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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 38
    現パロ ネロファウ

    ##1日1ネファネチャレンジ

    夏に還る「ファウスト、大変だ」
    「どうしたの」
    「俺は大変なものを買ってきてしまいました」
    「それはいけない。是非とも拝見させていただこう」
    二人して仰々しく正座をして向き合うと、ネロは持参していたショッピングバッグから小ぶりの段ボール箱を恭しくとりだし、ファウストに差し出した。ぱこりと箱を開けたファウストの目がくるりと見開く。
    「これは……」
    「なんと猫型の蚊取り線香入れです」
    ころんとした茶トラのフォルムに尻尾がぴょこりと生え、顔はなんともいえない平和そうな表情をしている。でっぷりとしたお腹に空いた蚊取り線香の設置場所はわざとらしくなく、ちょうど模様のようにも見えるような絶妙なバランスだ。
    「ふふ、かわいいな」
    「だろ?そろそろ時期だと思って」
    もちろんお腹に入れる線香本体も買ってきていて、鶏が描かれた缶はネロの横に静かに鎮座している。決して頻繁に飛ぶ奴を目にするわけではないけれど、一匹でも侵入されれば成敗するまで気になって仕方がない。どうせなら、講じる対策は殺伐としたばかりのものにならないようにしよう、という遊び心だ。

    ファウストは両手で夏の働き猫を抱え上げ、まるで本物の猫を目にした時のような慈しみを込めてしげしげと観察している。
    焼物独特のざらつき。表面に残る砂の質感。手塗りのぬくもりを感じる絵の具の塗り跡。
    新品なのにどこか使いこんできたような、古い友人に再会したかのような懐かしさがしっとりとファウストの心を包む。
    「……実家で暮らしていた時を思い出すよ。電気タイプの虫除け薬も売っていたけれど、うちはずっと蚊取り線香だった。実家にあったのは典型的な豚の蚊取り線香入れで、夏だけ押入れから出てくるそれが何だか特別なものに思えてね」
    まだ妹が幼い頃は近付いて触れないように見張り、大きくなってからは灰の掃除をしたり、燃え尽きた線香を取り替える当番を取り合ったりした。玄関扉をかろりと開ければふわりと香る煙の青臭さに、ああ帰ってきたなと思ったものだ。
    「おかげでこの香りがしないと夏だと思えなくなってしまってね」
    ほろり、灰が皿に落ちるような穏やかさで昔の優しい思い出をそっと共有してくれるファウストに、ネロの胸はじわりとあたたかくなった。ネロはもう殆ど実家に戻っておらず、ノスタルジックな気分を味わうこともしていない。寂しいとは思わないけれど、心の還る場所があるというのは尊いことなのだと、ファウストを見ていると思う。
    「ネロ、早速使ってもいい?」
    猫の頭をひと撫でしたファウストの瞳は、これが終われば夏休みだと終業式に臨む子供たちのようにうきうきと煌めいている。ファウストの中に残る夏のはじまりを、今、ネロと暮らすこの家でも同じようにはじめることができる喜びに満ちている。
    「もちろん、どうぞ」
    「火災報知器は平気だっけ?」
    「熱に反応するタイプだから大丈夫」
    マッチもチャッカマンも用意していなかったから、キッチンのコンロで少々乱暴に火を点けた。ぷかぷかと煙を出し始めた線香を猫の腹に預けると、白くたなびく煙に乗って独特の青臭い香りが家の中を漂いだす。ファウストの記憶の中と同じ、心の還る場所のにおい。
    濃緑の線香がじりじりと赤く燃え進み、重さに耐えきれなくなったところでぽとりと灰が落ちる。音もなく進むその様子を、ファウストとネロは暫く黙って見つめていた。


    ……ここ何年かは帰省していないな。
    ふとファウストは思った。口喧しい家族ではないけれど、そろそろ顔を出せと騒ぎだすかもしれないし、何となく、頃合いじゃないかと思う。
    「……ネロ」
    「ん?」
    「今年の盆休み、久々に実家に帰ろうかなと思って」
    「いいんじゃねぇの、ゆっくりしてきな」
    「一緒においでよ」
    一緒に帰ろう、僕の実家に。
    豚の蚊取り線香入れも見せてあげるから。

    ──大事な人ができたよと、紹介されに来て。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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