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    karen_nyamnyam

    @karen_nyamnyam

    囚墓メインで活動してます( ˇωˇ )

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    karen_nyamnyam

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    ドルちゃんの誕生日祝い(のつもり)で書いた囚墓です。
    珍しくこの囚墓は付き合ってません。
    どっちかって言うとまだ友達かそうじゃないかぐらいの距離感かもしれないです。
    今年の手紙の要素はほぼ皆無です。

    少しだけ嫌じゃなかった日『お前みたいな悪魔なんか生まれてこなかったら、お前の母親もさぞ楽だったろう』
    『可哀想に、あなたのせいでお母さんまで酷く言われてたものね』

    悪魔、怪物、化け物、不幸を呼ぶ者……散々言われ続けられた言葉。
    アンドルーだって好きでこの見た目で生まれてきた訳では無い。
    出来ることならばアンドルーだって母と同じ茶色の髪で黒い瞳を持って生まれたかった。
    母と同じでいたかった。

    (僕なんか生まれてこない方が良かったなんて……僕が一番思ってる)

    自分を守る為に母は毎日石を投げつけられ傷つき、仕事をどれほど頑張っても大した金など貰えなかった。
    何人にも『あんな悪魔、捨ててしまった方がいい』などと言われ、それでも母だけはアンドルーを愛し続け、守ってくれた。
    アンドルーはカレンダーに目をやり、荘園の誰にも教えていない自分の誕生日の日付を見ては、忌々しそうに唇を噛み締める。
    もう誰からも祝われなくてもいい、アンドルーが望むのはたった一つ。
    『善人』だと聖殿に認めてもらい、聖殿で眠りについて天国で待っている母の元へ逝く……それが出来れば、なんだっていい。
    その為にこの荘園で大金を手に入れ、ラズ教会へ戻らねばならないのだ。
    日記を書いて眠る前に水を飲もうと思い、アンドルーは部屋から出てキッチンに向かう。
    夜中だからか居館の廊下はとても静かで、階段を下りるとコツン……コツン……とアンドルーの足音しか聞こえてこない。
    階段を下りてキッチンへの通路を歩いていると、キッチンの扉の隙間から明かりが見えて誰か居るのか、と少し嫌気がさす。
    さっさと水を飲んで部屋に戻ろうとキッチンの扉を開けると、同じサバイバーの仲間であるルカがコーヒーを淹れている姿が見えた。

    「ん? おや、クレス君じゃないか。どうしたんだい?」
    「別に……水を飲みに来ただけだ」
    「ああ、それならコーヒーはどうだい? 少し多めに淹れすぎてしまってね」

    コーヒーの匂いは嫌いでは無いが、コーヒーを飲んだことがないアンドルーは「……そんなの飲んだことない」と返すと、ルカは「え」と大袈裟に声を上げる。

    「コーヒーを飲んだことがない 正気かい、それは」
    「うるさいな……悪いかよ……」
    「なら尚更飲んでみたまえよ! ああ、苦いのが苦手なら砂糖とミルクを足すけれど、どうしたい?」

    まだ飲むと答えていないのに勝手に二人分のマグカップを用意して淹れようとするルカを見て、アンドルーは小さくため息をつく。
    ルカは誰にでもこうやって話しかけたりするが、やや勝手に話を進めがちでついていけない事がしばしばある。
    とはいえ、知識がないアンドルーを貶したり、馬鹿にすることもなければ、アンドルーの見た目をとやかく言ったこともない。
    だからアンドルーもルカと会話することそのものは嫌というわけではなかった。

    「じゃあもうそれでいい……」
    「ん、分かった! 少し待っててくれ」

    ルカはアンドルーの分のマグカップに角砂糖とミルクを入れ、スプーンで軽く混ぜてはアンドルーに差し出した。

    「はい、出来たよ。熱いうちに飲んだらいい、コーヒーは熱い方が美味いからな!」
    「……ありがとう」

    アンドルーはふぅ、ふぅ……と少し息を吹きかけてコーヒーを少しだけ口に含み、苦味の中に砂糖の甘さとミルクのまろやかさがあって、こくんと飲み込んでは「……美味しい」と呟く。

    「そうかそうか、美味かったか! 良かった良かった」
    「……お前、毎日飲んでるのか」
    「ああ、そうだね。ダイアー先生には飲みすぎるなって言われるんだが、飲まないと夜中の発明に集中出来ないからね。そうだ、今発明しているものなんだがね、この発明が成功すれば全暗号機がもっと効率良く解読できる可能性が高まるんだ、その為には……」

    また始まった、と思いながらアンドルーはコーヒーを飲む。
    ルカは発明に関する話が入ると、周りのことなど一切気にせずひたすら語り続けてしまうのだ。
    殆どの者は聞き流したり、途中でルカを放っておいて自室に戻ったりするのだが、アンドルーは理解出来ずともきちんと聞き続けていた。
    だからだろうか、ルカもアンドルーにはよく発明の話を持ちかけて語ってしまう。

