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    animato171

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    animato171

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    リぐ♀ワンライの「名月」をお題に書いたのだがあまりにもなんかぶっ飛んでしまいちょい日に炙って焼きたい気分になりとりあえず晒す。
    女装・夢落ち・竹取物語パロディ注意。

    アシヤカグヤ 目の前には渦を巻く長い黒髪を床に広げて泣き伏す大きな姫がいる。
    「マスタァ、拙僧、実はそろそろ月に帰らないといけませぬ」
    「突然なんかはじまった」
     塗籠のなかで立ち尽くした立香ははたと我に返った。
    「どこここ。平安京?」
     これは夢だと一目で分かる状況だった。立香が今立っている場所は、いつか平安京で香子に借りた部屋に似ているが、細部は少し違う。別の場所だ。庇の向こうには抜けるような青空が見えており、どうやら時刻は昼らしい。
     そもそも、はっきりしている自身の最後の記憶を手繰れば、マイルームのベッドで「ちょっと休憩」と横になったところまでなのだ。どう考えても夢だ。監獄搭や下総を思い出して脳裏を掠めた不安や心配も、目の前にいる異質な姫に意識を戻すと吹き飛んでしまう。
    「道満……?」
    「ンンン、蘆屋かぐやです」
    「え?」
    「かぐや姫ですとも」
     二回言われた。とても大事なことらしい。
    「アシヤカグヤ……ちょっと韻踏んでるね」
     ただの悪夢かな、と正直な感想は漏らさずに別の事を言ったが、特に返事はなかった。
     かぐや、月に帰る、というキーワードから連装するに、どうやら状況的には竹取物語らしいのだが、立香は自分がどの立場に置かれているのか分からない。
    ――翁か、媼か、それとも求婚相手?
     なにせ自身が着ている服は普段着の極地用制服のままなのだから状況に似つかわしくない。
    「ええと、月に帰っちゃうの?」
     それでも話しかけなければ話が進まないこと、この悪夢から目覚める予兆もなさそうだということだけは分かった。
     さめざめと泣き伏している(ように見える)道満に尋ねると、パッと姫は顔を上げた。泣いているふりだったらしい。
    ――にしても十二単、似合ってるから怖いな。
     姫にしては規格外に大きいという一点以外に目をつむれば、の話だ。
    「はい八月十五日に月からの使者が迎えに来ます」
    「八月? もう九月なのに?」
    「旧暦のですな。当世で言う十五夜でございます」
    「つまり今夜?」
     すでにカレンダーなど意味のない世界ではあるが、それでも季節感は大事にしようと言って、先ほど食堂でキッチン担当と子供サーヴァントたちが一緒に月見団子を丸めるのを眺めたばかりだ。
    「えっ急」
     立香がそう口にした瞬間、なんの兆しもなく夜の帳が下りた。
    「――ああ、マスター。お名残おしゅうございますが、迎えがきてしまいました」
     道満の視線が立香を通り過ぎて外へ向く。立香も振り返って外を見た。
    ――あまりにも大きく、美しく、青白く輝く月。
     一筋の光が伸びてきて、庭へ下りた。物語の通り、雲に乗った一団が庭に浮かんでいる。
     ただ物語と違うのは、月の使者たちの顔はどれも一様に見覚えのある道満の呪符を張り付けていることだ。
    「なんだ、道満の式神たちじゃないの」
     立香は内心ほっとする。迎えも何も、道満の自作自演だ。
     背後で姫が立ち上がった。見るからに重そうな十二単をものともしない立ち姿を立香はぼうっと見上げたが、彼女に見向きもせず道満は庭へ向かおうとする。
    「待って」
     咄嗟に長い袖をつかんだ。
    「引き留めてくださるので?」
    「そりゃあ、一応は」
