若モリぐだ♂「まぁよくも老齢の私を籠絡したものだ」
「……」
白で統一された食堂にてぽつんとただ1人夜食を頬張っていた自分に投げかけられた言葉。嫌味と取るのが普通だろうが、ことマスターたる立香にはそう考える思考は残念ながら持ち合わせていない。
「それはどうも」
「褒めてない」
「あとうちにアラフィフの教授は居ないから」
「それも承知している。しかし閲覧可能なレポートを読む限り新宿で邂逅した君には心を砕いているようにも見て取れるのだが」
「フレンドさんの教授めっちゃ強いんだよね。困ったらサポート頼んでたし頼りになるよ」
「話の腰を折るな」
こんな深夜帯に帰還して他のみんなはマイルームに帰って貰ったがどうにも腹の虫は機嫌が悪かった。しょうがなく食堂にて夕飯のお零れでも預かろうと足を運んだがタイミング悪くエミヤがいた。小言を承知の上でこんばんはと挨拶する。だがその前に「夜食を所望かね?」と普段通りの彼だった。
有り合わせで悪いがと付け加えて運ばれてきたトレーの上にはうどんにおにぎりと厚焼き玉子といったいかにもな夜食。しかし正直食べられればなんでもいい、はやく腹の虫を黙らせたい立香は特に何も言わずに感謝の言葉だけを述べた。
「しかし理解に苦しむ。悪の素養どころか純然たる善な君になぜそこまで肩入れする?マスター」
いつの間にか目の前の席に陣取りこちらを観察するように会話を続ける彼にとって自分は興味の対象のようだ。てっきり居ないものとして空気のようにコミュニケーションを取らないものだと踏んでいたので肩透かしを喰らったような気分を覚えた。
「……ズゾー」
「おい、知識があるとはいえ啜る音は不快だ。止めたまえヨ」
「嫌なら何でいるのさ」
至極真っ当な質問をぶつけてみる。それこそ嫌味でもなく純粋に。弓の彼ならそんなこと気にもしないのだろうがやはり彼が若年で召喚されたが故の弊害なのか。
「今限りなく失礼な事を考えただろう」
「モリアーティがそういうならそうなんだと思う」
「私は!若輩であろうと!一切の妥協は!しない!……つもりだ」
「そういうとこ見てて微笑ましい。ズゾー」
「貴様ァ…」
うどんとは言ったがどちらかと言うとそうめんの部類に近い。細麺でなかなか腹にはたまらないが自分は好きだ。もちろん武蔵ちゃんが言う太麺のうどんも好きだしなんなら麺類全般が好みだとも言える。
だからこそエミヤは気を利かせておにぎりも添えてくれたんだろう。こんな時間だからあまりガッツリしたものだと消化に悪い。かといって任務上がりの空腹のマスターに消化の良いものだけだと腹持ちが良くない。そんないいとこ取りを目指して出してくれたのかと思うと明日会えたらいの一番に礼を言わないといけない義務感がうまれた。
「新茶の事だけどさ、」
「新茶」
「新宿のアーチャーだから新茶」
「随分なニックネームだな」
「大丈夫ウチに来たらもっと凄い呼び方になるから」
「嘘だろやめてくれ」
「なんなら貴方のことも若森って呼ぼうか?もしくは青も『止めないか!』」
★
「んン~~ムグ」
「食べながら話すな」
「ぷはっ、ご馳走様」
肘をつき明らかに怪訝そうな顔付きのモリアーティを差し置いて両手を合わせる。最後に食べたおにぎりは中身こそ入って無いものの絶妙な塩加減で胃が喜ぶ味付けだった。自分で作ると中々こうはならない。作る人間が変わるとこうも違うものかと感心するが頭の中のエミヤが自分はサーヴァントだとご丁寧に訂正してくるのはちょっと如何なものか。
「――君もアイツが来たらそちらを重宝するんだろう…」
「うん?」
「いや。忘れてくれ。ただの独り言だ」
「デカい独り言」
「余計なお世話だ、君は小姑か」
「マスターです」
「あぁ!そうだろうとも!」
アイツ。ちょっとキレ気味のモリアーティに水を勧めて断るどころか奪い取られて一気に飲み干される。話の腰を折るなとは言われたが実の所真面目には聞いているのだ。返答がテキトーなだけで。ここで言うアイツとは自分の思考でも2人までは絞られたがまだ確証を得られそうにはない。
「全体アーツのルーラーでシステム組めるのにモリアーティを重宝しない理由が分からないんだけど……」
「そういうメタい事を言ってるんじゃない。」
前言撤回。はやくも候補が脱落した。さらば探偵されど落ちるのは滝壺ではから無い安心してくれ。
「君は…いやよそう。流石にこれを君に告げるのは私としても不服だし何よりサーヴァントとして召喚されておきながら失礼にも値するだろう」
「……」
「何、君が悩むような事じゃないさ。私自身の問題だ」
「モリアーティ」
「なんだ」
「新茶PU来たら貴方を触媒にす『寝言は寝て言え』」
立ち上がった彼に素晴らしい形相をもって見下されたがまぁそんな日もあるのだ。