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    medekuru

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    medekuru

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    まどめ二次創作になります。
    バルバロス人質ネタ

    「俺を人質に取ったところで要求を飲む馬鹿はいねえ」
    このバルバロスを思い知らせてやりたかったんです……!

    自己犠牲の守護者達『シャスティル殿少しお耳に入れておきたい情報が……』
     いつも通りバルバロスは煉獄で魔術の研究をしてると、シャスティルに繋げてる影から気になる内容が聞こえてきた。
    『どうした? アルフレッド』
    『まだ確認はとれていないのですが、どうにもシャスティル殿を陥れようと計画してる輩がいるそうなのです。動機や手段などは不明ですが市井でそのような噂が流れてるらしく……』
     あのポンコツはまた狙われてんのか。最近は少しずつ共生派に賛同するやつも出てきたが立場上内外から狙われやすいのは変わんねえ上に少し前から自分との駆け落ち疑惑までかけられてる。まぁ駆け落ちではないのだが。
     それでも自分との関わりが公になったのは変わりはない。聖騎士と魔術師がつるむのをよく思わねえ奴なんざいくらでもいるだろう。教会側なんて特にだ。
     話を聞く限り街の中で噂があるだけで、まだ詳細は全く分かってないようだ。これ以上シャスティル達のやり取りから情報は得られそうにない。ならまずその噂を調べに行くしかないだろう。
     やりかけの研究を切り上げて、キュアノエイデスの酒場へと向かった。



     いつもの酒場で注文した酒とチキンを食べながらバルバロスは周りの話に耳を傾けていた。
     中々例の噂話は耳にしない……とはいえザガンが三馬鹿と呼んでるあの騎士達はシャスティルに従順だ。嘘をつく事はまず無いだろう。となると意図的に掴まされた情報の可能性も……?
     そんな事を考えてるとふと自分と同じテーブルに一人の男が座り遮音結界を張った。
    「あんた、《煉獄》のバルバロスで間違いないよな? 聖剣の乙女とつるんでるんだろ?」
    「ああん? 何の用だよ?」
     このタイミングでシャスティルの名前を出してくるなら内容は一つだろう。
    「実は、とある計画に無理やり従わさせられてるんだ。共生派なんて面白く思わねえ連中が聖剣の乙女を陥れようとしてる。俺は下っ端だから逆らえなくて困ってるんだ」
    「それを俺に話してどうしよってんだよ?」
    「計画を阻止してアイツらから距離を取りたいんだよ。出来れば始末してくれりゃ俺としては助かる。あんたもつるんでるあの女が狙われるのはよくないだろ?」
    「んで? 具体的な内容が全然わかんねえんだけど? 助けて欲しけりゃ情報提供は必須だと思うが?」
    「具体的な内容は言えない。漏洩を防ぐために制約の魔術で拠点以外で内容を伝えれないようにされてんだ。だから噂を装って聖騎士にそれとなく伝えたりしてんだが……俺と一緒に拠点に来てくれればちゃんと話すよ」
     どうにも胡散臭い感じだと思う。魔術師の拠点は自分に有利なように結界の数々を仕込んだりする。そこにおびき寄せるような行為は罠の可能性大だろう。
     けれどシャスティルが狙われる可能性があるなら、放置しておくのは論外だ。
    「わあったよ。ここの飲み代はお前もちな? それで話ぐれえは聞いてやる」
    「助かるぜ。早速向かってもいいか?」
    「ああ、構わねえよ」
     さて蛇が出るか鬼が出るか……ポンコツの害になる前にかたがつきゃいいが……



    「ここか?」
    「ああ、ある程度奥に入らないと話せねえんだ」
     ざっと見た感じ無数の魔法陣が見える。けれど殆ど機能してなく更にそれらの内容を隠すような魔術が張り巡らされていて最早怪しさしかない場所だった。
    「一応言っておくが変なこと企んだらタダじゃおかないぜ?」
    「嘘は言ってねえよ。入口から入ると真っ直ぐな道になっててそのまま奥に進むと大きめの部屋があるんだ。そこまで行ければ話せるぜ」
     見えない魔法陣は不気味だけれど、どの道行くしかないだろう。
     中は男が言ってたように一本道で奥に扉が見える。あの向こうが言っていた部屋だろう。
     今のところ結界による制限はかかっていないし男も特に変わりはなさそうだ。
    「着いたぜ。わざわざ足を運んでやったんだ。しっかり説明してもらうぜ?」
    「ああ、もちろんだ。聖剣の乙女は共生派なんて呼ばれてるだろ? 噂じゃ悪さしない魔術師は斬らないし魔王ザガンとも友好関係だとか」
    「まぁ、確かにそう言われてんな」
    「だから怪しまれずに取り入る事が出来れば聖剣の力を利用できるかもだし上手く行けば教会を操る事も魔王ザガンに取り入る事も出来るんじゃないかって考えたらしいんだ」
    「はん。随分おめでたい頭だな。んでどうするつもりだったんだよ?」
    「それはだな……」
    「!?」
     急に身体が重くなった。結界を発動させやがったのか!
    「てめえ。随分舐めた真似してくれたじゃねえか」
     部屋に大勢の魔術師が集まっていた。ざっと六十人くらいだろうか。結界の規模から使う時は複数人で発動させる可能性も考慮はしていた。それでもここまでの人数は想定外だ。一旦引いた方がいいだろう。
     煉獄へと繋がる影を広げようとしたが……転送魔術が完全に封じられている。つまり元々自分を相手にする事前提の結界だ。結界魔術構築してる奴は……ざっと半数か。バルバロスの実力なら数人なら対処出来ただろう。だがこれだけ大人数でやられると解くのは難しそうだ。
     残りの半数はバルバロスの周りに集まってくる。
    「ちっ、やってやらあ!」
     近づいてきた魔術師達に向かって炎を放つけれど……殆ど威力は出ない。ほかの魔術も完全には防がれてないもののかなり制限されているようだ。
     一方で魔術師達は勢いが衰えることなく攻撃を仕掛けてくる。数で圧倒され徐々に追い詰められていく。
    (ちいっ! そろそろ魔力もやべえ。何とか手を打たねえと……っ!?)
     いつの間にか誘導させられていたのだろう。魔法陣の上にいると気づいたときには既に足元で光っていた。動きを拘束するもののようでバルバロスは立っていられずそのまま膝をつく。
    「はん、俺を捕まえてどうしようってんだ? 解放と引き換えに研究を譲渡しろとでも言うつもりか?」
     完全にバルバロス対策向けで作られた結界。その上で自分を殺すことなく拘束するなら研究の譲渡ぐらいしか思い浮かばない。シャスティルを手出しする為に邪魔なら今殺せばいいだけなのだから。
    「それも魅力的ではあるがね。でも他にも欲しいものがあるのだよ。まぁそのうち分かるさ。しばらく大人しくしててもらうよ」
    「ちっ……てめえらタダで済むと思うなよ?」
     相手の目的は全く分からず何か嫌な予感もするけれど今のバルバロスにはどうやっても拘束は解除出来そうになかった。



