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    クッソ重い話

    🔥さんに不倫を疑われ、離縁されて、息子を育てながら、🔥さんの最後を看取る話

    生存if

    #鬼滅の夢
    DreamDemonSlayer

    6、太陽と炎が合わさる所それから一週間と経ち、一ヶ月と経ち…
    まだ息子は帰って来なかった。
    いくら帰ってくると言っていても、これは遅すぎる。
    何より、何も連絡が無い
    息子はまだ読み書きが上手くないから仕方がないとして、杏寿郎様は何を考えているんだ少しは母親の気持ちを考えろ

    私は頭にきていた。
    自分勝手な奴等に

    なんの相談もせずに勝手に飛び出して行った息子に
    人の気持ちも考えず、息子の様子すら伝えに来ず、今頃になってやらかしてくれている杏寿郎様に

    お義父様も千寿郎様も、同じだ
    ふざけるな
    私がただ待つだけだと思ったのか
    行ってやる。行って胸の内にあるものを全てぶち撒けてやる。

    怒りは時に原動力になる。
    今の私は、まさにそれだ。
    眉間にシワを寄せ、口をへの字に曲げ、足を踏み鳴らしながら煉獄家へと向かった。







    あの日
    寝間着姿のまま息子を抱えて飛び出した煉獄家
    その時と何も変わりが無い

    大きな門構え
    奥にそびえ立つ松の木や楓の木
    広い庭
    大きな屋敷

    でも、それを包む空気は冷たく静かだった。
    煉獄家とは、そういう場所だった。
    暖かな空気に包まれた長屋での生活に慣れた私には、ここはいささか寒すぎる。
    早々に息子を連れて帰りたかった。


    「ごめんください。」

    玄関から声をかければ、やって来たのはまさかのお義父様だった。
    お義父様は、私の姿を目にした途端、目を丸くし少し慌てだした。

    「お久しぶりです、お義父様。息子が来ていますね」
    「いや、…その…」

    歯切れの悪い言葉は、私を更に苛つかせる。
    あんなにも怖かったお義父様が、今やただの爺に見えた。

    「連れて帰りますので、失礼します。」

    昔の我が家。杏寿郎様の部屋は奥にある。何度も通った廊下を通る。
    すると、微かに息子の声がした。ブンブンと何かを振り下ろす音がする。
    一体何をしているのか
    杏寿郎様の部屋の戸を開けば、驚いた顔の杏寿郎様が私を見ていた。

    「まさかと思っていたが、来たのか…その、怒っているのか」
    「息子は陽は」

    質問に対しての返答はしない。目すら合わさない。
    ただ居るはずの息子を探す。

    そんな私に杏寿郎様は苦笑するとゆっくりと庭の方を指差した。
    見れば、息子が必死に刀を握ぎり何度も何度も振り下ろしている。

    「今、集中しているんだ。少しで良いから待ってやってくれないか」
    「……」

    額から汗を流し、必死に刀を振る姿はやはり杏寿郎様に瓜二つ。
    私はあの姿を見るのが好きだった。必死に、ひたむきに、実直に刀を振る杏寿郎様が好きだった。
    目線を杏寿郎様に移す。

    あんなにも勇ましく、たくましかった身体は痩せ、顔色を悪くして布団から身体を起こしていた。
    私と目が合うと少し気まずそうに目線を下げたが、すぐに顔を上げへにゃりと笑った。
    昔、よく向けてくれた笑顔だった。

    杏寿郎様の隣に正座する。
    すると、少し驚いた顔を見せた。

    「色々聞きました。」
    「色々………そうか…」

    杏寿郎様は息子の方に目線を移す。その横顔は優しかった。

    「まずは、鬼を倒したと…数々の責務、誠にお疲れ様でございました。長年の夢、本当におめでとうございます。」
    「ありがとう…その為に多くの犠牲を払ってしまったが、本当に良かった。鬼殺は解散したんだ。」

    少しだけ照れ臭そうに、でも心底嬉しそうに語る杏寿郎様。
    長き戦いが終わった事は、本当に喜ばしい事だ。

    でも、犠牲が多すぎる…





    「死ぬんですってね…」

    私の言葉に杏寿郎様の肩がピクリと動く。そしてゆっくりとこちらを向いた。

    「それも聞いたのか…」
    「25まで生きられないとか後、数ヶ月で25歳になりますものね…」


    「すまなかった…」

    深々と頭を下げる。
    痩せ細った首が見えた。本当に後幾ばくと無い命なのだと見て取れた。

    「君を疑って悪かった…信じてやれず…
    もう最後、思い残す事は無いと思っても、いつも君が頭から離れなかった…
    そんな中、息子の話を聞いて居ても立っても居られず…


    恨まれているのは分かっている。でも、会いたかった…
    一言、すまないと謝りたかった…」


    細い首が揺れ、ポタポタと布団に涙の染みを作っていた。
    ずるい…ずるい、ずるい、ずるい

    「そんな事を今更言われても困ります。私は、あの時に信じて欲しかった。ずっと…信じて欲しかったの…貴方に」

    きっと黒髪は君に似たのだと…
    観篝が上手くいかなかったのだなと…
    それでも、この子は俺の息子だと言って欲しかったのだ。
    今更言われた所で、何も意味がない。

    「私は貴方を恨んでいます。昔も今も…」

    「すまない…悪かった…」


    言いたかった言葉は沢山ある。
    恨みつらみを片時でも忘れた事は無い。

    でも言えなかった。
    あんなにも何度も何度も頭の中で吐き捨てた罵声は、全く出てこなかった。


    「私は貴方を許しません。」

    「分かった…」





    それだけ言えて、なんだか妙にスッキリしてしまった。
    決して心の靄が晴れた訳では無い。それでも、今の私には十分だった。
    涙を流す杏寿郎様の目元を拭えば、その手に杏寿郎様が頬擦りをした。
    あんなにも艷やかで暖かかった肌が、今は酷く冷たくガサついていた。



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