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    けがわ

    @kawaii_hkmr

    文字書いたり、あまりないと思いますが絵を描いたりします

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    けがわ

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    内容が無いよう。穏やかで何でもない誕生日の話です。

    誕生日おめでとうの話今日のゲームは、良くも無く、悪くも無く。カールとルカとナワーブと僕。不思議な編成でレオの思い出の中で試合を行ったが、最後の暗号機が上がる頃にはルカが二度椅子に座らされていた。最後にナワーブが救助を行い、ルカは通電後すぐに荘園に戻されたが、その後カールが納棺したことにより、僕もゲートから出られ三逃げを取ることが出来た。
    荘園の椅子に戻ってくると、ルカは「椅子で飛ばされる感覚は、何度体験しても慣れないな。」と苦笑いしており、僕も「納棺も慣れたものじゃないけどな。」と言い返した。カールが待機部屋から出ていこうとしながら「納棺に文句があるなら、もうしませんが。」と僕に言った為、僕は怯んで肩を揺らし、素直に「す、すまない・・・。」と謝ると、カールはちらりと視線を残して無言で出ていった。ナワーブが僕の肩をポンと叩いて出ていく。ナワーブなりの励ましだと言うことが伝わる。寡黙で不器用ながら、面倒の良い男なのだ。ルカをちらりと見ると、僕の自業自得なのだが、人の不幸に対して、くすくすと笑いをかみ殺しており、「おい。」と窘めると、堪えきれないとばかりに引きつった笑いを漏らした。

    ルカと、廊下を歩いて自室に戻る。ルカとは隣部屋な為、戻る方向もほぼ一緒で、大体は部屋のドアの前でいつも別れることになるのだが、その道中で掲示板が目に入った。荘園では新しい知らせがあると、ナイチンゲールだろうか、いつどこで行われているのか分からないが、いつの間にか紙が張ってあるのだ。ちらりと目線をやるとそこには、目新しい紙が張ってあった。そこには、べらべらと喋り続ける隣の男の誕生日についての知らせが張ってあった。僕は目を見開いて、紙とルカを交互に見た。え、誕生日?僕は混乱して、その場に立ち止まった。
    (き、聞いてない・・・!!!!)
    ルカもしばらくは僕が立ち止まったことに気付かず歩いていた癖に、相槌を打つ人間が居ないことに気付いたらしい。後ろを振り返って「アンドルー?」と僕の名前を読んだ。
    「お、お前・・・!お前、これ!!」
    僕は紙を指さす。七月十日。ルカ・バルサーの誕生日。ルカはしばらくその紙を眺めると、「ああ。」と何でもないように手を打った。

    「そういえば、明日は私の誕生日だ。」

    けろりと告知されたが、僕にとっては重大事項だ。恋人であるルカの誕生日、事前から知っていれば流石の僕だって何か用意することが出来たのに!
    「え・・・?な、何で。何で言わなかった・・・!?」
    「何でって・・・。」
    わなわなと震える僕の前で、うーんとルカは首を傾げた後に「忘れていたから?」と疑問符を付け、癖なのだろう指を立てられる。その閃いたとばかりに繰り出される仕草すら今は憎らしく感じた。意識をルカにのみ向けていた僕の注意をすり抜けて、いつの間にかエマが隣を通りかかる。「バルサーさん、前に言ってた夕食のパーティには出て欲しいなの。なんたって主役なんだから。」とにこやかに笑われ、こそっと僕に「アンドルーさん、よろしくね。」と耳打ちされる。「おい、どういうことだ・・・?」とオイルが切れた機械人形のようにぎぎぎと首を振り向かせると「ああ、忘れていた。」とひひっと笑った為、流石に人間関係を疎かにしすぎるポンコツの頭を小突いた。ルカの痛みに悶える悲鳴が廊下に木霊したが、僕がやったことは間違えてないと思った。

