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    mmikumo

    @mmikumo 文を書きます。ツシマの石竜、刺客と牢人好きです。渋くてカッコ良い壮年以上のおじさまたちをだいたい書きます。

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    mmikumo

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    🍞🚅、🌸🌳親子です。ssに頂いた素敵水族館の絵を拝見して書きました。華道家と裏稼業の二つの顔を持つエルダーと、木村親子。0923追加、完了しました。朝、の前日のお出かけです

    家族旅行 白くけぶる霧雨が、落葉を濡らす。湖東三山の秋は早くも終わりを匂わすかのように、古い石畳の上は一面の赤い紅葉に覆われていた。
     坂の上から遠く響く鐘の音。この道の上の寺に花を活けに行ってきた帰りだ。昔馴染みの住職には、今もなにかと世話になる。
     キムラシゲルはうっそうとした秋の山道を一人下っていた。
     暗いグレーのジャケットに紺鼠のマフラー、その上に羽織ったコートが雨に濡れて色を濃くしている。
     シゲルはうつむき、帽子を目深に被るとゆっくりと足を止めた。
     愛用の杖をからだの前で両手でにぎり、静かに呟いた。
    「私に用があるのだろう。待ってやっているうちに出てくるといい」
     ザッ…と森が揺れ、鋭い鳥の声が響く。バサバサと飛び立つ羽音。シゲルの言葉に応えるように一陣の風が吹く。赤い雨のように舞い落ちる紅葉…その向こうでシゲルがカッと目を見開いた。
     杖の柄と握りをつかみ引き抜いた瞬間、抜き身の刃が空を裂く針を叩き落とした。そして返す刀で、斬りかかってきた刺客を得物ごと横凪に一文字。地に敷き詰められた紅葉の上に、新たな赤が飛び散る。
     その背に向けて別の刺客が斬りかかる。シゲルは悪くない側の脚を軸に体を沈めると、杖の持ち手で勢い良く膝裏を掬い上げた。
     文字通り足元を掬われた大男が派手にひっくり返る。その体に鋭いパウンドの追撃で、完全に沈める。
    「後ろ!」
     突然の声と共に、ナイフが身を起こしかけていた最初の男の肩に突き刺さる。それはシゲルが仕込み杖で男を制するのと同時であった。
    「…ユウイチ」
     山道の下から現れた長身の男が、石段を大股で上ってくる。茶色のジャケットに柳色のマフラー。暗い眼差しで紅葉の上に横たわる男たちを見て、ため息を付く。
    「…またか」
    「そうだな。また、例の男がらみであろうよ」
     シゲルが元に戻した杖の手持ちの側で、倒れた男の面頬を剥ぎ取る。首元のタトゥー。男はロシア系の白人男性。日本の裏社会に君臨していた、ホワイトデスの配下だった者であろう。
    「奴の無き今、組織内部で抗争が勃発していると住職が言っていた。その流れ弾が時々こうして飛んで来る」
    「流れ弾…な。トドメを刺したのは自分の娘だというのに。いい迷惑だ」
    「あの娘が生きていたら、早々に雑魚を束ね上げて新たな死神となっていたろう。これも運命か」
    「……それよりは流れ弾の方がましだな。運命に感謝だ」
     ユウイチがそばに落ちていた父の帽子を拾い上げて埃を払うと、シゲルの手に返した。
     シゲルがそれを被り直し、ユウイチの背をぽん、と叩いた。
    「そう暗い顔をするな。ワタルに気取られるぞ」
     言いながらシゲルが、ユウイチを抜かして石段を颯爽と下りていく。ユウイチは手渡された父の仕事鞄を斜め掛けにし、かなわんな、と思いながらその後を追った。

