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    _light2412_

    @_light2412_

    ほとんど👹🦊、たまに🐑🔮
    R18のPWはプロカに記載
    (プロカはTwitterのBio欄にあります)

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    _light2412_

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    👹🦊(❤️🧡)

    ※ラ全員出演(CP要素があるのは👹🦊だけ)

    お久しぶりです、らいとです🌟
    いつも通りハピエンが約束されたお話です🖐🏻
    前編後編にわけてUPするので、また後日書き終わったら後編だします‼️
    お待ちくだされ、されど期待はするな🫤

    #FoxAkuma
    #Akumasutra
    #MystariASS
    #Foxakuma
    #foxakuma

    誰が為に 前編「ミスタ、私と別れてくれ」
    「は?」

    平日の夜。なんてことないひとときに、大きな爆弾が落とされた。否、私が落とした。ソファに座って膝に肘をつき、両手を顔の前で合わせる私の姿は、ミスタにはどう写っているだろう。
    飲み物のおかわりをとってきたミスタは、全ての動きを停止させ片目をつり上げる。その反応になるのも当然だろう。先程まで仲良く映画を見ていたのだ。脈絡もクソもない。

    「…すまない。頼む。」
    「なにに謝ってンのか知らねぇけど、やだ。ぜってぇ別れてやんねー」

    へっと反抗的な表情で中指を立てるミスタ。その姿に愛しい気持ちを抱きつつ、やはり無理かと苦笑した。当たり前だ。付き合うまであれほどアプローチしたのは私だ。

    「少し無理やりになるが、許してくれミスタ」

    そう言って立ち上がり、ミスタに近づく、怪訝な顔をして一歩後ずさるミスタの頭を両手で掴み、そのまま呪詛を展開する。
    怪しい光が出始めたところで危機を悟ったミスタは身を捩って逃げようとするが、それはヴォックスによって阻まれた。気を失う直前、悲しい涙を流すヴォックスがミスタの視界に映った。同時に見えた口は、確かに愛していると発していた。


    気を失ったミスタを抱えて、ミスタが一人の頃に暮らしていたアパートに向かう。103号室、過去に何度も訪れた部屋に入り、ミスタをベッドに寝かせる。当時の姿を残したその部屋は、ヴォックスが記憶を頼りに整えた場所だった。
    この部屋を準備している頃、己の記憶力の良さに笑ってしまったな。すぅすぅと穏やかな顔で眠るミスタを見て、だんだんと堪えていた涙が頬を濡らした。その場にしゃがみこんで嗚咽を漏らして、静かに気持ちをぶちまけた。謝罪と感謝と愛情を精一杯込めて、小さな口に口付けを落とした。


    ─────その日、ヴォックスはミスタと付き合っていた記憶をこの世から抹消した。










    あの日を境に、ヴォックスはミスタと必要以上に連絡を取ることをやめた。ヴォックスがミスタに施した術式は、ヴォックスと付き合っている期間及び付き合うに至るまで記憶を消すものであった。しかし、人というのは難儀なもので、記憶は消せても感情を消すことは出来ない。簡単に言うと、今まで通り仲良くしてしまうと再び恋仲になれてしまう。

    「確認してきたよ、ミスタの中でヴォックスはただの友人だった」

    そう言って目の前でコーヒーを飲むのはミスタの兄弟であるシュウ。彼は呪術師という職業上、唯一ヴォックスの術式をすり抜ける存在であった。そのため、ヴォックスは記憶がきちんと抹消されているかの確認を頼んだのだった。

    「…そうか、よかった、ありがとうシュウ」
    「で?理由、教えてくれるよね?」

    ミスタの記憶をいじった、と突然連絡を受けたシュウはすぐさまヴォックスに表に出るように言った。そして今、ヴォックスとシュウは近くのカフェでお茶をする形で席についていた。元よりシュウにはミスタのケアを頼む気だったので、きちんと全てを話そうと大きく息を吐いた。