    それにしても困った。
    この荘園では下手な慣れあいは誰も推奨していないものの、いつも誕生日の日は豪華な夕食や酒が振舞われる為、誕生日パーティを欠席するものはあまりいない。むしろ主役であれば、強制参加と言わんばかりに引っ張られていくのだ。で、あれば、ルカは夕食からはきっと一人になることは無いだろうし、引っ張り抱っこになるだろう。何せ普段人と関わりたくないと距離を置いている僕ですら、誕生日の日は酒で酔わされ床で眠らされるまで騒ぎの渦中に放られたものだ。
    それなら、どうしよう。これは欲張りな願いだが、出来ることならルカには特別なプレゼントをしたかった。ルカはこんな僕にもいつも優しくしてくれる。ずっと夢見ていた恋というものも無知な僕に教えてくれた。この閉鎖された死と隣り合わせのゲームが繰り返される中でも、ルカの笑顔を見るとまだ頑張ろうと思えた。ルカが幸せそうにする瞬間を見ると、僕も嬉しくなった。僕はルカのことが確かに好きだ。
    そんなルカの誕生日。しかも期限は明日と言う。ルカの一年目の誕生日の時は、特別仲が良いと言うわけでもなく、食事だけ取り分けてもらって自室に帰ったような気がする。確かに事前に確認していなかった僕も悪いが、忘れていたあいつも悪いと思う。そう言い訳をして、自室で頭を抱えた。今から僕が用意できるものなんて、きっと碌なものでは無い。ルカは何が好きで、何をして喜ぶのだろう。その中で僕が出来ることは何だろう。

    考えれば考える程分からなくなってきて、ゆっくりとそして早く過ぎていく時間を憎らしく思った。考えがまとまるかもしれないと、砂時計を引っ繰り返してみたがサラサラと流れ落ちる時間に焦りしか生まれずに途中でやめた。薄暗い部屋を照らすように、ランプの火がゆらゆらと揺れた。まるで、悩みすぎて纏まりきらない自分の心のようだ。そんなくだらないことを考えていたら、いつの間にかゲームの疲れもあり眠気が襲ってくる。それに抗うことなく、僕はいつの間にかウトウトと机の上に身を預けて眠ってしまっていた。

    「アンドルー。」
    ルカの声が聞こえる。ぼんやりと起きると、背中が暖かく、どうやら毛布が乗っているのを感じた。身を起こすとそれがはらりと落ち、ルカがさっと拾い上げた。今何時だろう。外をぼんやりと眺めると、もう既に日が落ちて暗くなっていた。
    「ルカ・・・?」
    「アンドルー。疲れているのに、色々考えていたんだね。」
    ルカは机の上を見て、少し微笑んだ。机の上には僕の汚い字で書きなぐったメモが複数落ちている。メモの上には先ほど考えていたルカへの誕生日の計画が書かれていて、驚いてハッと起き上がった。「み、見るな!」と声を荒げると、「何故?いいじゃないか。これもプレゼントにくれよ。」と、紙を一枚ポケットに仕舞われた。僕の字は汚く読みづらい、そんなもの、ルカが持っていると思うとぞっとする。僕が唸って威嚇すると「可愛らしいな、犬みたいだ。」と笑う為、更に羞恥が溜まり顔に火が付くのを感じた。
    ルカはこほんと咳払いをして一息付くと、「あまり困っているみたいだから、私からリクエストをしに来たんだ。」と図々しくも告げられた。しかし、僕にとっては神様の啓示ようなとてもありがたい申し出に、「え!?」と身を乗り出す。勿論ルカが望むことが出来れば嬉しいし、確実な正解がはじき出されると言うのはとても有難い。
    「そ、それは・・・!?」
    早く早くとルカの返事を急かすと、ルカは堂々と「では、明日は私のことをずっと見ていてくれないか?」と言った。見る?見るとはどういうことだ。言葉のまま捕えれば良いのか、頭の良いルカの何かの隠喩なのか僕には判断が付かない。首をかしげると「そのままの意味だよ。私から視線を外さないで欲しい。」と言われる。
    「そ、そんな簡単なことで・・・良いのか。」
    「簡単なことだろうか?私には贅沢だと思ったが。とにかくやってみてくれよ。」
    正直ルカが言っていることも、ルカの思惑も全く分からないが、それを望むなら明日はルカについて回っても良いのだろうか。実のところ、食事会までの時間をルカはどう過ごすのだろうと悶々と悩んでいたのも確かだ。ルカの大事な日を僕がずっとついて回っても良い。僕にだけ都合が良いような申し出に、二つ返事で「そんなことで良ければ・・・。」と首を縦に振った。ルカは満足そうに、「では、もう少しで日が変わる。部屋においで。」と僕の手を引いた。