    「バルバロス……やはりいないのか?」
     いつもは話しかければ反応返してくれるバルバロスが答えなくなって既に一日以上経過していた。
     以前ザガンのお風呂完成に呼ばれた数日後も反応なかったけれど、あの時はまだ時々空返事を返してくれることはあった。今回は全く音沙汰ないのだ。
    「シャスティル、少し気分転換してきたら?あなたさっきから全く書類進んでないわよ?」
     ネフテロスから言われて書類を見てみると確かに全然出来ていなかった。気持ちを切り替えようと思うけれど……それでもどうにも仕事に集中出来そうにない。
    「すまないネフテロス……」
    「そんなに気になるならあいつが行きそうなところでも見てきたら? 見つからなかったとしても少し出歩けば気分転換にもなるだろうし」
    「そうだな……すまないがそうさせてもらうよ」
     確かにこのまま仕事しても進まないだろう。なら彼女の言うとおりバルバロス探しに行くほうがいいだろう。



     シャスティルは酒場に来ていた。バルバロスは酒が好きだし、ここにはザガンと飲みに行ってたとネフィから聞いたことがあったからだ。けれどバルバロスの姿は見当たらない。
     一通り店内を見てそのまま店を出ようとした時、すれ違いざまに一言投げかけられた。
    「《煉獄》を捕らえた」
    「な!?」
     振り返ると見知らぬ魔術師の姿があった。今この男はなんと言った!? まさか……
    「おっと、騒ぐなよ? 俺たちは今あいつの命を握ってる。疑うかどうかは自由にしな」
     バルバロスは……相変わらず反応しない。この男の言う事が本当の可能性がある。少なくとも連絡を取れない状態にされてる可能性は高い。
    「……用件はなんだ」
    「話が早くて助かるぜ。お優しい聖剣の乙女様はツレを見捨てないだろう? 大人しく一人でついてきてもらうぜ?」
     明らかに罠だろう。それでも
    「分かった。言う通りにする」
    「本当に話が早くていいぜ。ま、すぐに合わせてやるよ」



    「ったく、いつまで閉じ込めて置くつもりだ? いつまでも続けられるなんて思われてんなら随分舐められたもんだな」
     バルバロスを拘束してる結界は十人ほどの交代制で常に魔力を込め維持されていた。捕まってから既に一日ほどたっている。
     魔力はある程度回復してきたけれど捕まった状態では拘束の魔法陣を破壊する事が出来ずにいた。
    「まどろっこしいマネすんじゃねえよ。そろそろてめえらの用件言ったらどうだ?」
    「まぁもうすぐ分かるさ」
    「?」
     足音が聞こえてきた。その音はだんだんこちらに近づいてくる。二人分だ。やつらの仲間だろうか?
    「ほら、客だ。お望み通り答えがやってきたぞ」
    「な!? なんであいつがここにいやがる! てめえらどういうつもりだ!?」
     部屋の入口前にシャスティルが見えた。向こうもバルバロスに気づいたのだろう。こちらに駆け寄ってくる。
    「バルバロス!」
    「おっとそれ以上は近づくなよ? こっちはいつでも殺れるんだ」
     魔術師達が指を軽く振るうと直後全身に強い衝撃がはしる。痛みを防ぐ魔術も阻害されているのだろう。
    「ぐぅっ……」
    「やめろ! 私に何か要求があるのだろう!」
    「話が早いのは嫌いじゃないですよ。では本題に入るとしましょうか」
     魔術師のうちの一人がシャスティルに近づいていく。
    「今からあなたに精神干渉の魔術をかけますので、無抵抗で受ける事。そうすれば《煉獄》の命は保証しましょう」
    「なっ!? てめえら何言ってやがる。んな要求通る訳ねえ」
    「……魔術を受ければバルバロスを解放するのか?」
     魔術師達の要求に対して自分が悪態ついたと同時にシャスティルの言った言葉が理解出来なかった。まさか……
    「……ぉぃ」
    「すぐ解放して暴れられても困るのでね。まぁ我々の目的を完全に達成出来れば解放しよう」
    「おいっ」
    「なら私が魔術を受けた時点でバルバロスを絶対に殺さないと約束できるか?」
    「おいっつってんだろ!! てめえらなにぬかしてやがる!! ポンコツもポンコツ言ってんじゃねえ!!」
     先程のシャスティル言葉は理解出来なかったのでは無く恐らく理解したくなかったのだろう。この会話のあとに予想される事柄……それだけは避けなければ。
    「それは約束しよう。あなたが要求をのむなら《煉獄》は殺しはしない」
    「そんなの対価にもなんねえよ! んな簡単に俺は殺られたりしねえ! こんなヤツらの言う事なんざ聞くんじゃねえ!」
    「……分かった。貴方たちの要求をのむよ」
     シャスティルの言葉に血の気が引く。結界に囚われてる自分の声は聞こえていないのだろうか?
     魔法陣見た限りそんな効果はないはずなのに自分の言葉を聞こうとしない様子でそんな風にさえ思えてくる。とにかく早く止めさせなければ。
    「おいポンコツ! てめえ自分が何言ってんのか分かってんのか? 精神干渉の魔術なんて下手したら死ぬよか酷え目にあうんだそ!!」
     精神干渉といっても色々ある。暗示や洗脳など、意志を剥奪するような魔術は珍しくもない。ここまでやっておいて軽めの暗示かけて終わり……なんてことはないだろう。
    「ならその聖剣は離してもらおうか」
     シャスティルは聖剣を手放し、そのまま剣は足元で転がった。気丈に振る舞っているつもりなのだろう。けれどその手は、僅かに震えていた。
    「何言う通りに聖剣離してやがる!! ポンコツも度が過ぎんぞ! そもそも聖騎士が魔術師を気にするなんておかしいだろうが!」
    「あなたがそれをいうのか? 魔術師のあなたは今まで聖騎士の私を守ってくれてたじゃないか」
     ようやく自分の言葉に反応した。聞こえてない訳じゃない。なのになんでこんな馬鹿げた要求をのむのか。自分を助けるために要求のむヤツなんているはずないのに。
     とにかく一刻も早くシャスティルに思い直させなければ。焦燥を感じながら叫び続ける。
    「それは報酬のためだ! 前にも言ったろ! いいからさっさと拾っててめえを守れ! お前の剣の速さなら言いなりになる必要なんざねえ!」
    「ほぅ……やってみますかな? あなたの剣が我々を全員倒すのが早いか《煉獄》が死ぬのが早いか。もしかしたら我々を倒す方が早いかも知れませんよ? 大切な人の命をチップにやってみますかな? お優しい聖剣の乙女殿?」
     そう言いながら魔術師はシャスティルに向けて腕を伸ばしていく。その光景に酷く胸を締め付けられる。
    「てめえ! それ以上そいつに近づくんじゃねえ!! そいつから手え引くなら、てめえらの望むものなんだってくれてやる! ポンコツも怖えならさっさとそれ拾って身を守りやがれ!」
     自分が動ければ、この拘束さえ無ければすぐにでもこんな馬鹿げたこと止めさせるのに。相手の目的がシャスティルでなく自分だったのなら何だろうと今すぐにでも承諾して止めさせるのに!
    「それでも、聖騎士とか魔術師とか関係なく私はあなたを守りたいんだと思う」
     そう言うシャスティルの額に魔術師は触れて魔法陣を紡いでいく。
     怖えんだろっ! なんで俺の言う事聞かねえんだよ!
     なんでそんな取引に応じようとしてんだよ……
     早く……早く止めさせねえとっ!
     怒り、困惑、焦燥……懇願さえ込めてありったけの声で叫ぶ。
     なあ、頼むからっ!
    「逃げろ! シャスティル!!」



