ハルニードが跳躍する。実質的に無手である彼が長物を相手取るには不足であるようにも思えるが、姿勢や身のこなしは獣に近い型はさほどの不利を感じさせない。しなやかな着地から再度の跳躍は足元から潜り込むように素早く、それでなくとも捉えどころのない重心移動は反対にリーチを持て余させる。
「せッ!」
「……?」
振りかぶった爪の一振りを辛うじて両手に構えた得物で受け止めて、不死族は急角度に首を捻った。唇がなんらかを囁いて、ハルニードの眉間を寄せさせる。
僅かの膠着を見てとって、ユエは反対の側面から走り込んでいた。奔る魔力を巡らせた脚だ、ハルニードのそれにも劣らない。
「……驍ェ鬲斐r縺吶k縺ェ……」
不死族は一瞬脱力してハルニードの姿勢を崩し、片手に持ち直した得物に絡んだ爪の方向を外しながら空いた片手をユエに向けた。目が合う。深い夜の色が発する敵意には食欲が混じっている。白い手のひらを横断する亀裂が唇と同じ形に開き、掴めばそのまま喰らおうという意志を見せる。
「ッ、!」
根源的な恐怖に辛うじて喉元に悲鳴を押し殺す。慌てて体を捻れば、その手が掠めた左腕の外側に鋭い痛みが走る。肉片をもっていかれた、と判断するのと不死族が恍惚と目を細めるのとは同時であった。
「縺薙l縺ッ縺ェ縺九↑縺……」
「くっ」
竦みかける脚を叱咤し距離を取れば、体勢を整えたハルニードも戻ってきた。振り出しに戻る、である。
「食われた?」
「少しな」
再生のための魔力を流せばまたさほどの問題はない。ポケットから固形食料を取り出して素早く咀嚼し、ハルニードの口にも入れてやる。
「なんかヤだな。あれ、僕の真似だ。呪素の物質化っぽい」
「あの武器か?」
「多分、剣」
切れると思う、と鍔迫り合いをしていた「両手」を確かめるのを横目にして、ユエは妙な納得を感じた。