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    naru381231

    @naru381231

    成人済/腐/月鯉/幻覚と妄想がひどい
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    naru381231

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    支部に置いてる駆け落ち月鯉「じゃあ、さようなら」の小話パート2です。
    雑で汚いので、とりあえずポイピクに仕舞ってます。
    ※駆け落ちネタあんまり関係ないのでこれだけでも読めます。

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    台風日和 毎朝流れる天気予報が当てにならない日もあるのだと、月島は鉛の空を仰いだ。商店街のアーケードの下、重々しいどしゃ降り雨をなす術もなくただ見上げることになるとは。

     夜には台風が近付くらしい。本日の業務を早めに切り上げ、その足で鯉登が食べたいと言っていた、商店街のケーキ屋へと寄り道をした帰りだった。
     予定時刻よりも随分早くにやってきた禍々しい黒い雲に、月島は呆気なく捕まってしまったのだ。ほんの帰り道程度ならばと、傘を事務所に置いてきた数十分前の己を呪いたい。
    「……風も出てきたな」
     アーケードから僅かばかり身を乗り出して、掌で豪雨の圧を感じ取る。周囲を眺め渡せば、ゴミや塵、どころではなく、駐車禁止の三角コーンや商店の立て看板が大きな音をたてて強風に吹き飛ばされかけていた。明け方のうちに、雨戸をしっかりと閉めておいて正解だったと胸を撫で下ろす。
     正午を過ぎた古い商店街は、台風に備えて大部分の店がシャッターを下げ終わっている。道行く人も皆、傘やら雨がっぱやらを着込み、忙しなく帰路へと着いていた。
    「雨、やば!」
    「飛ばされるー!」
    「休講ラッキー!」
     はしゃぎながら横を通り過ぎた学生達も、風でほとんどひっくり返った傘を辛うじて両手で支え、歩いている。
     この天候なら、流石の鯉登もおとなしく自宅で待機しているはずだ。
     本格的な警報が出る前に、月島は意を決してアーケードから飛び出した。
     購入したばかりのケーキをなるべく濡らさぬようにと、小さな箱を両腕で庇いながら一目散に駅前を走り抜ける。駅を抜ければ、小さな古民家までの石段をひたすら駆け登るだけだ。走れば十分以内で着く。
     踏切を超え、石段に足を掛けると、台風らしい強風が耳元でごぉごぉと鳴り、思わず身体を持っていかれそうになった。きついシャワーのような豪雨が全身に降り注ぎ、ほんの数分走っただけで月島の作業着と背中のリュックサックがずしりと重くなる。
     ここの民家群は山の傾斜に沿って建てられたものばかりで、細く長い石段の側溝からは勢いよく泥と雨水が流れ落ちていた。
     家に着いたら風呂場へ直行だなと、額を流れる大きな雨粒と玉の汗を拭う。
     あと二十段。目を開けるのも億劫なほど、激しい雨の中。我が家と呼べる一軒家がようやく視界に映り込む。
    「つ、……つき、月島ぁー!」
    「あ?……え、鯉登さん?」
     先程見た学生のように、ひっくり返った傘を必死に差した鯉登が何故だか叫んでいた。二人の一軒家の手前、五段程の石段をおりた辺りで、強風に耐えようと死に物狂いの様相でひとり奮闘している。
    「ちょ、え、鯉登さん!何で外に?」
    「つき、月島ぁ!おかえり!今ちょうど迎えに行こうと」
    「え?なん、何です?」
     豪雨と強風の雑音が、鯉登の声を掻き消して、上手く月島へと届いてくれない。よく目を凝らせば、自宅から数歩しか出ていない鯉登も最早手遅れとばかりに全身びしょ濡れだった。
     残りの石段を急いで駆け上がり、「キエエ!と、飛ばされる!」と奇声をあげる男の腕を掴んで息をつく間もなく自宅へと転がり込んだ。
     ぴしゃりと引き戸を閉め、錠をかけ振り返ると、へし折れた傘を玄関の隅に立て掛けた鯉登が肩で呼吸をして気の抜けた声を出す。
    「す、すまん月島……」
    「いえ、てっきりおとなしくしているものだと思っていたので驚きました。迎えに行こうとしてくれたんですね」
    「うん。想像してたより凄い雨と風で、うちを出てすぐ身動きが取れんようになってしまった」
    「そうですか。ありがとうございます」
    「うん……うん、驚いた」
     乱れきった髪を垂らしたまま、鯉登は瞬きを数回繰り返した。月島もつられて目をしぱしぱと開閉させる。
     静まりかえった玄関口で、二人揃ってしばらく茫然自失となる。
    「……ふろ……そうだ。風呂を沸かしておいたんだ。お前が入ると思って」
     ぽたりぽたりと地に水滴を落としながら、口火を切ったのは鯉登の方だった。
    「いや、まずはタオルか。少し待ってろ。私が取ってくる」
     雨を吸い込み、ぺしゃりと潰れたスニーカーを脱ぎ捨て、鯉登が廊下に上がろうとする。そのパーカーの裾を反射的にわし掴み、「鯉登さん」と呼び止めた。
    「これ、買ってきました。見てください」
     できる限り庇ったつもりでいた、紙製の小さな箱は見事なまでに濡れていて、しょぼんと萎んでしまっていた。ぱかりと蓋を開け、中身を鯉登へと披露する。