     米原の郊外の一軒家。門の前に静かに停められた黒塗りの車。その後部座席からシゲルが降り立つ。降りたのを確認すると、運転席のユウイチが車を発車させた。
     壁に囲まれたその家の古風な門構えを潜ると、美しく設えられた通路が現れる。
     茶室の露地をモデルに作られたそこには、ささやかながらも美しい箱庭が点在している。
     伝統的で優美な和の装いに見えながらも、所々で見え隠れする冷たく無機的なデザイン。
     そのカタナのような感性が華道家キムラシゲルの本質である…と海の向こうで評判を呼んだ庭である。
     ぽつりぽつりと灯りが雨に光り、帰宅したシゲルとユウイチを迎える。
    「ただいま」
     シゲルが玄関で声をかけると、中からワタルとシッターが現れた。
    「おかえりなさい、おじいちゃん、おとうさん」
    「ただいま、ワタル。いい子にしていたか?」
    「うん!たなべさんと、モモもん見てたよ」
     タナベ、と呼ばれたシッターがシゲルに目礼する。そこらにいそうなふつうの中年女性の彼女もまた、シゲルの頼れる昔馴染みの一人であった。
    「ご苦労だった。また、よろしく頼む」
     シゲルには言葉すくなに頭を下げ、ワタルにはまた来るね、ワタルくん、とにこやかに手を振り、女が帰る。玄関ですれ違った彼女にユウイチは頭を下げると、玄関の鍵を閉め、ワタルの頭を優しく撫でた。
    「さあ、ここは冷えるからリビングで待っておいで。今日はオムライスだぞ」
    「やったー!」
     こどもがはしゃぎ、リビングの方にまっすぐ向かう。その姿を見送り、シゲルがにやりと笑った。
    「汚れ仕事の後は、いつもワタルの好物だな」
    「……嫌なら食わなくていい」
    「私も好物でな。食べるに決まっている」
     コートを脱ぐシゲル、自然とユウイチはそのコートを受け取りハンガーにかける。
     そして、父のスーツの襟元に小さな黒い染みを見つけるとじっと見つめた。
    「汚したな」
    「ぬかったな。なまったか」
    「シャツでなくて良かったな」
     ユウイチがジャケットを預かり、泥んこの子供服を見るのと同じ目でスーツを見下ろした。

     ワタルとこの家に身を寄せて以来、料理はユウイチの仕事になった。
     アル中だろうが何だろうが、息子の食事位支度できねばならん、とシゲルが言ったからだ。
    「待たせたな。オムライスとコンソメスープだ」
    「わぁ、おいしそう!」
     こどもがスプーンを握りしめて言う。
    「おとうさん、ケチャップでネコ描いて」
    「……ネコ…?」
     まるでネコという生物を見たことがないかのような顔をするユウイチ。やり取りを見ていたシゲルが助け船を出した。
    「おとうさんには少し難しそうだな。ワタルがかいてみたらどうだ?」
    「わかったー」
     ケチャップのボトルを両手で持って真剣な顔をするワタル。ぶしゃあとぶちまけんかと心配するユウイチと、ほほえましく見つめるシゲル。
     できあがった小さな画伯の力作は、大人二人を喜ばすに十分であった。
     3人での楽しい食卓、そしてその後にユウイチはワタルを風呂にいれた。シゲルは食器を食洗機に入れて片付けると、書斎兼寝室で花の本の続きを読み始めた。
     そうして一時間ほどすると、襖の外から控えめに声をかけられた。
    「親父、入っていいか?」
    「ああ」
     風呂から上がり、寝巻に着替えたユウイチ。シゲルのいる文机のそばに来ると、脚を崩して座る。
    「ワタルは?」
    「寝かしつけた。疲れてたのかすぐ寝てしまった」
    「ふむ」
     相槌をうち、シゲルが再び本に目をやろうとすると、ユウイチが一冊のガイドブックを出してきた。
    「あの、な……今度の三連休の土曜に、水族館に行かないか?」
    「水族館?」
    「ワタルは治療をがんばってきたろ。だから、御褒美…いや、お祝いとして」
    「……ふむ、良いのではないか?ぜひ、一緒に行こうじゃないか」
     ユウイチの顔が一瞬、明るくなる。そして良かった、とうなずく。
    「ワタルには言ってあるのか?」
    「まだだ。明日言ってみようと思ってる」
    「サプライズはせんのか?」
    「俺は顔に出やすいんだろ?途中でバレそうだからいい」
     ユウイチの言葉にシゲルが座椅子の手すりに頬杖をついて微笑んだ。
    「こどもは、存外鋭いからな」
     シゲルが急須に茶を注ぎ、二人分淹れる。それを共に嗜みながら、楽しみがひとつ増えたな、とシゲルは手帳に印をつけた。 

