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    alcoholpower100

    @alcoholpower100

    アルコールパワーで生きてる

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    現パロ✳️🦌の3月14日ss。一人ゲストあり。最後のオマケは単なる蛇足と思っていただければ幸いです。

    九仞の功を一簣に虧く(きゅうじんのこうをいっきにかく) 門倉が「抜かりない」と自信を持っている時に限って凶運は発動する。
    キラウㇱが前に見ていたアウトドアブランドのパーカーをようやくネットを使って探し出したものの、一向に届く気配がない。
    何度通販サイトから届いた配送番号を検索しても「配送中」から動くこと無く三月十四日を迎えてしまった。
    流石に「当日までに届きませんでした」と笑って誤魔化すのは格好が付かない。
    門倉は作戦を変更し、仕事終わりにキラウㇱの好きな銘柄の日本酒を買うことに決めた。
    そうとなれば、今日は何としても定時で上がらねばならない。
    両頬をパンッと叩き、気合を入れて会社へ入った。



    「はぁ」
    壁にかけてある電波時計は午後九時を指していた。
    目標であった定時六時はとうの昔に過ぎている。
    未処理の山積みタスクに思わず溜息を漏らす。
    一体何がとうなったらミスが重なるのかという程、今日発覚または発生したミスの量が尋常ではなかった。
    メールの宛先間違い、顧客への振込用紙同梱漏れ、血の気の多い若手社員が顧客と大揉め、日時伝達ミスでアポすっぽかし、荷抜け発覚に破損報告等々。
    上げだしたらキリがない程の皺寄せが全てがお客様相談室部長である門倉へ。
    詫びメールに詫び状の作成、菓子折の手配、アポイントメントの取り直し、配送業者への調査依頼と普段であれば一日で発生しない業務量。
    そもそもこんな問題だらけでよく会社の経営が成り立ってるなと感心してしまうレベル。
    もう今日やろうが明日やろうがほぼ変わらないだろうとパソコンの電源を落とした。
    何度見ても巻きもどることの無い会社の電波時計をもう一度見る。
    帰りに寄ろうとしていた酒屋は既に店じまいしている時刻。
    「はぁ……」
    先程より深く溜息をつき、肩を落とす。
    「門倉部長、辛気臭いの伝染るんでさっさと帰ってくれません?」
    少し離れた席で資料の誤字脱字と数値確認をしていた宇佐美が眉をひそめる。
    「へいへい、悪かったな。さっさと帰らせてもらいますよ。お前もキリがいい所で帰れよ?」
    宇佐美の顔を見ることなく散らばった書類を鍵付きのスチールワゴンに雑に突っ込んだ。
    「約束してる時間まで暇つぶしなので時間になったらちゃんと帰りますよ」
    「……今のは聞かなかったことにしてやるよ、じゃあな」
    最後まで宇佐美の顔を見ることなくロッカールームへ向かった。



    「ありがとうございましたぁ」
    やる気のないコンビニ店員の声。
    三円のビニール袋には二人でよく飲む缶ビールと洋酒入りのチョコレート。
    これでは格好つかないなと猫背をさらに丸めて本日非番だったキラウㇱの待つ我が家へ足を進める。
    「はぁ……」
    なんで今日に限って凶運が爆発するんだと本日何度目か分からない溜息。
    ビニール袋の頼りなさが正に今の門倉自身の情けなさが反映されている様に感じ、このままホワイトデーなんて忘れたフリして素知らぬ顔で帰った方がまだマシなんじゃないかとさえ思えてきた。
    エレベーターに乗り込み、今日の為に張り切った自分とその結果を振り返る。
    一体どこの時点であれば巻き返しが図れたのか。
    あまり職業柄気は進まないが、通販サイトか配送業者へ問い合わせして置くべきだったのか。
    パーカーが間に合わない事を察して早めに第二の贈り物を用意しておくべきだったのか。
    トラブルまみれだったとは言え、昼飯をちょっと我慢して酒でなくてもまだマシなプレゼントを買いに行くべきだったのか。
    挽回出来たであろう案を出したところで時間が戻る訳もなく、ただ門倉の心を抉るだけであった。
    キラウㇱも元々俺なんかに期待なんぞしてないだろう。
    等々開き直った考えさえ浮かんできた。
    元嫁だって娘だってと抉った所に塩まで塗り込む始末。
    期待されてないと思うと門倉は肩の荷が降りた気がした。
    「ただいま」
    いつもの気怠いやる気の感じられない顔に戻った門倉。
    キラウㇱがバタバタとリビングの扉を開け、玄関にやってくる。
    「おかえり、門倉」
    門倉が通販サイトで注文したパーカーを着たキラウㇱ。
    「……え?」
    理解が追いつかず門倉は何度か目をぱちくりとさせる。
    何故まだ配送中であるパーカーをキラウㇱが着ているのか、門倉の知らぬ間にキラウㇱが買ってしまったのだろうか、だったら今配送中の物はどうしたら。
    纏まらないがぐるぐると頭を巡り、何も言葉が出てこない。
    「ふふ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔って今の門倉だな」
    疲労に混乱が加わり頭がフリーズしかけている門倉をよそに、キラウㇱは悪戯が成功した子供みたく楽しそうに笑った。
    「それ」
    何とか門倉は人差し指をキラウㇱへ向けるも、口からは情けない程弱々しい指示語しか出てこない。
    「これだろ?」
    キラウㇱは着ているパーカーを両手で掴んで門倉へ自慢するみたいに引っ張った。
    「今日門倉が家を出た後入れ違いで宅配便で届いたぞ。そしたらペコペコ何度も頭を下げながら『配送トラブルがあって箱が潰れてしまったので中に破損がないかすぐ確認して欲しい』と言われてしまって。門倉に悪いなと思いつつ開けたんだよ。でも、これは俺宛で合ってるんだよな?」
    キラウㇱは目を細めほんのり頬を染める。
    確かに門倉は今日仕事に行ってから配送状況を確認するを忘れていた。
    漸く状況を飲み込み、膝に手をつき本日一大きい溜息を吐いた。
    「なんでこう毎回格好つかねえんだよ、俺は」
    「いいじゃないか。そういうところも含めて俺は門倉が好きだ」
    「……ありがとな。ほい」
    前傾姿勢のままキラウㇱへビールとチョコレートの入ったビニール袋を差し出す。
    「今日は少し暖かかったからビールが美味いだろうな。ご飯もう出来てるから早く風呂に入ってこい。こっちも冷やしとくから」
    キラウㇱはパタパタとスリッパを鳴らし、キッチンへと足早に帰って行ってしまった。
    「ああ」
    膝に置いた手を腰へ持っていき背中を軽く反らす。
    どんなに格好付けようとも恋人がその上をいってしまうのも考えものだなと諦めに近い笑みがこぼれた。

    *(オマケ)

    「そういやよ、俺宛の荷物なのに何でお前に開封しろって言ってきたんだ?」
    晩御飯の回鍋肉を摘みながら門倉が疑問に思ったことを口にした。
    「ここはお前の家だから、基本『門倉です』って受け答えしてるからだ」
    「ぶほっ!」
    「汚いぞ、門倉」
    平然とした顔でキラウㇱは答えたが、門倉はまた年下の恋人に情けない姿を晒すこととなってしまった。
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