Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Σフレーム

    ちまちま

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 103

    Σフレーム

    ☆quiet follow

    お別れした後会いに来るやつ

    #伊ぐだ♂

    フェス伊×ハウスキーパーぐだ♂重い足取りでふらふらと夜道を歩く。いつもの灰色のジャケットに黒のパンツ姿だが所々に血や擦ったような跡が目立ち見た者が思わずびっくりするような出で立ち。仕事帰りであるが顔には生気がない。仕事に疲れて、というのも間違いでもなかったがそれ以上に伊織を苦しめていたのはとある人物との別れだった。

    「(……立香)」

    藤丸立香。つい数年まで伊織の自宅でハウスキーパーとして雇われていた人物。明るく朗らかな性格と何より家事の働き……とりわけ料理の腕に胃袋を掴まれてしまい浅慮ながら愛人としても重宝していた。それまでにも何人かハウスキーパーを雇ってはいたが自身との相性が良くなくて数ヶ月程度で皆辞めていった。そんな時にボスの口利きでとある紹介所から派遣されてきたのが立香だった。

    「(浅ましいな……。もう3年にもなるのに俺はまだ……)」

    一般人とマフィアの構成員。互いの住む世界が違うのは理解していたつもりだった。だから深くは立ち入らないようにしていたのに自らそれを破り彼と愛人契約までした。伊織は立香に心底惚れてしまった、料理が美味しかったのは勿論だが機転が利き何より共にいて無言が苦ではない。理解されにくい己の思考を否定せずそして血まみれで帰宅した時は真っ先に心配をしてくれた。みなしごで生きてきた伊織とって暗闇に差し込んだ一条の光……もとい星そのもの。太陽のような輝かしさはなくともいるだけでどこかホッとする存在にいつの間にか彼を据えていたのだ。
    だが、幸せはいつまでも続くことは無かった。理由は不明だが恐らく伊織との関係に嫌気が差したのだろうと思っている。でなければ礼儀正しい彼が突然辞表だけを置いて姿を消すとは到底思えなかった。立香を紹介してくれた会社に問い合わせても既に登録が抹消されており個人情報故探し出すことは困難を極め途方に暮れたのは今でも痛烈に記憶している。

    「……チッ」

    思わず舌打ちしてしまったが過去に対してではなく現在進行形での事実に苛立ってしまったからである。立香と過ごした家は思い出が多すぎてすぐに引っ越してしまった。今の住居はセキュリティが万全だとうたうマンションの一室。それなのに自分の部屋の電気がついているのだ。仕事柄自宅を襲われることも無くはない。が、今の伊織は虫の居所が悪かった。エントランスをぬけてエレベーターではなく非常階段をかけ登り5階へ。音を立てずに玄関へと迫りドアを開ける。腰の愛刀に手をかけてゆっくりと廊下を進みリビングへ。そのまま怒りに任せて隣接している台所にいた人影へと凶刃を振り下ろそうとした。しかしそれが果たされることはなく抜かれた刀身は宙で停止したままゴトンと重たい音を立ててフローリングの床へあえなく落ちていった。

    「りつか?」

    伊織の呼び掛けにゆっくりと振り向くエプロン姿の誰か。その瞳が伊織を捉えると複雑そうな表情をしながら「伊織さん」と静かに応えた。

    「立香」

    何もかもなげうち彼へと駆け寄る。汚れた服のままであることすら忘れてただ愛しい人をありったけの力を込めて抱きしめる。彼はただ黙って抱擁を受け入れていた。何も返ってこない様子にまた夢を見ているのではないかと不安が伊織を襲う。

    「立香あぁ立香……」
    「伊織、さ」
    「立香りつか!夢ならもう……覚めないでくれ。ずっと、このまま…、」
    「……」
    「頼む…」

    この3年間は悔恨の日々だった。ああすればよかった、こうすればよかったと後悔が渦巻くも結局誰もいない布団で目覚めるのだ。例え夢の中で彼が出てきたとしても一貫した態度で都合の良い立香は存在せずこれが伊織をさらに絶望の縁にたたき落とした。愛人契約などしなければよかった、そうすればまだ立香は自分の傍にいてくれて家事に精を出しながら暖かい食事を作り伊織の帰りを待っていたかもしれない。そんなことを何度も考えては夢で立香と会えることを心待ちにする。例え恋人のように仲睦まじくなれずとも構わない。ただ姿を見せてくれるだけでいい。そうして目覚めては絶望する、その繰り返し。当然心身に影響が出ないはずもなくこの所はずっと寝れていない。そのせいか段々と瞼が重くなる。自宅というのもあるが会いたくて堪らない相手がそこにいて安心するなと言う方が難しい。

    「伊織さん?」
    「り……つ…」

    立香を抱きしめていた伊織から力が抜けていきすぅすぅと健やかな寝息が聞こえ始め彼の体重が重くのしかかる。落とさないように伊織を抱えてすとん床に落ち着いたがうわ言のように立香の名を呼びその顔には酷いクマと一筋の暖かな雫。