     次の日は、ワタルの通院の日であった。ビルの屋上から落とされて奇跡的に助かりはしたものの、完治までには時間がかかる。
     だから今は園には無理せずに通いながら、ゆっくりと体を休めるようにしている。
     予約のために朝早く起きて、ようやく診察を終えた。注射や検査をじっといい子に耐える姿を、ユウイチはそばで見るたび罪悪感が強くなって拳を強く握りしめた。 
     診察を終え、今度は病院の広いロビーで長い会計の順番を待ちをする。ワタルは、持ってきた本を読んだりしていたが、そのうちユウイチに凭れてうとうとしはじめた。
    「おとうさん、ねむい…」
    「うん。おいで」
     自分の膝に頭を凭れさせてやるユウイチ。ジャケットを脱いで包みこむようにかけてやるとそっと背中を撫でる。
     あの事故さえなければ、こどもが朝からこんなとこに来る必要もなかったのに。
     そういう思いが湧いてきたとたん、ワタルに触れていることができなくなる。そしてそのまま手を額に当てて、湧いてきた苦いものをやり過ごそうとする。
     馴染みの感覚だ。底無しの不安感。一瞬…ほんの一瞬、酒のことを思い出して目を固くとじた。
     不安と苦しさに溺れるとき、ユウイチは酒を飲んで逃げてきた。酒はもうやめると誓ったが、フラッシュバックに似た苦しさがそう簡単に消えることはない。
     ユウイチは自分の膝ですやすやと寝息をたてるワタルを見つめ、もう一度手を触れる。今まで酒瓶を握っていた手で、息子の髪をそっと撫でた。温かく柔らかい…この子は自分が守らなければいけない。
    「……はぁ…」
     ゆっくりと息を吸って吐く。そうすると少しずつ落ち着いてきた。そうしているうちに、番号が呼ばれる。ユウイチは眠るワタルを抱え上げて立ち上がった。
     
     家に着いた時はすでに正午を回っていた。家にはユウイチの父のシゲルが仕事から戻ってきていた。
    「ずいぶんかかったな」
    「いつもより混んでたんだ」
     カバンを受けとるシゲル。ユウイチの腕の中で、ワタルはぼんやりと目を覚ました。
    「おかえり、ワタル。疲れてしまったな」
    「…ただいま、おじいちゃん」
     眠そうな孫にシゲルがかわいくてたまらないというように目を細める。
    「お腹は空いてないか?ワタルの好きなハンバーガーを買ってきたぞ。ももモンのついてるやつだ」
    「ももモンの?食べる!」
    「良かったな。…ありがとう、親父」
     ユウイチがシゲルに礼をいう。
    「通院がんばったからな。お前のもあるぞ、ももモンの青いやつの」
    「……えーと、ももやんだっけ?」
    「いや、ももどんだ」
     シゲルが下ろされたワタルの手を引いて、いたずらっぽく笑った。