    「おお、ケーキか。私が食べたいと言っていた店のものか?」
    「はい。走ったので崩れてしまいましたが」
     苺のショートケーキとモンブラン。小ぶりなケーキが二つ入った箱の中身は、月島の予想通りひどく荒れていた。メインを飾る苺も栗も落っこちて、綺麗に整えられたクリームは、無惨にも飛び散っている。
     果たして、これをケーキと呼べるのだろうか。
    「……また、後日買い直しに行ってきます」
     こんな物を鯉登に食わせるわけには、と蓋を閉じようとすると同時に、濡れた褐色の素手が崩れたモンブランをがしりと掴みあげた。「こら、行儀が悪い」と叱りつける間もなく、大きく開いた口の中へとそれは消えていく。
    いつも溌剌と動く唇の周りに、淡い色のクリームをたっぷりと付着させたまま、ごくりと飲み込み、鯉登が屈託のない笑顔を浮かべた。
    「うん、程よい甘さで美味いぞ月島ぁ」
     言いながら、箱の底に落ちた栗を摘み、再び口の中へと放り込む。
    「……玄関で立ったまま、しかも全身びしょ濡れで……はしたない」
     呆けた月島が絞り出した小言は、薄暗い室内の空気に霧散した。
    「台風の日に食べるケーキというのも新鮮だな」
    「聞いてますか?……こんなぐちゃぐちゃに潰れた物を……」
    「構わん。嬉しかった。ありがとうな」
     涼しげな声で真っ直ぐにそう言われてしまえば、月島は口を噤む他はない。溜息でやり過ごそうとすると、今度は月島の口元にショートケーキが添え当てられる。
    「険しい顔をしてないでお前も食え」
    「ちょ、っと」
    「美味いぞ、ほら」
    「コラっ、やめなさい」
     品性の片鱗もない振る舞いで、鯉登がケーキをぐいぐいと押し当ててくる。重く不快な作業着も背中のリュックサックも、今すぐ脱ぎ捨てて風呂に浸かりたいというのに。
    「食べろ、月島」
     光の当たらない真っ黒な瞳で乞われ、月島は抵抗なく口を開いた。黙々と咀嚼して、一思いに飲みくだす。
    「……甘過ぎず、美味いです。しつこくなくて懐かしい味がしますね」
     素直に感想を告げれば、鯉登は口角を持ち上げてさも愉快そうに笑った。
    「この町自慢の洋菓子屋らしい。次は私も一緒に買いに行く」
     掌いっぱいについたクリームをちろちろと舐め、鯉登が瞼にかかる前髪を一気に掻き上げた。一挙手一投足、些細な動きひとつで、全身から雨垂れが落ち、玄関に水溜まりができていく。
     この人の、濡れ姿を何度も見てきた。氷水に落ち、ビールの海に引き摺り込まれたこともあった。今生でも、二人揃って台風に襲われている。実に間抜けだ。
     その滑稽ぶりを痛感して、不思議と腹の底がむず痒くなる。
    「ここで全部脱いで風呂場に行った方が良さそうだな。なぁ、月島」
     形の良い額を曝け出して、鯉登が月島を見下ろす。
    「そうですね。廊下を極力汚さずに」
    「ん?何か、楽しいことでもあったか?」
     荷物を下ろす月島の言葉を遮って、鯉登の顔がぐっと近付く。未だクリームの残った掌で、無遠慮に頬を弄られ、途端に不満の声が漏れた。
    「ちょっと、何ですか?ひとの顔面をいきなり」
    「お前、嬉しそうな顔をしているぞ。珍しい……あ、もしかして台風にわくわくしているのか?わかるぞ。私も少し準備をしていてな、懐中電灯やら非常食やら、暇潰しのおもちゃやらを居間に置いてある」
     ふふ、楽しみだなと付け加えて、鯉登は濡れた唇を月島の鼻頭に押し付けた。流れるように、口端に残ったクリームもぺろりと舐めとられ、なるほど、台風も確かに悪くないと結論づける。
     自分はどうやら嬉しそうな顔をしているらしい。鯉登が言うなら違いない。
     頬に吸い付いたままの鯉登を受け流し、その隙にパーカーを脱がして、スキニーパンツのフロントボタンを抉じ開ける。
    「ん?脱がしてくれるのか?」
     問う鯉登を気にも留めず、肌膚に張り付いた下着もろとも乱雑に床に引き落とせば、大きな奇声が耳孔の傍で炸裂する。
    「足、抜きなさい。ほら、靴下も」
    「い、良い!自分で脱ぐ!手を離せ!」
    「あー、ほら、鈍臭いから廊下も濡れちゃったじゃないですか」
    「私のことは良いから月島も脱げ!お前の方がびしょ濡れでは」
    「むんっ!」
    「キェっ!」
     唐突な浮遊感に、鯉登がたじろぐ。片脚に下着を引っ掛けたままの大きな幼児を正面から抱え上げ、ようやく月島は我が家に踏み入ることができた。帰宅をしてから、一体何分玄関で遊んでいたのだろうか。
    「し、尻に手を回すな!降ろせ!」
    「落ちますよ。しっかりとしがみ付いてて下さい。風呂沸かしてくれたんですよね?停電する前にこのまま一緒に入りましょう」
    「降ろせというに!このスケベ坊主頭め!」
    「口元にクリームをつけたままの下半身丸出し坊やのくせに何を言ってるんですか?台風に惨敗してたし」
    「誰が坊やだ!」
    「誰がスケベ坊主頭ですか?」
     鯉登を持ち上げたまま、浴槽を目指し、月島は廊下をずんずんと突き進んだ。生憎の荒天につき、外からの陽光が差さない昼過ぎの築古物件は、暴風音と雨音、そして二人の戯れ言だけが鳴り響いている。

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