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    mmikumo

    @mmikumo 文を書きます。ツシマの石竜、刺客と牢人好きです。渋くてカッコ良い壮年以上のおじさまたちをだいたい書きます。

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    牢人と刺客 ごはんとどく

    ふらりと通りすがった村で、乞われて賊を退治したところ、大層感謝されて酒や食い物をもらった。 その中に米を見つけて、刺客は大喜びする。
    「今夜は握り飯!」
    「これだけでは少しかさがたりんな。豆と栗を混ぜよう」
    「くり!聞いたか!」
     刺客が式に抱きついた。
    「くりの握り飯、わんにもやる!」
    「ありがとな。だがそいつは霊だから食えん。わんの分もお前さんが食べな」
     牢人がそう言うと、刺客は手を合わせて言う。
    「みんな、はかに食い物、おく。おがむ」
    「うむ……供え物、ということか?」
    「それ!」
     正式な段取りに沿ってやれば、なるほど。刺客は言葉は未熟だが、賢い男だ。
     牢人は式の頭を撫でて、言った。
    「よかったなぁ」
     ばう、と何で本職のお前が気づかんのだ、と言わんばかりに犬が仏頂面で答えた。
     
     そこでその夜は、秘蔵のあれこれを取り出して酒宴をすることにした。
     魚を囲炉裏の隅に刺して焼く。囲炉裏には芋の汁、そして栗と豆のごはん。ぱちぱちと薪の焼ける音と、脂の滴る音、そしていい匂いがあばらやのなかに広がる。夕げの支度をする牢人の向かいで、刺客はクルミをぱかぱかと割っていた。
     クルミは中の実を鉄鍋で煎って香ばしく焼くと、何かと重宝する。
    「クルミの中身を鍋にあけて火にかける。その棒でゆっくりと混ぜて水分をとばすのだ」
     手順を教えながら、牢人はちびりと酒を飲む。思わず、顔がにやけてしまう。予想以上にうまい。
     刺客がそんな牢人をじーっと見、言った。
    「さけ、うまい?」
    「うむ、うまいぞ」
    「おれにも、ちょうだい」
    「え」
     ずい、と差し出される刺客の手。
     旨いものに目がない刺客が当然興味を持たないわけがない。
     しかし、年もわからん奴に飲ませて良いものかどうなのか、と牢人は思案する。
    「…お前さんにはまだ早いかな」
    「はやくない!」
     ビシッと言われる。
    「お前さんみたいな甘党には、絶対合わんぞ」
     器に少しだけ渡したら、刺客は案の定一気飲みして、派手にむせた。
    「あつ、のど!どく!」
    「あああ、言わんこっちゃない」
     牢人が手拭いを投げ渡すと、面の下に突っ込んで拭いていた。意地でも外さない。
    「もったいないのぅ。毒なんかじゃないぞ」
    「どくのあじ、した!あついの!マムシグサ!」
    「マムシグサ?なんでそんなのの味を知ってる」
     マムシグサは毒矢の材料にも使われる。実を食べて、口の中を焼けつくようにはらした、という例も聞く。
    「どく、しってる。くさから、つくる。つくって、なめて、おぼえる」
    「……は……」
     ヒュッ、と牢人から血の気が引く。自分の身をもって覚えさせる、恐ろしいやり方。ひとつ間違えれば死ぬし、そうでなくとも必ず苦しみを伴う。
     牢人は刺客の隣にいざり寄り、水の瓢箪を渡して背中を撫でてやる。
     それをぐびぐびと飲んで、しょげる刺客。
    「ううっ…はな、いたい」
     鼻をぐずぐずとさせてすんすん言っているのが、ちょっとかわいそうになった。
     牢人は薬種袋から蜂の巣の欠片を取り出す。 それを温めて溶かし、クルミのひとかけに纏わせた。
    「ほれ、口直しだ」
    「んう」
     警戒心丸出しで見てくる刺客。匂いをかいで…ようやく、ぱくりと食べた。するとひゅっと、見るからに背が伸びた。
    「うまい!」
    「だろうなぁ」
    「もっと!」
    「ないよ」
    「えー」
     ぺろ、と小皿の蜜を舐めながら文句を言う。
    「こら、行儀が悪いぞ」
     皿を取り返すと、ん、とちょっと不満そうにする。牢人はかわりに、焼けた魚を手渡してやった。
     溜まりをつけて炙った握り飯も…栗のたくさん入った方をやる。汁には多目に芋を入れてやった。
     そして式を呼び出し、その前に刺客が自分の握り飯をひとつ置く。牢人は魚を隣に並べて、二人で手を合わせた。
    「いつもお疲れさん」
    「おつかれさん」
     式が仏像のように目を細めて恭しくばふ、と吠える。そしてきらきらと消えてしまうと、牢人は握り飯を刺客に、魚を自分のもとに引き取った。
     そして改めて手を合わせていただきます、と言うと待ちかねたように箸をとった。
    「うまい!こんなうまいもの、くったこと、ない!」
    「そうか、それはよかった。これからは毒なんかじゃなく、旨いものをたんと食わしてやる」
     牢人は夢中で温かな飯を食べる刺客を、優しい眼差しで見つめる。秋の夜、幸せな香りに包まれた夜は更けていく。
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