ。無理に追う必要もない。
     さっさと食べましょう、と×××は先にリビングへと行ってしまった。もう朝食以外のことはどうでもいいのだろう。キンブリーもいい加減空腹を感じているし、思考は後回しにした方がいい。手頃な服をクローゼットから引き摺り出し、適当に着ると、キンブリーも彼女に続いてリビングへと向かった。
     
     ベッドルームを出る直前、視界の端で、白い塊が動いた気がした。
     
     終
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