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    siiiiiiiiro

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    siiiiiiiiro

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    ストーカー被害にあう鈍感な巽とそれを気に掛ける無自覚好意のHiMERUがすれ違う話です。
    6/30ジュンブラの新刊です、宜しくお願い致します!

    【スペース】東3ホール ダ63b // milmel
    【タイトル】re: Addiction
    【サイズ/P数/価格】A5 / 表紙込32P / 400円

    #ひめ巽
    southeast
    #JUNEBRIDEFES2024
    #あんさん腐るスターズ!!
    ansanRottenStars!

    re: Addiction――気に食わないことなど、数え切れないほどあった。それでも関係が途切れないのは、多少なり過去の縁やら温厚で人好きのする相手の性格のせいだ。
    だからこそ。

    「まあ、HiMERUさんには関係のないことですから」

    その言葉を聞いたHiMERUは、走馬灯と呼ぶべき幻覚が目の間を過ぎり、気付いた時にはもう巽は居なくなっていた。













    差し込む日差しが肌を突き刺す真昼間、朝より鈍い動きの社員の間を縫うように歩くHiMERUは、誰が見たって機嫌が悪かった。
    原因は、こんな人が多い時間に呼び出した副所長でも、朝からダル絡みをしてきたユニットリーダーでもない。ツカツカと足音を立てながら、HiMERUにとってこの世で一番憎い相手――巽との会話を何度も思い出していた。
    昨日は、たまたま仕事終わりにESのロビーで巽と会った。いつだってこちらの都合なんてお構いなしに笑顔を振り向いて話掛けに来るのに、この日の巽だけは違った。
    どこか遠くを見る生気のない瞳。よく周りを見ている癖にHiMERUが居ることにすら気付いておらず、足取りも重い。普段であれば、気配を消して立ち去っていただろうHiMERUも、さすがにそんな姿を見て無視するほど、冷徹ではなかった。

    「巽。顔色が悪いですよ。どこか調子でも悪いのですか?」

    声を掛けて、やっと目が合う。大した返事が返って来ないことに焦りを感じ始めたHiMERUは風邪を引いたのか、休んだ方がいい、だのと普段掛けないような言葉を掛けて、柄にもなく少し心配までしていた。
    だが、巽から出たのは別のベクトルでHiMERUをイラつかせる一言だった。

    『まあ、HiMERUさんには関係のないことですから』

    ご心配、ありがとうございます。そう言って、巽は立ち去った。

    「…………は?」

    呆然としていたHiMERUがやっと我に返った瞬間、腹の底から湧き出たのは怒りだった。
    ――それを言うのはHiMERUの方だとか、いつも執拗に声を掛けるのはお前の方だろうだとか。今すぐにでも後を追いかけて胸ぐらを掴み、言ってやりたい言葉がごまんとある。
    ただ、人間というのは不思議なもので、言いたいことが渋滞している間に口から溢れる言葉は無く。詰まっていた溜息をつきながら、HiMERUは冷静な装いを保ったままESビルを出た。

    「(人の心配を、関係ないから放っておけなんて、お前が言うな!)」

    怒りを向ける矛先がないせいか、寮へと向かう足はどんどん速くなる。珍しく調子の悪そうな姿を目の前にして無視をするような関係じゃないと、そう思っている自分自身にも同じく腹が立っていた。
    ――いつものように無視をすればよかった。でも、きっとそれはそれで、あの男のことが頭から離れなくなっていただろうから、厄介なことこの上ない。

    「(風早巽〜〜!!)」

    そうして、怒りを持ち越したまま翌日になってしまった。我らアイドルにそうそう暇など無く、HiMERUは未だ落ち着かない気分のままアプリで管理するスケジュール通りにESビルを訪れていた。

    「おや、HiMERU氏? 随分とお早い到着で」
    「……副所長」

    コズプロのオフィスへと足を踏み入れると、目当ての人物はすぐに見つかった。常に多忙の副所長を捕まえるのは骨が折れそうだと頭を悩ませていたが、杞憂だったようだ。
    こちらへ、と案内された会議室には誰もおらず、昼休みのせいか外の声も響いてこない。呼び出された内容が何かは知らないが、副所長がチャットでなく直接呼び出したということは少しでも外に漏れたくない話なのだろう。勿論HiMERUも、そんな副所長の思惑を汲み取った上で「承知しました」の一言でここまで来たわけだが。

    「まあ掛けてください。そこまで長くはなりませんよ。仕事の話であって、貴方自身の話ではありませんから」
    「……だろうと思って来ていますよ。こちらも」
    「あっはっは! 話が早くて助かります!」

