アイティ・メリの睡眠はまるで不具合のようだ。彼女の自覚する眠気には予兆がなく、またその訪れは昼夜を問わない。そして一度眠ればその眠りは深く、長い。
技術者たちの言うことには、それはプログラムに基づく訴求であり実務的な必要に駆られてのものでもあるという。
「ウチの神機様は欠陥品ってことかあ?」
「仕様のようなものだ。運用には問題ないし、むしろ最適な挙動と言えるだろうよ」
軽口に冷たい苛立ちを返されて、バウロは肩をすくめた。いわく、"母艦という特性上その巨体の機能を維持するには複数の副電脳を備えておりそれぞれが独立して複雑な活動を行なっており"、"本体であるところの人格を備えた主電脳、つまりマザー自身が眠っている間に彼女の体内の各種の器官はより活発な電算処理に勤しんでいる"。
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