     ……バルバロスの声が聞こえる。そうだ助けなくては……自分は相手の要求を受け入れた。これでバルバロスは殺される事は無いはず。なら、あとは……!



     叫んだ直後、シャスティルは膝から崩れ落ちた。
     その瞬間、世界がゆっくりになった気がした。膝をつき、そのまま前のめりになり、ドサッと音を立てて倒れる様子に頭が真っ白になる。
    「ふう、これで計画は上手く行きそうだな」「ここまで来ればあとは術が効くのを待つだけだな」「さてどのくらいで心が折れるか……」
     一瞬呆然としたバルバロスだが、魔術師達の言葉ですぐに我にかえり怒り叫ぶ。
    「てめえら! 何してくれてんだっ!! 今すぐそいつの魔術解きやがれっ!!」
     言葉に魔力を乗せて叫ぶ。魔力は魔法陣にかき消されたが魔術師達の注意が自分の方に向いた。
    「くっ! おい、《煉獄》のやつ拘束破る気だ!」「恐らく一日で回復した魔力全部突っ込んでやがる。十人じゃ厳しい、すぐ魔法陣維持に手を貸せ」「どの道精神干渉は魔術かけたあいつしか解けない、無駄なあがきはやめるんだな」
    「クソッタレがぁぁぁっ!! てめえら全員ぶっ殺してやらあ!!」
     今すぐこいつらを殺してシャスティルを助けなければ。それが出来るなら魔力枯渇で倒れようが自分がどうなろうが関係ない。
    「殺してやる! ぶっ殺してやる! んな事してただじゃおかねえ! どんな手を使おうと、てめえら全員一人残らず皆殺しにしてやる!!」
    「怯むな! 魔法陣維持さえすれば問題ない」「吠えるだけだ! 閉じ込めておけばなにも出来はしない」「《煉獄》の魔力切れまで持ちこたえればいいだけだ」
    「ふざけやがって!! ぜってえ許さねえ!! てめえら全員……!?」
     全力で怒り叫び魔力をぶつけていると、拘束の結界が割れた。だが自分で壊した手応えはなかったはず。
     みるとシャスティルが聖剣を手にして結界を斬り捨てていた。けれどそのまま倒れ、魔術師が寄ってくる。
    「コイツまだ動けたのか!」「魔術は効いてるはずだろ?」「聖剣を取り上げろ! ……っぐあぁっ!?」
     魔術師の一人がシャスティルに触れようとした瞬間、黒い影で串刺しになる。解放されたバルバロスが黒針を放ったのだ。
     どうやら拘束と一緒に魔術制限の結界も壊れたらしい。続けてそばにいる魔術師達も同じように串刺しにしていく。
    「おいっ、シャスティル! ……聞こえてんなら返事しろこのポンコツ!!」
     魔術師達が狼狽えてる隙に即シャスティルを抱え呼びかける。息はしているが意識はないようだ。力なく横たわる姿に何かが切れた音がした。
    「てめえら……よくも散々やってくれたな! 一人も残さねえ!!」
     シャスティルを片腕で抱えなおし、抱えてない方の腕を振るい魔術を行使していく。魔術師達の足元に大量の口が開く。
    「うわぁ! なんだコレは!」「ひぃ! 助けてくれ!!」「すぐに浮遊魔術を使え!!」
     魔術師達は騒ぐもののすぐに浮遊魔術を使用出来なかったヤツらはゾーンイーターに飲まれていく。これは有機物でも無機物でも問わずゴミでも消化する。取るに足らないゴミ共にはお似合いの最後だろう。バルバロスが手を握るとゾーンイーターは口を閉じそのまま消えていく。
    「てめえら、消し炭にしてやる!」
     今度は別の魔法陣を構築する。憤怒の火、そう呼ばれ竜の吐息と同等と言われている熱線の魔術だ。その魔術に怒りを込めて何度も放つ。辺りは一瞬で灰へと変わっていく。
     その光景は、まさにバルバロスの憤怒を具現化しているようで、宣言通り魔術師達を皆殺しにしていく。
     ここまでで運良く生き残っている魔術師は僅か五人。最初にいた人数の一割未満まで減っていた。
    「た、頼む! 見逃してくれ!」「お、俺は逆らえなかっただけなんだ! 最初に会った時に言ったろ!」「何でもする! 研究だって全て譲渡したっていい!」「死にたくねえ!」「お、おい! 何で魔術師が聖騎士倒れてムキになってるんだ! 落ち着けよ……ぐああぁ!?」
     最後のセリフを言ったやつの手足に黒針を叩き込み火をつける。先程と違って一般的な火の魔術だ。まぁバルバロスが使えばそれなりの威力にはなる。
     じっくりいたぶる時間はないけれど、死ぬまでの数分間全身を焼かれ苦しめばいい。あと残りは四人。
    「そいつにかかった魔術の情報、知ってる事は全て話す!! だから命だけは助けてくれ!!」
     その言葉に魔法陣を描いてた手をピタリと止める。この反応を見た他の三人も口を揃えて懇願してくる。
    「俺も言う! 頼むから殺さないでくれ!」「その女大切なんだろ!? 見逃してくれるならなんでも言う!」「情報はいくらでも話すし協力出来ることならなんだってする!」
     こいつらは……先程シャスティルの危機に散々バルバロスが叫んだ時は放置したくせに……今すぐ全員嬲り殺しにしてやりたい……そう思いながら四人に向けて魔術を紡ぐ。
    「「「「ぐあぁ!?」」」」
    「……今すぐ皆殺しにしてやりてえが、てめえらの言い分きいてやる。コイツにかけた魔術の情報全てと、今回の目的、それと魔術かけやがったやつが見当たらねえ。そいつが何処に行ったのかも答えろ。嘘偽りなくだ。要求に全て答えるならてめえらの心臓に仕込んだ契約魔術と引き換えに命だけは見逃してやる。これ以上俺の機嫌を損ねるような事をすれば即殺す」
     シャスティルを助けるためにはかけられた魔術の情報は欲しい。先程解除は本人しか出来ないと言っていたヤツがいるから術をかけたやつも見つけなくてはならない。
     当人は魔術をシャスティルに使ったあと何処かに消えてしまったのだから。なら、この殺したい衝動を無理矢理抑えてでも聞き出す必要がある。
    「わ、分かった! 言うから殺さないでくれ! そいつにかかってる魔術は夢を媒体にしてるそうだ! 昔、夢魔の一族を捕まえて研究したと言っていた!」「そ、そうだ確か生きる気力を奪うような悪夢など見せ続けて心を折るんだとか」
    「あ、ああ! 確かに俺もそう聞いた。何でも対象者の夢の中に実体ごと入り込んで精神を手放すように促すとか……嘘じゃねえよ! 本当にそう聞いたし実際この計画の前に実証してやるって言われて乗り気じゃなかったやつに向かって使っていたんだ!」
    「……そいつはどうなった?」
    「客観的見てだが、おそらく自我は崩壊していたとおもうぜ。心が壊れたのか最初ただ呆然としてるだけだったけどヤツが指示をだせば従順にしたがっていた」
     精神干渉の魔術と聞いた時から嫌な予感はしていたけれど、最悪のパターンだ。シャスティルが壊される前に一刻も早く魔術を解く必要がある。なのにかけた本人が夢の中とは……
    「……んで? 今回の目的は? さっきの話から察するにコイツを操り人形にでもするつもりだったのか?」
    「そ、そうだ。聖剣の乙女を言いなりにさせて教会を上手く利用してやろうと……俺が言い出したんじゃないぞ! あの魔術かけたやつが言い出したんだ!」
     聞いているだけで虫唾が走る内容だ。だが心臓の魔術が反応しない所を見ると、ここまでの内容に嘘はついてないのだろう。
    「魔術の解除方法は?」
    「ゆ、夢の中で被害者に逃げ切れられると解けるらしい。心が折れる前に起きられればとかって意味だとは思うが……夢の中で実体がある自分から力づくで逃げるのは無理だって自慢げに語ってたのを聞いたことがある」
     シャスティルが自力で起きるのは厳しいだろう。恐らく魔法陣壊した時は魔術かかった直後だった為動けたのか……それでもかなり無理してた可能性すらある。
    「俺がその元凶を追いかける方法は?」
    「そ、それは分からない……だ、だけど知ってる情報は全て言ったし、やれることならなんだってする!」
     まぁ、思った通りの返答だ。一応念の為聞いただけでバルバロスも答えが得られると思って聞いた訳では無い。ここで命欲しさに適当な情報を言っていたら即魔術で燃えていただろう。
    「まぁ、分かった。嘘は言ってねえみたいだし今後コイツに手出しをしねえってえなら見逃してやる。だが次はねえぞ?」
     そう吐き捨てバルバロスはシャスティルを抱えたまま影に飛び込む。
     あとには灰の山と命拾いをした四人、苦悶の表情を浮かべたまま燃え尽きた死体が一つ残っただけだった。