    (理解は出来ないけど……まぁ、すごく楽しそうだし……別に日記書いたら寝るだけだから、いいか……)

    相槌を打ちながらコーヒーを飲み、やがてアンドルーのマグカップは空になってルカのコーヒーはすっかり冷めたが、それでもルカは発明の話を続けた。

    「……という訳で、あともう少しで発明も一区切りつきそうなんだよ」
    「……そうか」
    「……って、もうこんな時間だったのかい? 軽く一時間は語ってしまっていたな……」
    「そうだな」

    アンドルーは洗ったマグカップを拭いて食器棚に戻しながらそう返すと、ルカは冷めきってしまったコーヒーを飲み干す。

    「いやぁ、君が話し相手となるとついつい語ってしまうな」
    「僕じゃなくても勝手に語ってるだろ」
    「でも、君だけは最後まで聞いてくれるだろう? 結構嬉しいんだ、そういうの。君が嫌そうな顔もせず最後まで聞いてくれる度に、君が居てくれて良かったって思うんだよ」

    居てくれて良かった、その言葉にアンドルーはピタリと食器棚を閉める手を止める。

    「居てくれて……良かった?」
    「ああ」
    「……そんなの……母さん以外には初めて言われた……だって、僕は……」

    アンドルーの脳裏を過ったのは、過去にアンドルーを罵倒し差別し続けた村人達の声だ。
    アンドルーはその声を振り払うように首を横に振っては「……なんでもない」と言い、キッチンから出ていこうとする。

    「なぁ、クレス君」
    「……今度は何だ……よ」

    振り向くと同時に右目を隠しているかのように伸ばしている前髪をするりと耳にかけられ、アンドルーは思わず後ずさりしてドンッ、と扉に背中を打ち付けてしまう。

    「なっ、何して……」
    「ん、いや……その前髪の下どうなってるんだろうなぁって気になっただけさ。そんなに綺麗なのに隠してるなんて勿体ない」
    「き……れい、って……何だよ……それ……」
    「ん? 思ったことを言ったまでだが……」

    散々この目と髪色のせいで迫害され続けた。
    こんな目と髪を綺麗だと言ってくれたのは、母だけだった。

    『アンドルー、こっちにいらっしゃい。髪、梳いてあげるわ』

    母の膝の上に座って髪を使い古された櫛で梳いてもらい、母はいつも梳き終わると優しくアンドルーを抱きしめてくれた。
    母に抱きしめて貰える度に幸せで、母と過ごしている時だけは自然と笑うことも出来て、母はよく言ってくれたのだ。

    『ふふっ……綺麗な子』

    頬を包み込むように撫でてくれて、アンドルーの赤い瞳にも、色素の薄い金髪にも見える白髪の髪にもキスをして、愛おしそうに微笑んでくれた。
    こんな自分を綺麗だなんて言ってくれるのは、母だけかと思っていた。
    きっとルカにとっては、感じたことをそのまま口にした、それだけに過ぎないのだろうけれど、アンドルーにとってはその言葉は特別なものだったのだ。

    「っ……」
    「え……ク、クレス君……? どうしたんだい……?」

    嬉しさからなのか、それとも別の何かか。
    アンドルーの目からはポロポロと涙が溢れ、ぐしぐしとアンドルーはコートの袖で涙を拭う。

    「なんでもっ、ないっ……見るなよっ……」
    「……なぁ、クレス君」
    「ぐすっ……今度は何だよ……」

    ルカに腕を引かれたことで顔をルカの肩に埋めるような体勢になり、ルカは子供を宥めるかのようにアンドルーの頭と肩をポンポンと軽く叩いた。

    「ぇ、な、ん……っ……」
    「……君と私は似ているな」
    「はぁ……? 似て、ないだろ……お前は、こんな見た目してないし……僕より頭も良い……」
    「いや、見た目や思考は似ていないが……なんと言うかな。まぁ、似た者同士って感じさ」

    ルカは絞首刑にされる前のことを思い返す。

    『この人殺しッ……! あなたなんか居なかったら、あの人は死んでなかったのに……ッ!』

    もうその言葉を叫んでいた人物がどんな顔だったか覚えていない。
    けれど、終始罵倒され続けたのは覚えている。
    ここに存在しないことを望まれる……その理由はアンドルーとルカでは違っていても、他者から己の存在を望まれないことを体験したのは同じだろう。

    「……やっぱりお前の言ってること、分からない……」
    「うん、それでもいいよ」

    他者との交流を避けて逃げがちになるアンドルーはルカを突き放そうとはせず、宥めてくれるルカの手が母とは違っていてもどこか懐かしくて、すっかり大人しくされるがままだった。
    今年の誕生日は、ほんの少し、ほんの少しだけ嫌ではなかったな……と、心のどこかで思いながら、ぎこちなくルカの背中に腕を回したのだった。
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