    ヴォックスがここまでしたのには理由があった。
    元来、人ならざるものは争わずにはいられない質だ。大幅に理性が欠けているやつも多く、血を見ない争いはそうそうない。そんな中で、ヴォックスはヒエラルキーの頂点に君臨していた。争いを好むわけではないが、向かってくるものは容赦なく叩き潰す…と言いたいところだが、このスタンスになったのは最近のこと。青二才の頃は力を誇示したいがためにそこかしこに決闘を仕掛けていた。もちろん、全て勝利を収めた。しかし、同時に数多くの恨みを買った。その仕返しが今になってやってきている。謝ってどうこうという話ではないのが人ならざるもののめんどくさいところで、決闘を受け入れて勝つか殺されるかしかない。そして、ついにはヴォックスが予測していた最悪の事態が発生した。それはミスタが攫うことでヴォックスを誘き出すというものであり、ミスタと恋仲になってからこの手の決闘の申し込みが相次いだ。同時に、ミスタが怪我することも増えた。人外は人間の脆さを理解してないものが多く、ミスタへ手を上げるときに加減なんてものはない。直近では腕の骨を折られた。そのうち殺されることだって、ありうる。

    「ミスタが殺される未来なんて、想像するだけで息が出来そうにない」
    「でも今までは守ってこれたんでしょ」
    「怪我をさせておいて守ったとは傲慢もいいところだろう」

    複雑そうに顔を歪ませてコーヒーを啜るシュウ。
    シュウは、人ならざるものの執拗さも狡猾さも残酷さもよく知っている。伊達に呪術師をやっていない。ヴォックスと恋仲であり続ける限り、ミスタに命の危機は常についてまわる。でもそれをわかった上でミスタの背中を押した。
    呪術師として、ミスタとヴォックスが別れるという選択は正しいと言い切れる。しかし、ミスタの兄弟としてヴォックスの友人としてその選択が正しいかと言われると頷けない。

    「ところで、その力はどうするの?」

    そう言ってシュウの綺麗な指がヴォックスの心臓部をとんとんと叩く。
    ヴォックスは、ミスタの記憶を改ざんした代償として、魔力保有量が半分以下になってしまった。多様な術が使えることに変わりはないが、魔力保有量が落ちれば長時間の戦闘は厳しい。とはいえ、元来鬼の魔力保有量は桁違いなので、半分以下になったところでそこらの人外よりは強い。そして、魔力保有量が少ないことこそ、ミスタの記憶を改ざんできている証拠になる。もし万が一、魔力が戻るようなことがあれば、それは術が解けたと同義である。数年も経てば術が身体に馴染んで効力を発揮し終えたあとなので解けても問題ない。

    「どうにかするさ、これでも400年余り生きているからね」
    「…そう」

    仄かに笑って答えれば、シュウは目を細めて静かに呟いた。手元のコーヒーを啜りながら、気をつけてほしいことや可能ならやっておいてほしいことなどを互いに言い合う。

    「僕からはこんくらいかな」

    ヴォックスも話したいことは一通り話し終えたので、これにてお開きとなった。お会計はもちろんヴォックスが行った。後出しで協力をお願いした手前、シュウに払わせるわけにはいかないさと支払いを済ませて、シュウと共に店を出た。

    「じゃあ、また」
    「あぁ、ありがとう」

    そう言って振り返ったシュウに、ヴォックスは最大限の感謝と謝罪を込めてありがとうと一言、言葉を返した。
    兄弟の記憶をいじられたとあらば、流石のシュウも私を殴ると思っていた。拳一発で済めばいいなとさえ思っていた。シュウのことだ、本気を出されては私とて無傷では済まない。それでも、全部受け入れる気でいた。それほどのことをしたという自覚があったからだ。結局、シュウはなにもしなかった。彼の光が目の奥に沈んでいく様を、私はただ見つめていた。


