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    ex_manzyuu88

    @ex_manzyuu88

    (らくがきと小話用)
    あんスタ(腐) 十条兄弟(右固定)と巽要中心

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    ex_manzyuu88

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    巽要ワンドロ。
    雨の日に病院に行く2人。

    #巽要
    sundance
    #風早巽
    Tatsumi kajehaya
    #十条要
    tenEssentials

    哀愛傘 その日の空は要の心情をバカにするかのように晴れ、ではなくまさかのぎゃん泣きだった。
     ザァザァと煩い雨音に隣にいる巽の声も大して聞き取れないままに着いた病院は、それこそ魔王城のようにそびえ立っていて、雨に濡れるのと同じくらいには中に入るのが戸惑われる様相をしている。
     ジリ、と足を止めた要は、なんとなく隣でケロリとしている巽を見た。
     いつもサラサラでふわふわした裏葉色の髪はしっとりと落ち、穏やかな顔に薄く影を作っている。それが妙に大人っぽい雰囲気を醸し出していて一種の近寄り難さを感じるのに、互いに傘をさしているせいでその体温が普段より遠いのは、どうにも気に食わない。
     ただでさえ雨と病院に気分は最悪なのに。要は、理不尽にもむぅ、と唇を尖らせた。
    「巽先輩……」
    「どうしました?」
    「駅前に新しいパフェのお店が出来たとおうかわが言っていたのです」
    「あぁ、藍良さんが一緒に行く約束をしたと言っていたところですな」
    「今日は病院の気分ではないので、ぼくらもそちらに行きましょう」
     巽の袖を引っ張るために傘から出した手が、あっという間にびしょ濡れになる。
     それに気付いた巽は、互いの傘を重ねるようにして要に一歩近付いた。
    「そうしたいのは山々ですが、俺も要さんも病院をすっぽかす訳にはいきませんからな。パフェはまたの楽しみにしましょう」
     お兄さんを心配させてしまいますよ、と。
     小さな子供に言い聞かせるように笑った巽に、要は思わず俯いた。
     視線の先には特に怪我をしているようには見えないスラリとした足があって、余計に胸が重くなる。
     確かに今日、巽と要は経過を見るため病院に行かなければならない。
     巽の足は完全に治った訳ではなく無理を通せばすぐに痛みを訴えるし、幸いにも後遺症が残るような怪我をしなかった要も、未だ悪夢に魘されて飛び起きたり、人混みで動けなくなる事が多々あるからだ。
     巽の詳しい状態は分からなかったが、要が壊してしまったのは心の方。それは、見える傷よりもずっと深く抉られて、症状が緩和したとしても完治はしないと言われてしまっている。
     だからといって受診のたびに栄養状態やらまで確認され、毎回のように採血のための太い針を刺される要としては、大いに解せない部分もあるのだが。
     そもそも、往々にして病院に付添い、受診後には最上級に甘やかしてくれる兄が居ない今日は、注射を頑張ったご褒美だって期待出来ないのに。
     要は、雨音にも負けないくらいに大きくため息をついて、摘んだままだった巽の袖を引っ張った。
    「お兄ちゃんはいつも病院のあとにご褒美をくれるのです」
    「ご褒美、ですか?」
    「そうなのです。頑張ったぶん、報われるべきでしょう?」
    「なるほど」
     ジトりと目を据わらせた要に、巽は考えるような素振りを見せる。
     こんな時、察しのいい兄ならば、だったらパフェを食べに行こうと言ってくれるのに。要はもう一度ため息を吐いたが、おそらく巽は気付いていないだろう。
     急な仕事は仕方がない。兄だってなんとか予定を調整しようとしてくれたし、それを一言で却下したのは副所長という人だから、兄が悪いわけではないと理解している。
     それに、付き添えない事を謝った兄の申し訳なさそうな表情に駄々を捏ねられる程、要は未だ成長出来ていなかった。
