「手は届くのに心は遠かった」で始まり、「残念でした、私の勝ち」で終わる物語 手は届くのに、君の心は遠かった。
すぐそこにいる君に触れると、面白いくらい赤くなりながら慌てて、それから怒る。そのあと僕が笑って揶揄うから、君は余計に怒ってしまう。
こういうやり方しか出来なかった。
君のことを気にしてしまうのはただの興味だと思った。それから違うと気づいた。
このままではだめでも、桐子の姿で君に気持ちを伝えたらきっと頷いてくれると思っていた。桐子は僕なのだから、それでよかった。
それなのに君は首を横に振った。
桐子は僕だ。そう思っていたはずなのに、痛みを切り離すのと同じように都合よく僕から桐子を切り離そうとしている。それはおかしいだろうと思う反面、初めから君は桐子の中に僕を見ていなかったのだから桐子は僕ではないのだと言い聞かせている自分がいる。
悲しいからと言って現実逃避すべきではない、と冷静な僕が言う。
けれど……振られた辛さは簡単には立ち直れないんだと、初めて知った。
僕ではない。
いつも君から愛されていた桐子なら愛されると思っていたのに、その桐子が振られた。
振られたのは桐子だ。
だから切り分けた心の中の桐子に向かって一言投げかけた。
「残念でした、僕の勝ちだ」