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    なつのおれんじ

    @orangesummer723

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    なつのおれんじ

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    オル光♀ / 似たもの同士
    自機ヒカセン出てきます

    不意に額に冷たい何かを感じ、驚いた冒険者は目を覚ました。荒く削られた石作りの天井が冒険者を見下ろしている。状況を飲み込めず、勢いよく起き上がった冒険者の背中を、何者かの大きな手が支えた。
    「む、起こしてしまったか。まだ横になっていたほうがイイ、熱が下がり切っていないからな」
     その声のおかげで、冒険者は自身の額に触れたものが、濡れたタオルだと把握することができた。
    「オルシュファン……」
     空色の瞳を曇らせたオルシュファンが、心配そうに冒険者の顔を見つめている。
    「患者さんたちは……?」
    「お前の最高にイイ働きによって、砦の者たちは全員無事に回復した。此度の助力、心より感謝するぞ、我が友よ」
     その言葉を聞いた冒険者は緊張の糸が切れたのか、へなへなとベットに倒れ込んだ。
    「良かったぁ……」
     キャンプ・ドラゴンヘッドにて突如謎の病が大流行したのは、つい数日前のことである。民間人、砦を守る兵士、さらには治療師までもが倒れ、砦は未曾有の危機に瀕していた。癒しと浄化の専門家──白魔道士である冒険者が、偶然この砦に立ち寄らなければ、最悪の事態も起こり得ぬ状況だった。
     "自分に出来ることならば"がモットーの冒険者にとって、この状況は見過ごせるはずもなく、何故か唯一健在だったオルシュファンと共に、砦の住人全員の治療という大仕事に取り掛かったのである。
     しかし、成り行きでろくな対策もせず治療に当たったため、最後の1人の治療を終えた瞬間、冒険者自身も病にかかり倒れてしまったのだった。
    「頭がぐるぐるして上手く魔法が使えない……エーテル酔いしてるみたい」
     白魔道士であるにも関わらず、自らの治療すら満足に出来ない状況を冒険者は嘆いた。朦朧とした視線をオルシュファンに向けると、普段の明朗快活な姿は見る影もなく、眉間に深いシワを寄せている。
    「お前が倒れた時は、正直肝を冷やしたぞ」
     もっと早く体調の異変を教えて欲しかったと、オルシュファンは俯きながら呟いた。
    「みんなの治療に集中しすぎて、全然気がつかなかったの……心配かけてごめんなさい」
     冒険者が気落ちした声を漏らした瞬間、オルシュファンは慌てて顔を上げた。
    「お前を責めているのではない! ただ私は、お前を失うことになったらと……」
     珍しく言葉を詰まらせたオルシュファンに対して、冒険者は小さく笑った。
    「私はこれくらいじゃ死なないって、オルシュファンもよく知ってるでしょ?」
     その言葉に、空色の瞳が大きく見開かれる。しばらくの沈黙の後、オルシュファンは雪が解けたような穏やかな笑みを浮かべた。
    「フフ、そうだったな。私としたことが、何故こんなことを口走ってしまったのか」
     オルシュファンの指先が、汗で額に張り付いた冒険者の前髪を掬う。驚いた冒険者がびくりと身体を揺らしたことを気にも止めず、オルシュファンは冒険者の頭をそっと撫でた。
    「治療師が先ほど、お前に薬を飲ませてくれた。安静にしていれば、じきに回復するだろうとのことだ。だから安心して休むとイイだろう」
     そう言いながら冒険者の頭を撫でる手はとても暖かく、熱を出している冒険者にとっては熱く感じるくらいだった。しかしその熱は不思議と心地よく、身体は辛くとも、自然と笑みがこぼれてしまうような気さえした。
    「激務明けなのに看病してくれてありがとう、オルシュファン」
    「お前の献身に比べれば大したことはない、気にするな。それよりも早く元気になって、お前の躍動する筋肉を私に見せてくれ」
    「ふふ、最後の冗談が無かったら完璧だったのになぁ」
    「冗談では無い、私はいつでも本気だぞ!」
     切れ長の目を細めてふわりと笑うオルシュファンを、暖かい人だと冒険者は思った。それはまるでこの極寒のクルザスを照らす、太陽のような──この身になくてはならない暖かさ。それに気づいた時、冒険者は空っぽだった心が満たされていくような感覚を覚えた。

     その時、医務室のドアが勢いよく開き、タイタンの如き形相を浮かべたコランティオが駆け足で二人の方へと向かってきた。
    「オルシュファン様! こちらにいらっしゃったんですか!」
    「コランティオ、何かあったのか」
     笑顔から瞬時に真面目な表情に切り替わったオルシュファンがイスから立ち上がる。
    「何かあったのかじゃないですよ! 貴方、ものすごい熱が出てるんですからね⁉︎ 大人しく私室で寝てくれないと困りますよ!」
    「え!? オルシュファンも発症してたの!?」
     驚いた冒険者が視線を向けると、オルシュファンは苦々しい笑みを浮かべながら目を逸らした。
    「キミが倒れた直後に、オルシュファン様も倒れてしまったんだ。今まで無症状だったのが奇跡だと思っていたけれど……体調が悪いなら、先に回復した私に声をかけてくだされば良いものを」
     先ほど似たような言葉をオルシュファンから聞いたことを思い出し、冒険者は思わず吹き出して笑った。
    「オルシュファンが頭を撫でてくれた時、すごく熱いなぁと思ったけど、まさか本当に熱が出てたなんて!」
    「笑っている場合じゃない……って、オルシュファン様まで! 二人して何なんですか!」
    「フフッ……悪いな、コランティオ。どうやら私たちは、似た者同士だったらしい」
     怪訝な表情を浮かべるコランティオを他所に、二人は目を合わせて笑い合った。

     その後、静養場所を私室から医務室に移動させたオルシュファンが、何のおかげか治療師も驚く驚異のスピードで回復したという話は、しばらくの間キャンプ・ドラゴンヘッド中の話題となった。
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