     リビングの家族写真のある棚の上に、コンプリートされたももんが一家が並んでいる。
     リビングで温め直したハンバーガーを3人で食べる。シゲルはハンバーガーを頬張るワタルとユウイチを眺め、嬉しそうに微笑んだ。
    「…何かついてるか?」
    「いや。妙に和んでな」
    「こども扱いするなよ…。ワタル、口を拭いて。ベタベタだ」
    「おまえも、ここ」
     こどもの口でかぶりつくにはバーガーは大きい。そう言うユウイチもまた口の端にマヨネーズをつけている。シゲルに言われてばつが悪そうに拭うユウイチ。
     最後の最後のポテトまで食べ終わり、片付けをしてきたユウイチがワタルに本を差し出した。
     見開きの水族館のページ。イルカのショーが大きく載っているのに、ワタルは目を輝かせた。ユウイチが一緒に本を覗き込みながら言う。
    「ワタル。こんどの土曜日に、水族館へ行かないか?」
    「すいぞくかん?」
    「そう。ここな。さかなやイルカやペンギンもいっぱいいる」
    「ペンギンも?」
    「うん、いるよ。5歳の誕生日をちゃんとお祝いできなかったし…病院も頑張っているから、どうだろうか」
    「ぼく、行きたい!」
     ワタルが即答する。そしてシゲルと父を見て言う。
    「お父さんと、おじいちゃんも行く?」
    「もちろんだ」
    「やったあ!」
     ぎゅっ、とユウイチに抱きつくワタル。息子を受け止めたユウイチが、頭越しにシゲルを見てはにかむように笑う。シゲルは満足そうに頷いた。
    「良かったな、ワタル…ユウイチ」
    「うん!」
    「…ん」
     シゲルはかわいい子らを見て、嬉しそうに笑った。  

     土曜日の朝はきれいに透き通った晴れであった。楽しみすぎて早く起きてしまったワタルは、その日はいつもはシゲルが開けるカーテンを開けて待っていたくらいだ。
     その音に目を覚ました大人二人がリビングに出てきて、顔を見合わせる。
    「張り切っているな」
    「昨日は9時前から布団に入って寝てた」
     ふわぁ、とユウイチがあくびする。シゲルはその横顔を、片眉を上げて見る。
    「お前も楽しみすぎて寝られなかったのか?」
    「いや…その、また色々浮かんでな。でも、寝るのはちゃんと寝たから運転は大丈夫だ」
     シゲルがユウイチの背をぽんぽんと叩く。
    「添い寝が必要なのはお前の方かもな。今度眠れんときは寝かしつけてやろうか」
    「…こども扱いするなよ」
     顔を赤くしたユウイチは、怒ったような照れたような顔でキッチンに逃げ込んだ。

