Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    ninosukebee

    @ninosukebee

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🌟 😍
    POIPOI 23

    ninosukebee

    ☆quiet follow

    蜂須賀さん(@W8N3s)とのトークにヒントを得て
    本人はウニュサンが書きたかったと言っており……、9話後if?
    見直してません

    #ウニュ
    #サンウク

    いやはてのプリマ フロアに立ちこめる息苦しさにすっかりまいってしまって、サンウクは風を求め階段を登った。日々のルーチンをこなすことはグループの精神的な平常を保つために大切な一つだが、こうも破れかぶれでは足から腰から根が生えて墓土の上に居場所を定めかねない。一時退避は戦略的に有効だ。浸りきった淀みから解放されねばならない。せめて自分だけでも。
     口の中で言い訳を捏ねつつ登りきった先の屋上には、果たして夕焼けに染まる女の姿があった。女と言ってもまだ成熟しきらない、一人の少女である。彼女は踊っている。積み上げられた雑塵の隙間から覗き見る者の存在などまるで知らず、くるりくるりと回る影を連れて、最後に一つ飛び跳ねると、世紀末のプリマは観客のいない虚空へ気のないお辞儀をした。はあ、と疲れた息を吐く彼女の艶髪を、強く吹いた風が乱暴に嬲っていく。よろめく少女の姿にわずか動揺を煽られて、サンウクは喉に詰まった息を吐き出し舞台へと上がった。
    「ウニュ」
    「……! おじ、さん……」
    「なにしてる、兄貴が心配してるぞ」
    「心配? でも、アイツは探しに来ないのね」
     少女の長く伸びた前髪が顔にかかり影を差す。さびしさを帯びた面影は、いつも眉間に皺を刻んだ彼女の兄に似ている。彼の憂いがウニュに伝わることはあるか、次の悲劇が来る前に――。今この家で伝染するのは欲望の病ではなく、ただ疲弊と悲しみだった。
    「ねえ、おじさん」
     ウニュの視線に合わせてすこし屈んだ格好の袖を引かれる。いつも揶揄いや皮肉をはらんで向けられる彼女の眼は、今は弱々しく揺れ、それでも強い光を放っている。
    「お願いなんだけど、髪、切ってくれる?」
     サンウクは、はじめ彼女の言葉の意図がわからず、伸びきった自らの前髪を引っ張った。後ろ髪にしても、ぼさぼさと野放図に伸びて、それを指摘された気まずさに乱れた髪を掻き回す。それを見るウニュは、目尻と口端をたわめて笑う。
    「ははっ、おかしい、おじさんったら! そーじゃなくってさ、わたしの髪を切ってって言ったの」
     西日に染まる屋上で高く笑う少女の姿を、サンウクは眩しく見つめた。
    「ほら、こっち!」
     ひらひらと踊るテンポで椅子を用意し自ら首に布を巻き、華奢な手を重ねてサンウクを導く。促されるままにサンウクは少女の背中に立ち、その小さな頭を見下ろしていた。
    「ハサミはこれね」
     髪を切るには大きすぎる工作用のそれは、護身用にと身につけていたらしい。こんなもので髪など切れるかとサンウクは愚痴を捏ねたが、何度か開閉を重ねると、渋々の表情で鋏を構えた。
    「兄貴に頼まないのか」
    「アイツ、絶対切ってくれないもん」
    「おれの腕は信頼できないぞ」
    「切ってくれそうなのがおじさんだけなんだから、しょうがないでしょ」
     言うと、ウニュはもう客の態度で「短くして」とだけ発した。
    「おじさんよりも短く、ヒョンスよりも、バカ兄貴よりも、もっと短く」