    「おい、そこのお前、力を貸せ!」
     バルバロスはザガンの城にある厨房に転移しリリスに向かって開口一番にそう言い放った。
    「ちょっと、もう少し言い方ってものが……って何コレ!? 魔力が元気ないし、夢も何か変よ! 一体何があったのよ!」
     シャスティルを見て即異変に気づくのは流石夢魔族と言ったところか。
    「魔術師にやられた。コイツの夢を媒体にして精神干渉してるが、ヤツは身体ごと夢ん中に入り込んでやがるそうだ。何とか夢の中に干渉出来ねえか?」
    「そんな事できる魔術なんて……実体ごと夢に入れるのなんて普通夢魔くらいなのに。とにかくベットに寝かせてきちんと夢を覗いてみないと……申し訳ないけど料理あとお願い!」
     周りの了承の声を聞く前にバルバロスはリリスを連れてベットがある部屋まで転移する。どうせダメと言うやつはいねえしそんな事どうでもいい。少しでも早く解決しないと……そう思いシャスティルを寝かせる。
     すぐにリリスが夢を覗こうとしたその時、幽世鏡が反応しシャスティルが映し出されていた。
     その姿はまるで何かに怯えているような表情をしていて……バルバロスは我にもなく鏡に向かって手を伸ばしていた。
    「「!?」」
     次の瞬間、伸ばした手が鏡の中に入っていた。これにはリリスとバルバロスは一瞬驚くけれど
    「これ、夢ん中に繋がってんのか?」
    「う、うん。そのはず。前にも似たような事あったし……引き込まれてたりしてない?」
    「いや引き込まれる様な感じはしねえが、繋がってんなら話は早いぜ!」
     夢の中へ直接行けるならシャスティルを連れ戻しに行ける。そのまま躊躇わず鏡の中に入っていった。



