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    けがわ

    @kawaii_hkmr

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    けがわ

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    愛し合ってて②

    君の寝顔でこころが満たされる話既に朝だろうか、昼だろうか、はっきりとは分からないがカーテンから朧な日差しがベッドへ木漏れ日となり線状に落ちていくのを見た。ルカはその光の線を、ピアノの鍵盤の反射のようだと思いながら、ふにゃりと目を開けた。
    目を開けた先の光景は碌なものではなかった、ルカの自室だ。煤けた部屋、散らかり壮大である機械薬学の研究紙、そして金属部品、不要な衣類、食事の後、エトセトラ、見慣れた風景が並んでいる。だと言うのに、全ての床や壁に比べて、この頑張れば二人寝られるような小さなベッドの中だけはやけに煌めいて見えている。薄汚れたシーツを少しばかり開けると、恋人であるアンドルー・クレスが無防備な顔でまだすうすうと眠っているのだ。ルカはきゅうと胸が締め付けられるような気持ちになった。白くきらめいた睫毛がゆるりと揺れるのを見るのは可愛らしい。青白い顔色は、睡眠により僅かながら血色も良い。何より、胎児のようにくるりと腹を守るようにして抱え込みながら丸まっているのは、筆舌尽くしがたい。
    体力の関係なのだろうが、くやしいがルカの方が、いつも起床が遅い。ルカがシーツから這い出し目を擦るくらいには、アンドルーはいつもすっかり黒のコートと緑のスカーフに身を包み、朝食だぞとトレイを持ち上げているイメージしかなかった。その手にはいつだってルカの分の食事も運ばれてきており、腑に落ちない態度で「昨日、あんなに抱かれてたよな?」と、腰回りを撫でたことで、それを盛大に落とし、私の頭上にもまた雷が追ったのであった。

    今日は私が先に起きたのだから、私の番だ。ルカはそう意気込んだ。いつもアンドルーにしてもらっていることの少しでも返したい。私だって、恋人として出来る男だと言うことをアピールしたかったのだ。まずは、何も着ていないアンドルーの部屋着でも探してやろうか、と周囲を見回したところ、衣類は獣に襲われたかのように四方八方に飛んでおり、自慢ではないがこの散らかった自室で探すのは面倒だと結論付けた。では次にコーヒーや紅茶・・・と思ったが、この部屋には昨日に持ってきた白湯のカップしかない。部屋から出るのは補助具の関係で、いやに面倒であった。
    あれこれ考えるとおまけとばかりに、嫌なタイミングで頭痛まで襲ってきやがって、ルカはベッドにぼふりと倒れ込んだ。(ああ、アンドルーすまない。君のようにスペシャルなダーリンを私にすることは出来ないかもしれない。)そう思いながら寝転がりアンドルーを横目にちらりと見ると、アンドルーはまだ瞳を開けずにすうすうと寝息を立てていた。やることも無くなり、ルカはじっと彼の顔を見た。少し軋んだ細めのプラチナの髪、穏やかに下がっている眉毛、白い綿毛のような睫毛に縁どりされた瞳、高めの鼻、カサついた薄い唇。上から人差し指でそれをなぞっていく。まだ起きない。
     どうしてだろう、全てただの男を形作るパーツに他ならないと言うのに、心臓が跳ねる。可愛らしい。愛くるしいとも思う。これは重症だ、今回の頭痛の正体は非常にばかばかしいが恋煩いなのではないだろうか。ふざけている。唇を横になぞり、少しばかり湿った口内を感じる。
    「早く起きろ、起きなければ、知らないぞ。」
    私なんかにこんなにも隙を見せて。君を平らげる狼は目の前に居るというのに、アンドルー・クレスと言ったら、くうくうと無防備に口を少し開けて寝ている。はぁ、これでは東洋の言葉で言うと、暖簾に腕押しといったものだ。危機感の無いアルビノ男をじっと見つめていた時だった。私のあまりの圧に居心地が悪くなったのか、ううんと唸り寝返りを打つと私の方に横になり、ゆっくりと目を開けた。

     白くまろい形の瞼がゆっくりと開かれていく。中からは、毒々しく実ったストロベリーのような赤がゆらりと揺れて、こちらを見る。まるで木苺の花が咲くようだと思った。ぼんやりと反目で私を見つめる男は、この世の物では無いかのように美しい。しかし、これは正しく私のものなのだ。

    「・・・おはよう、アンドルー。」
    アンドルーはううんと伸びをしたかと思うと、きょろりと周囲を見返して座位になる。舌足らずに「おはよう、るか。」と挨拶をした。心の羊水を満たすことが出来るのなら、私の心は今洪水のようにぐわんぐわんと波打っている。水の音で煩いこのポンコツな胸は、挨拶のひとつでままならない。ああ、うるさいぞ、少しは静かにしてくれないか。高々、挨拶程度でこんなにも幸福を感じていては、これからがもたないではないか、と必死に叱咤を繰り返した。
    人の心も知らず、寝ぼけたアンドルーは首を傾げるとルカに「ルカ、おはよう。」と再度言葉を漏らした。不器用な笑顔のおまけつきで。
    ルカはがんがんと胸を打ち付ける思いがばれないように、きりっと表情を整えた。しかし、「アンドルー。」と、愛情をひっくるめた優しくて甘くてふやりと蕩けた声で名前を呼んでしまったのだ。天才を自称したとしても、愛の前では何も隠すことなど出来はしない。天才発明家だといえども、駆け引きも出来はしない。全てが無駄な努力だったと言うわけだった。
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