    ミスタがいない生活をして気づいた。否、思い出したというのが正しいのか。
    私の家は、随分広かったらしい。もちろん新しく家を借りるにあたって広い家を選んだつもりだったが、いざミスタと暮らしてみると少々窮屈だななんて思ったものだ。しかし、その窮屈さが心地よかった。自分でもおかしな話だと思う。自分だけの空間じゃない、例え目に入らなくとも、そこに誰かがいるという確かな気配がどうしようもなく安心をもたらした。

    「別れてやらない、か」

    正直、ミスタにそう言われた時は飛び上がりたいほど嬉しかった。
    付き合ってまもない頃のミスタは、愛されてることを認められず、何度も私の愛を疑い別れを切り出してきた。やっぱり無理してるんじゃないかだとか、こんな俺をヴォックスが好きになるわけがないとか、私の言葉を聞かずに好き勝手言ってくれたものだ。幾度も繰り返されるそれに頭は抱えたが、嫌になることはなかった。例え恋愛的な意味でなかろうとも、ミスタは多くの人に愛されるべきだと思っていたし、実際愛されていた。友として、仲間として、恋人として、どうしてもわかってもらいたかった。
    汚れてもよくて動きやすい服に着替え、帰ったばかりの家を出る。向かう先はもちろん人ならざるものたちのところ。一度でもミスタに手を出したやつは、焼ききらないと安心できない。接触したことあれば、種族によっては容易に追跡が可能である。またいつミスタに魔の手が降りかかるかわからないなんて、離れた意味がない。
    行き着いた先のドアを開ける。物音一つ立てずに彼らの目の前に歩み寄る。幸いにも自分を止める存在はもういない。

    「存分に死ね」





    昨夜、山火事が起きたというニュースを見ながら頭をぼんやりとさせる。居住者はいなかったため、被害人数はゼロだとか。人為的とも自然的とも言い難い不思議な現場の状況で、発火の原因はわかっていないらしい。そんなことあるんだ。

    「なんか足りない」

    レストランでご飯が運ばれるまでの待ち時間。
    突然ルカが足りないと言い出した。飯のことなら追加で頼めばいいだろ。

    「なに?なんか頼み忘れた?」
    「そうじゃないよ、ちゃんと頼んだ、注文のことじゃなくて、うーーーーん、なんか言葉にできないんだけど、違うんだよね、なんでだろう」

    よくわからないというのにうんうん唸り続けるルカ。ピンとこない顔で眉間に皺を寄せている。

    「まぁ、そんなにひっかかるならいつかわかるでしょ、依頼ならいつでも受け付けるけど」

    そんなことを言っていれば、ウェイトレスが料理を運んできた。それらを食べながら、近況報告をした。近況報告と言っても頻繁に会っているためお互い大した変化はない。よって、いつものばか話をする。

    「じゃ、またねミスタ!!!ヴォックスによろしく!!!!!」
    「、ぇ、?、おー!またなルカ!!!!」

    そう言って小走りに去っていくルカの背中に声をかけつつ、最後の一言に疑問を覚えた。
    なんでヴォックス?ヴォックスの話してたっけ?あー、してたかもしんない、どうだったかな、だめだ、覚えてねぇや。

    「なぁんかひっかかんな」

    ルカが向かった方向と反対に足を進めつつ、漠然とした疑問に頭を悩ませた。しかし、考えても考えても頭にモヤがかかったように明確な答えが見つからない。そのうち気づくことを願って、考えるのを一度やめた。





    借りていた本をアイクに返しに行く。ルカと会ってから二ヶ月が経ち、その間は探偵業に奔走していた。久しぶりに仲間に会えるので自然と足が早まる。
    少し前に、探偵の仕事で本がいくつか必要になり、それが少々マニアックな本だった。地元の図書館にも一応行ったが、もちろん良さげな資料はなく、最初っからアイクのところに行く方が早かったなんて思った。ふとヴォックスの声が聞こえた気がして、はたと足を止めた。辺りを見渡してもヴォックスの姿は見つからず、自分の幻聴を悟った。
    あれ、そもそもなんであの時アイクのところに行こうと思ったんだっけ。俺はアイクがどんな本持ってるとか知らなかっ、あれ?知ってた?嘘だ。アイクの所持する書籍の量が莫大すぎて把握するのを諦めたはず。つい数ヶ月前のことだ。間違えるはずがない。でも、俺の記憶は自分で思いついてアイクの家を訪れたと言っている。俺の心は、自分が思いつくわけがない、誰かに勧められでもしなきゃ行かないと言っているのに。