    「一応……ですか。理由をお尋ねしても?」
     袖で口元を隠した道満はどこか不満げな目で問う。
    「だって。だって……道満は、地獄の底まで付き合うって、言った」
     そう答えてしまってから、我ながら約束を反故にされたことを怒る子供じみた回答だと立香は思った。これでは彼を引き止められない。
     道満は袖の向こうで「フ、フ」と小さく笑い声を漏らした。
    「地獄ならば、すでにつきました。貴方がたはもう地獄の底に居られる。数多の躯の山の上で尚まだお気づきでないのか。それとも、もしやマスターは健気に拙僧と行く死後の世界を信じておられたので? 死の先に地獄も極楽もありませんとも。お付き合いできませぬ、残念でした」
     立香は一度口を開きかけて、すぐに閉じた。自分の足元をじっと見つめてからまたすぐに道満に向き直る。
    「そのくらい、知ってる。でも違う……まだ底じゃない」
    「ンン、マスターにしては珍しく悲観的な発言ですな、聞かなかったことにしても?」
    「悲観的になってるわけじゃないから、ダメ、聞いてて。私はまだ死んでない。だからまだ先がある。ここからまだ這い上がれるつもりだし、さらに底に落ちても絶対あきらめない。だから見ていて欲しい、この先も」
     立香には言葉を重ねることしかできない。
     月を背にし、一切の光を含まない黒曜の瞳が立香を見下ろしている。
    「ンンン、フフフフ、そうですかそうですか。これは随分と、熱烈なぷろぽぉずというやつですな」
    「……は?」
     咄嗟に低い声が出た。
    「拙僧、かぐや姫でございますので、多数のおのこから求婚を受けては断り続けてまいりましたが、最後の最後にこのような熱烈な求婚を受けては帰郷の覚悟も揺らぐというもの」
    「ちょっと待って、さすがにそんなつもりないんだけど……?」
    「ですが流石の拙僧でも、本筋の流れを変えることは叶いませぬ。ですがたった今抜け道を思いつきまして、お喜びくだされ、マイマスタァ」
     月人役の式神が二体、小さな壺と羽衣をもって近づいてくる。壺の中身を道満は薬指で掬って一舐めしてから、同じ指でまた掬い直して立香の前に突き出した。
    「これなるは不死の薬でございます。効果は言わずともご存じで? そしてこちらは天の羽衣。着れば月人と同じ、思い悩むことなどなくなりまする」
     いつのまにか立香の背後に回っていた式神が彼女の肩を掴む。道満の薬指が立香の唇に近づいてくる。
    「ちょっ、待っ――」
    「一緒に月へ参りましょうぞ、マイマスタァ」
     青白い月が、二人を照らしている――。
     
    ―――

    「マスター」
    「うわっ」
     肩を叩かれて飛び起きた。
     眼前では怪訝な顔をしたいつもの道満が立っている。無論かぐや姫の装いなどしていない。
    「道満……なんで?」
    「月見の約束の時刻になったら起こしてほしいと自分でおっしゃっておきながらその言い草で? まあ何やら散々魘されていたのを放っておいたのはたしかですが」
    「魘されていたなら起こしてよ……」
    「では次からはそのように」
     しれっと道満が答えたのをまだ半分寝ぼけ眼で見ながら、立香は体を起こす。寝ぐせでぼさぼさのその頭を道満の大きな手が梳いた。
    「どんな夢を見たので?」
    「え、あ――忘れた。なんか、月を見た気がする」
     ベッドから下りながら立香はそう答えた。すっかり内容が頭に残っていない。
    「それはそれは。気の早いお人ですなァ。月見団子でも食べ過ぎて魘されましたか?」
    「いやー、どうかなぁ、そんなので魘されるほど?」
     思い出せない夢の話をしながら連れだってマイルームを出る立香が、ふと隣の道満を見上げた。
    「……道満って、十二単似合いそうだね」
    「ハァ? 夢の月の狂気にでも中てられましたかな、マイマスター?」
     
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