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    808koshiya

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    転④続き

    ハンス・スイテブは魔呪具技師であり、優秀な術式編者である。
    魔呪の行使は本来文言を必要としない。体内循環であれ魔力放出であれ、術者が「そうなれ」と描いた通りの現象を発現させるのは立ったり座ったり、あるいは歌ったり泳いだり、ものを掴んで扱ったりすることの延長線上にある。巧拙に個人差があり、出来る・出来ないがあるように、強力な魔呪使いは固有の魔呪を「上手く出来るからそのように」使う。
    術式とはそれらの現象を言語化し、神世の言葉に置き換えることで魔力への干渉を可能とする技術である。口述もしくは筆記することで体内循環あるいは放出魔力、もしくは恒星片から放出される魔力エネルギーを任意の現象へと引き換える。音韻さえ成立していれば発動するため、意味を理解せずとも、丸覚えで構わない。
    「ローザリエ様が詠唱を必要とするということは方舟からもたらされた術式なのでしょう。少々詩的で難解ですが、おおよその意味は理解できます」
    なので、第三階層の人間が神世の言葉を音で解すること自体がユエには異常に思えた。曰く、そこには理論と法則が存在しているので魔力放出の才能とは無関係である、という。
    術式編者の大半は任意の現象の言語化と干渉可能な言語への置き換えを生業とする。「聞いて、理解する」のはまた別の話ではないだろうか。
    「星産みには見る限り3つの術式が使われているようです。ひとつは血液を元に擬似的な心臓を複製するもの。ひとつは呪のものの重さを量るもの。ひとつは心臓を任意の大きさまで成長させるもの」
    「それって僕にも使える?」
    「難しいと思います。どれも視座が高次元的で、相応の魔力階層でなければ扱えない類です」
    第三階層の魔力が自身の体内、第四階層が空間に作用するものだとすると、第七階層は時間・次元に作用するものと分類される。
    「星産みに相応の格が求められるわけだね」
    「はい。……この術式を使って、ローザリエ様は呪のものにご自身の心臓の複製を喰わせています。結果、恒星片になっている」
    「……」
    ハンスの顔色はお世辞にも良くなく、ハルニードの表情が見る間に固くなった。ユエも空気を飲んだ。
    「人間の肉を喰った呪のものは消滅するんだろ」
    「ええ、個体ごとに定められた量の魔力を吸収することで呪のものは呪核ごと消える。これはこの世の理です。が、星産みにおいてはそうなっていない——恒星片として残っている」
    映像から読み取った内容を淡々と告げられて、ハルニードも仕方がなく……もはや覗き見の罪悪感などとは言っていられず、映像を確認した。ハンスが続ける。
    「不死族は核を貫くと『消滅』したあとに復活しますよね。呪のものと同じように『恒星片になってしまう』なら?」
    「……復活もできない?」
    ユエがあとを引き取ると、ハンスは半信半疑に頷いた。彼の方でも確証のない仮定であるらしい。映像を見ていたハルニードが口を開く。
    「呪のものを恒星片にする何かがあるってことだよね」
    「『重さを量る』でしょうね。心臓を作って喰わせるだけなら不要な工程ですから」
    そこでハルニードはあ、と声をあげた。
    「? なんです?」
    「『同じ重さの心臓』だ」
    「なんですか、それ」
    怪訝に眉を顰めたハンスの正面で、ハルニードは口を噤み、しばらく何かを思い出すようにして考え、それから、怯えとも畏れとも歓喜ともつかない表情になった。
    「……わかっちゃったかも」
    「え?」
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