ほんとうに大変な有様でしたのよ、とネムがのんびりと言うことには、ユエは片目と片足と両腕が取れかけていて、身体の前面のほとんどが焼け爛れた状態で見つかったらしい。その傍らには握り拳ほどの大きさの真円球型の恒星片が落ちていた、とも。
「いえ、あの大きさとあの透明度、あれをこそ恒星石と呼ぶそうですわね」
「……見たのか」
「一応。美しい石でしたわ」
天気が良く気温がちょうど良い。屋外のテーブルで食後の紅茶を挟むには適していて、洗濯物もよく乾くだろう。ネムが話す自身の有様と、今こうして席についてしっかりと座位をとりカップのハンドルに指をかけている自身との整合性の無さはどういうわけか。
「お怪我の方は——半分はお姉様が、半分はご自身の頑丈さで、といったところでしょうか」
「領主が?」
「ええ、感謝なさってくださいませ。ずいぶんご無理をなさったんですのよ」
「……」
それがずいぶんと恩着せがましい言い方であったので、つい頼んだ覚えはない、などと言い返しそうになった。なったが、ついにそれが口からでることはなかった。あまりにも小さい、恩を知らない発言だと気づいていたので。
「それは……悪かった」
「お礼は是非お姉様に。目が覚めたらお連れするように言われておりますの」
ネムはユエの内心の葛藤を見通しているかのようにふわふわと笑った。
「目が覚めたら?」
「ええ、お怪我の方は1週間ほどでよくなったみたいでしたけど、さっきまで意識が戻らなかったんですの」
「誰が?」
「ユエ様が」
ネムが告げる時間の経過があまりにも身に覚えがない。言われてみれば確かに、不自然に途切れた意識は不自然な状況につながっていた。
「あれから……どれくらい経ってる?」
「2……もうすぐ3ヶ月?くらいになりますわね」
「……」
ユエは空に月の影を探した。もちろんそれだけではネムの発言の真偽は問えない。意識がない状態の3ヶ月、と思えば、その期間に対する恐れと違和が生まれた。立ち上がり、脚が萎えていないことを確認する。腕を眺め、筋肉が落ちていないことを確かめる。
「その間、どうしていたんだ、俺は」
「何も。大人しく過ごしていただいておりましたよ。寝て起きて食事をして、適当な運動をして、日常的に人間が行う生きるための活動のあらかたはご自分でやっていただきました」
涼しい顔でネムが言う。広げた両手から魔力香な漂った。
「術式か?」
「はい。少し脳に触れさせていただいて。」
曰く、それはネムに備わったの特異的な術式の応用であるのだという。意識がある人間が相手にはほとんど効かないし、たとえ眠っている相手であってもその刺激で起こしてしまうために使えない、つまり特殊な状況に限定されてしまうが、脳、つまり人間の行動を司る箇所に干渉して行動を操ることができる、というものであるという。
「だから、体調には問題ないかと思いますわ。ご安心くださいませね」