    【例の話】をするには事務所にあるガラス張りの会議室なんて選ばないだろう。溜息をついて端の椅子に腰掛ければ、無駄話を避けるように茨が一枚の紙を差し出した。

    「あのゲームのリリースイベントですが、延期となりました。大きい話でしたので、さすがに中止というのはこちらも避けたいんですがねぇ」
    「……延期?」

    茨の言うゲーム――「8-ADDICTION」は、つい先日リリースしたスマートフォン向けアプリだ。実在するアイドルであるALKALOIDとCrazy:Bの八名がリアルなアバターとして登場し、ユーザーが育成やプロデュースを行っていく。
    ライトな層にはアイドルという存在を身近に感じることが出来、コアなファンからすればアイドルの裏側や新規ボイス、アイドル自身のお宝話が聞ける。しかも低コスト。これはESにとって大事な展開なのだと茨が熱く説明していた頃が懐かしい。
    とはいえ、アプリへの還元よりも実在のアイドルに繋げられなければ意味がない。だからこそゲームというにはチープな作りと言われても仕方のない仕上がりで、育成と言っても期日までにライブパートを成功させるようマップを進めてステータスを上げる作業にゲーム性はほぼ無い。
    その割に毎日のログインを欠かさないようご飯をあげないと飢えて死んでしまう――ゲーム上ではゲームオーバーとして描かれているが――という不親切設計で、プレリリースからインストールしているHiMERUは既に燐音を二度殺してしまった。勿論、SNSでは言っていないけれど。
    とはいえ、ESが打ち出すソーシャルゲームとして、リリース直後の今に大々的に各地でイベントを開催する予定だった。だが、茨の話が正しければ何かしらの理由で開催出来なくなったということだろう。
    この件に関して、ES側から何かNGを出すとは考えにくい。ともすると、開発会社や運営側からのNGということだろうか。一通りの可能性が頭を過ったが、どれも可能性は低い。

    「でも、ゲームのリリースはされていますよね。ということはイベントにのみNGを食らったのでしょうか」
    「いえ、誠に遺憾ながら、こちらから延期を申し入れています。はあ、コズプロ側は一人でもやれるとお伝えしたんですが、如何せん二人であることに意味があるようですので」
     
    茨の言葉に、謎が一本の線に変わる。つまり、NGを出したのはHiMERUと共にイベントに立つ予定だった――巽の方だ。
    リリースイベントは双方のユニットが二人ずつペアになって開催される。過去のゲームの影響か、HiMERUと巽はセットにされることが多く、今回もイベントが決まった際には是非にとお願いされていた。
    だが、スタプロだってこの企画にはかなりの本腰を入れていたはずだ。それが、何故。

    「この立場ですからね。まあ、嫌でも耳に入るというものですよ! うちの人間も被害に合うことは多いですから」
    「……うちの人間も? 被害?」

    昨日の巽の様子が、きっとこのキャンセル理由に関わっている。そう考えが至るのは必然だった。

    「風早氏は現在ストーカー被害にあっているとかで。スタプロの社員は色々と駆けずり回っていますよ。コズプロと違ってノウハウの蓄積が浅いですからね、こちらにも良い対策法がないかって話が飛んできたりするんですよ、いい機会ですので恩を売っております!」





     □




    ぴろん、と軽快な音がスマホから鳴る。視点が合わないままだったピントを液晶に向けると、青褪めた顔で倒れる巽の上にゲームオーバーの文字が出ている。

    「(……縁起でもない)」

    茨から事実だけを聞いたHiMERUはあの日、夕方のレッスンに集中出来ないまま気付けば寮のベッドに寝転がっていた。
    ――別段、珍しい話でもない。アイドルというのは人の好意を一手に引き受ける職業だ。しかも、好意は何か些細な出来事がきっかけで愛憎に変わってしまう。
    ましてや巽は玲明学園で革命児と謳われ、人の信仰心も憎悪も一手に引き受けたこともある。でもだからこそ、そんな巽があんな様子で仕事を中止にしてほしいとお願いする程の事件が起きている、というのは気になってしまっても仕方がないだろう。
    そうやって、イベントが無くなり休暇となってしまった今日も、何の答えも出ないまま自室のベッドに腰掛けながらアプリを起動していた。数日起動しなかっただけでログインした途端ゲームオーバーになっているのだから、ほとほとやる気などは出ないのだけれど。
    そのまま暗転し、気付けばホーム画面にはまた巽が立っていた。だが、その下の文字を見た瞬間、自然と眉間に皺が寄った。

    『新しい風早巽でスタートします』

    何とも、目覚めが悪い一文だ。実際の風早巽はリセットなど効かないというのに。
    はあ、と溜息をついて立ち上がったHiMERUは、画面を暗転させたスマホをポケットに仕舞う。だが部屋を出ようとすると、ドアが開いて見慣れた顔と鉢合わせた。

    「あら? HiMERUちゃん起きてたのね」
    「鳴上さん」
    「忘れものしちゃって」

    HiMERUの横をスッと通り抜け、ベッドサイドから何かを取り出して素早く鞄に仕舞う。その様子を見ようとしていた訳ではないが、頭の回転が鈍っているせいかじっと見つめてしまっていたようで、苦笑いの嵐と目が合った。

    「風早先輩のこと心配よねェ。マヨイちゃんから事情を聞いて……でもうちの事務所はまだトラブル対応とかに弱いから力になれなくて」

    昨晩から様子の可笑しいHiMERUの内情を見透かしたかのようなコメントに、ギシリと錆びついたロボットのように動きが止まる。無意識に視線を逸らすHiMERUに、嵐はつかつかと歩み寄った。

