シャワーを浴びておいでってつまり、セックスしようってことだろ?
いつもの三倍くらいのスピードでシャワーを済ませたオレは、ウキウキでオレを待っているであろうシュウの元へ急いだ。
「シュウ!」
「ええ、なに、ずいぶん早くない?」
ソファに座っていたシュウの隣へ座る。彼は笑顔でオレを迎えてくれた。
「待ってくれてるかなと思って」
「んはは、そうなの?」
「うん、ねえシュウ…」
待ちきれなくて、唇を合わせた。ほらやっぱり、シュウも期待してたよな?瞼を閉じる速度が、それを物語ってる。
オレは気分を良くしてキスを続けた。そのままソファに押し倒して、シュウの腰を撫でた。ン、と小さく漏れる声が色っぽくて堪らない。
オレは知ってる。このあとシュウは早くシたいオレを止めて、ベッドへ行こうって誘ってくれるんだ。オレはいいよってキスをして、シュウの手を引いて、それで…。
「ん、ルカ、…っ」
「なぁに、シュウ」
「まって…ぅ、きみ」
シュウの手のひらがオレの胸を押し返す。ほらね、言った通り。オレは少し離れて、シュウの次の言葉を、可愛いおねだりを待った。
頬を少し赤らめたまま、シュウはオレの髪を撫でる。雫がシュウの頬を濡らした。
「…やっぱり!きみ、髪乾かしてないでしょ」
「へ?」
「もう〜。乾かしてあげるからドライヤー持っておいで」
「ええ!セックスする雰囲気だったじゃん!」
「だーめ。乾かしてからね」
ショックだ。でもこう言い出したシュウは、本当に髪を乾かさないとセックスなんてしてくれないことを、オレは十分知っている。知っているけど、一応、不服を示すために数秒見つめあってはみた。やっぱりダメで、オレは重い腰を上げた。(諦めきれなくて、うう〜って言いながら洗面所へ向かったけど、それもスルーされてしまった)
共用のドライヤーを持って、リビングへ戻る。シュウはもう準備万端で、オレが足元に座れるように足を広げて待ってくれていた。
「………」
「ほらはやく、おいで」
「………」
「拗ねないの」
拗ねてなんかない。子供じゃないんだから。でも、ご褒美を目の前で取られたら、…やっぱりイヤだ。
最後の最後に必殺上目遣いで見つめてみたけど、やっぱりダメで、前を向いて、って言われてしまった。下唇が勝手に突き出る。シュウはおもしろそうに笑いながら、ドライヤーのスイッチを入れた。
「髪乾かしたら、しようね」
「もちろん、絶対だよ」
「うん、絶対ね」
暖かい風が髪を包み込む。それに合わせて、シュウの細くて長い指が髪を梳かすように動いた。
人に頭を触られるのって、なんて気持ちいいんだろう。前髪から、頭のてっぺん、耳の後ろ。シュウの指が順番にオレの頭を撫でていく。
シュウと触れ合いたかったのにできなくて、オレはシュウの言う通りやっぱりちょっと拗ねてたみたい。マッサージしてくれているみたいなシュウの指が、だんだんとオレの心をほぐしていって、オレは身体ごとすっかりリラックスしていた。
瞼が少しずつ重くなる。シャワーで温まった身体が溶けていくような感覚。あー気持ちいいなあ…。シュウの指、好きだなあ…。そんなことを考えながら、オレは、最悪なことに、寝てしまっていた。
「…ごめんなさい」
「んへへ、いいよ。可愛かったし」
「………可愛くないよ…」
「元気なくて可愛い」
シュウ曰く、髪を乾かして、ベッドへ行こうと声をかけたところでオレが寝ていることに気がついたらしい。寝ていたのは、約一時間。シュウの可愛いお誘いも聞きそびれた。貴重な二人の時間も無駄にした。最悪だ。
「それで」
俯いていると、シュウがオレの頬を撫でた。上を向かされて、シュウと目が合う。にい、とシュウの頬が上がるのを、見つめていた。
「今日はもうシないの?」
「…っする!」
跳ねるようにシュウに飛びついた。楽しそうに笑うシュウを、ベッドルームまで抱きかかえて運ぶ。
空けてしまった一時間を埋めるみたいに、たくさんキスをして、抱きしめた。…ここからはもう、二人だけの内緒の時間だ。