    ・・・

    ルカの言いたいことはやはり僕には理解し難かった。
    深夜に僕を呼び出した後に、ルカはあろうことか発明の作業に戻っていった。ぱちぱちと発せられる小さな火花にルカが照らされるのを、ベッドに座ってじっと眺めていた。手持ち無沙汰だったけど、もうルカの誕生日は始まっている。部屋の掃除をしたり、寝たりすることなくルカだけを眺めていた。発明に夢中なルカは百面相で、基本的には無表情だったが、時折楽し気ににやりと笑い、時折は苦しそうに頭を抱えた。本当に発明に打ち込むのが好きなのだと思った。僕にはルカの弄っている機械の構造は全く分からないが、ルカが多大な感情をもってそれに取り組んでいるのは伝わる。時々舌打ちをしたり、汚いスラングを吐いたりすることは、知らなかった。囚人時代の癖だろうか。ルカには似合わないな、と思いながら見つめていた。
    その後は突然ガクリと項垂れて、螺子巻きが切れたように寝落ちしたため、ルカを持ち上げてベッドに放った。
    「誕生日おめでとう、ルカ。生まれてきてくれて良かった。」
    僕の呟きは鼾をかきはじめたルカには届かず、その間抜けな顔にキスを落とした。今日はルカの為に祈っても良いと思った。


    「アンドルー、起きてくれ。」
    いつの間にか眠っていたようでルカに起こされる。ルカは「食事に行こう。」と呑気に僕を誘った。お互いにぐちゃぐちゃな衣類を正したくて、それを告げると「面倒だ。」と顔を顰められた。僕が「駄目だ。」と言うとルカは心底不満を表しながら、比較的新しいであろう衣類を山積みにされた中から探っていた。今日はルカの誕生日ということもあり、甘やかしてバンザイをするルカから衣類をはぎ取って着せ替えた。ルカの匂いがふわりと香る。ルカの体臭に僕はそわそわとした。正直嫌いではなかった。
    食事に行くとルカは、椅子を陣取って横に座るように促した。素直にそこに座る。朝と昼の微妙な時間の為、食堂にほぼ人は居なかったし、碌なものも残っていなかったが、ルカと食べるといつもより美味しく感じた。最初ルカと食事をすると、自分の所作が不格好で惨めに感じたものだが、今は綺麗にナイフとフォークを使う姿を、卑屈無く好ましく感じていた。ルカが途中で僕を見て、「そんなに見つめられると食べにくい。」と笑う為、「お前が言ったんだろ。」と僕はへそを曲げたように装った。

