指ぱち1号に夢を見る(付き合う前:無自覚1→←無自覚飯)
「ん〜…ここまではあってるとおもうんだよなぁ…」
1号はうーん、と頭を捻る僕から資料をとりあげ、ぱらぱらと捲る。
右へ左へ目を泳がせながらふむ、と頭を捻った1号の横から資料を覗き込んで気になるところを指差した。
「挙動がおかしいのはここなんだけど…」
「こちらの値は変えて試したのか?」
「うん。その結果は後ろの…ここ。この結果になってね」
「なるほど…」
「本当なら、ここを変えたらこっちも変わるはずなんだけどなぁ…」
僕の気になるところを話すのをふんふんと聞いていた1号は突然そうか!と声を上げると同時にぱちん!と指を打った。
目の前の資料をぺらぺらと巻き戻すように捲りながら、ここの値を変えてみればいい、と満足気に僕を振り返る。
突然の所作に避けるまもなく1号の顔が目の前に飛び込んできた。
わ、と声を出したのは多分僕で、咄嗟に身を引くと後ろの積まれた本に躓く。
重心が後ろに傾いて、あ、と声を上げた。
この後来る痛みを予感して、ぎゅっと目を閉じる。
そんな予感に反してやって来たのは頭や背中を打つ痛みではなく、腰をぐんっと支えられて、重力に逆らう衝撃だった。
はっと目を開けるとやっぱり1号の顔が目の前にあって、片手で僕の腰を抱き、壁についたもう片手で2人分の重量を支える。
「あ、ありがとう」
「……意外と鈍臭いんだな」
そう言ってふっと笑う顔があまりに優しい。
僕は頬が熱くなるのを、助けられた不甲斐なさと笑われた羞恥のせいだと思って、はは、と笑って誤魔化すしかなかった。
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(付き合ってる1飯)
論文作りもひと段落ついて、散歩でもするか、とランニング用のジャージに着替えて家を出た。
近くの公園まで着くと、いつも静かなそこには珍しく人だかりが出来ている。
その輪の外側まで寄っていくとガンマ達がヒーローショーの握手会?みたいなやつをやってるみたいで、2人は小さい子供を抱き抱えたり、ポーズをとって写真を撮られたりしていた。
ほえぇ、すごいなぁと気の抜けた声を出して感心してると、1号の視線がゆっくり持ち上がって、僕を捉えると真っ直ぐこちらに向けられる。
あ、と咄嗟に手を上げたものの、小さな女の子と男の子を両手に抱える1号は手を上げられるはずもない。
慌てて手を下ろす僕に、1号はぱちん、と片目を瞑って合図した。
その所作にわぁっと観衆が湧く。
きゃあきゃあと甲高い歓声が上がる中、それでもその合図が間違いなく僕に向けられたことに高揚する自分に気づいて、悔しい。
心の中でくそ〜っと悪態をつきながら1号を睨む。
そんな僕に満足気にふっと目を細めて笑うその顔にまた一際大きな歓声が沸いた。