夜中のホットミルクの味は優しくて愛おしい ふわりと湯気が立つミルクに、とろりとメリーが分けてくれた蜂蜜を入れ、スプーンで数回掻き混ぜる。
蜂蜜とミルクの甘く柔らかい香りを漂わせている二つのマグカップを手に取っては、アンドルーはキッチンから出た。
廊下にも階段にも誰も居らず、アンドルーの靴音だけが響く少し肌寒い居館内で、アンドルーは慣れた足取りで恋人の部屋へ向かった。
扉は予め半開きになっていて、手が塞がっているため扉を足で軽く蹴って開けると、作業台のランプに照らされながら発明に集中している恋人の後ろ姿が見える。
「ルカ」
ただ一言、名前で呼ぶとルカは振り返り、「ああ、おかえりアンドルー」と笑ってペンを置いた。
「ほら、ホットミルク。飲んだら寝落ちしても大丈夫なように、歯磨きしろよ。虫歯にでもなったら絶対お前、治療受け無さそうだから」
「ハハッ、分かっているとも。ありがとう」
ソファに座っては真っ白なシンプルのマグカップを受け取り、ルカはホットミルクの香りを楽しんでからふぅ、と息をかける。
アンドルーも隣に座っては両手でマグカップを持ち、ふぅ、ふぅ……と冷ましていた。
その様子を見ていると、まるで子供のようで愛らしいなと思い、思わずクスッと笑ってしまう。
「ん……何だよ」
「いや、何でもないよ」
こくん、と一口飲むとまだ熱くて「あちっ」と思わず舌を引っ込めるルカを見て、アンドルーもクスッと小さく笑った。
「む……何だい」
「別に」
アンドルーはホットミルクに目線を戻してはマグカップに口をつけてこく……とホットミルクを飲み込む。
蜂蜜の甘さとミルクのまろやかな風味が口に広がり、美味しいなと笑みを零していると、ルカも再度ホットミルクを飲む。
今度は大丈夫だったのか、ルカは「ん、美味い」と笑っていて、アンドルーはエマからこのホットミルクの作り方を教わって良かったな、と思った。
「それにしても、アンドルー。まだ起きていて大丈夫なのかい? 明日は朝から試合があるんだろう?」
「これ飲んでマグカップを洗ったら、部屋に戻る。お前もあんまり夜更かしするなよ。この間寝不足で解読何回も調整失敗してたんだから」
「あー……ハハ……善処するよ」
ああ、これではまた夜更かしするな、とアンドルーは呆れながらまたホットミルクを飲む。
「おーい、そんな目で見ないでくれよ。ちゃんと寝るって」
「どうだか。そう言ってベッドに行く直前に閃いたとか叫んで机に戻って、朝まで作業する癖に」
「んん……それは……否定できないが」
そうやって他愛のない話をしながらホットミルクを飲んでいるうちに、二人ともマグカップの中は空になってしまった。
アンドルーは空のマグカップを二つ手に取っては、「じゃあ、僕はもう行くから」とソファから立ち上がる。
ルカも立ち上がって「アンドルー」と呼ぶと彼は振り向いたと同時にちゅ、とキスをした。
「っ……!」
「おやすみ」
アンドルーは目を丸くさせては頬を赤く染めて、恥ずかしいのか目を伏せては小さく「……おやすみ」と返した。
何ならこの部屋で寝てもいいのに、と思ったが、穏やかに寝かせてやれる自信もないため、両手が塞がっている彼の代わりに扉を開けて、可愛い恋人の背中をただ見送った。
「……さ、言われた通りに歯磨きはしておくかな」
口の中にほんのりと残った蜂蜜の甘さがどこか愛おしく感じ、洗面所に辿り着くほんの数秒間でもこの味を堪能しよう、なんて思いながらルカは歩き出した。