    昼過ぎからは、音楽室に誘われた。「発明に戻らなくても良いのか?」と聞くと、「これが終わったら。」と返される。誕生日くらい休めば良いのにと思うが、きっとそれに取りかかることがこいつの幸せなんだろうなと思う。そして、その時間を削ってまで僕と歩いていることが、何だか誇らしく感じた。音楽室では、ピアノの前に椅子を置いて座った。ルカの趣味であるピアノを聞かせてくれると言われ、特等席を開けられる。ルカのピアノを聞くことは、本当に稀にしか無いのだが僕は大好きだった。教会に入れず外から聞いていたのも、ピアノだかオルガンだか分からないが、そのような音だったように記憶している。今ではこんなに近くで聞くことが出来る、贅沢なことだと思う。ルカのピアノは、聞いていて何かを訴えかけるように弾かれる。僕には曲の内容も、ルカの技術が凄いのか凄くないのかも分からない。何もかも分からないけど、ルカの指先が綺麗で、弾いているルカが綺麗で、そして奏でられる音がとても綺麗だと思った。僕はルカに悔しいけど見惚れていた。
    どれだけの時間そうしていたか分からないが、気が済んだルカは「どうだった?」と感想を求めて僕を上目遣いで見つめた。褒められるのを待っている犬のようで、揶揄い返してやりたいと思ったのに、単純に「綺麗だった。」としか出てこなかった。ルカはにやにやと笑うと「へえ。」と言った。何だかイライラして、「クソ野郎」と呟くと、ルカはひひっと笑った。
    夕食になるまでまた自室に戻って、夕食が近くなると渋るルカに活を入れて着替えさせた。ルカが「アンドルーが好きな衣装を着る。」と言う為、誕生日なのに自分が好きな服を着ればいいのにと思ったが、ルカは何も言わない。どうやら完全に僕に選択権は委ねられたらしい。正直に言うと、僕は煌びやかなルカの衣装は豪華だと思ったが、何を着ていようが普段のルカが一番好きだった。しかしそんなことは恥ずかしいから言ってやらない。パーティだということを考慮して、チェックの柄で機械的で、金髪になるあの衣装が良いかと思った為、そう言うと「これが好きなのかい、知らなかったな。今度はこれでデートしよう。」と抜かす。馬鹿じゃないのかと思ったが、それで顔を赤くする僕の方がもっと馬鹿だった。着飾ったルカは勿論かっこよかった。


    主役のルカは、パーティではそりゃあもう盛大にもみくちゃにされた。僕は本当に巻き込まれたくなくて、遠目でちびちびと酒を舐めながらルカを見守った。ルカは、最初は愛想笑いで礼を言っていた癖に、途中から心底面倒だと言う顔をし始めた為、僕はほくそ笑んだ。意外に短気な男なのだ。ルカのそういった表情を見る度に、人間らしさを感じる度に僕は何となく心地よく感じた。ルカは命からがらと言った様子で、途中で僕の元に近寄ってきて、「疲れた・・・。」とグラスを預けてきた。
    「いい気味だ。」
    「・・・後から覚えておくと良い。」
    ルカは、ぐったりと悪態を吐いたが、きっとそんな体力は残っていないことは明らかだった。大量の酒を飲まされたのだろう、酒臭いルカを肩に預けて僕はまた酒を舐めるのを再開した。自分の弱さは分かっていたし、この後ルカを部屋に連れていく仕事があるため、今日はちゃんと断らないと、と思っていた。ルカからしばらくすると寝息が聞こえ始めた為、それからルカを祝いに来る皆に断りを入れて、部屋に連れ帰ることにした。力の無い男を持ち運ぶのは疲れるが、あの時死体を運んでいた経験が生きるなと自嘲した。

    ルカをベッドに運ぶと、その衝撃で起きたようで「アンドルー・・・。」と譫言のように呼ばれる。手は宙を彷徨ってぱたりと落ちた。僕は呼ばれるがまま、「ここに居る。」と近寄ると、へらりと八重歯を尖らせて笑った。僕に無防備にも頼り切っている姿は、可愛らしいと思った。
    「誕生日、おめでとう。ルカ。」
    「ああ、ありがとう。」
    「今日はこんな日で良かったのか?・・・何も特別なことはしてやれなかった。」
    ルカは横にごろりと寝転がる。ルカの首元のシャツのボタンを緩めていた手に、ルカの熱い手が上に乗せられる。
    「今日は約束通り、私を見てくれていたじゃないか。・・・私はどうだった?」
    優しげに目じりを垂れさせて、寝そべりながらも笑うルカ。今日一日ルカを見続けてきたが、僕はどう思っただろうか。そんなの、決まっていた。こんなことを言うのは、僕も酒が入っているせいだと内心で言い訳をしながら、零す。