     互いの存在を知ったばかりの頃みたいに努めて平静を装い、1人で大丈夫だと虚勢と胸を張ったのもつかの間。そこで自分も病院に行くからと付添いを申し出てくれた巽に内心ホッとしたけれど、巽に兄と同じだけの愛情を期待していい訳ではない。
     何せ、ほとんどポーズではあるけれど、自分を差し置いてユニットを組んだ薄情者の巽を、要は未だ許していない事にしているので。
     そんな要の心情を知ってか知らずか、巽はこちらの傘にずい、と侵入するように甘く整った顔を近付けてくる。
     それから長身でイケメンな癖に、随分とあざとく首を傾げてみせた。
    「では、帰りにシナモンに寄りましょう」
    「……新しいパフェがいいのです」
    「それは次でお願いします」
    「なんでですか?」
     思った以上に近付いた巽の顔にたじろぐでもなく、要は彼を睨みつけた。
     紫水晶みたいに澄んだ巽の瞳には怪訝そうな顔をした要が写っているのが見えたが、これくらいの距離感は要を甘やかしてくれる時の兄で慣れている。それに、これで要がドギマギするのなら、巽だってそうでなければ割に合わないだろう。
     要の問に苦笑はしたが余裕そうな巽は、彼の袖を掴んだままの要の手を取り、今度は体ごと要の傘へと入って来た。
     雨で湿気った服がくっつく。正直狭いし、自身の傘を下げてしまった巽の背中はきっと濡れてしまうだろうに、気にする様子もない。
     それどころか、巽は何だか嬉しそうに見えた。
    「パフェを口実にすれば、君とまた出掛けられます」
    「ぼくはご褒美がないと誘いに乗らない薄情者ではないのです」
    「ありがとうございます」
     要は機嫌を悪くしたのに、返されたのはなんとも呑気な笑顔だった。
     別に口実などなくたって、要は巽が誘ってくれれば出掛けるし、パフェだってなんだって食べに行く。ただし、巽との付き合いをあまり良く思っていないらしい兄の許可が降りるかどうかは別である。
     頬を膨らませた要に困ったように眉尻を下げた巽は、気を取り直す様にゆったりと瞬きすると、彼にしては珍しく少々いたずらっぽい跳ねた口調で口を開いた。
    「ところでご褒美というのは、俺にも適用されるのでしょうか」
    「まさか、君も注射をされるのですか? 足の怪我なのに?」
    「あぁ……いえ、注射はしませんが俺も病院にはあまり良い思い出はありませんからな」
    「……そう、なのですね」
     入院中、巽がどんな気持ちで、どんな風に過ごしていたのか、要は何も知りはしない。
     兄しか訪れる人のなかった要と違って恨まれるのと同じくらい人気者な彼の事だから、色々な人が訪れては巽を気遣う言葉を置いていったと想像していたのに、そうではなかったのだろうか。
    「要さん」
     う、と言葉に詰まった要を呼んだ巽は、不意に持っていた傘を持ち上げた。
     それは丁度、2人の顔が隠れるくらいの高さで、全く止む気配のない雨は凌げそうにない。ただ要を隠すみたいに、なんの変哲もない傘に包まれて見上げた数センチ高いところにある巽の瞳は相変わらず慈愛に満ちている。
     そこに感じる心地良さは誰もが魅了される程甘い事を、果たして巽は知っているのだろうか。
    「少し、そのままで」
    「……ぅ?」
     声を落とした巽の顔が、ゆっくりと近付いてくる。
     まるでスローモーションだ。長い睫毛を揺らした巽の瞼が閉じられて、額に感じた​──────柔らかな感触。
     そして驚いてぎゅっと目を閉じた要の耳に届いた、くすくすとおかしそうに笑う巽の声。
    「な……っ、何故笑うのですか!?」
    「すみません、君があまりに可愛らしくて」
     わっ、と抗議した要に謝罪したくせに、巽は尚も笑ったまま。
     さっさと歩き始めてしまった彼は、びしょ濡れの背中を見せたかと思えばすぐに要を振り返る。
    「帰りは傘1本で帰りましょう、俺のご褒美はそれで」
    「まだあげるなんて言ってないのです……っ!」
     雨音にも負けない声で叫んだ要は、待ってくれる気はないらしい巽を急いで追い掛ける。
     気付けば目の前に聳える魔王城は、巽の奇行のせいでなんの変哲もない建物となっていた。
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