     早起きのお陰で予定よりも速やかに出発した3人は、ほぼ開館と同時に館内に入ることができた。ワタルが嬉しそうにとことこと駆け出す。
    「おとうさん、おじいちゃん、はやくー!」
    「おーい、おじいちゃんを置いてきぼりにしないでおくれ」
     シゲルが杖を振る。それを横目で見たユウイチがフッと笑う。
    「親父が孫に置いてきぼり、ね」
    「今日はスキップしたいくらい調子がいいが、それでは杖を持ち込めんだろうが」
     そう言って仕込み杖でとん、と床をつくシゲル。その細身の軸の中には、何人もの敵を斬り伏せてきた刃がある。当然、それを知るのはユウイチのみだ。
     慌てて、ととと、と駆け戻ってきたワタルがシゲルに手を差し出した。
    「おじいちゃん、ごめんね。ぼくと手をつなご」
    「ありがとうなぁ」
     にっこりと好好爺の顔をするシゲルに、ユウイチはたまらずタコを見るふりして顔をそらした。
     新しくできた水族館は博物館と一体化しており、一日中楽しめる凝った作りをしている。
     午前中は博物館コーナーを回り、恐竜や世界各地の動物の展示などを眺めて回った。
    「ぞうと、きょうりゅうとどっちが大きい?」
    「大きいのから小さいのまでいるだろうが、恐竜の方が大きいと言われているな」
     シゲルがワタルを抱き上げて、骨の顔の高さに近づけてやる。ワタルが牙に驚いて、シゲルにしがみつく。
    「とがったはがいっぱいはえてる」
    「おお、すまんな。怖かったか?」
    「…うん」
     よしよしと孫を撫でるシゲル。ユウイチが一緒に宥めた。
    「もう骨だから何もして来ないよ。それにじいちゃんは強いから大丈夫だろ?」
    「……うん」
    「そこは、お父さんと言わんか」
     シゲルがユウイチを見て笑う。ユウイチはフッ、と微笑んで肩をすくめた。
     シゲルがワタルを下ろして手を繋ぐ。
    「少し早いが、昼ごはんにしようか。ちょうど博物館と水族館の間にフードコートがある」
     フードコートはまだ混み合う前で、併設されたお土産のショップもゆっくり見て回ることができるくらいには空いていた。
    「おっきいペンギンがいる!」
     土産物コーナーの、ぬいぐるみの一角。ワタルはそこに並んでいた親子のペンギンに釘付けになった。シゲルが尋ねる。
    「ペンギン好きか?」
    「好き!かわいいもん」
    「そうかそうか」
     シゲルがにこにことやにさがる。ワタルがペンギンと祖父を見て、言った。
    「それにね、ペンギンておじいちゃんにちょっとにてるの」
    「え?」
    「おようふくおしゃれで、ときどき目がキッてなるんだよ」
    「……はあ」
     目元をきゅっとさせて真似して見せるワタル。後ろから一部始終を見ていたユウイチが笑いをこらえきれず震えた。
    「確かに目をキッ、てするとこ似てるな」
    「……ユウイチ?」
     言われたとおりの目をまさにするシゲルがユウイチをにらむ。ユウイチはふふっ、と笑いながら顔を背けた。
     結局、家には目のキッ、としたペンギン似のおじいちゃんがいるということで、木村家にはこどものペンギンがお迎えされることとなった。
    「すまんな、買ってもらって」
    「遅いが誕生日祝いだ」
     シゲルが子ペンギンを抱っこした孫に目を細めた。
     水族館コーナーは、手で触れる距離にいる川の生き物コーナーから、深海の海を見られる水槽まで色々な海を再現している。もちろんペンギンのすみかも水の上からも下からも見えるようになっており、ワタルは飽きずにペンギンを眺めて、写真も撮った。
     中でもワタルが一番気に入ったのは、色とりどりの魚が行き来する巨大な南国の海だった。
    「すごーい!」
     広々としたホールにせりたつ青い海。ピンクや黄色の可愛らしい魚から、迫力ある大きな魚までが泳いでいる。
     水槽にくっつかんばかりに近づいたワタルが一生懸命上を見上げる。低すぎて見にくそうな様子に、ユウイチが手を差しのべた。
    「おいで」
     ワタルをペンギンごと抱き上げると、魚が群れをなす高さで見せてやる。
    「わぁ、きれい!」
     白と黒の縞模様のハタタテダイが、ピンクの珊瑚の間をひらひらと舞う。ペンギンもしっかりと前を向けてやるワタル、その背を支えるようにシゲルが手を添えた。
    「おとうさん、かめ!」
    「ああ」
     悠々と泳いできた亀をワタルが伸びをして見つめる。その嬉しそうな横顔を見て、ユウイチとシゲルは目を見交わし、微笑みあった。

     帰りの車の後部座席には、チャイルドシートですやすやと眠るワタルと、お供のペンギンが仲良く寄り添っていた。
     その隣にはシゲルが座り、膝掛けをかけてやっている。
     夕焼けを追いかけるように高速に乗り、海の見えるパーキングエリアで一休みする。大人二人は車の傍らでコーヒーを飲みながら風にあたる。
    「良く寝てる。疲れたようだな」
    「6時から動き回ってればな。それに、やっぱりまだ体力が戻ってないのだろう」
    「いずれ何とかなるだろう。焦るな」
     再びうつむいたユウイチを見やり、シゲルがフォローする。それでもまだ不安そうな顔をしているのを見て、シゲルはポケットから何かを取り出した。
    「忘れていたが、お前へのおみやげだ」
     ユウイチが思わず差し出した手の上に乗せられたのは、とぼけた顔で前を見るチンアナゴのキーホルダーだった。
    「…何で俺にはチンアナゴなんだ…?」
    「物珍しそうに長い間眺めてたからな、チンアナゴを」
    「……。うん…その、ありがとう」
     困惑するユウイチがタグを外し、車のキーにくっつける。そしてにやりと笑った。
    「こう見ると案外かわいいな。それに、チンアナゴってちょっとおじいちゃんに似てるから好きだ」
    「言ってろ」
     二人顔を見合わせて、肩を震わせて笑う。夕空と宵闇の切り替わる空には、はや、星が現れ始めていた。
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