    「ルカが好きだな・・・って思った。」

    ルカは心底幸せそうにふにゃりと笑うと、そのまま返事もせずに寝息が聞こえだした。この男は、信頼に飢えた男だと思う。孤独な発明家で良いと言いながらも、きっと独りぼっちは寂しいものだろう。
    そして、今日の僕は冴えている。ルカが誕生日のお願いを使ってまで欲しかったのは、結局この一言だったということだろう。そんなことしなくても、いつもルカのことは好いているのに。
    「馬鹿なやつ。」
    いつも頭痛に苦しんでいる頭を撫でてやる。猫のような髪は柔らかく、手にふわりとした感触を残した。ルカは警戒心などなく、そのまま眠り続けている。その顔は普段纏った気品のある雰囲気が解けて、ひどく幼げに見えた。
    「おやすみ、ルカ。」
    この一年に、幸があらんことを。そんなことを思って、僕は穏やかに笑った。

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    Replies from the creator

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    eyeaifukamaki

    PROGRESS愛をみつける
    ②と③の間の沢北side
    ネトフリ公式ので、萌え散らかしたww
    これ聞いて、ちゃんと深津さんに愛されてるよって思ってるけど、このさぁきたくんは相当自信をなくしておりますww
    ちなみに深津さんは沢北ファンの前では一緒にいないようにしてるので、深津さんと沢北ファンとの接点がなくて、みんな沢深推しなのに誤解されたまま。
    誤字脱字確認用
    『カズがノアとアシスタント契約を結んだらしい』

    それはチーム内でもすぐに噂になった。でも、誰もあまり驚かない。それは深津さんがそういう人材に適してる事を意味していた。まだ早いんじゃないかという意見も聞こえたが、概ね、みんな納得してこの事実を受け入れた。ただ、深津さんはみんなから好かれてる。

    「カズがいないと寂しい」
    「エージ、カズはいつ帰ってくるんだ」

    みんな口々に俺にそう言ってきて、深津さんの情報を聞き出そうとする。でも、そんなのは俺が知りたい。誰よりも深津さんは俺を避けている。これから深津さんの話を聞くことができるのは、俺以外の誰かから。

    なんで?
    どうして?
    俺が嫌だった?
    好きじゃなかった?

    でもよくよく考えたら、深津さんから好きって言われた事がない。高校の時に、俺から告白して、無理矢理体を繋げて、それで今までずっと上手くやってきたから忘れていた。行動で示してたつもりだったけど、馬鹿だな、俺は。深津さんの気持ちをちゃんと聞いたことがない。自分が頑張れば、深津さんは自分のものにできると、ずっと思って行動してきた。それはそれで間違ってはいないけど、それに言葉が伴ってない。深津さんの気持ちも聞いてないし、俺だって、最初の一度きりでそれ以来、ちゃんと気持ちを伝えてない。全部、何もかも、俺の勢いと想いだけで成り立っていた関係だった。だから、今になって、なんで?どうして?と、根本的な疑問しか考えられない。普通なら“好き”が大前提にあって、それとは別にここが嫌だとか、こうしてほしいとか、そういう具体的な問題が出てくるもんだ。でも最初から言葉が足りてないから、何が嫌なのかも分からない。頑張ることだけをやり続けていた俺には、追いかける術を持っていない。正直、これからどう対処すればいいのか、どう動けば正解なのか、全く分からない。動いたら動いたで、何もかも裏目に出そうで、それが原因で本当に深津さんを失いそうで、その恐怖が付き纏って何もできなくなってしまっている。深津さんがいなくなって、十日経ったあたりから、俺のファンも異変に気づき始めた。情報収集は俺より優れているから、もう、どういう状況かも把握している。心配そうに聞いてくるのを、困った顔で返す事しかできなかった。
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