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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 33
    現パロ ネロファウ

    ##1日1ネファネチャレンジ

    Traveling, thrilling ①修学旅行や卒業旅行の時は、決まって前日夜になって慌てたものだ。これが無い、持っていくつもりの服が洗濯中で乾かない、そもそも準備を始めていない。そして出発してから気付く忘れものは、最終手段の現地調達で何とかしてきた。
    「あとは明日の朝、充電ケーブルを詰めれば終わりだよ」
    なんて準備がいいんだ。流石俺の恋人。大好き。
    ぽん、とキャリーケースを叩いてそう宣言したファウストに、俺は平伏した。前日まで仕事でバタついていたとは言え、準備する時間が全く無かったわけではない。まあつまり、ちょっと忘れていました、というのが正直なところ。
    「すごい……ありがとう……好き……」
    「こんなことで好きになってくれるの?安売りすぎるんじゃない」
    「ファウストだけだから大安売りしてもいいの」
    常備薬から化粧品、下着含めた着替えまで。俺の分もきっちり整頓して詰められたスーツケースは、まるでクッキー缶のように美しくすらある。ひと目で何が入っているかまでご丁寧に書かれており、ファウストの性格のマメさにほとほと感服してしまう。
    「いや本当にありがとうございます。俺全然準備してなかったから」
    「このままいくと夜になって慌てるな、と思ったから勝手にやらせていただいたよ」
    「すみません……」
    俺のことをよく理解した上でフォローまでこなしてくれるファウストには何度も助けられている。
    荷造り以外もそう。宿を探したり、列車の時間を調べたり、どの代理店経由で申し込むのが一番お得かを調べたりといった情報収集は割と得意だし、情報を整理してプランを組み立てるのも職業柄得意だけれど、予約手続きとか支払いとか、そういった事務的な処理はどうしてもすっぽ抜けてしまうことが多い。今回もまさしく手続き関連の対応は全てファウストが担ってくれた。「ここからは僕がやっておくよ」と。
    「こういうの、きみ苦手だろう。僕は反対に得意な部類だから手伝えただけ。僕が苦手なことはきみがやってくれてるし」
    徐々に申し訳なさを募らせていた俺に対し、どうして謝るのか心底分かりません、という顔でファウストはそう言った。嘘も偽りも含まない。純粋な紫の双眸がつるりと俺を見つめている。
    支障なく生きることに反しない限り、ファウストはああしなさいこうしなさいと細かく支配してこないし、俺もファウストがやりやすいように過ごしてくれればいいと思っている。こうする、と選択肢をひとつに決める必要はない。きっちりとした『二人暮らし』よりは『一人暮らし×2』のような、ゆるゆるふわっとした感じ。そのくらいでちょうどいい。
    「そう?」
    「うん。今回の宿だって、一番安く泊まれる方法見つけたのきみだし。僕は代理店の固定されたツアーくらいしか知らないから、こうして色々工面してくれて助かってるよ」
    きみとじゃないとこの宿泊まれなかったかも、なんて嬉しそうに顔を綻ばせられてしまえば、これ以上うじうじするのも悪いというもの。荷造りの件は甘えさせてもらったとして、明日からもまた甘えたり甘えられたりすればいい。そうしたいと思える人に出会えたのは幸せなことだと思う。

    「さて、ネロ。早起きは得意?」
    「どうかね。寝坊は得意だよ」
    「ばか」
    明日の列車は少々早い時間だ。翌日が出勤日でもこんなに早く寝たりはしないけれど、遅刻とは違って列車は時間を過ぎたらどう頑張っても取り返しはつかない。
    妙な緊張感を覚えながら布団に入り、電気を消す。
    普段より早い時間に、目覚ましのアラームも入念に10分おきに設定して。

    二泊三日の大がかりなデート。
    真夏の陽射しのような、眩しく煌めく思い出が出来ればいい。

    遠足前に興奮して眠れなくなる、久方ぶりに味わうこの高揚感は、抱えて眠るには少々お転婆が過ぎるようだ。目を閉じてもそわそわと落ち着かず、数分と我慢できずに目を開いてしまうと、同じく目を開けたファウストと視線が重なった。
    重なって、噴き出した。
    早く寝なよ。
    そっちこそ。


    結局寝付くのが下手くそだった大人同士、往路の列車で二人して健やかに寝息を立てることになる。
    二人を乗せた列車は海の横を、山の中を、いくつもの街の間を駆けてゆく。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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