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    けがわ

    @kawaii_hkmr

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    けがわ

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    ルカ、おめでとう 2025

    荘園ってベランダ的なところあるんですかねルカ・バルサーは、恋人であるアンドルー・クレスとの情交を終えて、外の空気を吸う為に扉を開いた。荘園の部屋には簡易的な柵が付いた縁側がありルカは考えが煮詰まった際に、他人との必要以上の接触を避けてそこから顔を出すのを好んでいた。いくら変人・奇人の集いであるこの荘園とは言え、協力した試合が求められるのだから、ルカとはいえ他人の目を気にする。ただひたすらに頭を無にしたいとき、そんな時にこの扉を開けるのであった。

    しばらくぼーっと思考を停止させて、ルカは室内をふと振り返る。真っ白のシーツに包まれた恋人の姿を見ると、月の明かりに包まれて淵が曖昧になりシーツの海に溶け込んでいるようだった。こけた頬は荘園で初めて対峙した時よりはふっくらとしたように思うが、骨が浮かび上がるような体全体のラインは変わらない。求めるがままに蹂躙を許し、ルカであるならと視界に入れるのを受け入れた勝手知ったる体は、無防備にその前に横たわるのみである。無防備な姿を見つめて、特徴的な八重歯を覗かせるようにふっと口角があがるのを感じた。
    ルカはくるりと体を翻して月を見た。ややオレンジ色にも見える月は、肉眼でとらえるにはあまりに小さい。大きな惑星であるというのに、その手を伸ばしてみると指先で掴めそうだった。きっと世界にとって、ルカもそのような存在であり、ちっぽけで取るに足らない小さな一個人に過ぎない。こうしてまた一つ年を取った。人間の寿命は短い。この事故で焼かれた頭で、本当に永久機関の発明など完成させることが出来るのだろうか。成し遂げたいことは山ほどあるというのに、課題だけが伸し掛かっていて身動きが出来ていない。呼吸が苦しくなり、電流が走るかのごとく頭痛がぴりと駆けたため、ルカは溜息を吐いた。
    不安に駆られても仕方がない。センチメンタルになる時間すら無駄であると分かりつつも、人間は単調で浅はかでどこまでも感情的だ。なりふり構わず夢を追えば良いものの、こうして人と関わり安堵を得ることを必然としている。

    ルカは足を少し引き摺ってアンドルーに近付いた。なるべく、警戒心の強いアンドルーの眠りを妨げることのないようにゆっくりと。
    白い綿毛のような毛に縁どられた、血のように赤い瞳は姿を隠している。定期的に行われる呼吸は、ルカを安堵させた。無害だ、とそう強く思った。
    恋人にすら、それを求めている。臆病で感情的なルカは、己を自嘲し今度は鼻で笑った。
    するとどうだ、無害だと感じたばかりのシーツに包まれていたアンドルーは唐突にがば!と動いた。
    ルカは驚き声を上げて、「あ」とも「い」とも言わない間にシーツの中に包まれる。世界は真っ暗で、静寂で、薄気味悪くて、孤独で、寂しくて、そんな中でアンドルーの白だけが光のように輝いた。ルカのグリーン掛かったグレーの瞳は、それを捕えてきらりと煌めいた。

    「・・・何を、考えてる?」
    「あ、えっと、起きていたのか。」
    「・・・ルカ、僕はお前の考えを・・・読むことも、理解することも出来ない。」
    「・・・」

    アンドルーの言葉はいつだってルカの胸を打った。何故ならば、言葉を知らない彼が紡ぐ場慣れしないような言葉は、赤子のように純真であったからだ。いつものように考えながら自分の頭の全てを使って言葉を選ぶアンドルーの次の一言を、ルカは犬のように健気にじっと待った。

    「でも、知りたい。お前のことを・・・。教えて欲しい、これからも、僕に。」

    アンドルーが、今覚えたと言わんばかりの下手くそな笑顔で、不器用にへらりと微笑んだ。

    二人だけの世界の中で告げられた言葉はルカの落ち込んだ心に染み亘った。どくどくと早鐘を打ち、矢が刺さったように胸が痛むのを感じるし、それとは反対に羊水につかるかのごとく温かく心を満たすのも感じる。汗がじとりと背中を濡らし、「アンドルー」と彼の名を呼んだ。それが天才とうたわれたことだってあるルカの脳が発することが許された唯一であった。

    「アンドルー。」

    もう一度名前を呼ぶ。アンドルーは「ここに居る。」と言ってルカを抱きしめた。温かい。
    己は発明に全てを捧げた身だ、それを口に出すのは叶わない。あまりに不誠実で、彼に申し分が立たない。ルカはそれを重々に承知したうえで、思考した。
    ルカは、彼を愛している。
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