    「眠ったままじゃお話できないですよ」

    座り込んでしまった立香に被さるようにして眠る伊織の耳元で囁いてやる。さてどこから始めたものだろうか。片付けは早々に終わる気もしない。いつまでかかるかも分からない洗濯の山を前にして放心している気分だ。だが彼と会わねば何も整理はつかないのは違いなかった。以前よりも簡素になった部屋を見てこの3年間の空白に胸がちくりと痛む立香だった。

    ◇◇◇

    立香と過ごした日々は何にも変え難くそして楽しかった。楽しみが他に無かった訳でもないのに日常の何気ない時間が穏やかで心地よかった。ハウスキーパーとしてではなく愛人としての彼を求めた際彼はどういう顔をしていたのだろう?労働契約に愛人の項目を追加したことで自然な流れで立香を自宅に泊まらせることができより共に過ごす時間が増えることに歓喜した。その為の部屋も用意したし一緒に食卓を囲む口実にもなった。嬉しかった、今まで気にも止めなかった事柄にも立香と一緒だと興味が出てたくさんの思い出が増える。何もかもが満たされて2人でならどこまでも行けるのだと先のことなんて考えもしなかったツケが回って来たと気付いた時には全てが遅かった。

    (おまえは俺に何も求めはしなかったな)

    与えるばかりで何も望まれはしなかった。たったひとつだけ彼が伊織に求めたのはほんの些細な諌言。

    「床で寝ないで下さいよ、運ぶのも脱がすのも大変なんですから」

    衣食住なんでもいいと言えるほど無頓着な自分に対して告げたあの日の立香は困った顔をしながらもそんなことを言っていた。

    (今日は回想か)

    ひとつひとつ立香との記憶を見せつけられるそれは伊織にとって都合が良い。下手に想像上の彼が出てくるとどんな言動をされるか全く分からない。ありえない場所、ありえない時間、ありえない出来事。それらが合わさり伊織にとって最悪な立香が組み上がったた時ほど起きた時のショックは計り知れない。それと同時に立香の居ない現実を突きつけて来るのがとても不快で嫌だった。

    (どうせ夢だ)

    頭では理解していても今の自分の体は寝ていて自らの意思で夢から覚めることは叶わない。ただ紡がれることの無かった未来を想像と夢という形で補填した何か或いは過去を見せられる。それでも───

    (好きだったんだ……立香。いや、今でも好いている)

    ぽっかりと空いてしまった孔。完全に埋めることは恐らくもうない。今日も今日とて立香が伊織に愛を囁くことはなくただ仕事としてせっせと働く様を見ているだけ。それはただ同じ映映画を見続けるよりも過酷で悲惨でしかない。夢であるならばせめて都合の良い展開であれば良いのにそれすら目覚めてしまえば泡沫のように儚く消え去ってしまうのだ。

    (立香。おまえに逢いたい)

    例えそれがこの身を引き裂くのだとしても。

    ◇◇◇

    ゆらゆら水中に身を委ねているような浮遊感。浮力によりゆっくりと水面へと浮上するような穏やかさをもってうっすらと開けた視界からは淡い暖色灯。布の擦れ合う音、カチコチとノスタルジックに時を刻む時計の針。それらを包み込みまるで読み聞かせをするように本を持ったままこちらを見ている誰か。

    「もう起きたんですか?」

    まだ意識がはっきりと定まらなくて声のした方へ視線だけ寄越すもぼやけた輪郭しか掴めていない。それでも優しい声の主の声が知りたくて口を開いた。

    「おま…え…」
    「まだ全然夜ですよ」

    パタリと暇つぶしに読んでいたハードカバーを閉じて横に置く。寝ぼけ眼な彼のあちこちに跳ねまくる髪を何の気なしに触れようとすればガバッと上体を跳ね起こした伊織にその手を取られる。驚愕に目を見開く彼に対して立香は伏し目がちとはいえどこまでも冷静な顔つきだ。いっそ天然か馬鹿の方がもっとまともな表情であれたかもしれない。

    「りつか……本当に、」
    「……」

    寝起き故かあまり言葉が出てこないようだ。それはそれでここまで来たくせに未だ迷い続けている自分には丁度良い。この人とは初めから仕事以外であまり話をしたことがないから立香もどうしていいか分からない。分からないというのに自分の腕をとりそのまま存在を確かめるように頬ずりをしている伊織を見てしまえば気持ちが、前に、出てきてしまい、そう……に。

    「立香」
    「……はい」
    「立香、立香」

    嬉しそうに立香の名を呼びゆっくりと引き寄せられて胸の中へ。何度も抱き合って唇を重ねたあの頃。当たり前のように隣にいることを許されてその様に振舞ったが身体の関係だけがなくそれ故に不安だった。見せかけだけで中身はないのではないか。それでも彼が望むのならばと従った。あの時までは。

