森の中で不死族の——呪のものが発する危険の匂いを辿る。ユエの感知器は試行を重ねるうちに精度を上げていて、処理場の近くを根城にしている不死族を見つけるのはさほど難しい仕事ではなくなっていた。
彼の挙動は主に緩慢である。相対した時の明確な害意を伴う捕食者の動きが嘘のようにのろのろと森を歩き、自らに引き寄せられてくる呪のものをのろのろと喰らう。それは目標がないときの呪のものがふわふわと地面を這う動きに似ているように思う。
「居たぞ」
「本当によく効く鼻だね。……眠ってる?」
「振り、だろうな」
今は、大木の一つに背を預けて座り込み微動だにしていない。護衛のつもりだろうか、その周囲を十体ほどの呪のものが取り囲み
手持ち無沙汰そうに蠢いている。特徴的な色味の目が閉じていることもあり、遠目には表情は窺えなかった。
「どう仕掛ける」
ユエは声をひそめて尋ねた。戦闘の邪魔になりそうな森歩き用の荷物を解き、頑丈そうな木の上方に括りつける。腰の後ろに吊っていた鉈を抜く。オーラレン市街で新調した目新しい金属でできた刃には恒星片の欠片とハンスが刻んだ魔力放出の術式が刻んであり、上手く使えば呪のものの核を潰せるという代物である。
「……んっとね。シンプルに言うとユエにはあいつの動きを止めてほしい」
「周りの呪のものは?」
「先に潰す。そこまでは僕もつきあう」
不死族に気取られないために装着していた義手と義足を外しながらハルニードが言う。人工物に塞がれていた魔力放出口から残り香のように魔力が漂う。ユエは歯を食いしばった。生命の匂い、臨戦の匂いだ。
「あいつだけになったら動きを止めて。止めを刺す準備にちょっと時間がかかると思うけど、頼む」
「わかった」
頷きあうと同時に迸る魔力がハルニードの四肢を構築した。首の後ろと背筋に奔る興奮に押されるようにして飛び出した視界の向こうで、不死族が目を開く。覚醒と歓喜の間に遅れはなく、天井から吊られるようにして立ち上がったかと思えば唇が虚ろに微笑む。
「繧ク繝」繝九せ讒?」
「人違いだよッ!」
助走と跳躍の反動を使った後ろ脚の蹴りがその顎を捉えた。ユエは同時に動き出したお供の呪のものに向かって鉈を振るう。
「霑ク繧後√>縺ォ縺励∴縺ョ譏溷スゥ」
丸覚えした短い詠唱を唱えると呪のものの実存部分を切る手応えが消えて、心臓部ごと叩き潰した勢いが余ってたたらを踏んだ。魔力放出による消滅に慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。
「便利だな」
「無駄遣いするなよ」
不死族に一撃を見舞った勢いのまま空中で身を捻り、ユエの背後に降り立ったハルニードが小さく笑う。刃に仕込まれた恒星片には限りがあるのだ。ユエは小さく顎を引いた。小さくのけぞった首を戻し、不死族はユエを睨んでいる。
「繧ク繝」繝九せ讒倥↓霑代▼縺上↑……」
「何言ってんだ、あれは」
「さてね」
膨れ上がる殺気とともに飛びかかってきた不死族の拳を鉈の背で受ける。
「髮「繧後m縲∫坤鬚ィ諠′!!」
「ッ!」
重い。殺気そのものが害意の匂いを帯びて衝撃波を作るようだ。巻き添えを避けるように飛び跳ねたハルニードが複雑な形の笑みをつくる。
「でも狙いはユエみたい。ちょうどいいね」
時間稼ぎを頼む、と投げられた声、その目は金色に光り始めている。