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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 48
    月花妖異譚 ネロ+ファウスト(ネファネ未満)

    ##1日1ネファネチャレンジ

    物の怪達の夜天には輝く月と星。
    地には祭囃子の歌と熱。
    夜鳴きの蝉が、今宵はいやにけたたましく鳴いている。
    美しく騒がしい夜に浸りながら、ファウストは盛大なため息をついた。
    「何だって、こんなことを……」

    今宵は祭。彼岸と此岸、陰と陽、彼方と此方が行き交い、混じり、入り乱れる日。
    世界の境界が曖昧になる夜は何度となく迎えているが、此度は特に警戒が強められている。地上の喧騒に紛れて再びよからぬ者達――それは生者とは限らない――が騒動を起こす可能性は否定しきれない。そう考えた龍達により、空を飛び夜目の効く天狗達は皆、宵が明けるまでの見廻りを命じられている。
    『流石に、俺達だけじゃ目が足りないよ』
    ファウストにだけ聞こえるような声量で呟いたその言葉の真偽は分からないが、ファウストからすれば、こんな面倒事に巻き込まれるのはまっぴらごめんだった。ただでさえ騒がしいところも面倒臭いことも好まないというのに、しかも宵が明けるまでということは徹夜でお仕事よろしくね、ということだ。後できっちり礼は支払ってもらわねば気が済まない。

    「全く、身勝手な奴等め……そもそも守護はあいつらの仕事だろうに――」
    「ファウスト!」

    悶々と不満を募らせていたファウストは、頭上から呼ぶ声に顔を上げる。月光を背にファウストの隣へと天狗が降り立つと、翼から起きる風に煽られた蝉の声がジジ、と掠れた。
    今夜は騒がしいなと少し息を切らせてファウストに視線を合わせた彼の瞳には、普段見られない焦りが滲んでいる。

    「ネロ。きみ、第八門区画の担当ではなかったの」
    「第四門……あそこが開きそうだって、こっちに」

    ひと息ついてそう伝えたネロは、木々の奥へ視線を向ける。
    倣うように顔を向けた先、ジャワジャワと降り注ぐ蝉時雨の下に一際目立つ赤い鳥居が建っている。これより先は第四区画であることを示すだけの、ただの目印だ。
    昼間は何の変哲もない鳥居が、今は異界へと繋がる門のような不気味さで佇んでいる。

    「そのうち応援が来るよ。もしかしたら、龍も」

    ネロの言葉に抗議するように、鳥居の奥から一際強い風が吹き抜けた。
    生ぬるい、纏わりつくような嫌な風だ。
    木々を揺らす音に轟、と唸るような咆哮が混じる。

    ――どうやら僕は、はずれくじを引かされたらしい。

    「……最っ悪」
    「うわ、めちゃくちゃ機嫌悪いじゃん……」
    「当たり前だ。こんな面倒事さえなければ、今頃誰かさんの店で美味い肴と冷えた酒をひっかけていた頃だったのに」
    「はは、嬉しいこと言ってくれる」

    ジー、ジ、ジ。
    …………。

    あれだけけたたましかった蝉の声がぴたりと止んだ。
    ファウストとネロの背後に、複数の妖の気配が続く。
    相対するように、赤い鳥居の奥が陽炎のように揺らめいた。
    揺らめきは徐々に輪郭を持ち、実体を伴わない、二足歩行の大中小へ。

    ――弔い合戦、と言ったところか。

    地上の喧騒に紛れて悪事を起こす者は生者とは限らない。
    悪鬼達との争いは古くから繰り返されてきた。敗れて肉体を失ってもなお、残り続け彷徨い続ける悲嘆や憎悪は、境目が曖昧になるその時を狙って襲い掛かる。
    今宵は特に、先日の酒呑童子の思念に呼応して膨れ上がったのだろう。
    幽鬼退治なんて、天狗の仕事じゃあるまいに。

    「最悪」
    「あんた、さっきからそればっかだなぁ」

    どことなく笑みを含んだネロの声色は、湧き出す妖の本能を剥き出しにしている。

    「亡霊でも三枚に下ろせっかな」
    「腹を壊しそうだ、止めておけ」

    夜闇に溶け込む漆黒の翼を刃のように逆立たせ、天狗達は爛々と輝く目を招かれざる客へと向ける。


    ――さぁ、地獄の釜が開く。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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