ガッチガチの唇が、僕の唇に重なる。少し目を開けて相手の表情を伺ってみると、閉じられた瞼にも力が入っていて、少しおかしかった。
二人で勉強はした。何を準備すべきなのか、進め方はどうすればいいのか、心構えとか。どっちがどっちの役割をするかも、話し合った。
僕は至極リラックスしていた。これで十分なのかわからないけど一応尻はほぐしたし、ルカなら丁寧にしてくれるだろうこともわかっていたから。あと、ホラー映画を見てるときに、隣で自分以上に怖がっている人がいたら怖さが半減するみたいな、そういう現象も起きていると思う。
ゆっくりルカの硬い唇が離れて、瞳が開かれる。眉は下がっていて、瞳は僅かに潤んでいた。ねえ、いつもの陽気でハッピーなルカはどこにいっちゃったの。
「ほ、本当に今日して、いいの?」
「その質問何回目?準備もしたし、きっと大丈夫だよ。リラックスして」
「だって、ああ、もう、…ん〜っ」
抱きつくみたいに僕の肩に顔を埋めて、数秒。
肩にルカの熱い息がかかる。綺麗な髪に指を通すと、それはするりと流れて、指から落ちていった。
「オレ、本当に心配なんだよ。シュウに痛い思いをさせてしまうのも嫌だし、その、ちゃんと、気持ち良くなってもらえるかなとか」
「んはは、その気持ちだけで十分だよ」
「そうじゃなくて!ああ、ううぅ…」
「…確かに最初は痛いかもしれないけど、でも僕は、ルカとなら乗り越えられると思ってるよ。ルカは違う?」
「シュウ…」
すっかり自信をなくしてしまっていた大型犬だったけれど、みるみるうちにやる気が溢れ出してきているみたいだ。下がっていた眉はキリッと上がって、溜まっていた涙も雑に拭われてどこかへいってしまった。
「かっこいいよルカ」
「やめてよ、もう。からかわないで」
「からかってなんかないよ。本当に。ねえ、もう一度キスしてくれる?」
柔らかい唇が重なる。ああ、いつものキスだ。気持ちよくって、僕はゆっくり目を閉じた。唇のかたちを確かめ合うように、何度も何度も口付ける。
僕は、ルカとこんな関係になるまで、キスがこんなに幸福なものだって知らなかったんだ。人を愛することがどういうことかも、愛される喜びも、全部きみが教えてくれた。
「大丈夫?」
「…ふふ、うん。ルカとなら、大丈夫だよ」
「………」
熱い手のひらがお腹に触れる。ぞく、と背中が粟立つ、初めての感覚。これからもっとたくさんのことを、きみが教えてくれるんだろう。痛いことも、気持ちいいことも、全部。
一つ息を吐いて、ルカを見上げた。大事にするね、シュウ。そう言ってくれた声は少し震えていたけれど、今はあなたが世界一かっこいいよ、ダーリン。