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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 58
    魔法舎 ネロ+ファウストとレノックス
    ※ファウストは出てきません

    ##1日1ネファネチャレンジ

    森のひとたち魔法舎全体が寝静まった深夜。日付も変わる頃合いの時間に、二人の男がキッチンでグラスを傾けている。

    「やっぱ南のチーズは美味いな、風味が全然違う」
    「そうか。気に入ってもらえたのなら何よりだ」
    一時帰国していたレノックスがネロに、と南の国で作られたチーズを差し入れたことから、なら礼にとネロが一杯誘ったのだ。丁度朝食の下準備まで終わらせていたネロは簡単で悪いけど、とクラッカーにチーズとグランデトマト、時々ハーブやなんかを乗せた簡単な肴を用意した。
    さく、カラン。軽やかで涼やかな音を時折鳴らしながら、話題は知らず二人にとって関り深く、共通する魔法使いに移ってゆく。
    「そういえば、羊飼い君とはあんまりこうやって飲んだことなかったな」
    「そうだな。俺は進んで晩酌をするような気質ではないから」
    「ファウストとも飲まないのか?」
    「あまり。どうせ俺が、昔の話ばかりしてしまうから」
    レノックスとファウストには過去から繋がる深い深い繋がりがあることを、ネロは知っている。ただその繋がりの糸の一本一本が果たしてどんな色で、どんな物語を持つものであるかまでは知らない。長命にある魔法使いの過去というのは、長く生きた者であるほど複雑怪奇で難解で、時に壮絶だ。渡されて読み解いていくうちに、気付けば自分が雁字搦めに絡まって首を括られてしまってもおかしくない。そんな代物だ。
    「……ネロは、ファウスト様の過去は」
    「ああ、待った。ファウストの昔話はしないでくれる?」
    勝手に話してあんたが怒られるのは忍びないしさ。あくまで気さくにそう言ってみせるネロに、レノックスは明確な拒否の姿勢を感じた。一瞬で築かれた、目に見えない透明な壁。けれどその向こうではレノックスのことを案じてもいる、ちぐはぐな壁。
    「怒られるのは俺だから、ネロが気にする必要はないが」
    「ならもっと直接的に言おう。話されても困るんだ、俺は背負いきれないから」
    突き放すような言葉を吐き出したネロの声色からは、やはり同じだけの冷たさを感じられない。そのことが不思議だった……レノックスにとって、東の魔法使いは不思議な者達だった。
    他者との壁を築きながら、壁の向こうから案じるような視線を向けてくる。傷付いた分愛情深い、と単純な並列で言い表せないような、もっと別の気質を持っているらしき者達。信条や矜持とも違う。空気のような水のような、そこに在る何か。
    「俺はファウストの過去を知ったところで何もできないし、できない自分が嫌になる。背負いきれないくせに、そんな貧弱な自分が嫌になる。そんで、俺がそんな奴だってことをファウストは分かってる。分かってるから、分からないふりをして「話すことはない」って冷たく突っぱねるような真似をしてくるんだよ」
    東の男は難儀だろ、と言う横顔には自分達への嘲笑の念は無く、ただ事実としてそう告げてくる。卑下するでもなく、誇るでもなく。ただ自分達はそういう生き物だよ、と自己紹介をされているような感覚。
    「……そうか」
    「幻滅するだろ」
    「いや、しない。……不思議だったんだ、東の魔法使いの独特な距離感が」
    東の国の魔法使いはみな、深い森の気配がする。彼等の気質をひとことで表すことは、やはり難しいようだ。それこそ、偉大な存在である森を「こうだ」と言い切ることが難しいのと同じように。神秘的で、不思議な、魔法使いらしい魔法使い達。
    こうだと決めつける必要は無く、知りたくなれば少しずつ語らえばいい。魔法使いには時間だけはあるのだから。レノックスはそう結論つけ、グラスの中身を一気に呷った。
    「お、いい飲みっぷり」
    「ネロ」
    「ん?」
    「話せて良かった。嫌でなければ、またこうして酒を酌み交わしながら話をしたい」
    「いいよ。その時はファウストも呼ぼうか」
    「いいのか。あまり話を聞きたくはないだろう」
    「まあね。あんたの言う通り、もしかしたら話したいことがあるかもしれないけど、どうせファウストは話さないから。ま、倍以上の酒を用意しないといけないけど」
    あの人のん兵衛だもんな。
    ネロは空になった酒瓶を振って笑った。その笑顔は冷えた地面を温める木漏れ日のようで、やっぱり不思議な人たちだとレノックスも笑みを零した。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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