     ここが、あいつの夢ん中か?
     小さなシャスティルがお兄様と慕う相手と楽しそうにしている。ここだけ見れば悪夢とは違う感じがするけれど……そう思った直後兄が死に悲しみに暮れるシャスティルの姿に変わる。
     それでも不器用ながら健気に頑張ろうとしているシャスティルに向かって偉そうな貴族達が次々と見下すような発言をしていく。
    『〜そういう他人を見下すような言動はやめてくれ。軽蔑してしまう』
     不意に以前シャスティルに言われた言葉が頭をよぎる。もしかしたら、この貴族たちが吠えてる言葉はかつてシャスティルに投げかけられたものなのだろうか。
     いつの間にか小さなシャスティルはいなくなり暴言を吐き続ける貴族たちだけが残っていた。
    「ちっ、胸糞悪りい……」
     感情の赴くまま貴族たちを全員跡形もなく燃やしていく。
     周りに誰もいなくなると、ふと遠くの方で声がするのに気がついた。もしかしたらこの先に魔術師がいるかもしれない。他に手がかりもないしひとまず声のする方に進んで行く。
    「これは、どういう事だ?なんでここがこんな所に……?」
     しばらく声の方に走って行くと、前にバルバロスの拠点の1つとして使ってた洞窟があった。もっともザガンに潰されて今は存在しないけれど。
     声は中から聞こえる。どうにも聞き覚えのある声だ。いや、聞き覚えがあるというよりも……
    「まぁ行けばわかんだろ」
     そのまま声のする洞窟へと歩みを進めた。



     奥に進むにつれ、声はハッキリ聞き取れるようになってくる。
    「てめえは俺より格下だから守ってやってる」
    「俺の方が偉いというか、そういうあれだ」
    「俺は年上にしか興味ねえから」
    「聖騎士が魔術師に気に入られるはずねえ」
     声はやはりバルバロスのと同じものだった。確か以前自分がシャスティルに向けて言った言葉もある。それ以外もあるが。
     洞窟の奥ではかつて自分が攫った時と同じようにシャスティルは岩壁に鎖で繋がれていた。その前にバルバロスの姿をした者がいる。顔をそむけようとしたシャスティルの顎を掴み、言葉を吐き続ける。
    「辛い現実を見るのなんかやめてさっさと精神を手放しちまえよ。何ならてめえが望む幸せな夢を見せ続けてやってもいいぜ……おっと!」
     バルバロスの姿をした男に黒針を叩き込むものの、かわされてしまい思わず舌打ちをする。
    「人の姿使って随分勝手な事してくれるじゃねえか」
    「……バル……バ……ロス……?」
     魔術を使いシャスティルの鎖を切断する。だがボンヤリとしたままで男の後ろから動こうとしない。これは急いで連れ出したほうがよさそうだ。
     ヤツが素直にさせてくれるとは限らないが。
    「ほぅ。まさか俺の領域に本物が紛れ込むとはな」
    「てめえ、あん時ポンコツに魔術かけやがったやつだな」
    「ご名答。どういった手を使ったか知らないが、夢の中ではお得意の転移魔術は使えないだろう。ここは俺に有利な空間、わざわざ来たなら好都合。ここで心の支えになってるお前を倒せばコイツの精神を完全に支配出来そうだ」
    「はっ、さっさとてめえを倒してポンコツは返してもらうぜ」
     すぐにバルバロスは炎の魔術を紡ぐ。一流の魔術師ともなれば狙った位置のみ燃やす事が出来る。当然そばにいるシャスティルは巻き込まないように炎は魔術師に向かって燃え盛る。けれど
    「流石の精度と威力と言うべきですかな?ではお返しといきますか」
     いつの間にかバルバロスの後ろに移動していた魔術師は同じように炎をバルバロスに向かって放つ。
    「ちいっ!」
     全く同じレベルの炎を辛うじて後ろに飛びざかり避ける。けれど避けるときに見た魔法陣の回路は全く違って見えた。それどころか意味のある回路かすら怪しい。せいぜいシンボルがあっているくらいだろう。
    「ふふ、流石ですね。転移を使わずとも避けるとは。ですが」
     魔術師の姿が消え、再度シャスティルのそばへと移動していた。
    「あなたはここで転移を使う事は出来ませんが、私は好きな場所へ移動できます。それどころかあなたが使える魔術は全て使えますよ。例えは先程あなたが挨拶がわりに使ったこれとか」
     バルバロスの影から黒い針が見え、咄嗟に回避行動をとるものの避けきれずに頬を掠める。だがやはり魔法陣はおかしな感じだ。
    「おや、もしかして魔法陣の違和感に気づかれましたかな? ここではあなたが使えると私が認識したものは理論に関係なく全て使えるのですよ。まぁ夢ですからね。一度私の目の前で使ったものは全て真似できると思ってもらって構いませんよ。それと」
     発動される魔術の気配を感じ咄嗟に防御魔術を紡ごうとして……回避に切り替える。
     直後、憤怒の火がバルバロスに向けて放たれた。
    「このお嬢さんの記憶であなたが使ったことあれば使うことが出来ます。この様にね」
    「クソっ……このパクリ野郎が」
     薄々そんな気はしていたけれど、やはりシャスティルの記憶を読み取ったのだろう。転移は勿論のこと、治癒や結界、浮遊魔術も使ったことがある。細かいものも含めれば物体の位置を戻すものや足場制作などもある。
     記憶にある魔術を使われるのもやっかいだが、それ以上にシャスティルの記憶を覗いた事自体に腹が立つ。あまつさえそれを使ってシャスティルを苦しめてるのだから到底許せるものでは無い。
     直前で回避に切り替えた為、左足が避けきれず焦げて黒くなっている。バルバロスの防御魔術なら憤怒の火を防ぎ切る事も可能ではある。けれどただでさえ転移する相手に防御の手段まで増やさせたくはない。
    「お得意の魔術が封じられ、更にほかの魔術まで模造される気分はいかがですかな?」
    「……はん、猿真似で俺をやれるつもりかよ」
    「その強がりも、いつまで持つか見ものですな」
     直後魔術師はバルバロスの後ろに移動してまた憤怒の火を放つ。今度は危なげなくバルバロスも避ける。
    「普段使えないような魔術だから使いたいってか? それとも、んな大技何度も悟られずに撃てると思ってんなら舐められたもんだな」
    「そうこなくてはな。それでも私の有利は変わらないがね。こちらも実体を相手するまたとない機会だ。せいぜい足掻いて良いサンプルデータとなってくれたまえ」
     再び死角に転移し、今度は大量の黒針を放ってくる。
     バルバロスは飛び上がり避けると魔術師は続けて憤怒の火を空中にいるバルバロスに向けて放つ。転移出来ないバルバロスに当てるため空中にいる時を狙ったのだろう。浮遊魔術で移動も出来るけれど地面に足を付けてる時よりは回避も遅くなる。
    「ちいっ!」
     即空中に足場を作り、それを蹴って範囲外へと逃れる。
    「ふむ、飛べない聖騎士の為の足場だと思っておりましたけれど、何事も使い方しだいですな」
    「いちいちうるせえよ! その減らず口言えねえようにしてやる」
     シャスティルの記憶を掘り返して話す魔術師に無性に腹が立つ。逃さず決定打撃つには転移を封じなければならない。考えつつ今度はバルバロスが魔術師に向かって黒針を放つ。魔術師は嘲笑うかのように転移するけれど
    「なっ!?」
     転移直後、バルバロスはナイフを片手に目前へと迫っていた。一瞬動揺した魔術師に向けてそのままナイフで片腕を切り落とす。
    「ぐうううっ、クソ! 何故転移先が!?」
    「てめえの考えなんざ分かんだよ」
    「クッ! たかがナイフ1つで腕を切り落とすなど……なるほど、そういう事か。そのナイフ込められてる魔術の効果で切れ味上げてるのか。それならば」
     魔術師はバルバロスと同じナイフを手元に出現させる
    「魔術そのものでなければ模造出来ないと思われてるなら心外ですね。それではあなたの腕も同じように切り落として差し上げますよ!! 以前そこのお嬢さん庇った時のようにね!」
     背後に移動して切りかかってくるけれど、それを難なくかわす。
    「だからいちいちうるせえよ、クソッタレが!! その口焼き払ってやる!!」
     魔術師に向かってナイフを振り下ろす。転移で回避されるけれど、そのまま地面に向かってナイフを下ろし威力を見せつけるように地面を軽々と切り裂く。
     再び背後に転移してきた魔術師が繰り出す黒針もナイフで切り裂きながら回避する。
    「はん、てめえの考えなんざ分かるっつっただろ。さっきから転移は真後ろだけだし、やり方に固執してんのか腕狙いはバレバレだしな」
    「くっ……そうですね。それならデータ取りの遊びは終わりにしてさっさと死んでもらいましょうか!」
     今度は正面から魔術師が迫る。動きから見ておそらく心臓狙っているのだろう。攻撃に備えて構えてるが
    「なっ!?」
     一瞬、魔術師の顔がシャスティルになりバルバロスの動きが止まる。
    「これで終わりです!」
     魔術師は再びバルバロスの姿になり、ナイフを心臓めがけて振り下ろす。それを僅かに逸らすが腹部に突き刺さる。バルバロスはナイフを抜かずにそのまま魔術師の腕ごと掴む。
    「ようやく捕まえたぜ。言ったろ? バレバレだって。簡単に何でも切れる所見せて挑発すれば急所狙いにくると思ったぜ。これなら転移出来ねえだろ? 転移したところで一緒に移動するぜ?」
    「くそっ、離せ!!」
    「んなポンコツの記憶が好きなら再現してやるよ。喰らいやがれクソッタレ――煉獄第四冠〈憤怒の火〉!」
     バルバロスの前に魔力の光が集束していく。魔術師は発動前に何とか逃げようとしてるけれど、バルバロスも万力のような力で腕を締め付けて離さない。
     そして再現してやるとは言ったが以前のように逃がすつもりは毛頭ない。そのまま熱線は魔術師に向かって放たれた。