    「わっかんねぇ、あー、なんか頭痛くなってきた」

    早いところアイクの家に行って少し休ませてもらおうと、再び歩き出した。

    「アイクー、本返しに来た」
    「ミスタ!いらっしゃい、寒かったでしょ、はいって」

    相変わらず執筆活動に励んでいるアイクは、眼鏡をかけたいつもの姿で迎え入れてくれた。違うのはあのコートじゃなくてベージュのお高そうなセーターを着てることくらいか。やっぱお洒落だよなアイク。そのセーターどこで買ったのか後で聞こうかな。
    まって。頭痛、酷くなってきたかも。頭の奥の方にズキンズキンした痛みが響いてくる。ここ最近で一番の痛みだ。

    「アイク、なんか、わかんないんだけど、今すっごく頭痛くてさ、ちょっと、休ませてくれる?」
    「え?!いいけど、大丈夫?仕事そんな詰まってたの?」
    「や、最近はそんなでも、ない、」
    「とりあえず、横になって、ソファ使っていいから!水と頭痛薬とってくる」

    頭を抱えるように思い足取りでリビングに向かい、倒れるようにソファに身を投げた。コートも脱がないで横になって申し訳ない気持ちもあるのに、想像以上の痛みに身体が言うことを聞かない。治まってくれと思いながら目を閉じて痛みに耐える。

    「ミスタ、ミスタ、少し起きれる?薬飲もう」
    「ん、いける」
    「はい」

    手渡された薬を握るように受け取り、口に放り込んで水で流し込んだ。ゆっくりと深呼吸をして、目を開けると、心配そうにこちらを覗き込むアイクがいた。

    「ごめんなアイク」
    「僕は全然大丈夫だけど、珍しいねミスタが体調不良なんて」
    「そうか?」
    「だって出会ったばかりの頃は僕らがとめなきゃ熱出ても仕事しようとしてたじゃん、少し前からはヴォックスと一緒に、ん?ヴォックスは関係ないか、ごめん変なこと言った」

    またヴォックス。ここまでくると疑うなという方が無理があるだろう。そろそろ聞いてみてもいいんだろうか。俺だけが間違ってるわけじゃないと思いたかった。

    「なぁアイク」
    「なぁにミスタ」
    「、ごめんやっぱなんでもない」

    なんでヴォックスって言ったの?なんて、聞けるわけがない。アイクからしたら日常で起こる些細な言い間違いだ。なんでなんて聞かれたところで答えに困るだけだろう。それにもし、もし俺の杞憂だった場合、変な心配をかけてしまう。

    「なにさーーー!言ってよ!!!」
    「まだわかんないことだから、また今度ね」
    「えー、じゃあ今度聞かせてね」

    そう言って薬のゴミをゴミ箱に捨て、ブランケットを持ってきたアイク。俺も上体を起こしてコートを脱ぎ、コート掛けにかけた。俺の横にアイクが座り、二人まとめてブランケットで暖を取った。

    「あ、頭どう?落ち着いた?」
    「言われみれば、今は平気かも」
    「そんな即効性のあるやつじゃないんだけど、まぁ効いたならよかった」

    そこからは借りた本の話やどんな依頼だったのか個人が特定できない範囲で話し、アイクは自分が今書いてるものや今度書きたい設定、世界観の話をしてくれた。アイクと話すのは、自分のごちゃごちゃした思考が落ち着くから好きだった。