    ひとしきり再会を喜んでいた伊織であったがこれまでに溜まった疲労は多少の睡眠如きで解消するものでは無い。それでも久しぶりに纏まって寝れたおかげで少しはマシになった……とはいえ疲労は疲労。もう少し寝たらどうかと勧めてくる立香を前に抱く腕に力が入ってしまう。

    「今寝たらおまえがまた居なくなる……そう言ったら笑うか?」

    不安に揺れる瞳に立香は何も言えない。まだどうするかは決めていないのだ。しかしどこか期待している自分もいる。目の前の温もりを手放すのはまだ惜しい、と。だらんと下げていた手を伊織の背に回した。

    ───まだ、ここに居たい。

    「笑いません。どこにも行きませんよ…まだ」
    「まだ?」

    目ざとく不安要素を拾ってくる伊織に率直な言葉が出てしまう。あぁそうだ何も決めないままここまで来てしまった。確かに不安があったのも事実。しかし離れた理由は別にある。一度離れた者を易々と受け入れるとも限らないのは分かっていた。それでも彼の近況を聞かされて会わない選択を取れるほど立香は非情になれなかった。ただ、会わねばならない。そう使命感のようなものに駆られたのだ。後のことは彼と話し合ってから決めれば良い、などと。

    「何も決めないままここまで来ちゃったんです。だから……」
    「立香、」
    「一緒に……決めてもらえませんか?俺は知らないことだらけなんです。貴方のこと…………伊織さん」

    おずおずと顔を上げて2人の視線が絡まる。互いに青い瞳だが伊織は浅葱、立香は水色とそれぞれの色が溶け合う。ふとした瞬間に顎を取られて口を塞がれても立香は動じない。ただ言葉の代わりにそれを送られたのだと立香は知っているのだから。

    「一先ず"さん"付けを止めて欲しいのだがな」
    「……当面無理そうです」

    恥ずかしそうに顔を逸らせば彼は朗らかに笑った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭👏👏👏👏👏🙏💘🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    Σフレーム

    PROGRESSフェス伊×フェスぐだ♂

    可愛い女の子を助けたよ
    始末屋×運び屋2狭い路地裏で所狭しと電気関係のパーツを売買している。それがこの場所におけるかつての様相。今はやたらと露出の高い服装に身を包んだ現実には存在しないであろう美男美女の絵で埋め尽くされた看板がビルの合間から顔を覗かせ行き交う人は足を止めてスマホを構える光景が散見。

    「……」

    呆然と立ち尽くしながら何故…と呆れに嘆息が漏れるがいけない…とかぶりを振りスマホのメールから目的を再確認する。そう遠くは無い距離だが何せ縁のない土地だ。土地勘がない以上頼りになるのは右手にある型落ちして画面にもヒビが入っている相棒だけなのだから。
    甘い声で客を引くキャッチを躱しながら足を進めるも観光客も多く中々距離は稼げない。しまいには見知らぬ観光客に勝手に写真を取られる始末。どうやらキャラが何とか言っていたので誰ぞ似た架空の人物でもいたのだろうなと嘆息。しかし盗撮はいただけない。申し訳なかったが通り過ぎるフリをしてカメラごと斬らせてもらった。目にも止まらぬ速さで一閃、こうしてそれなりに高そうな一眼レフのカメラは見事真っ二つに切れてガシャンと道路へ転がり落ちた。更なる不幸はそのまま車のタイヤに轢かれて粉々になったことだろうか。
    2733

    related works

    lunaarc

    MOURNINGバレンタインで失恋して部屋を出たら晴信さんに会って、察せられて泣いちゃったところを追いかけてきた(タケルに言われて)伊織が目撃する伊ぐだ♀
    …のつもりで書いてたんだけどたぶん最後まで書ききれないと思うのでここまで。

    伊織いないけど伊ぐだ。晴信とぐだ子は×じゃなくて+(兄妹みたいな感じ)
    サムレムはコラボしか知らない+第一部と1.5部ちょっとしかやってない知識量のマスターです
    どうやって部屋に戻ったんだろう。腕いっぱいに抱えた仏像を棚に並べて、立香はしばし立ち尽くす。
    わかってはいた。一緒に駆け抜けた偽の盈月の儀の最中、ことあるごとに、傍で見てきた。
    片方が記憶を失っていても、あの二人の絆は強固なものであると。その間にぽっと出のマスターが割り込むなんてもっての外だと。わかっていても。
    「……はぁ…」
    それでもやっぱり、寂しい。
    そのやりとりを微笑ましいと思っていたのは確かだ。戦闘時には抜身の刃の化身のような鋭さを持つ青年の雰囲気が、彼の相棒が一緒だと柔らかく変化していく。それを見ているだけで十分だと、最初はそう思っていた。
    ただのマスターとサーヴァント。その垣根を超えるような接触をしてきた者は他にもいた。けれど立香はそれでもマスターでいられた。一人の人間としてではなく、サーヴァント全員のマスターとして。そうあることが自分の存在価値なのだと割り切っていたからだ。
    1563

    recommended works