     しゃりん、ジャキ、愚直な鋏は言われた通りにウニュの髪の毛を刈り取っていった。そうしてウニュが満足する頃にはサンウクの足元は散切りの黒髪でまっ黒になって、その積み重なりは少女の愉悦らしい。機嫌よく頭のかたちの露わになった髪型をなぞっている。
    「満足か」
     屋上に散らばったウニュの髪をやや惜しみつつ、サンウクも己の髪に鋏を入れながら尋ねた。
    「うん、すごく」
     その表情は恍惚として見えた。
    「わたしね、もうバレエやめるんだ。舞台じゃいつもぎちぎちに痛くなるまで縛られる髪がいやで、ずっと短い髪が憧れだった。苦しいだけのコルセットも、シューズに合わせて変形していく足も気持ち悪くて、痛くて、わたし全部、ぜんぶいやだったんだ。ねじれた足はもう諦めた。でも、こんなに、こんなに自由になれるなんて、これが世界の終わりだなんて、こんな世界、来ると思ってた? おじさん」
     ふらふらと屋上を歩き回りながら言う。その歩行はやはりバレエの舞踏に似て、そして彼女が屋上の端にたどり着いた時、サンウクは緊張を走らせた。黄昏の闇が少女を覆う。その輪郭は曖昧な光に輝いて——。
     やにわにウニュの影が空へと飛びこむ。サンウクは疾駆した。這いつくばって必死に握りしめたのは、トゥ・シューズを履いた少女の細い足首だった。自らの腕にぶら下がったウニュの身体はひどく軽く、しかし少女の心のかたちにずしりと重かった。必死で引き上げた小さな身体を掻き抱いて、わっと泣き出した散ばらの頭を撫でつける。泣き止まない少女はサンウクに縋り言った。
    「おじさん、わたしっ、もう踊れないよ」
    「踊れなくていい。踊らなくていい、もう、いいんだ……」
    「……ひどいね、おじさんは」
     涙をあふれさせて、ウニュの言う言葉をサンウクは否定しなかった。世界の終わりにあって憂うこの家の子どもらをもしもさいわいに導けるなら、その代わりに何度地獄の業火に身を晒したとして、もう何も怖くないのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💃🌇💇🙏😭💙✨✨✨✨😭😭😭💃😭😭💇😭😭👏💖💖😭🙏😭💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ninosukebee

    REHABILIオリオン座流星群に寄せて
    流星の夜 きん、ぽちゃ、からん。ころ。
     風も騒がぬ静かな夜に、いたく華やかな音を聞いた気がして、ジェホンはそっと目を開いた。薄目で引き寄せ確かめる置時計は、だいだい色の影に午前2時前を示す。56、57、58——、デジタルのカウントを眺めながら眠りの淵に落ちかけたとき、またぽちゃん、から。と鼓膜を揺らした音は、居間の方からするようだった。今夜はそこのソファを宿りにする人が、なにかしているらしい。ああそろそろ彼のためのちゃんとした寝床を用意すべきか、あの人はあそこを気に入って使っているようではあるが——。
     そこまでうつらうつら考えて、きん、ぴちゃ、ころん、いよいよ居間の様子が気になったジェホンはのそりとベッドを起き上がった。エアコンを入れるほどではないが、夜中になるともう家中めっきり寒くなる。寝起きの身体はわずか火照っていたが、すこし迷って、まだ片付けていなかった夏用のタオルケットを手にした。彼はちゃんと暖かくしているだろうか。薄っぺらい布を肩に羽織ってのろのろと廊下を歩く。タオルケットよりもポソンの方が必要だなと思っても、用意はまだどこにもなかった。居間の扉の手前、音は変わらずきらりぴちゃころ耳を騒がせている。
    2074

    related works

    recommended works

    ninosukebee

    MOURNING『月の裏側に咲くひなぎくの下には』
    サンウクがいっぱい。月に囚われた男パロディ、SFジェホサンやおいSS(に収まらなかった)
    没供養、推敲できてませんごめんなさい
    基地を遠く離れたローバーに搭載されたナビゲーターは、先程から『サラン採掘地区外に出ます』としきりに警告している。しかしサンウクの隣でハンドルを握るジェホンは、ためらうことなく一心にローバーを走らせた。はたして通常活動区域を脱出したローバーはなにごともなかったかのように沈黙し、そこでようやくジェホンがアクセルペダルから足を離す。
    「ルナ社の月面管理区域を出ました。これで彼らに知られることなく地球との長距離間通信が可能です。さあ、どうぞ」
     ジェホンに促され、サンウクはおそるおそる携帯通信機器の電源を入れた。たしかめるように、ゆっくりと番号を打つ。指が覚えきっているそのナンバー、サンウクの育った孤児院、懐かしきグリーンホームを思って。震える指で最後のボタンを押す。数コールの後、若い女性の声が応答した。
    「はい、こちら児童養護施設グリーンホームです。ご用件をお伺いします」
    「あ、——」
     記憶にあるものより幾分大人びて聞こえたその声に、咄嗟に息が詰まるのを、サンウクは堪えられなかった。モニターに映った女性の顔にかつてともに暮らした少女の面影を見て、思わず画面に手を伸ばす。
    「あの、もしもし? 6330