    「よし、そろそろ帰るわ、夕飯の支度しなきゃだし」

    そう言って立ち上がると、かけていたコートをアイクがとってくれた。

    「昔はあんなに料理できなかったのにね〜」
    「それ出会ったばっかの頃だろ!!忘れろよ!!!」
    「忘れないよ、どんな小さいことでも、Luxiemのみんなといた時間は大切な思い出だから」

    その瞬間、自分の全身を風が切った気がした。思考がクリアになり、目から涙が零れそうになった。それを隠すために咄嗟に下を向いた。

    「?ミスタ?」
    「アイクはさ、自分の記憶と心にある思い出、二つの内容に相違があったらどっちを信じる?」

    アイクが心配そうにこちらを見ているのがわかる。
    今なら、聞いていいかな。そう思った瞬間、声に出していた。

    「思い出かな、記憶って都合のよく改竄されることがあるけど、思い出はどんな内容でも心に残るものだから、きっと誰にも変えられない」

    少しの沈黙のあと、アイクの放った言葉にどうしようもなく涙が零れた。よかった。俺は俺の中にある思い出を信じていいんだ。

    「アイク、少しだけ、話、聞いてくれる?」

    Luxiemの誰とも会わなかった二ヶ月間。日常での小さな違和感が頭にひっかかって離れない日々を送った。
    歯ブラシを買い換えようと思えば手に二本持っていたり、魚料理を作るのを避けていたり、右手をなんとなくポッケから出してしまったり、横を向いて何かに包まれてないと寝つきが悪くなったり、面白い動画を見つけると見せようと部屋を出たり、記憶にない無意識の行動が多々あった。自分を不可解に思うほどにその違和感は確かなもので、次第に自分の記憶を疑い始めた。
    なにより、ルカと会った日より前のことが鮮明に思い出せない。自分でも変なことを言っているのはわかっているが、自分の記憶を反芻するたび、まるで映画を見ているような気分になる。まるで台本を読んでいる役者たちの演技を見ているような、手の込んだ再現度の高い作り物をみているような、そんな気がしてならない。
    頭がおかしくなりそうだった。自分の中にある記憶の何が本当で何が改竄されたものなのか。なぜ改竄されたのか。なぜ思い出が残っているのか。わからないことだらけな現実に身体が震えた。自分でも何を言っているのかわからないから、誰にも相談できなかった。
    それともう一つわからないことがあった。ふとした時に、

    「ヴォックスの声が聞こえるの」

    ぐじゃぐじゃに泣き出すミスタのことをそっと抱きしめるアイク。うん、うんとゆっくり優しく相槌を打ちながら、ミスタの話を聞いていた。

    「最初は幻聴かなって思ってたんだけど、塩をかけすぎだ!とか、コート着ていった方がいいだろうとか、ミスタが好きそうだなとか、寝るならベットで寝なさいとか、聞く度に言いそうだなとか思っちゃって、一緒に暮らしたことないはずなのに、ねぇ、どうしたらいいアイク、俺おかしくなっちゃったかな」
    「おかしくない、おかしくないよミスタ」

    立ち上がったはずのソファに逆戻りして、感情を上手く表出できないミスタを宥めるように肯定する。

    「僕はミスタの心にある思い出を信じる、ミスタは誰かを傷つける嘘は言わないって知ってるから、大丈夫、大丈夫」

    アイクの言葉に再び泣き出すミスタ。どうしたらいいんだろうと、ひとりでに右往左往してたのが嘘のように安心できた。

    「落ち着いた?」
    「うん、ごめん、突然崩れて」
    「いいよ全然、とりあえず…ヴォックスに聞くのが最善なのはそうとして、なにか事情がある可能性を考えると、ヴォックスの事情に関われる人は限られるよね」

    ミスタの背中を擦りながら、次の行動を考えるアイクに、また涙が滲んだ。自分の戯言かもしれない話を、こんなに真摯に受け止めて動こうとしてくれる仲間に感謝をしてもしきれなかった。

