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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 64
    魔法舎 ネロファウ

    ##1日1ネファネチャレンジ

    早朝の幸福「せんせー、大変だ」
    太陽が昇りきらない早朝の片隅。
    目覚めに一杯飲む茶を、とキッチンを訪れていたファウストは、大変だと言いながらもちっとも大変そうでない声色で己を呼ぶ男の元へ向かった。
    「なに、どうしたの」
    「見て見て」
    向かった先で――とはいっても数歩先ではあるが――ネロが朝陽を浴びてぬくくなった空間そのもののようにほわほわと笑みを浮かべている。
    これ、と示された通りにファウストが覗き込めば、ボウルの中でぷるりと艶やかにひかる黄色の膨らみが二つ、仲良くむっちりと並んでいる。
    「卵割ったら黄身が二つ入ってた」
    大事そうにボウルを抱えるネロは、双子の卵に出会ったことだけにしてはやけにうきうきと機嫌が良さそうだ。それだけでも十分かわいいと思うのだが、ファウストが「まだ何かあるんじゃないの」と無言で問いかける視線を送ると、正しく読み取ったネロは再び顔を綻ばせる。大事にとっておいた秘蔵ワインの栓を開ける時のように、ネロは楽し気に語った。
    「ほら、この後依頼に行くだろ?今日もうちの子供たちは元気に喧嘩すんのかな、とか考えてたら双子さんが出たもんでさ」
    「うん」
    「なーんか、ヒースとシノみたいだなって思って」
    こっちの少し小さい方がシノかね。菜箸でカラザをちょいちょいと取るネロの横顔は、これから料理される食材へ向けるとは思えない程の慈愛に満ちた表情を浮かべている。もしかしたら、ネロの目にはあの仲良く並んだ黄身の表面に二人の顔がほわんと浮かんで見えているのかもしれない。
    そう思い至ったファウストは、妄想だとしてもその可愛らしさに心を甘くくすぐられてしまう。年上でも、年下でも、同国の魔法使い達は、頑なに凍っていたファウストの心をいつの間にかすっかり溶かして柔らかくしている。
    「ふふ、かわいい」
    「だろ?」
    「きみがね」
    「ん?卵が?」
    「ネロが、だよ」
    「えぇ……俺?」
    「そうやって僕に見せにきて、子供たちみたいだって感じるところもかわいい」
    こんな行動を起こせばファウストが何と言うか身をもって分かっているはずなのに、ネロはどうしても、何度も繰り返してしまう。嬉しいことや知ってほしいことがあれば伝えたいと思える相手を、ネロは大事にしたかった。次はきっとかわいい攻撃は大丈夫、と思い続けては毎度玉砕しているし、きっと今後も律儀に玉砕し続ける。
    毎回律儀に照れて、視線をうろつかせて唇をほんの少し尖らせてみせる。負傷を隠すことはお手の物だけれど、不機嫌になりました、というふりだけはずっとファウストに通用できていないでいる。
    「双子の卵は幸運の前触れと言われるけれど、かわいいネロが見られたから、もう叶ったかな」
    「なにそれ……。でもまあ、なんかかき混ぜてやるのも勿体なくなってきちまった……」
    オムレツか、スクランブルエッグにするつもりだったのだろう。無垢にひかる黄身に愛着が湧いてしまったらしいネロは、ボウルを片手にどうしようかと暫く唸ったのち、「そうだ」とファウストに顔を向けた。
    「これ、先生食べてよ。普段呪い屋なんてやってんだから、こういう時に幸運食っといた方がいいだろうし?」
    「余計なお世話、とは言わないけれど……本音は?」
    「ガレットにすれば黄身を壊さなくて済む」
    ファウストは改めて目の前の男の評価を再認識した。
    食べる時はどうせ崩れることを分かっている。けれど胃に入れば同じ、という真理に背いて食材の扱い方に拘りや我を通すネロの姿は、ネロが『ネロ』という自身の輪郭を正しく体現している行為であって、ファウストが好ましく思っている点のひとつだ。
    それはそれとして、ではあるが。
    「まったくかわいいな、きみは。……いいよ、頂こう」
    「お、そうこなくちゃ」
    「ただし」
    ファウストが食事を摂る気になったことを喜ぶネロに、ぴしりと釘を刺す。痛くはない釘だ。ネロにとっても、勿論ファウストにとっても。
    「作るのは二人前で頼むよ、シェフ。きみと二人で食べたほうが、僕の幸運が増すと思わない?」
    カーテンの隙間から朝陽が差し込み、薄暗かったキッチンがほの明るく目覚め始める。
    今日も一日を始めよう。かわいいこの人と一緒に。
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    👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏☺💙💜☺🍳🍳❤❤💖
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
    2216

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