    「そうだ、ちょうどマヨイちゃん達を見送るってまだ共有ルームにいたわよ、そんな顔してるなら会いに行きなさいよ」
    「そんな顔とは、どんな顔ですか」
    「えぇ? ふふ、アタシからは言えないわァ」

    先程とは違い楽しそうな笑みを浮かべた嵐は、時計を見やると慌てて部屋から出ていった。再び静まり返った室内はいつもより広い気がして、予定通りHiMERUも自室を後にした。

    「(別に、他に理由はありません。元からコーヒーでも飲もうと思っていただけですから)」

    頭の中で誰に言うでもない言い訳をして、共有ルームへ向かう。着く頃には楽しげな声でも聞こえてくるかと思ったが、予想に反して僅かな音しか聞こえてこない。むしろ、何故か大きくなる自分の心拍数の方が、煩いぐらいだ。

    「……巽」
    「おや、HiMERUさん? おはようございます」

    共有ルームには、一昨日ぶりに会う巽一人だけだった。ただ、その手元にはランチボックスが並んでおり嵐の言っていた送迎がこれからであることを悟った。

    「早いですね、HiMERUさんは朝が弱い印象でしたので」
    「……本来、仕事の日でしたので」
    「ああ……」

    後片付けをする巽を横目に、何処かへ座ることもコーヒーの支度をすることもなく立ち尽くす。これでは本当に、ただ話をしにきただけになってしまう。そう分かっていても、らしくなく話をどう振るかで脳のリソースが枯渇してしまって、自然な振る舞いが出来ないでいた。

    「すみません、こちらの事情でリスケとなってしまい……事務所の方にお伝えしているので、変更後のスケジュールは茨さんから伝達があると思います」

    話しながら使用していただろう皿や器具を洗う巽に、抱えていたムカつきが腹の底から再燃する。
    ――事務所が違う人間に内情を話さないことも理解している。別にHiMERUが個人で解決できる問題でもない。それでも、いつだってベラベラと話掛けて様々なことに巻き込んで、今回だけは蚊帳の外だなんて。

    「(なんで、何も言わない)」

    そうやって一人で抱えて誰にも辛さや悲しみを背負わせないのは、巽の悪い癖だ。でも、この男にだけは、自分からその重荷を一緒に背負わせて欲しいだなんて言い出せなかった。
    二人の間に気まずい空気が流れて居たたまれなくなったちょうどその時、ぱたぱたと軽快な足音と元気な声が共有ルームに響いた。

    「あれェ、HiMERU先輩も朝ごはん?」
    「藍良さん。おはようございます」

    制服を着た藍良が寝ぐせのついた髪を押さえながら駆け込んでくる。よく見ると、その後ろにいつもより影の薄いマヨイが付いてきていた。HiMERUはどうしていいか分からなくなってしまった空気が一旦解消したことにこっそりと安堵しつつ、巽と距離を取るようにダイニングテーブルへと腰かけた。

    「あ、もしかしてストーカーの件の相談? 結局おれたちじゃあ何の役にも立たないもん」

    弁当を受け取りながら放った藍良の言葉に、またしても空気が凍る。咄嗟にその冷やかさを受け取ったのか、おろおろと顔を見合わせる藍良とマヨイに、巽が苦笑いを返した。

    「えっと……ご、ごめんねェ、てっきりHiMERU先輩にはもう伝えてあると思って……」
    「いえ、大丈夫ですよ」

    何が大丈夫だ。関係ないだのと言ったり、何も伝えてはくれない癖に。そう口から出そうになるのを引っ込めて、手持無沙汰の手でスマホを取り出す。奇しくも藍良の言葉によって、HiMERUが巽の実情を知っていることになってしまったのだから、もう言い逃れなんて出来るまい。さもスマホを操作している風を装って、HiMERUの意識はALKALOID三名に全集中していた。

    「そうだ、HiMERU先輩に一緒に居てもらったら? おれ達もその方が心配じゃないしィ」

    思わず、ぴくりと肩が動く。ちらりと藍良の方へ視線を向ければ、「ねっ」とでも言わんばかりのウインクが返ってきた。先ほどの嵐といい、藍良といい、何だか妙な勘繰りを予感して背筋が凍る。
    ともあれ。事態はどちらかというと、HiMERUの方に風が向いているだろう。ごほん、とわざとらしい咳払いをして、仕方のないという表情を作る。
    さあ、もう逃げられまい。

    「まあ、どうしてもと言うのであれば――」
    「そんな迷惑は掛けられませんよ」

    ――風早巽という男は、温和で柔軟なように見えて、その実こうと決めたら自分の意見を曲げない男だ。
    はっきりと、くっきりと。にっこりと音が付きそうな笑顔で、かつ芯のある声でそう言われてしまえば、同じユニットで娘のように可愛がられる藍良とて「そ、そっかァ」という返事しか、出来ないのであった。


    ~サンプルここまで。
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