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    kow_7726

    @kow_7726

    忘羨、曦澄に日々救われる。

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    kow_7726

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    下戸藍湛×バーテン魏嬰
    〜出会い編〜

    #忘羨
    WangXian

    ノンアルコール・モヒート!(1) 都心の大通り。金曜日の深夜の街はまだ賑わっていた。人通りの多いその大きな通りから一本外れた道に入る。道を一本外れるだけで人通りはほとんどなくなっている。
     邸宅が並ぶその中に、白く四角い簡素な建物があった。看板も窓も見当たらない。暖かなクリーム色を発光する楕円形のライトが等間隔で置かれている。大して大きくもない建物の割に、大きなアンティークオークの扉が目立つ。
     店内は落ち着いた明るさで、華美過ぎないシャンデリアと壁の間接照明。白い壁に、扉と同じアンティークオークの床。同じ色のテーブルが広い間隔で三つとカウンター。スツールは壁と同じ白で統一されている。カウンターの奥には様々な種類の酒やサーバー、多種多様なグラスが設置されている。
     現在、テーブルにはカップルが一組、女性が一人。カウンターの六席は全て空いていた。落ち着いたジャズが流れていて、ゆったりと寛げる空間だ。
     一見してバーとわからないその建物の扉に手を掛ける数人のサラリーマンの姿があった。既にアルコールが入っているらしい。一人が入るのに渋っていたが、押されるようにして中に消えていく。

     扉に取り付けてあるベルの音に俺は振り向いた。この店には珍しい人数だ。幸いカウンターは空いているし、問題は無い。
    「いらっしゃいませ、カウンターでよろしいですか?」
     五人で来ていたサラリーマンは頷いてそれぞれ座る。こういった場に慣れているようで好みのカクテルを注文してくる。四つのオーダーを手早く、慣れた手付きでカクテルを作り上げていく。勿論、注文してきた順番もきちんと覚えている。
    「お待たせしました」
     コースターの上にそれぞれ注文された物を置いていくと、一番奥に座ったまだ注文をして来ないま客に目線を向けた。そして、その視線を奪われた。
     その人は、美の叡智を集結させて作ったような整った顔立ち、溢れ出る気品、スーツの上からでもわかる引き締まった体躯で、所謂絶世の美男だった。吸い込まれるように見つめていたが、視線に気付いた客と目が合うと営業スマイルで一歩近づく。
    「何にしますか?」
    「………烏龍茶を」
     …………。
     烏龍茶。
     そんな、ペットボトルで飲めるものをこのバーに来て頼む奴は初めてだった。流石に、烏龍茶までは手作りをしていないから、市販のものだ。嫌味か…?
     グラスに氷を入れながら一瞬だけ考える。憂いるような瞳は、もしかしてメニューがないから困っていたのかもしれない。以前に似たような客が、いた。可能性はゼロではないなと思い至る。
    「お待たせしました」
     市販の烏龍茶を美男の前に出す。小さく頷くだけで、目を合わせようとすらしない。内心少し、つまらない。どうせ俺の店に来たのだから、美味しい飲み物を飲んで楽しんで欲しい。そう思いながら、洗い物を始める。
     どうやら五人は会社の同期らしい。一人がこのバーを教わり来てみたかったようだ。奥の美男は、静かに烏龍茶を飲んでいる。次第に話が盛り上がった四人は囲うように話し始めてしまって、美男は手持ち無沙汰になる。しかし、帰ると言って空気を壊すつもりもないらしい。優しい奴なのかもしれない。
     お節介魂が、むくむくと膨れ上がる。
    「お客さん、炭酸は飲めます?」
     長い指でグラスの縁を撫でていたその美男は、此方に視線を向けて一瞬だけ驚いたように目を見開く。その無防備な表情に見惚れた…なんて事は、ない。断じてない。
    「………何故」
     警戒心を露わに、僅かに眉根が寄る。小さく問われるとにっこり、微笑む。警戒を無理に解かせる必要は無い。これはただの、お節介なのだから。
    「もし飲めるなら、オニーサンがとっておきを飲ませてやろうと思ってさ」
     わざと砕けた口調で話をする。少しでもこのバーで楽しんで欲しいという思いを込めて。
    「………………」
     沈黙。どうやら困惑している様子。けれど、先程より警戒心は薄れている気がする。
    「飲める?」
     もう一度問うと、僅かな警戒心を瞳に残したままで頷いた。俺は笑顔で頷き返して、シェイカーを片手にノンアルコールカクテルを作り始める。一般人にはノンアルコールとわからない程、手早く作る。軽く振って、グラスに注ぐともう一つ出したコースターの上に置く。
    「俺の奢り。信用できないバーテンだと思うなら無理に飲まなくていいからさ。あんたに似合うと思って勝手に作っただけだから」
     グラスの中には、淡いブルーの飲み物。定番だけど飲みやすいチャイナブルーだ。美男はそれを見つめていた。これ以上は踏み込まない方が良いだろうと、距離を取る。
     店内の様子を眺めながら、グラスを磨く。時折注文されたカクテルを作って回る。一人で来ていた常連の女性客と談笑したり、カップルがもっと親密になるようそのテーブルにキャンドルを焚いてあげたり。
     閉店時間も近くなってきて、カップルと女性客は帰って行った。五人も腰を上げる。会計を済ませて見送った。
     俺は伸びを一つして、店内の清掃を始める。ふと、美男の席に目を向ければ、チャイナブルーは空になっていた。
     嬉しい気持ちがふつふつと湧いてきて、ご機嫌に片付けを済ませる。しかしふと、酒の飲めない彼はきっともう来ないだろうと思った瞬間、とてつもなく寂しくなった。モップを持った手が止まり、溜息を吐き出す。
     ………、何だろう。寂しい…?
     ぶんぶんと頭を振って、否定する。客との距離は近過ぎても遠過ぎても駄目だ。来る者拒まず去るもの追わず。来て欲しいと願うのは自分の流儀に反する。
     気持ちを切り替えて、掃除に取り組んだ。
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