    「ったく、塵も残さねえつもりだったんだがな……」
     なんらかの防御手段はとったのだろう。だが魔術師は全身焼き爛れて一部炭と灰の様になっていた。ボロボロになってる為分かりにくいけれどバルバロスの姿ではなく元の姿に戻ってるようだ。
     おそらくこのまま放って置いても直に死ぬだろう。それなら構わずさっさとシャスティルを連れ出した方が良さそうだ。
    「く……そ……このまま終わるなら……」
     魔術師の身体が仄暗い光に包まれていく。
    「コイツも……道連れにっ……!!」
    「なっ!?」
     次の瞬間、魔術師の身体は消え去り突如大きな茨が次々と出現する。だが問題は茨よりも
    「あ……あ……いや……だ…………怖い、辛い、苦しい……もういやだよぉ!!」
    「ポンコツ!? クソッ、あの野郎何しやがった!?」
     急変したシャスティルの様子はどう見ても異常だ。魔術師の消滅から推測するに、おそらく自身を生贄にして何かしたのだろう。
     強引にシャスティルの精神に干渉しているのか……とにかくもう猶予は無さそうだ。早く連れ出さなくては。
    「いや……いや! 何も見たくない!」
    「おいっ、ポンコツ! 目え覚ませ!! 早くここから出んぞ!! ……チィッ!?」
     取り乱してるシャスティルに駆け寄ろうとした時、茨がシャスティルを捕らえ近づこうとするバルバロスの行方を遮る。
     一気に魔術で燃やしたいところではあるけど……いくら一流の魔術師がコントロールに優れているとはいえ、密接してる状態ではシャスティルまで危害が及ぶ。
     そんな状態でピンポイントに対象だけを狙うならザガンのように魔力そのものが見えていなければ不可能だろう。
    「いや……やめて……やめ、て……」
    「クソッ!! とにかく引っ張り出さねえと!」
     自分に迫る茨は魔術で燃やし、シャスティルを捕らえる茨をナイフで少しずつ取り除いていく。
     茨は切ったそばから次々と沸いてくるけれど、自分の得物は空間ごと掻っ捌く理論上何でも切れるナイフだ。間違ってもシャスティルを傷つけない様に慎重にならざるを得ない。
    「う……ぁ……」
     うわ言の様に呟くシャスティルの瞳は焦点が合わず虚空を見つめていて恐らくすぐ近くで奮闘するバルバロスの姿すら気づいていないのだろう。
     その目はまるでシャスティルの心を表してる様でバルバロスの心をかき乱す。
     茨の棘で傷だらけになりながらも何とかシャスティルのところまで行き腕を掴んで声をかける。
    「おいっ! ポンコツ!」
    「い……や……こない……で……」
    「何と勘違いしてやがる! 俺だ! 起きろシャスティル!!」
    「……ばる……ば……ろす……?」
     ボンヤリとだけど、ようやくその目が自分を映した事にほんの少しだけ安堵する。まだ今なら間に合うはずだ。
    「何かが怖くて怯えてるってえなら、邪魔なもんは俺が全部始末してやる。何かを見るのすら怖えなら目え閉じてろ。その間に俺が何も見なくてすむところに連れてってやる。だからここからでんぞ」
    「あ……」
     直後、茨の動きが鈍くなった。もしかしてシャスティルの精神状態に左右されるのだろうか?
     いやそんな事より今のうちに脱出するのが先決だろう。
     周りの茨をさっさと切り捨て、シャスティルを抱えて入ってきた場所に向かって走り出す。
    「……きず……が……」
    「あん? お前どこか怪我してやがんのか?!」
    「わたし……じゃ……なくて……」
     どうやら自分の事のようだ。シャスティルに怪我が無かったことと会話が出来るくらいの状態に持ち直したことに安堵する。
    「はん、これくらい放っておいても治る。魔術師にとって怪我のうちにも入らねえよ。普段ザガンの野郎に殴られる方がよっぽど重症だ」
    「でも……」
    「さっきも言ったが、血い見んのが怖えなら目え閉じとけ。その間に見なくてすむとこ連れてくし、傷も勝手に治ってんだろ」
     治癒魔術を使えばすぐ治せるけど鈍くなったとはいえ茨が迫ってくるのだ。それに一秒でも早くここから連れ出したい。
     シャスティルの怪我なら勿論別だけど取るに足らない自分の傷など後回しだ。軽口を叩きながら迫る茨を燃やしていく。
     しばらく走ると入ってきた場所に光がみえる。おそらく鏡と繋がってるのだろう。シャスティルをしっかりと抱え直しそのまま光に飛び込んだ。