    「ミスタ」
    「うん、シュウだよね?」

    ヴォックスの事情に関わることが出来る人物。悪魔の専門家でなくとも、その類に精通していれば構わない。そしてその類を生業にしてる人がいちばん身近な仲間うちにいる。闇ノシュウ、彼なら俺やアイク、ルカには危険なことでも、ヴォックスは頼むだろう。加えて彼の責任強さや仕事の完成度も考えると、信頼にたる人間だろう。

    「俺シュウに嘘つかれたら結構ショックなんだけど」
    「うーん、それはないと思うな、シュウはミスタのことだいすきだから、聞いたらきっと答えてくれるよ、もちろんヴォックスもね」

    アイクが言うならそうなのかもしれないと思い、この先の動きをアイクと確認する。まず、ミスタはこのことをルカに伝える。アイク曰く、そういう勘はルカがいちばん鋭いでしょとのこと。なにより、なにか情報を知らないとも限らないから聞いてみるのはありだろうという結論になった。次に、アイクがシュウにそれとなく聞く。これはなにか事情があり、それをこちらに知られたくなかった場合、アイクとミスタが一緒に呪術をかけられたら元も子もないため。また、ミスタは顔とボロが出やすいため、シュウにそれとなく聞くなんて芸当はできないと自己申告をした。

    「シュウの真剣な話してる時の目がすっげぇ怖い、こっちのこと全部わかってますみたいな目してくる」
    「わかる」

    そして最後、この二つをやり終えた上でミスタがヴォックスに話を聞きに行く。アイク曰く、ヴォックスはミスタのことを一等可愛がっているから心配無用だとは思うが、念の為僕もついていく。なにもなくとも、ミスタをここまで泣かせて苦しめた罪は重いので、お灸を据えてやらないと気が済まない。なにもないならそれはそれで笑顔で終われるから構わない。とのことだった。
    そうと決まれば実行。シュウにアポをとるアイクと、ルカに電話をするミスタで分かれ、行動を始めた。ルカはいま少し忙しいみたいなので、電話で済ませることにした。

    「ルカ、これから変なこと言うかもしれないけど、良ければ少し聞いてくれる?」
    「もちろん!ミスタの話ならいくらでも!」
    「ありがとう」

    そう言ってアイクにした話をそのままルカにも伝えた。なるべくグチャグチャにならないようにアイクに手伝ってもらいながらゆっくりと電話に言葉を送る。

    「って感じなんだけど、引いた?」
    「そっかぁ!!!よかった!」
    「よかった?」
    「うん!俺も腑に落ちなかったこと何回かあったんだけど、ミスタからアクションがあるまで待とうと思ってた!ほら、こういうのって他人に言われるもんじゃないでしょ?」

    横で聞いていたアイクはやっぱりなと呆れ顔で笑っていた。アイクの言う通り、彼のこういった勘の鋭さはLuxiem随一かもしれない。

    「そっか、ははっ!さすがルカ!」
    「うん!でもごめん、俺も腑に落ちなかったって言った通り心当たりはないんだ、特にヴォックスからのアクションも受け取ってないよ」

    ちゃんとこちらの疑問も汲み取った上で、答えをくれた。ヴォックスからルカへの接触はない。これでルカも俺やアイクと同じ状況であることが確定した。

    「笑わないで聞いてくれて、そう言ってくれただけで充分だよ、ありがとうルカ」
    「当たり前だよ!またなんかあったら言ってよ、なんでも協力する!」
    「ありがとう、また近いうちに会おう」

    そう言って電話を切った。これで第一段階は終了したため、次にいく。アイクがシュウとの話し合いを取り付けたのは三日後。これはミスタが同席しないものなので、結果を待つしかない。ひとまずこの場でやれることはやりきったため、解散せることにした。

    「ありがとうアイク、じゃあまた三日後の夜」
    「このくらいいくらでも、また連絡するね」

    そう言って手に持っていたコートを着て、アイクの家を後にした。帰り道でいつもより心が軽かったのは、肩の荷がおりたからだろう。自然と空を見上げる余裕もあった。
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