    「ポンコツ!?」
    「そこで寝てるだろう。お前がシャスティル連れ出したら、かかっていた魔力の痕跡が跡形もなく消えた。おそらく[魔術自体は]問題なく解けたんだろう」
    「ザガン……てめえなんでここに」
    「そもそもここは俺の城だ」
     それはそうだろう。どうやらシャスティル助けるのに必死で周りが全く見えてなかったようだ。
     光に飛び込んで元の場所に戻ってきたようだ。シャスティルも夢に行く前に寝かせたベット上で眠っている。
    「あの変な夢も無くなったし、多分もうすぐ起きると思う」
     どうやら脱出したあと、あの夢は消滅したようだ。魔力が見えるザガンも痕跡が無くなったと言ってるし一先ず術の解除は成功したようだ。ただ問題は……
    「そうか。お前のお陰でなんとかなった。いつか礼はする」
     リリスにお礼を伝えたあと、シャスティルを抱えて影を開く
    「おい、バルバロス」
     影に飛び込む直前ザガンに呼び止められた。
    「あんだよ。こっちは急いでんだよ」
    「ネフィがシャスティルを心配していた。少しでも元気が出るようにクッキーを作ると言っていたからあと一刻ほどしたら取りに来い」
     おそらく鏡を通してある程度こちらの状況をみていたのだろう。そしてバルバロスが何をするつもりなのかも察しているだろうけど止めるつもりはないようだ。
    「はん」
     悪友に一言だけ返事を返してそのままシャスティルを抱えて影に飛び込んだ。



    「うーん……あれ……?」
     何も見えない。自分はどうなったのだろう……? まだ夢の中なのだろうか……?
    「気いづいたか」
    「バルバロス!近くにいるのか?」
     姿は見えないけど声は聞こえる。ただその声も何かに反響する事なく吸い込まれていくような感じで距離すらわからない。
    「すぐそばにいるぜ。身体痛えところとか違和感はねえかよ?」
    「痛みはないが何も見えなくて……ここは夢なのか?」
    「違えよ。ちゃんと夢から連れ出したし魔術も解けた。あの魔術師も消滅したから心配すんな」
    「そうなのか。それじゃここは? 真っ暗でなにも見えないが……」
     なにも見えないどころか上下左右すらわからない。目が覚めたばかりだから体勢的には寝ているのだろうけど、それも上を向いてるのか下を向いてるのかすら曖昧だ。
    「ここは煉獄。まあポンコツにわかりやすく説明すんなら影の中にある俺の屋敷だ。ここでは俺以外は何があるかわからねえし、そもそも他のやつはここに入れねえよ」
    「あなたには見えているのだな。その、どうして私がここに?」
    「連れてくっつったろ?」
    「え?」
    「何も見ねえですむところだよ。ここなら何も見えねえし誰もこねえから怖がる必要もねえ」
     どうやら先程自分にかけてくれた言葉はただの慰めとかではなく本気だったらしい。そして比喩でもなく本当に何も見なくてすむ場所に連れてきてくれたようだ。
    「ま、出たきゃ出りゃいい。ここにいたけりゃいりゃいい。ポンコツの好きにすりゃいいがどうする?」
    「……もう少しだけ、いてもいいだろうか……?」
     正直、ありがたかった。魔術は解けたのだろうけど、おそらくトラウマになっているのだろう。何かを見るのが怖くて……立ち直るまでに少し時間が欲しかった。
    「好きにすりゃいいっつったろ? なんで疑問系なんだよ。ま、ちょっと野暮用すませてくっからまってろ」
    「あ……うん……」
     バルバロスにもなにか予定はあるのだろう。思い返してみると彼も捕まっていたのだから何か用事はあったのかもしれない。
     あの時必死で剣を振ったけど、その後夢に囚われたのでどうなったのか分からなかった。けれど彼が無事でいてくれたのなら本当によかった。だから……
    「寂しいから……心細いからそばにいてほしいってのは……流石に我儘だよな……」
    「ん? なんか言ったか?」
    「うえぇ!? バルバロス! 何か用事があったんじゃ……」
     聞こえてきたバルバロスの声にビックリする。
     見えないから分からなかったけど、まだ出かけていなかったのだろうか。もしかして今の言葉聞かれて……?
    「だから野暮用すませて戻ってきたとこだけど?」
    「そ、そうなのか!?その全然時間経っていないから……」
     あっという間に戻ってきたバルバロスに驚愕する。でも今戻ってきたばかりなら聞かれてはいないはず。
    「そりゃ移動時間なんてねえからな? 煉獄から出る時も一瞬だし戻る時も一瞬だからな」
    「で、でも用事済ませる時間は必要だろう!?」
    「んな時間かかるようなものじゃねえしな。それよか少し体勢変えるぜ? それとちょっと口あけてろ」
    「? ……んっ?」
     何か身体を抱え起こされるような感覚がした。そのあと言われるまま口を開けたら何か入ってきて思わず咀嚼する。これは……もしかしてクッキー?
    「ザガンの嫁からだよ。ザガンの野郎、嫁がポンコツ心配して作ってっから完成したら取りに来いっつうんだよ。ったく俺は便利屋じゃねえっての。ま、取ってくるだけだからそりゃ時間はかからねえよ」
     どうやら今回の事、少なくとも自分が倒れた事はザガン達も知ってるようだ。
     自分を心配してくれる人がいる。その事実に心がじんわり暖かく感じて……クッキーの優しい甘さに怯えていた心がほぐされてくる気がした。
     彼も、悪態ばかりついてはいるけど、いつも助けてくれたり頼み事きいてくれたり、仕事だからとは言うけど関係ないところまで助けてくれたり、危険を顧みず怪我してまで助けてくれたり……そういえば!
    「怪我、大丈夫なのか?!」
    「あん? 何だよ急に?」
    「夢の中で怪我をしていたではないか。全身傷だらけだったし、腹部の方だって……それ以前に魔術師達に捕まってた時だって何かされていたではないか!」
    「あんなの放っておきゃ治るっつったろ? もうとっくに治ってんだよ。んな事いちいち気にすんなよ」
    「あなたは……いくら魔術師とはいえ、もう少し自分を大切にしてほしいところだがな……」
    「はん、てめえにだけは言われたくねえよ」
     彼が支えてくれる。今もクッキーを食べさせてくれるためだけに支えてくれている体温の暖かさを背中に感じながら、その事が一番頼もしく感じた。
     現実は綺麗事だけじゃないのも知ってる。これからも辛いことや嫌なこともあるだろう。それでも自分を気遣ってくれる人たち、そして支えてくれる彼がいるなら頑張れると思う。
    「ありがとうバルバロス、外にでるよ。もう大丈夫だ」
    「……別に無理する事はねえと思うけど?」
    「まぁ、あれだけの醜態晒してしまったからな。説得力はない自覚はあるが……それでも気遣ってくれる人達、助けてくれる人達がいるなら頑張れるよ」
    「……そうかよ」
    「それにいつもあなたが支えてくれるからな」
    「!? そ、そうかよ。ま、まあポンコツも程々にしとけよ?」
    「ありがとうバルバロス。あ、出口はザガンの城でお願い出来るか? ネフィにお礼言わなきゃだし」
    「はん…………ゎ………ぃゃぁぃぃ……」
    「何か言ったか?」
    「別に。んじゃ嫁のところだな。いくぜ?」
    「お願いするよ。バルバロス」
     次の瞬間視界は切り変わり外に出ていた。目の前にいるネフィにお礼を言うために駆け寄った。

    〜自分を支えてくれる人たち、そんな大切な人達を護るために自分は戦うのだから〜



    「……ったく、寂しいとか心細いとかそばにいてほしけりゃそう言やぁいいのに。我儘だってんなら我儘言やぁいいのに」
     煉獄の中で一人バルバロスは悪態をつく。ひとまず聞きそびれたフリはしていたけど実際はそばでシャスティルの呟きはしっかり聞いていた。むしろクッキー取りに行ってた数秒間ですら影伝いに様子は確認していたのだ。
     [魔術自体は]無事に解けた。けれどそれまでに負わされた心の傷までは治るわけではない。もしもシャスティルが現実に怯えていたなら……その時は誰が何と言おうと煉獄の中に閉じ込めておくつもりだった。それこそシャスティルが望むなら永遠に。
     ザガンは自分に向かって「取りに来い」と言った。シャスティルを煉獄に閉じ込めてしまおうとする自分の考えをわかっていたのだろう。
     まぁもし仮にシャスティルを置いていけと言われていたなら、なりふり構わず全力で衝突して攫っただろう。
    「『自分を大切にしてほしい』ってか。んな事あいつにだきゃ言われたくねえわな。お前こそてめえを大切にしろよポンコツ」
     シャスティルは自分を犠牲にしてすぐ死ぬ様な事ばかりする。だから今まで邪魔なものはバルバロスが片付けてきたのだ。
     それに自分を大切にしてほしいなんて事言われる日が来るなんて思ってもみなかったし、己を人質にとって言う事を聞くようなやつがいるとは思っていなかった。
     けれどシャスティルはバルバロスを助けるために要求をのんで自分を犠牲にした。一歩間違えれば永遠に悪夢に囚われ自我の崩壊や操り人形になってた可能性だってあるのだ。
     聖騎士として魔術師の事を知ってるシャスティルがそんな事わからないわけでもないだろうに…
     自分を助ける選択をする事実にほんの少しだけ何とも言えない気持ちが込み上げ、それと同時に自身の危機を知られるのはシャスティルを危険に晒すのと同義な事に焦燥を覚えた。
     それでも同じようにシャスティルを陥れる話を聞いたら自分は調べに行くのだろう。
    「ま、力をつけりゃいいだけってこった。同じヘマもしねえように手段も増やしゃいいだけだしな」

    〜自分を犠牲にしてでも大切な相手を護りたいのはバルバロスも一緒なのだから〜




    あとがき
     お読みいただきありがとうございます。
     FANBOXでバルバロスが「俺を人質に取ったところで要求を飲む馬鹿はいねえ」と言っていたので要求飲む人は隣にいる事を思い知らせたかったのがこの話の始まりです。
     とはいえ、バルバロスほどの実力者を捕らえようとするなら相当な力の持ち主になりそうなので……とりあえず人海戦術にしてみました。でもバルバロスなら多数相手でも逃げ切るかな?
     バルバロスは人質になった場合シャスが自分を犠牲にするのはを止めようとするだろうけど、これ仮に逆だったらバルはシャス助けるためならどんな犠牲も厭わないんだろうな……と思いシャス人質バージョンも書いてみました。『因縁と因果と約束と』もし宜しければお読み下さい。

     あとは7巻でシャスティルがバルバロスの見下し発言に過剰反応してたので他の貴族から言われたりして嫌な思いがあったのかな?と勝手に想像してます。
     完全に個人の見解になりますが、シャスティルのように明るい人ほど実はトラウマ抱えてたり無理してたり、傷つきやすかったりと心に闇を抱えてたりする事多いんじゃないかな……とも。それこそ2巻のような感じで。
     もちろん表には滅多に出さないと思いますけど。その辺もうまくバルバロスがフォローしてくれればいいな……

     戦闘シーンは書くの難しいですね……どうやって戦うか、どう動くか中々私にはハードル高かった……かなりお粗末な内容に……なってたらごめんなさい。ナイフはリリスにあげちゃってたけどその後作り直したりしてるんじゃないかな? と思ってます。

     個人的な解釈や空想ごちゃ混ぜな2次小説になりましたが、読んでいただきありがとうございます。
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